白刺砂堆の退化と土壤水分の関係(その2)
2017年 5月22日
王月, 李程, 張清涛, 梁暁健, 邱国玉:北京大学環境・能源学院
李愛徳, 楊自輝:甘粛民勤荒漠草地生態システム国家野外科学観測研究ステーション甘粛省治沙研究所
(その1よりつづき)
3 結果・分析
3.1 研究エリアの降水変化の特徴
表2からは、研究エリアの降水の季節分配は不均等で、主に5月と7--9月に代表される夏季と秋季に集中し、通年降水量の79%を占める。月降水量は5月か8月、9月をターニングポイントとし、「増加-減少-増加-減少」という傾向を示し、2008--2011年の最大月降水量はそれぞれ62.2mm(2008年7月)、52.6mm(2009年8月)、23.0mm(2010年9月)、36.5mm(2011年8月)となり、通年降水量のそれぞれ38%、44%、25%、34%を占めた。2008--2011年の生長シーズン(5--10月)の降水量はそれぞれ133.6、115.2、82.5、95.2mmで、大部分は生長シーズン末期の8--9月に集中した。2008--2011年の通年降水量と民勤の長年にわたる平均降水量115mmとを比べると[25]、2008年は豊水年、2009年は平水年、2010年は渇水年、2011年は平水年と考えられる。
年 Year |
月 Month | 通年 Annual Prespitation |
||||||||||
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11-12 | ||
2008 | 12.8 | 0.1 | 0.2 | 15.8 | 3.1 | 9.1 | 62.2 | 16.2 | 40.8 | 2.2 | 1 | 163.4 |
2009 | 0.8 | 0 | 0 | 0.8 | 9.4 | 6.9 | 10.5 | 52.6 | 34.6 | 1.2 | 4 | 120.7 |
2010 | 0 | 1.1 | 0.9 | 8.3 | 22.5 | 6.5 | 1.7 | 19.4 | 23 | 9.4 | 0.7 | 93.5 |
2011 | 2.2 | 1.6 | 2.2 | 1.4 | 9.6 | 8.7 | 13.5 | 36.5 | 20.9 | 6 | 3.5 | 106.1 |
2012 | 2.9 | 0 | 0.8 | 1.9 | 13.9 | 0 | - | - | - | - | - | - |
図3に示す通り、研究エリアの降水頻度は小さく、強度は高い。日降水量の雨量級の分布の特徴からは、0--5mmの降水が最も多く、通年の降水現象の88%を占め、5mmを超える降水現象の出現頻度はわずか12%だった。2008年に日降水量が5mmを超えたのは8dで、それぞれ1月19日と4月11日、7月18日、7月28日、7月30日、8月20日、9月22日、9月25日で、そのうち4月11日と7月28日、7月30日、9月22日の4dの日降水量は10mmを超えた。2009年に日降水量が5mmを超えたのは7dで、それぞれ6月18日と7月8日、8月18日、8月24日、8月25日、9月5日、9月6日で、そのうち8月18日と8月25日、9月5日、9月6日の4dの日降水量は10mmを超えた。2010年に日降水量が5mmを超えたのは5dで、それぞれ5月17日と5月25日、6月29日、9月20日、10月25日だった。2011年に日降水量が5mmを超えたのは6dで、それぞれ5月11日と7月4日、8月15日、8月17日、8月18日、9月16日で、そのうち8月15日と8月17日の2dの日降水量は10mmを超えた。2008--2011年に降水の発生した日数はそれぞれ52d、49d、44d、27dだった。
図3 研究エリアの日降水量の変化(2008--2012年)
Fig.3 Daily precipitation from 2008 to 2012
3.2 異なる退化段階の白刺砂堆の土壤水分の経時変化
中性子水分計によって計測された2008--2012年の土壤体積含水量を、表層0--50cmと中間層70--130cm、深層150--190cmの3つの深さで平均を取り、異なる退化段階の各深さの白刺砂堆の土壤水分の年ごとの変化の特徴を対照分析した(図4)。異なる退化段階の白刺砂堆の土壤含水量の年ごとの変動の傾向はほぼ一致していることがわかる。
図4 異なる退化段階の白刺砂堆の異なる深度の土壤体積含水量の年ごとの変化(2008--2012年)
Fig.4 Mean volumetric soil water content from 2008 to 2012 in differentdegradation stages
図4が示すように、年ごとの変化の面では、各標本地の3つの深さの土壤含水量はいずれも、2008年に最大となり、2009年と2011年がこれに次ぎ、2010年が最小となり傾向を示した。このうち0--50cmは動きが最も大きく、2008年の0--50cmの土壤含水量の変化の範囲は0.031--0.053m3/m3で、2010年には0.014--0.029m3/m3となった。
降水データと結合すると、2009年と2011年の降水量はほぼ同等で、2011年の異なる深さの土壤含水量は、降水日の6月21日と8月1日、10月30日により大きな波動を示し、より多くの極点を形成した。これは2011年に降雨の強度がより大きく、連続性がより高かったことと関係する可能性がある。2011年6月21日には、0--50cmの原形段階と安定段階の白刺砂堆の土壤含水量はそれぞれ0.047、0.041m3/m3だった。70--130cmの安定段階の白刺砂堆の土壤含水量は0.049m3/m3に達した。2011年10月30日、0--50cmの安定段階の土壤含水量も0.047m3/m3に達した。これに対し、70--130cmと150--190cmの土壤含水量の年ごとの変化は、深さが増すにつれて、変化が平らとなり、波動が小さくなる傾向にある。このように白刺砂堆の土壤含水量は降水量・降水強度と相関し、浅層であるほど相関性は高い。白刺砂堆は、深層土壤含水量が安定に向かうという法則もある。
原形段階の白刺砂堆の土壤含水量は、深さの増加に伴って年ごとの変化は減少し、150--190cmの深さでは0.020--0.030m3/m3を基本的に維持した。発育段階の年ごとの変化の傾向は70--130cmと150--190cmで高度に一致し、各年で差は大きくなく、それぞれ0.030--0.040m3/m3と0.040--0.055m3/m3の間で変化した。安定段階の白刺砂堆の土壤含水量は2008年と2011年に最大となり、2009年と2010年で比較的小さかった。その原因は、2008年と2011年の降水量が比較的大きく、2011年には降雨強度がさらに大きく、持続性がさらに高かったことと考えられる。垂直方向では、深さの増加に伴い、土壤水分の変動幅は小さくなった。異なる退化段階の白刺砂堆について言えば、死亡段階の土壤含水量の年ごとの変化は最も小さく、70--130cmの深さの土壤水分はそれぞれ0.012--0.032、0.016--0.023m3/m3の間で変化した。その原因としては、(1)根系が比較的浅い表層のクラストに分布していることから、土壤水分に対する降水などの要素の影響を有効に抑えることができ[26]、土壤水分の変異が最小となった、(2)原形段階から死亡段階まで、白刺砂堆では流砂の固定に伴ってシルト級顆粒の堆積が進み、土壤の機械的組成は砂固定時間の増加に伴って細かくなる――ということが考えられる。土壤中の細砂粒と粘土粒の含量が比較的高い時、降水後の土壤の保水能力は高くなり、降雨後の土壤の水分損失は遅くなる[27]。死亡段階の白刺砂堆は固定砂丘に属する。固定砂丘は、理想的な砂固定モデルではなく、水分条件が劣っている。これは白刺が大面積で衰退し、死亡する主要な原因と考えられる。
土壤含水量と降水時間の分布は密切に関連し、降水の季節的な差異は往々にして、土壤水分の季節的な変化につながる[26]。標本地の各層の同じ月の土壤含水量の平均値を用いて、季節変化図を得ることができる(図5)。
図5 異なる退化段階の白刺砂堆の異なる深さの土壤体積含水量の季節変化(2008--2012年)
Fig.5 Seasonal variation of mean volumetric soil water content from 2008 to 2012 in different degradation stages
図5からは、土壤水分の季節変化を知ることができる。春季は気温が徐々に高まり、乾燥して風が多く、降水が少なく、蒸発が旺盛であり、同時に白刺の発芽によって水が消費されることから、春季の土壤含水量は最低となる。夏季は、降水の補給に伴い、波動が高まり、7月または9月に最大値に達する。その後は気温が下がり、降水が減り、砂堆の土壤含水量は徐々に減少する。この法則は、毛烏素砂地や禹城砂地、沙坡頭地区、民勤低木砂堆区の研究の結論と一致する。土壤水分の季節変化は、春季の水分蒸発消耗段階(4--5月)、夏季の降水補給段階(6--9月下旬)、秋季の失水段階(10--11月)として表れる[28-31]。土壤含水量の季節変化は、土層の深度の増加に伴い明確ではなくなり、安定段階の白刺砂堆の土壤含水量は、深さ190cmの土層を除き、そのほかの土層の含水量の季節変化は明確だった。その他の段階の白刺砂堆は、0--30cmの土層においてのみ、明確な季節変化を示した。
図6は、異なる退化段階の白刺砂堆の各層の土壤の体積含水量の平均値に対応する標準偏差であり、土壤含水量の変動度をある程度示している。原形段階の白刺砂堆の土壤含水量の最大値は9月の深度10cmで出現し、その値は0.076m3/m3だった。表層の10cmと30cmの土壤含水量は、5月と6月、9月をターニングポイントとし、「増加-減少-増加-減少」の過程をたどり、その他の深さの土壤含水量はほぼ0.020--0.040m3/m3の範囲にあり、標準偏差はいずれも0.010m3/m3より低く、変化は比較的小さかった。発育段階の白刺砂堆の各層の土壤含水量の季節変化の趨勢は比較的一致し、5月と7月、9月に高くなり、「増加--減少--増加--減少--増加--減少」の法則を示した。だが同一の深さでの変化幅は小さく、10cmでだけ標準偏差が0.010m3/m3を超えた。原形段階と発育段階の白刺砂堆の土壤含水量は、表層でだけ変化が比較的大きかった。その原因は、荒漠・オアシス推移帯地区の高蒸発量や低降水量、砂地土壤特性が総合的に働いた結果と考えられる[7]。深度190cmを除き、安定段階の白刺砂堆の各層の土壤含水量は、季節変化の傾向で高く一致し、6月と9月、11月の土壤含水量が比較的高く、標準偏差も最大となる。降水発生強度が高いために、下方浸透速度がこれに伴って高まり[25]、土壤含水量の変化幅が大きくなったと考えられる。11月の深さ30cmの土壤含水量は0.027m3/m3に達した。その他の月の土壤含水量はほぼ変わらず、0.020m3/m3前後だった。死亡段階の白刺砂堆の土壤の季節変化は、10cmと30cmを代表とし、5・7・10月の土壤含水量が比較的高かったが、その他の深度の土壤含水量は0.018--0.020m3/m3の範囲内にとどまり、標準偏差はほぼ0.020m3/m3以下だった。流砂の固定は土壤顆粒をシルトへと発展させ、クラストの存在は水分の下方浸透を有効に阻止し、大部分の降水はクラスト層に集中し、10%--40%の年降水量は生物土壤クラストによって遮断され、より深層の土壤へは浸透しない[32]。このため表層(0--30cm)の土壤水分は大きく変化する一方、50--130cmの深さの水分変化は極めて小さかった。総じて、安定段階を除き、その他の段階の白刺砂堆の土壤水分は表層の変化だけが比較的大きかった。
図6 異なる退化段階の白刺砂堆の異なる深度の土壤体積含水量の標準偏差(SD)
Fig.6 Standard deviation (SD) of volumetric soil water content at different depthsandindegradation stages
異なる発育段階の白刺砂堆の土壤水分とその変動度に目を向けると、原形段階は発育段階よりもやや大きく、安定段階がこれに次ぎ、死亡段階が最小だった。その原因としては、原形段階と発育段階の白刺砂堆は流動砂丘に属し、植生の被度が低く、表層にクラストがなく、砂の埋没によって表層を乾砂層がカバーし、土壤顆粒は砂粒が中心となっていることが考えられる。土壤の保水力の低さや孔隙率の高さ、浸透力の高さ、良好な通気性などの特徴は、その土壤水分と変動度の高さを決定している。安定段階の白刺砂堆の53%の根系バイオマスは0--30cmに分布しており[33]、土壤顆粒は砂粒とシルトが中心となり、孔隙率は高い。だが植生の被度が最大で表層にクラストがあるため、土壤水分に対する降水などの要素の影響が有効に抑制される。砂堆は比較的大きく、一定の勾配があることから、側流を産出しやすく、水分の浸透は減少する。砂堆の水分条件は悪化を続け、白刺は、水不足によって死亡段階へと遷移を始め、土壤水分とその変動度は原形段階や発育段階より小さくなる。死亡段階の白刺砂堆の根系分布は比較的浅く、表層には比較的厚いクラストが存在し、降水の下方浸透を阻止する[26]。白刺砂堆は同時に流砂が固定していく中で、土壤の機械的組成が固定時間の増加に伴って細かくなり[6]、最終的には土壤水分とその変動度は最小となる。
(その3へつづく)
参考文献
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※本稿は王月, 李程, 李愛徳, 楊自輝, 張清涛, 梁暁健, 邱国玉「白刺沙堆退化与土壌水分的関系」(『生態学報』第35卷第5期(2015年3月)、pp.1407-1421)を『生態学報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司