第131号
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マニピュレーター絶対位置決め精度キャリブレーションの主要技術概観(その2)

2017年 8月31日

高 涵:河北工業大学 機械工程学院博士課程大学院生

 主要研究テーマはモバイルマニピュレーターキャリブレーション技術。

張 明路:河北工業大学 機械工程学院教授、
ハルビン工業大学 ロボット技術・システム国家重点実験室

 博士課程指導教員。主要研究テーマは特殊ロボット機構。

張 小俊:河北工業大学 機械工程学院教授

 主要研究テーマは特殊ロボット制御システム。

白 豊:河北工業大学 機械工程学院博士課程大学院生

 主要研究テーマはロボットビジョン。

その1よりつづき)

2 キャリブレーション研究の現状

2.1 開ループキャリブレーション方法

 開ループキャリブレーションは、外部測定設備(レーザートラッカーや三次元測定機など)を利用して信号を送信し、測定設備から伝わった信号を受信機(ターゲットやベクトルロッドなど)で受信し、コンピューター処理によって測定点の三次元座標を獲得する。研究者らは当初、サークルポイント分析法(circle point analysis、CPA)を利用して開ループキャリブレーションを行っていた。これは、マニピュレーターの指定の位置に受信機を設置し、そのうちの一つの関節の回転を制御し、そのほかの関節をロックし、レーザートラッカーによって受信機の位置を測定し、最小二乗法によって空間円軌道をフィッティングし、各関節の軸線の位置を確定し、隣り合う両軸の間の関係に基づき、実際の運動学パラメーターを獲得する。研究者はその後、ロボットのベース座標系とツール座標系の位置が任意に設定されることから、典型的なCPA方法では、適切な運動学パラメーターの測定が得られないことを発見し、この方法の改良を行った。Santolariaら[14]は、マニピュレーターをいくつかの点へと移動させ、レーザートラッカーとロボット座標系の下でのこれらの点の位置を記録し、最小二乗法を利用して測定座標系とベース座標系との間の変換関係を導出し、運動学パラメーターを獲得した。またある研究者は、作業空間において一つの点を固定し、ロボットのベース座標系に対するその点の位置がわかった状態で、測定座標系に対するこの点の位置をレーザートラッカーで測定し、行列変換を経てベース座標系と測定座標系の間の関係式を求めた。

 産業用ロボットの発展に伴い、位置決め精度に対する要求はますます高まり、CPA方法を利用するだけでは高精度の要求を満たせなくなっており、研究者らは、ツーステップキャリブレーション方法の研究を展開している。Wuら[15]が採用した幾何学パラメーターキャリブレーション方法は、上述の方法とは異なり、末端アクチュエーター上に3つの参照点を設け、レーザートラッカーによって測定した参照点の位置からマニピュレーターの姿勢を算出した。このほか伝統的な運動学誤差モデルは非線形性が強く、パラメーター間に高い結合が存在することから、パラメーターのよりスピーディーな同定のため、パラメーター同定をツーステップに分解した。まず、マニピュレーターの幾何学パラメーターが既知であると仮定して、ベース座標系とツール座標系のパラメーターを推計する。次に、推計したパラメーター値を既知の条件として残りの幾何学パラメーターを計算する。最後に、この2つの手順を反復することで、精度の高いパラメーター誤差を同定し、位置決め精度を高める。

 これと同時に、郭剣鷹ら[16]は、位置誤差パラメーターと姿勢誤差パラメーターを区別する方法を取り、パラメーター間の強い結合を回避し、パラメーター同定の全体的な精度を高めた。劉志ら[17]が提出した幾何学パラメーターの粗同定と精同定のツーステップ同定方法は、CPA方法での計算によって関節軸線の空間位置を導き、スクリュー理論に基づいて隣り合う2つの関節の運動学パラメーターを計算し、粗同定したパラメーターを初期値とし、末端位置の誤差の最小化を最適化目標として最小二乗法によって解を求め、パラメーターの精同定を実現するものである。

 このほか研究者らはさらに、ロボットの運動を空間中の任意の2つの位置に置くと、ロボット座標系と測定座標系の下での座標は異なるが、2つの位置の両座標系での距離の長さは同じであることを発見した。この特性に基づき、文献[18]は、スクリュー理論を利用してマニピュレーター運動学モデルを構築し、距離の誤差の概念を導入することによって距離誤差モデルを導き出した。文献[19]は同様に、スクリュー理論の方法に基づき、指数積分形式の5自由度マニピュレーター運動学パラメーターキャリブレーションモデルを提起し、末端ロッドの位置決め誤差と関節のスクリュー誤差、ゼロ位置誤差との間の線形関係を微分方程式によって獲得し、距離の精度に基づいて距離誤差モデルを構築した。文献[20]は、距離の誤差とロボットの幾何学パラメーターの誤差、位置の誤差との間の関数関係を提起し、構築した距離誤差モデルに基づき、レーザートラッカーを利用して2点間の実際の距離を測定し、指令距離と比較して、最小二乗法によって幾何学パラメーターの誤差を算出し、キャリブレーションを実現した。距離誤差モデルに基づくこうした方法は、キャリブレーション過程での測定座標系とベース座標系との変換による誤差を回避し、計算を簡略化し、もともとの測定システムの測定精度を十分に利用することができる。

2.2 閉ループキャリブレーション方法

2.2.1 物理的拘束に基づく閉ループキャリブレーション方法

 現在、しばしば利用されている物理的拘束には、面拘束と点拘束がある。面拘束キャリブレーションについては、文献[21]が、運動学パラメーターのキャリブレーションを実現するには、少なくとも3つの平面が必要だと指摘している。Chiuら[22]は当初、円柱の柱面と平面の2つの拘束方程式に基づいて誤差モデルを構築した(図1)。プローブによる平面の触発によってパラレルリンクマニピュレーターの現在の位置データを収集し、最適化によって幾何学パラメーターの誤差を導き出し、オートキャリブレーションを実現する。Hageら[23]は、マニピュレーター末端アクチュエーター上に一つの接触式プローブを設置し、マニピュレーターの作業空間に加工精度の高い立方体を固定し(図2参照)、接触式プローブで4平面とそれぞれ接触し、相応する拘束方程式を導き出し、一次テイラー展開によって誤差モデルを獲得し、このモデルに基づいて幾何学パラメーターの解を求めた。上述の方法は、ロボットの運動学パラメーターだけを同定したもので、コンプライアンス誤差がマニピュレーター末端の位置決め精度に与える影響は考慮されていない。コンプライアンス誤差の影響を考慮するには、マニピュレーター末端に特殊な力覚センサーまたはトルクセンサーを設置し、接触点の力またはトルク、関節の変形量を測定する必要がある。

図1

図1 円柱面拘束に基づくキャリブレーションシステム

図2

図2 立方体拘束に基づくキャリブレーションシステム

 その後、Joubairら[24]は、Hageが提起した方法を改良し、同様の方法を用いてロボット運動学パラメーターをキャリブレーションした。改良されたのは、位置決め精度に対する幾何学誤差とコンプライアンス誤差の影響が実験において総合的に考慮された点であり、コンプライアンス誤差が関節の微小な動きによって産出されることが示された。その後、4つの直交平面の拘束方程式を利用して総誤差モデルを導き出し、同定補償を経てパラメーターキャリブレーションを完了した。上述の分析からわかるように、平面拘束に基づくロボットキャリブレーションは、外部センサーの情報に依存しないが、拘束平面の加工精度に対する要求が比較的高く、プローブが表面に接触したかまたはすでに表面に接触していたかの情報をなかなか精確に取得できず、最終的なキャリブレーション結果の良し悪しは、末端センサーの感度に大きく左右されることとなる。指摘しておくべきなのは、立方体または円柱体の座標系とロボットのベース座標系をキャリブレーション前に同一座標系に統一しておいて初めて、非線形誤差モデルのパラメーターの解を求めることができるということだ。

 点拘束キャリブレーションの主要な発想は、空間における点の実際の位置を測定し、理論的な位置と実際の位置との間の誤差を計算し、運動学誤差モデルに代入し、最適化アルゴリズムによって解を求め、パラメーター誤差を確定するというものである。だが点拘束に基づく閉ループキャリブレーション方法においては、実際の位置をいかにすばやく精確に測定するかが難点となる。Meggiolaroら[25]が提出した測定構造の収集は、面拘束に基づく収集方法とは異なり、作業空間に一つの球関節を固定するだけでよく、マニピュレーターの自己運動を利用して位置と姿勢を絶え変化させ、関節センサーによって対応する関節の角度を読み取り、運動学的方程式を通じて実際の測定の位置座標を計算するというものである(図3参照)。その後、実際の測定の位置座標と理論的な位置座標、パラメーター誤差の間の関数関係を構築し、最小二乗法を通じてパラメーター誤差のフィッティングを行う。注意すべきなのは、点拘束に基づく閉ループキャリブレーション方法においては、ロボットが一定の冗長性を備えていて初めて、測定構造データの収集ができるということである。つまり空間マニピュレーターには少なくとも4つの自由度、平面マニピュレーターには少なくとも3つの自由度が必要となる。

図3

図3 点拘束に基づく閉ループキャリブレーションシステム

 Liuら[26]が採用したキャリブレーションシステムは、マニピュレーターや上位コンピューター、焦点可変レーザー、位置センサーなどからなり、異なるレーザービームを位置センサーの中心点に近似垂直的に投射し、放射した任意の2本のビームの直線方程式の連立によってロボット座標系に対する中心点の位置を求める(図4-5参照)。だがこの方法は、すべてのレーザー放射装置の放射するビームが交差することは保証できない。文献[27]はこの問題をターゲットとして、2本のレーザービームが交差する状況を分類して議論した。2本のレーザービームが交差しないならば、2本のレーザーの共通垂線の中心点を2本の直線の近似的な交差点とみなす。2本のレーザービームが交差するならば、2本のビームの直線方程式の連立によって位置センサーの中心を求める。

図4

図4 ロボット閉ループキャリブレーションの原理図

図5

図5 ABBロボット閉ループキャリブレーションシステム

 上述のように、点拘束に基づく閉ループキャリブレーション方法のコストは、開ループキャリブレーションより低く、操作も容易で、オンラインでの精度の補償を実現できる。だが単一固定点の実際の位置データの収集だけでも、測定構造の多様性が低いという問題があり、この問題は、パラメーターの同定効果の低さをもたらし得る。

2.2.2 視覚に基づく閉ループキャリブレーション方法

 視覚技術の絶え間ない発展に伴い、カメラに基づく閉ループキャリブレーション方法が研究者らの幅広い関心を集めている。カメラの空間中の位置に応じて、ハンドアイビジョンシステムと固定アイビジョンシステムの2種類のタイプに分かれる。ハンドアイビジョンシステムとは、マニピュレーターの末端アクチュエーターにカメラを固定し、マニピュレーターの動きに従って運動させる。固定アイビジョンシステムは、カメラを空間中のある位置に固定し、マニピュレーターの運動に従って位置が変わることはない。解則暁ら[28]が提出した閉ループキャリブレーションシステムは、ロボットと平面ターゲット、CCDカメラの3つの部分からなる(図6)。カメラをマニピュレーターの末端に設置し、軸線測定法の原理を参考として、ロボットの1つの関節だけを動かし、その他の関節は不動を保ち、それぞれの位置に達した後にカメラで平面ターゲットを撮影し、平面ターゲットを基凖とした世界座標系におけるカメラの光学的中心の座標を求め、異なる光心座標フィッティング円を利用して、軸線の世界座標系における方程式を得て、隣り合う2つの軸線方程式に基づき、運動学パラメーターを計算する。同論文において述べられた方法は、測定機器そのものの大きさの制限を受けない上、大型平面ターゲットと延長ロッドを利用してカメラのフィールドアングルの小ささという問題を解決することができ、高い精度と一定の汎用性を備えている。

図6

図6 シングルアイビジョンキャリブレーションシステム

 このほか丁雅斌ら[29]は、シングルアイカメラによって撮影された立体ターゲットシーケンス画像情報に基づく末端アクチュエーター6次元位置・姿勢誤差同定を提出し、Deltaパラレルリンクロボットの運動学的キャリブレーションにこれを応用した。だがシングルアイビジョンシステムには視角の問題があることから、位置・姿勢の誤差を精確に測定することはできない。応再恩ら[30]は、ダブルアイビジョンによる動的追跡システムの静的測定や動的追跡などの強みとなる特性を利用して、ロボットのリンクパラメーターの誤差の追跡測定を行い、パラメーター補償後のロボットの位置決め精度は明らかに向上した。視覚測定に基づくキャリブレーション方法は、ロボットの運動学モデルに対する求解を反復する必要がなく、計算量を大きく減らし、オンラインでパラメーターの修正と補償を実現し、ロボットの位置決め精度を有効に高めた。

(その3へつづく)

参考文献:

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※本稿は高涵, 張明路, 張小俊, 白豊「機械臂絶対定位精度標定関鍵技術綜述」(『計算機応用研究』2017年第34巻第9期)を(『計算機応用研究』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司