高速鉄道車両の速度センサにおける電磁妨害の測定および分析(その2)
2017年 3月17日
厳加斌:西南交通大学電気工程学院
主な研究テーマは電磁妨害の分析および電磁両立性の設計。
朱峰:西南交通大学電気工程学院 教授
主な研究テーマは電磁妨害の分析および電磁両立性の設計。
李軍, 沙淼, 袁徳強:長春軌道客車股分有限公司
(その1よりつづき)
4 代表的な測定結果の分析
4. 1 空間の磁場強度に関する分析
パンタグラフ降下時に、「受信機+ループアンテナ」を使用して空間の磁場強度を複数回測定した。その結果得られた空間における最大放射信号は、図5のとおり。
図5 空間の磁場強度のスペクトル図
Fig. 5 Spectrum of spatial magnetic field intensity
パンタグラフ降下時における空間の磁場強度値は明らかに上昇しており、最大値は54.07dBμA/mである。また、放射信号の周波数は主に5MHz付近に分布している。これは、パンタグラフ降下時に、供電用架線網とパンタグラフのスライドプレートとの間の空気による破壊電圧により、アーク放電が生じたためである。それは、長さdlが波長よりはるかに微小な直流電流素片Idl、すなわち電気双極子に近似する。直流電流素片Idlをz軸の方向に設置する。図6のとおり。
図6 電気双極子
Fig. 6 Electric dipole
その空間において生じる磁場強度は、次の計算式で求められる。
式中、rはフィールドポイントからソースポイントの距離であり、kは波数である(k =2πλ/λ,λは波長である)。
つまり、パンタグラフ降下時に生じるアーク放電により励起される磁場は、φ方向の値しか存在せず、r方向およびθ方向の値はいずれもゼロである。磁場強度と電流の大きさは正比例で、距離とは反比例であり、かつ、電流素片と垂直の平面おける振幅が最大である。
4. 2 車体における電位の分析
パンタグラフ降下時に、オシロスコープを使用して2号車車体のレール(地面)に対する電位を測定した。得られた結果は、図7のとおり。
図7 パンタグラフ降下時の2号車車体の地面に対する電位
Fig. 7 No. 2 car's potential to ground when the bow down
ここで指摘すべき点は、オシロスコープのロール・モードを採用して測定したため、収集された波形がオシロスコープのスクリーン中心線の左側にある場合は、その時間座標はマイナスの値であり、波形がオシロスコープのスクリーン中心線の右側にある場合は、その時間座標はプラスの値であることである(図10のとおり)。図7によれば、パンタグラフ降下時に、2号車車体の地面に対する電位は明らかに上昇し、600V以上に達した。このように大きな振幅で、高い周波数の妨害電圧が生じたのは、パンタグラフ降下時にアーク放電により励起される磁場が空気を介して車体のアルミフレーム表面に入射する際の磁場強度の接線成分Htが非連続的であることから、車体表面において線電流密度Kを構成したためである。計算式(3)は、車体のアルミフレームが理想的な導体となった際の車体の線電流密度の計算式である。
式中のH1は空気中の磁場強度であり、enは分離表面上の法線単位ベクトルであって、その方向は、空気によって車体のアルミフレームが指向される。
計算式(4)によって、表面電流密度Kが車体表面に沿って形成する線電流Iを得ることができる。
CRH380BL型鉄道車両においては、8号車や9号車のような中間車両でのみ保護接地を設置しているため、一点接地に相当する。車体に沿って大きな電流が流れた際に、保護接地からの距離が比較的遠い車両においては、地面に対する電位が上昇し、妨害電圧となる可能性がある。
4.3 センサの信号ポートにおける電圧の分析
パンタグラフ降下時に、オシロスコープを使用して速度センサの信号ポートにおける電圧を測定した。その結果得られた電圧の波形は図8のとおり。
図8 パンタグラフ降下時のセンサの信号ポートにおける電圧の波形
Fig. 8 Sensor signal port voltage waveform when the bow down
パンタグラフの降下は停車の際に生じるため、速度センサからは通常、信号出力はないはずである。つまり、パンタグラフ降下時に、速度センサの速度信号は大きな妨害を受けることは、センサの取付方法と関係がある。
CRH380BL型鉄道車両のセンサ通信ケーブルの遮蔽層の一端は車体と繋がっており、もう一端は空中にぶら下がっていることから、一端接地に相当する。電磁両立性の知識から見れば、遮蔽体が適切に接地されてこそ、妨害源から生じる妨害信号と結合してこれらを抑制または消去し、高感度設備が妨害を受けないよう保護することができる[15]。しかし、パンタグラフ降下時の車体の電圧はゼロではないため、センサの通信ケーブルの遮蔽層は適切に接地していない。センサの通信ケーブルのシールド層とコアケーブルとの間の等価回路の構造は、図9のとおり。
図9 センサの等価回路の構造
Fig. 9 Structure of sensor equivalent circuit
図中のZlは遮蔽層の地面(レール)に対する抵抗(すなわち車体抵抗)、Zsはコアケーブルによる抵抗、Cは遮蔽層とコアケーブルとの間の寄生容量、U1は遮蔽層の地面に対する電圧(すなわち車体電圧)、Usはコアケーブル上の誘導電圧。計算式は、以下のとおり。
つまり、車体の過電圧は、遮蔽層とコアケーブルとの間の寄生容量を通じてコアケーブル内に結合し、コアケーブル内で送信される速度信号を妨害することがわかる。
4. 4 保護接地線を追加した後のセンサの信号ポートにおける電圧の分析
図10のとおり、1号車に保護接地ケーブルを新たに設置した。パンタグラフ降下時に、速度センサの信号ポートにおける電圧を継続的に測定した結果、得られた電圧波形は図11のとおり。
図10 保護接地線の追加
Fig. 10 Added protective grounding wire
図11 保護接地追加後のセンサの信号ポートにおける電圧の波形
Fig. 11 Sensor signal port voltage waveform after adding protective grounding wire
図8と比較すればわかるように、1号車に保護接地ケーブルを追加した後は、パンタグラフ降下時のセンサの信号ポートにおける妨害電圧の振幅に大幅な減少が見られた。これは、保護接地ケーブルの追加後に、アーク放電によって車体上に形成される妨害電圧が減少したために、速度センサの受ける電磁妨害が減ったためである。
5 結論
本稿においては、実測結果と合わせて、CRH380BL型鉄道車両の速度センサにおける電磁妨害問題について分析を行った。結論は以下のとおり。
1) パンタグラフ降下時に、パンタグラフと供電用架線網との間に生じるアーク放電は電流素片に相当し、空間において非常に強い電磁放射を励起する。測定の結果、得られた最大の磁場強度は54.07dBμA/mであり、周波数は主に分布5MHz付近に分布した。
2) アーク放電により励起される強い磁場は、車体のアルミフレーム表面において表面電流を形成する。鉄道車両の保護接地が一端接地である場合、表面電流は車体を流れ、地面に対する車体の電位上昇を引き起こし、妨害電圧を構成する。測定の結果、パンタグラフ降下時の2号車車体の妨害電圧は600V以上に達することが分かった。
3) 速度センサの取付方法の影響によって、車体の妨害電圧は、センサの通信ケーブルのシールド層とコアケーブルとの間の寄生容量によってコアケーブル内に結合され、速度信号を妨害する。
4) 鉄道編成端部の車両において保護接地ケーブルを新規に増設することによって車体の電位を下げる方法によって、速度センサの信号ポートにおける妨害電圧の振幅を大幅に下げることができるため、パンタグラフ降下時にセンサが受ける電磁妨害問題を効果的に解決することができる。
保護接地を追加した後は、車体の電位を効果的に低減できるため、パンタグラフ降下時の鉄道車両における速度センサの電磁妨害問題を解決することができるが、マイナス影響も存在する。例えば、レール上の循環電流が保護接地ケーブルを経ると車体上で環流を生じ、長時間の環流によって軸受の発熱や電解腐食を生じる等の問題がある。解決方法としては、保護接地ケーブル上に一定の抵抗値を持つ接地抵抗器を連結することである。この問題の詳論については、別稿で発表したい。
(おわり)
参考文献
[15] 張清鵬,万健如. 電磁兼容系統中的接地研究[J].国外電子測量技術, 2012, 31(10) : 27-29. ZHANG Q P,WANG J R. The research on grounding in electromagnetic compatibility system[J]. Foreign Electronic Measurement Technology,2012,31 (10) :27-29.
※本稿は厳加斌, 朱峰, 李軍, 沙淼, 袁徳強「高速動車組速度伝感器的電磁干擾測試与分析」(『電子測量与儀器学報』第29巻第3期,2015年3月、pp.433-438)を『 電子測量与儀器学報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司