ラクトバチルスの免疫調節と抗アレルギー作用の研究(その1)
2017年 6月15日
概要:
目的:ラクトバチルスの免疫調節とその抗アレルギー作用を探求する。方法:オスのBALB/Cマウスをランダムにブランク対照群と介入群に分ける(それぞれ24匹)。胃内投与の方式を取り、ラクトバチルス・プランタルムLP45とラクトバチルス・アシドフィルスLa28、ラクトバチルス・アシドフィルス6091、ラクトバチルス・ラムノサスGGをそれぞれ28d連続投与する。14dと28dに、免疫臓器指数と血清Th1サイトカイン〔インターフェロン-γ(IFN-γ)、インターロイキン(IL)-12〕、Th2サイトカイン(IL-6)の含有量をそれぞれ測定するという方法で、被験菌株の免疫調節作用を分析・比較する。免疫調節作用において差異ありと認められた菌株に対しては、オボアルブミン(OVA)と水酸化アルミニウムによって感作されたBALB/Cマウスアレルギーモデルを利用し、その抗アレルギー作用をさらに評価する。オスのBALB/Cマウスをランダムにブランク対照群とOVA陽性対照群、2つの菌株介入群に分け、ELISA法で血清の総IgE含有量を測定する。結果:実験対象となった4つの菌株介入群の免疫臓器指数は有意差なしとなった。14dと28dの際のラクトバチルス・アシドフィルスLa28グループの血清IL-6含有量はいずれもブランク対照群を下回り、有意差あり(P<0.05)となった。28dの際のラクトバチルス・アシドフィルス6091グループの血清IL-6含有量はブランク対照群を下回り、有意差あり(P<0.05)となった。抗アレルギー作用の評価の実験においては、ラクトバチルス・アシドフィルスLa28グループの血清総IgE含有量はブランク対照群を上回り、OVA陽性対照群を下回り、有意差あり(P<0.05)となった。結論:4つの菌株のうちラクトバチルス・アシドフィルスLa28と6091は免疫調節作用を備えており、このうちラクトバチルス・アシドフィルスLa28は抗アレルギー作用を備えている可能性がある。この機序としては、Th2細胞活性を抑制し、Th1/Th2の均衡に影響を与えるということが考えられる。
【キーワード】ラクトバチルス 免疫調節作用 抗アレルギー作用
乳酸菌は、炭水化物を発酵して乳酸を産生する細菌の総称であり、一般的にグラム陽性で、嫌気または通性嫌気を示し、芽胞は産生しない。細菌系統分類学においては、乳酸菌は、少なくとも18属を含む。そのうち機能研究が比較的多いものには、ラクトバチルス属(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)、エンテロコッカス属(Entemcoccus)、レンサ球菌属(Strptococcus)などがある[1]。研究によってすでに、多数の乳酸菌が健康促進作用を持つことが発見されている。これには、免疫の調節やアレルギー性疾患の防止、がんの予防などの機能が含まれる[2]。乳酸菌の免疫調節作用は通常、抗アレルギー作用と相互に連携し、分離することのできないものである。すでに多くの研究が、生体の免疫系統におけるⅠ型ヘルパーT細胞(Th1細胞)/Ⅱ型ヘルパーT細胞(Th2細胞)のバランスが崩れること、とりわけTh2細胞にバランスが傾くことが、アレルギー性疾患の発生の重要な機序の一つとなっていることを指摘している。乳酸菌は生体に入った後、その免疫調節作用を通じて、生体のTh1/Th2細胞の均衡を回復させ、アレルギー性疾患の予防・治療の働きを実現する[3]。
ラクトバチルス属は、発酵産業において比較的多く応用されている乳酸菌の一種で、ラクトバチルス・アシドフィルス(L.acidophilus)、ラクトバチルス・プランタルム(L.plantarum)、ラクトバチルス・ラムノサス(L.rhamnosus)、ラクトバチルス・カゼイ(L.casei)などの10種近くが含まれる。研究によると、同じラクトバチルス属に属する細菌であっても、異なる種類のラクトバチルスでは、機能は同じではない[4]。
今回の実験では、異なる種類のラクトバチルス数株を選び、動物実験を通じて、免疫調節作用を持つ菌株を選出し、マウスのオボアルブミン(OVA)感作モデルを利用して、その抗アレルギー作用をさらに踏み込んで評価した。そのねらいは、良好な抗アレルギーラクトバチルスを選び出し、異なる種類のラクトバチルス属の菌株間の差異を検討し、菌株の免疫調節と抗アレルギー作用の機序のさらなる研究に根拠を提供することにある。
1 材料と方法
1.1 材料
1.1.1 試剤
オボアルブミン(OVA)(Sigma、米国)、水酸化アルミニウム〔Al(OH)3〕分析級試薬(Sigma、米国)、リン酸緩衝液(PBS)(Thermo、輸入小分包装)、マウスインターロイキン(IL)-6、IL-12、
インターフェロン-γ(IFN-γ)ELISA測定キット(R&D、米国)、
マウス総免疫グロブリンE(IgE)ELISAキット(YAMASA、日本)。
1.1.2 実験動物と飼育
SPF級BALB/Cマウス、オス、6~8週齢(体重18~20g)。四川省達碩実験動物有限責任公司から購入〔許可証番号:SCYK(川)2015-030〕。BALB/Cマウスは1週間の馴化飼育を行う。プラスチックのかごで飼育し、標凖食を与え、飲水は自由とする。環境温度は(24±1)℃、湿度は(55±10)%。
1.1.3 実験菌株 ラクトバチルス・プランタルムLP45(L.plantarum LP45)とラクトバチルス・アシドフィルスLa28(L.acidophilus La28)は河北一然生物科技有限公司から購入。ラクトバチルス・アシドフィルス6091(L.acidophilus 6091)は四川省食品発酵工業研究設計院から購入。ラクトバチルス・ラムノサスGG株(L.rhamnosus GG,LGG)は市場の既存製品から分離。各菌株・菌粉はいずれも厳格に冷凍保存し、菌数の不変を保証し、実験前にはプレートカウントによって菌粉中の菌量がメーカーの標示濃度に達しているかを検証する。胃内投与に用いる菌液は、メーカーの標示濃度に従い、実験に必要な濃度にまで希釈する。調製は使用時に行う。
1.2 実験方法
1.2.1 菌株の免疫調節作用の選別
1.2.1.1 動物のグループ分けと処理 120匹のマウスをランダムに5グループに分ける(1グループ24匹)。(1)ブランク対照群、(2)LGG介入群、(3)LP45介入群、(4)La28介入群、(5)6091介入群。菌株介入群では毎日マウス1匹につきそれぞれ、菌数109CFU(絶対菌数)の異なる菌液0.2mLを胃内投与する。ブランク対照群では毎日マウス1匹につき0.2mLの生理食塩水を胃内投与する。
1.2.1.2 採取と測定 胃内投与前にマウスの体重をはかる。胃内投与後、14dと28dにそれぞれマウスを死亡させる(各グループで各時点に半分のマウスを死亡させる)。マウスを処理する前に最後の1回として体重をはかり、臓器指数の計算に用いる。死亡処理後、マウスの胸腺と脾臓を無菌剥離し、周囲の結合組織を除去し、ろ紙によって臓器表面の血液を吸い取って重さをはかり、「免疫臓器指数」(immune organindex,IOI)の公式〈胸腺または脾臓の質量(mg)/体重(g)〉によって免疫臓器指数を計算する。眼球採血法を採用し、マウスの血液を採取し、室温で30min静置した後、1000r/min×10minの遠心分離を行い、収集した上清液を-80℃で冷凍保存し、使用に備える。それぞれIL-6とIL-12、IFN-γELISAキットを用いて血清サイトカインの測定を行う。具体的な測定の手順はキットの説明書に照らして行う。
1.2.2 菌株の抗アレルギー作用の評価
1.2.2.1 OVA配合
マウスアレルギーモデルの感作と刺激に用いるOVAは自家配合する。配合方法は以下の通りである。400μg OVAを1mL PBS中に溶かす。400mg Al(OH)3を10mL PBS中に配合し、懸濁液を形成する。超音波破砕機を用いて10min破砕する。使用時には、OVA溶液とAl(OH)3懸濁液を等体積混合し、濃度200μg/mL OVA、20mg Al(OH)3/mLの懸濁液を配合する。使用時に配合する[5]。
1.2.2.2 動物分グループとアレルギーモデルの構築
48匹のマウスをランダムに4グループ(1グループ12匹)に分け、ブランク対照群、OVA陽性対照群、LP45介入群、La28介入群を作る。菌株介入群では毎回マウス1匹につきそれぞれ、菌数109CFUの異なる菌液0.2mLを胃内投与する。ブランク対照群とOVA陽性対照群では毎回マウス1匹につき0.2mLの生理食塩水を胃内投与し、2dごとに1回胃内投与する。実験開始後、第8d、第22d、第29d、第36dにそれぞれ、OVA陽性対照群と各菌株介入群のマウスに対し、OVAの腹腔注射を行う。マウス1匹につき毎回、0.1mLの配合済みのOVA懸濁液を注射する。ブランク対照群のマウスには腹腔注射は行わない。最後にOVAを腹腔注射した7d後、各グループのマウスを死亡させる。
1.2.2.3 採取と測定
胃内投与前にマウスの体重をはかる。尾動脈法を採用し、マウスの血液を採取する。実験後にマウスを死亡させる前に最後の1回として体重をはかり、眼球採血法を用いてマウスの血液を採取する。室温で30min静置した後、1000r/min×10minの遠心分離を行い、収集した血清を-80℃で冷凍保存し、使用に備える。マウス血清総IgE ELISAキットを用いて血清の総IgE濃度を測定する。具体的な測定の手順はキット説明書を参照する。
1.3 統計学方法
データは、
(その2へつづく)
[1]. 李吉楠, 孫鵬, 覃春富等. 乳酸菌対動物局部和系統免疫調節功能影響的研究進展. 畜牧獣医学報, 2013;44(11):1700-1705.
[2]. Ishikawa H, Akedo I, Otani T, eta l. Randomized trial of dietary fiber and Lactobacillus casei administration for prevention of colorectal tumors. Int J Cancer, 2005;116(5):762-767.
[3]. 李艾黎, 孟祥晨, 徐漸等. 嗜酸乳桿菌対β-乳球蛋白過敏誘発Thl/Th2細胞平衡的影響. 食品科学, 2012;33(15):279-282.
[4]. 範志紅, 汪涛, 南慶賢等. 乳酸細菌和酸奶対免疫系統功能的調節作用. 中国微生態学雑誌, 2001;13(4):241-243.
[5]. He F, Morita H, Kubota A, et al. Effect of orally administered non-viable Lactobacillus cells on murine humoral immune responses. Microbiol Immunol, 2005;49(11):993-997.
※本稿は沈曦,李鳴,石磊,齢南,何苗,王舒悦,何方「乳酸杆菌的免疫調節及抗過敏作用研究」(『四川大学学報(医学版)』第47卷第2期、2016年、pp.192-196)を『四川大学学報(医学版)』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司