マニピュレーター絶対位置決め精度キャリブレーションの主要技術概観(その1)
2017年 8月31日
高 涵:河北工業大学 機械工程学院博士課程大学院生
主要研究テーマはモバイルマニピュレーターキャリブレーション技術。
張 明路:河北工業大学 機械工程学院教授、
ハルビン工業大学 ロボット技術・システム国家重点実験室
博士課程指導教員。主要研究テーマは特殊ロボット機構。
張 小俊:河北工業大学 機械工程学院教授
主要研究テーマは特殊ロボット制御システム。
白 豊:河北工業大学 機械工程学院博士課程大学院生
主要研究テーマはロボットビジョン。
概要:
中国の飛行機と衛星の組み立てには、現在でも依然として主に人工組み立てが採用されている。組み立て技術の古さやロボットの絶対位置決め精度の低さなどの問題は、飛行機や衛星の高精度・高性能という要求を十分に満たしておらず、産業用ロボットの航空製造業における発展を妨げている。このためロボットのフレキシブルオートメーション組み立ての過程でマニピュレーターの絶対位置決め精度のキャリブレーション技術をいかに高めるかが、学術界と工業界の幅広い関心の焦点となっている。現在の研究成果を体系的に分析・総括するため、絶対位置決め精度のキャリブレーション方法を分類して検討し、中国内外のマニピュレーターキャリブレーション技術の研究の現状を帰納し、誤差の不確かさ、冗長パラメーターの除去、最適測定構造選択性などのカギとなる技術を詳細に分析し、マニピュレーターの絶対位置決め精度キャリブレーション技術の未来の発展に向けた構想と展望を行った。
キーワード:マニピュレーター;絶対位置決め精度;キャリブレーション;幾何学パラメーター;非幾何学パラメーター;不確かさ
ロボットの精度には主に、繰り返し位置決め精度と絶対位置決め精度があり、ロボットの総合的性能を評価する重要な指標の一つとなっている[1]。現在、中国内外で開発されている産業用ロボットの繰り返し位置決め精度は比較的高く、0.01mmに達することができる[2-3]。だがロボットは、機械加工誤差や組み立て誤差、部品の摩耗、末端負荷の変化、温度の影響の共同の作用を受けることから、絶対位置決め精度は比較的低い[4-5]。これは測定ロボットの応用やマニピュレーターによる衛星の高精度組み立て、飛行機の組み立てに不利な影響を与える。とりわけマニピュレーターの狭い空間での運動が不精確であると、末端の組み立て部品と周囲の高精密部品がぶつかり、高精密部品の損壊を招き、不必要な損失をもたらすことになる。産業用ロボットの絶え間ない応用と発展に伴い、運動の精度に対してはますます高い要求がなされるようになっている。このためマニピュレーターの絶対位置決め精度のさらなる研究は、産業用ロボットの発展にとって非常に重要な意義を持つ。
絶対位置決め精度の向上には主に、誤差予防法とパラメーターキャリブレーション法の2種類の手段がある[1]。誤差予防法は主に、加工精度や組み立て精度、制御システムの精度を高めることによってロボットの位置決め精度を保証するものである。この方法は生産コストが比較的高い上、ロボットの長時間の運動は機械構造に摩耗をもたらすことから、誤差の産出は避けることができず、実際にはあまり応用されていない。パラメーターキャリブレーション法は主に、進んだ測定技術を通じてロボットの実際の運動学パラメーターを同定し、コントローラーのパラメーターを修正するか、制御アルゴリズムを加えることによって、絶対位置決め精度を高める。パラメーターキャリブレーション法は操作が簡単で、実現しやすく、位置決め誤差をオンラインで補償できることから、国内外の研究者の幅広い関心を集め[6]、絶対位置決め精度の誤差に影響する要素[7-11]、キャリブレーション測定[12]、絶対位置決め精度誤差補償[13]などの面で一連の成果が上がっている。
本稿はまず、キャリブレーション方法の分類と特性を論じた後、国内外のマニピュレーター絶対位置決め精度キャリブレーションの研究の現状を紹介し、ロボットキャリブレーションのカギとなる技術を検討し、末端位置決め精度に対しては、冗長パラメーター除去や幾何学パラメーターの不確定性、最適測定構造選択などが重要となると強調した。最後に、キャリブレーション技術の未来の発展傾向を展望し、今後のキャリブレーション技術の研究に参考を提供した。
1 キャリブレーション方法の分類と特性
キャリブレーション方法は、外部の測定設備が必要かどうかで、開ループキャリブレーションと閉ループキャリブレーションの2種類に大別される。開ループキャリブレーションの方法は主に、外部の測定設備を利用して、マニピュレーターの末端アクチュエーターの現在の位置を測定し、理論値と比較して誤差値を獲得し、誤差修正モデルに代入して運動学パラメーター誤差を得て、最後に補償を通じてキャリブレーションを実現する。開ループキャリブレーションは、精度の高い外部設備を必要とし、価格も高く、専門人員の操作が必要なため、使用が制限されてきた。
閉ループキャリブレーションは、オートキャリブレーションとも呼ばれ、学者らは現在、物理的拘束とビジョンを主に利用して、ロボットの閉ループキャリブレーションを実現している。物理的な拘束を加えたオートキャリブレーションの中心的な発想は、ロボット末端のアクチュエーターの接触平面を通じて拘束方程式を立て、拘束方程式に基づいて誤差モデルを構築し、運動学パラメーターの解を求めるというものである。視覚に基づくキャリブレーションの基本的な発想は、マニピュレーターの末端に冗長センサーを取り付け、センサーの情報に基づいて運動学パラメーターの解を求めるというものである。表1では、上述の方法の特性をまとめた。
開ループ キャリブレーション |
閉ループキャリブレーション | ||
物理的拘束に基づく キャリブレーション |
視覚に基づく キャリブレーション |
||
外部測定 設備の要否 |
必要 (レーザートラッカー、 IGPSなど) |
不必要 | 不必要 |
長所 | 外部計器は測定精度が高く、測定ノイズが比較的小さく、末端アクチュエーターの位置と姿勢座標を測定できる。 | コストが低く、外部センサーの情報に依存せず、操作が簡単である。 | コストが低く、測定方法が簡単で、実現が容易である。 |
短所 | 外部測定設備とロボットのベース座標系との間の関係をキャリブレーションする必要がある上、外部測定設備は価格が高く、専門人員による操作が必要である。さらに測定設備は環境因子の影響を受けやすく、測定結果が不精確となり、キャリブレーション結果に影響を与える。 | キャリブレーション結果の精度は、加工の円球と穴、プローブと平面または円柱面との配合精度にかかる。 | 視覚センサーとロボットの間の変換関係を確定しなければならず、変換誤差が存在する。 |
(その2へつづく)
参考文献:
[1].周煒. 飛機自動化装配工業機器人精度補償方法與実験研究[D]. 南京: 南京航空航天大学, 2012.
[2].周煒, 廖文和, 田威. 基于空間挿値的工業機器人精度補償方法理論與試験[J]. 機械工程学報, 2013, 49(3): 42-48.
[3].趙亮. 基于旋量的 SCARA 工業機器人精度研究[D]. 杭州: 浙江大学, 2011.
[4].王琨, 駱敏舟, 曹毅, 等. 基于遺伝算法的串聯機械臂運動学参数標定[J]. 系統科学與数学, 2015, 35(1): 19-30.
[5].周煒, 廖文和, 田威, 等. 基于粒子群優化神経網絡的機器人精度補償方法研究[J]. 中国機械工程, 2013, 24(2): 174-179.
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[7].Nguyena H N, Zhou J, Kang H J. A calibration method for enhancing robot accuracy through integration of an extended Kalman filter algorithm and an artificial neural network[J]. Neurocomputing, 2015, 151: 996-1005.
[8].王一. 測量機器人模型誤差及標定方法的研究[D]. 天津: 天津大学, 2006.
[9].Nubiola A, Bonev I A. Absolute calibration of an ABB IRB 1600 robot using a laser tracker[J]. Robotics Computer-Integration of Manufacturing, 2013, 29(1): 236-245.
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[11].Lightcap C, Hamner S, Schmitz T, et al. Improved positioning accuracy of the PA10-6CE robot with geometric and flexibility calibration[J]. IEEE Trans on Robotics and Automation, 2008, 24(2): 452-456.
[12].Nubiola A, Bonev I A. Absolute robot calibration with a single telescoping ballbar[J]. Precision Engineering, 2014, 38(3): 472-480.
[13].周煒, 廖文和, 田威, 等. 面向飛機自動化装配的機器人空間網格精度補償方法研究[J]. 中国機械工程, 2012, 23(19): 2306-2311.
※本稿は高涵, 張明路, 張小俊, 白豊「機械臂絶対定位精度標定関鍵技術綜述」(『計算機応用研究』2017年第34巻第9期)を(『計算機応用研究』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司