第125号
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高速鉄道車両に使用される空気ばねの縦方向における動態特性に関する研究(その2)

2017年 2月17日

戚壮:西南交通大学機械工程学院 博士研究生

主な研究テーマは、機関車車両システムの動力学および高速鉄道車両の空気ばね。

李芾:西南交通大学機械工程学院 教授

博士、博士研究生指導教官。主な研究テーマは、機関車車両設計理論。

黄運華:西南交通大学機械工程学院 副研究員

博士。主な研究テーマは、機関車車両設計理論および都市鉄道車両システムの動力学。

周張義:西南交通大学機械工程学院

虞大聯:南車青島四方機車車両股フン有限公司国家工程実験室

その1よりつづき)

3 構造パラメータと縦方向特性との関係

3.1 縦方向の静的特性

 高速鉄道車両の縦方向の安定性を研究する前に、シミュレーション試験によって空気ばねの構造パラメータとその縦方向特性との関係を確定する必要がある。

 空気ばねの静剛性kstとゴム製エアバックの体積Vb、補助タンクの体積Vtおよびオリフィス径dとの関係を研究するために、前述のとおり、シミュレーション試験において空気ばねの台座を固定し、かつ、その上部カバープレートに対して周波数0.02Hz、振幅30mmの正弦振動を加える。空気ばねの支点反力Fを測定した後に、方程式(7)を利用して異なる構造パラメータごとの動剛性を計算する。計算結果は図3のとおり。図3aによって、静剛性とゴム製エアバックの体積は近似の線形関係を呈し、静剛性はゴム製エアバックの体積の増加に伴って線形的に下降するため、空気ばねの剛性を減少させる必要がある場合には、ゴム製エアバックの体積を可能な限り増加させるべきであることが分かる。また、図3bによって、静剛性と補助タンクの体積は二次非線形関係を呈し、静剛性は補助タンクの体積の増加に伴って下降するが、変化率は徐々に減少することがわかる。このため、補助タンクの体積をひたすら増加することによる、空気ばねの剛性の減少への影響は明確ではない。さらに、図3cによって、オリフィス径が3mmより大きい際には静剛性に突然の変化が生じ、その後、静剛性はオリフィス径の増加に伴う変化を見せなくなることがわかる。これは、振動周波数が比較的低い振動下においては、オリフィスの減衰効果が顕著でなく、オリフィスが充分に大きい際は、ゴム製エアバックの体積等価の上に補助タンクの体積が加わるため、静剛性が急速かつ大幅に減少するためである。

図3

図3 縦方向の静剛性と空気ばねの構造パラメータとの関係

3.2縦方向の動的特性

 まずは、ゴム製エアバックの体積Vbと空気ばねの縦方向における動的特性との関係を研究する。動的シミュレーション試験における試験方法は前述のとおりであり、空気ばねの上部カバープレートに周波数1Hz、振幅3mmの正弦振動を加える。その結果得られるそれぞれのゴム製エアバック体積下におけるヒステリシス曲線は図4aのとおり。これらのヒステリシス曲線の幾何学的特徴により、式(7)および式(11)により空気ばねの縦方向における動剛性kdynおよび動的減衰cdynを計算できる。計算結果は図4bのとおり。図4aのヒステリシス曲線によって、ゴム製エアバックの体積の増加に伴って、ヒステリシス曲線の傾斜角は徐々に小さくなる上に、ヒステリシス曲線によって囲まれる面積も徐々に小さくなることが分かる。図4bの曲線によって、空気ばねの動剛性と動的減衰特徴は、いずれもゴム製エアバックの体積の増加に伴って線形に近似して減少することが分かる。

図4

図4 縦方向の動的特性とゴム製エアバックの体積との関係

 次に、補助タンク体積Vtと空気ばねの縦方向における動的特性との関係を研究する。同じ理論に基づいて得られた計算結果を図5に示す。図5aによって、補助タンクの体積の増加に伴い、ヒステリシス曲線の傾斜角は徐々に小さくなるが、ヒステリシス曲線によって囲まれる面積は徐々に拡大することが分かる。図5bの剛性曲線によって、空気ばねの動剛性は補助タンクの体積の増加に伴って減少するが、補助タンクの体積が70Lより大きくなると、その減少は顕著でなくなることが分かる。また、図5bの減衰直線によって、空気ばねの動的減衰は補助タンク体積の増加に伴って近線形的に増加することが分かる。

図5

図5 縦方向の動的特性と補助タンクの体積との関係

 最後に、オリフィス径dと空気ばねの縦方向における動的特性との関係を研究する。シミュレーション試験と計算方法は前述のとおりで、得られた計算結果は図6のとおり。図6aによって、オリフィス径の増加に伴って、ヒステリシス曲線によって囲まれる面積は徐々に小さくなるが、ヒステリシス曲線の傾斜角は基本的に変化しないことが分かる。図6bの剛性と減衰曲線によって、オリフィス径の増加は空気ばねの動的減衰の減少を伴うが、空気ばねの動剛性にはほとんど影響しないことが分かる。

図6

図6 縦方向の動的特性とオリフィス径との関係

4 完成車両における縦方向の安定性に関する研究

4.1 計算方法

 上記のシミュレーション試験では、単一の周波数による単調和振動下の空気ばねの構造パラメータとその縦方向特性との関係だけは確定することできる。しかしながら、高速鉄道車両は複雑な多体動力学システムであり、その振動負荷には非常に大きなランダム性がある。このため、高速鉄道車両の完成車における多体システムの動力学モデルに基づき、動的数値計算によって空気ばねの構造パラメータによる高速鉄道車両の縦方向の安定性への影響をさらに研究する必要がある。

 高速鉄道車両は車両間の連結性が小さく、特に各車両の縦方向の振動は相互に影響しないため、1両編成の高速鉄道車両を用いてモデリングを実施した。完成車の動力学モデルは複数剛体システムとして検討し、これには輪軸、軸箱、フレームおよび車体を含んだ。SIMPACK環境において、某型高速鉄道車両の完成車の多体動力学モデルを構築した。図7のとおり。このモデルにおいては、2次サスペンションシステムにおいて、先に紹介した空気ばねの空気力学/流体力学モデルを構築し、ヨーダンパ、横方向ダンパを非線形力要素として考慮し、車両レール間のクリープ力にはKalkerの単純化理論(Fast algorithm for the simplified theory of rolling contact, FASTSIM)を採用して計算を行った[17]。鉄道車両においては北京-天津都市間の高速トラックスペクトルを選択した。完成車モデルは複数剛体システムとして考慮され、合計で42の自由度が存在した。異なる剛体動力学を計算するための方程式は、以下のとおり。

 式中、Mは質量マトリックス、c(x, x.)は非線形サスペンションの減衰力、k(x, x.)は非線形サスペンションの弾性力、F(t)は摂動力ベクトル、xは状態量である。

図7

図7 高速鉄道車両の完成車両における多体システムの動力学モデル

 車体前のボギー台車の中心の床面上に加速度計を設置し、数値計算により各積分における加速度値を出力する。「鉄道車両の動力学性能評価および試験鑑定規範」に基づき、車両の縦方向の安定性指標Wを式(13)により計算する[18]

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 式中、X..zは車体の縦方向の振動加速度、fは振動周波数、F(f)は振動周波数と関係する修正係数である。

 車両が実際に線路上を運行する際の振動周波数と振幅は、いずれも時間に伴って変化するため、車両の安定性指数を計算する場合は、まずは時間領域上の車体振動加速度記録についてスペクトル分析を行い、それから周波数ごとに分類して、各周波数の安定性指標Wiを求め、最終的に式(14)により全周波数帯の総安定性指標Wtotを求める必要がある。

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 算出された安定性指標が小さいほど車体の縦方向の振動は小さく、車両の縦方向の安定性も良くなる。規定においては、1級安定性指標は2.5未満でなければならないと定められている。

4.2 シミュレーション結果

 まず、ゴム製エアバックの体積Vbをパラメータとして、さまざまな車速下で車両の縦方向の安定性指標を計算した。計算結果は図8のとおり。図中の曲線から、安定性指標はゴム製エアバックの体積の増加に伴って線形的に下降することがわかる。これは、ゴム製エアバックの体積増加によって空気ばねの動剛性が減少したために、空気ばねの防振作用が増したからである。したがって、空気ばねを設計する際は、ボギー台車の空間が許す範囲内で、空気ばねにおけるゴム製エアバックの体積を極力増やし、車両の縦方向の安定性を高めなければならない。

図8

図8 縦方向の安定性とゴム製エアバックの体積との関係

 その次に、補助タンクの体積Vtと縦方向の安定性との関係を計算した。計算結果は図9のとおり。図9の曲線によって、車速が350km/h以下のモードにおいて補助タンクの体積が0~20Lの場合は、補助タンクの体積の増加に伴って安定性指標の下降スピードが上がることが分かる。その後、安定性指標は依然として補助タンクの体積の増加に伴って下降するが、下降は比較的緩やかである。比較的高い車速モード下(車速450km/h)においては、補助タンクの体積が0~15Lの際に、縦方向の安定性指標はやや上昇するが、その体積が15~35Lの際に安定性指標は比較的急速に下降し、その後は補助タンクの体積の増加による車体の縦方向の安定性への影響は小さくなる。したがって、高速モード下における高速鉄道車両の運行安定性を改善するためには、空気ばねにおける補助タンクの体積について、少なくとも35Lを保証しなければならない。

図9

図9 縦方向の安定性と補助タンクの体積との関係

 最後に、オリフィス径dをパラメータとして、さまざまな車速下で縦方向の安定性を計算した。計算結果は図10のとおり。図10の曲線によって、オリフィス径が0から20mmの場合には、どのような車速下においてもオリフィス径の増加に伴って安定性は減少し、オリフィス径が20mmを上回った後は、車速が比較的低いモード(車速は250km/h以下)に対しては安定性指標が基本的に変化しないが、車速が比較的高いモード(車速は350km/h以上)においてはオリフィス径の増加に伴って安定性指標も緩やかながら上昇することが分かる。したがって、高速運行モード下における鉄道車両の縦方向の安定性を保証するためには、空気ばねのオリフィス径の比較的優位な値の範囲は15~25mmである必要がある。

図10

図10 縦方向の安定性とオリフィス径との関係

5 結論

 

 本研究では、空気力学理論に基づいて空気ばねの数理モデルを構築し、かつ、空気ばねの構造パラメータとその縦方向特性との関係を検討し、さらには車両動力学の角度から空気ばねの構造パラメータによる高速鉄道車両の縦方向の安定性への影響を分析した結果、主に以下の結論が得られた。

(1) 空気ばねの縦方向の静的特性とその構造パラメータとの関係は、以下のとおり。静剛性は、ゴム製エアバックの体積の増加に伴って線形的に低下し、補助タンクの体積の増加に伴って下降するが、変化率は徐々に減少して二次非線形関係を呈する。オリフィス径が3mmを上回った後は、静剛性はオリフィス径の増加に伴って変化しなくなった。

(2) 空気ばねの縦方向の動的特性とその構造パラメータの関係は、以下のとおり。すなわち、ゴム製エアバックの体積の増加に伴って空気ばねの動剛性および減衰が減り、補助タンクの体積の増加に伴って動剛性は減少するものの動的減衰は増加し、オリフィス径の減少によっても動的減衰は増加するが、動剛性に対してはほとんど影響しないことが分かる。

(3) 空気ばねの構造パラメータと高速鉄道車両の縦方向の安定性との関係は、以下のとおり。すなわち、ゴム製エアバックの体積の増加によって車両の縦方向の安定性が効果的に改善されるため、ボギー台車を設置する空間が許す範囲内でゴム製エアバックの体積を極力増やさなければならない。補助タンクの体積がある一定ラインを超えると車両の縦方向の安定性への影響は小さくなるため、補助タンクの体積は少なくとも35Lを保証する必要がある。また、オリフィス径には比較的優位な値の範囲が存在することから、車両の縦方向の安定性を最善にするためには、オリフィス径は15~20mmとすることを提案する。

(おわり)

参考文献

[17] 丁軍君,黄運華,李芾,等. 鉄道車両非理想状態下的車輪磨耗行為[J]. 機械工程学報,2013,49(12):109-115.
DING Junjun,HUANG Yunhua,LI Fu,et al. Wheel wear behaviour of the imperfect railway vehicle[J]. Journal of Mechanical Engineering,2013,49(12):109-115.

[18] 国家標準化管理委員会. GB 5599-1985. 中華人民共和国国家標準,鉄道車両動力学性能評定和試験鑑定規範[S]. 北京:中 国標準出版社,1985.
Standardization Administration of the People's Republic of China. GB 5599-1985. National standard of the People's Republic of China,the dynamics performance evaluation and test specification for railway vehicles[S]. Beijing:Standards Press of China,1985.

※本稿は戚壮、李芾、黄運華、周張義、虞大聯「高速動車組空気弾簧垂向動態特性研究」(『機械工程学報』第51巻第10期,2015年5月、pp.129-136)を『機械工程学報』編 集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司