ナノ材料により誘導される細胞死に関する研究の進展(その1)
2017年 7月21日 賈健、李艶博、郭彩霞(首都医科大学公共衛生学院)
概要:
バイオ医薬品や材料工学、化学工業等のさまざまな分野におけるナノ材料の応用が広がるにつれ、ナノ材料の環境暴露とそれに伴う細胞毒性に研究者から高い関心が集まり、ナノトキシコロジーやナノメディシンといった分野における新たな研究テーマとなっている。ナノ材料の毒性作用に関する研究は、ナノ材料の安全性評価に理論的根拠を提供するだけでなく、ナノテクノロジーの応用分野の拡大にも資する。本稿では、細胞のオートファジー、アポトーシスおよび壊死にナノ材料が果たす作用について重点的に述べた上で、ナノ材料の毒性研究と安全性評価の参考に資するべく、これらの異なるタイプの細胞死がナノ材料によって誘導される際に起こりうるメカニズムを検討する。
キーワード:ナノ材料、細胞死、アポトーシス、オートファジー、壊死
ナノ材料はサイズが1 ~100 nmの間にあるナノ粒子により構成される。一般的に、3つの次元のすべてがナノスケールによって構成されるナノ材料をナノ粒子という。サイズの小ささや比表面積の大きさ、吸着能力の強さや化学反応活性が高いなどの理化学的性質により、ナノ材料はバイオセンシングや医療診断、生体画像技術、ドラッグデリバリーシステム等の分野で広く応用されている。しかし、多くのナノ材料には細胞毒性があることから、細胞死を誘導しうることが大量の研究によって証明されている。一般的に、ナノ材料が細胞に入り込むにはまず細胞膜を通り抜け、受動的な拡散または細胞のエンドサイトーシスによって細胞中に放出され、拡散することによって、細胞質またはさまざまな細胞小器官中に分布する必要がある[1]。このプロセスにおいて、ナノ材料は活性酸素(reactive oxygen species, ROS)を生成するために酸化ストレス、凝集沈澱を導き、または相応のイオン(金属酸化物など)を形成して細胞小器官または細胞の構造を破壊し、生体高分子や他の分子と相互作用を生じて細胞の正常な機能に影響を及ぼし、毒性作用を及ぼして細胞死を導きうる。本稿では細胞死のタイプに基づいて、ナノ材料による細胞死誘導の方式とその起こりうる分子メカニズムについて総合的に論ずる。
1 ナノ材料と細胞のオートファジー
細胞のオートファジーとは、細胞質において形成される2層または多層の膜構造を持つオートファゴソームがリソソームと融合し、パッケージングされた内容物を分解するプロセスであり、プログラム細胞死の一つである。これには主に3つの形式があり、すなわちマクロオートファジー、ミクロオートファジーとシャペロン介在性オートファジーに大別される。オートファジーは状況によっては細胞を保護する場合もあるが、細胞組織に損傷をもたらし、オートファジー細胞死を引き起こすこともある[2]。近年、細胞のオートファジーという観点から、ある種の悪性腫瘍や神経変性疾患の進行の抑制や、疾病の治療や干渉方法としてナノ材料を使うことはできるかどうかが、研究者の間で広く注目を集めている。先行研究によれば、ナノ材料の中には腫瘍細胞のオートファジーを選択的に誘導できるものもある。すなわち、C60フラーレン-ペントキシフィリン(C60 fullerene-pentoxifylline)の複合ナノ材料はオートファジー効果を増強で、アミロイドβペプチドによって引き起こされる細胞毒性を消すことができる[3]。しかし、ナノ材料が正常な細胞にもたらすオートファジーでは細胞毒性が生じ得るため、これを回避する必要がある。
1.1 金属ナノ材料と細胞のオートファジー
大多数の金属ナノ材料が引き起こす細胞のオートファジーは、細胞死を促すものである。たとえば、金ナノ粒子は細胞のオートファジーを誘導すると同時に細胞に酸化ダメージが生じるため、細胞内の脂質過酸化物や抗酸化物質、酸化ストレス関連因子の発現量が顕著に高まる[4]。ただし、状況によっては、ナノ材料のもたらすオートファジー作用が細胞の生存を促し、オートファジーが細胞の自己防衛機能となることもある。ある研究によれば、銀ナノ粒子により誘導されるオートファゴソームの形成を阻むと、細胞はアポトーシスに至る可能性があり[5]、さらにミトコンドリアによるオートファジーを阻むと損傷を受けたミトコンドリアの凝集を招き、細胞のエネルギー代謝に影響する可能性がある[6]。金ナノ粒子は細胞のオートファジーを誘導し、かつ、細胞内において誘導されたそのオートファゴソームの蓄積またはオートファジーと関連性のあるMAP1LC3A(microtubule- associated protein light chain 3, LC3)-Ⅱの発現量の増加は、オートファジーの流れ(autophagy flux)が阻まれるために生じる[7]。リソソームの機能攪乱は、オートファジーの流れが阻害されることと関係があるだろう。細胞に貪食された金ナノ粒子は最終的にリソソーム内に蓄積され、リソソームをアルカリ化することによってその分解能力を破壊する。別の研究によれば、金ナノ粒子はROSによってPI3キナーゼ(phosphatidylinositol 3-kinase, PI3K)/ プロテインキナーゼB (protein kinase B, 別称Akt)/ 哺乳類ラパマイシン標的タンパク質〔mammalian target of sirolimus(Rapamycin), mTOR〕シグナル伝達経路を抑制し、低酸素処理によるヒト腎近位尿細管上皮細胞(HK-2細胞)のオートファジー細胞死を誘導しうるが、正常なHK-2細胞はオートファゴソームの形成によって金ナノ粒子からの毒性を回避できる[8]。これは、ナノ粒子を使ってバイオ医薬関連研究や応用を行う際は、細胞の状態を必ず考慮すべきことを示唆するものである。
1.2 ナノ酸化物と細胞のオートファジー
レアアース酸化物はオートファジーの誘導剤と考えられている[9]。また、これと同様に、酸化物ナノ粒子もある程度オートファジーを発生させる。研究によれば、酸化亜鉛(zinc oxide, ZnO)ナノ粒子の毒性はZn2+の放出により導かれ、それによって誘導される細胞死の主な形式の一つはオートファジーである[10-11]。in vivo研究および in vitro研究によれば、ZnOナノ粒子の表面から放出されたZn2+は細胞内におけるROSの大幅な増加を導きうるため、オートファジーに関与するタンパク質のLC3-I、LC3 –IIおよびAtg5(autophagy protein 5, Atg-5)の発現を引き上げ、オートファゴソームの形成を促して細胞死を誘導し、かつ、その作用は用量によって加重される[12]。一方、細胞によるZn2+の摂取を阻害し、または抗酸化剤やオートファジーインヒビターの3-メチルアデニン(3-methyladenine, 3-MA)を使えば、ZnOナノ粒子によって誘導されるオートファジーを抑制できる[13]。
また、ZnOナノ粒子以外でも、酸化鉄(iron oxide, Fe2O3)や四酸化三鉄(ferroferric oxide, Fe3O4)、酸化銅(copper oxide, CuO)、酸化アルミニウム(aluminum oxide, Al2O3)、二酸化ケイ素(silica dioxide, SiO2)、二酸化チタン(titanium oxide, TiO2)などの多くのナノ酸化物も細胞のオートファジーを誘導しうる。たとえば、Fe3O4ナノ粒子はBeclin 1とAtg14の発現を増やし、かつBcl-2の含有量を減らすことでオートファジー始動複合体の形成を促し、時間依存的および濃度依存的にLC3Ⅱの増加とP62の減少を呈し、血液細胞のオートファジーを引き起こす[14]。しかし、酸化物ナノ粒子の種類によって、細胞毒性や細胞のオートファジーを誘導する能力は異なる。ある研究では、腫瘍細胞に対するCuO、SiO2、TiO2、Fe2O3およびFe3O4ナノ粒子の毒性効果を研究した結果[15]、CuOナノ粒子だけが明らかな細胞毒性を示し、細胞内のオートファゴソームの蓄積をもたらし、LC3Ⅱの発現量が増加し、3-MAを加えたところ細胞活性が著しく向上した。
1.3 ナノ材料による細胞のオートファジー誘導において起こりうるメカニズム
ナノ材料による細胞のオートファジー誘導にかかわる分子メカニズムはまだ研究段階にあり、また、ナノ材料の種類によって異なる。Khanら[16]によれば、Fe2O3ナノ粒子は、Akt/ AMPキナーゼ(adenosine monophosphate activated protein kinase, AMPK)/mTORシグナル伝達経路によって選択的に腫瘍細胞のオートファジーを誘導することができるため、正常な細胞に毒性作用を及ぼさずに腫瘍細胞を殺傷できる。最近の研究によれば、血管内皮細胞増殖因子受容体2(vascular endothelial growth factor receptor 2, VEGFR2)に関連するオートファジー活性化経路が細胞内の環境の安定や異物除去に重要な役割を果たしている可能性がある。また、別の研究によれば、SiO2ナノ粒子は、VEGFR2/PI3K/Akt/mTOR とVEGFR2/分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(mitogen-activated protein kinase, MAPK)/ 細胞外シグナル調節キナーゼ1/2(extracellular regulated protein kinases, ERK1/2)/mTORシグナル伝達経路を通じて、ヒト臍帯静脈内皮細胞(human umbilical vein endothelial cell, HUVEC)のオートファジーを導く上に[17-18]、酸化ストレスによってヒト肝臓癌由来細胞株HepG2にオートファジー細胞死をもたらす[19]。また、マンガンナノ粒子の誘導により産生されたROSとそれによる酸化ストレス、ならびにミトコンドリアの損傷と関連するアポトーシスシグナルも、オートファジーの発生に一定の作用を及ぼす[20]。表面にカルボキシル基を導入したシングルウォールカーボンナノチューブにより、ヒト肺腺がん由来細胞株A549におけるオートファゴソームの産生が誘導されるが、これはAkt/結節性硬化症TSC1/2産生タンパク質複合体(tuberous sclerosis complex, TSC1/2)/mTORシグナル経路に依存している[21]。このほか、細胞骨格に対する攪乱も細胞内の小胞による輸送に影響しうることから、細胞骨格に対するナノ材料の影響もオートファジー機能の攪乱とオートファゴソームの蓄積メカニズムの一つである可能性がある。研究によれば、Fe2O3ナノ粒子はHUVEC細胞中のアクチンとチューブリンの骨格ネットワークの配列を混乱させることで、オートファジー機能を導き損傷を招きうる[22]。SiO2ナノ粒子も細胞骨格の断裂を誘導するとともに、ミトコンドリアの脱分極とオートファゴソームの蓄積を生じさせる[18]。
(その2へつづく)
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※本稿は賈健、李艶博、郭彩霞「納米材料誘導細胞死亡的研究進展」(『中国薬理学与毒理学雑誌』第30卷第4期、2016年6月、pp.421-428)を(『中国薬理学与毒理学雑誌』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司