第131号
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ヘリコプター全体設計の方針と手法の発展分析(その1)

2017年 8月15日

倪 先平:
中国航空工業集団公司、南京航空航天大学直昇機旋翼動力学国家級重点実験室

朱 清華:
南京航空航天大学直昇機旋翼動力学国家級重点実験室

概要:

 ヘリコプターの全体設計は、型式の開発成功に大きな影響をおよぼす。ヘリコプターの関連研究領域および情報技術の発展に伴い、ヘリコプターの全体設計の手法は従来のプロトタイプ設計法、パラメータ統計法などから、近代の多分野統合最適化技術へと発展した。特にシステム工学とコンカレントエンジニアリング、および近代的なプロジェクト・マネジメント理念の航空製品開発への応用は、ヘリコプターの全体設計に大きな影響をもたらし、ヘリコプター全体設計のスマート化、統合化、システム化を推進した。本稿ではまず、ヘリコプター全体設計技術の発展の歴史を簡単に振り返り、従来の設計手法と近代的な設計手法の型式における応用、およびその違いについて紹介する。次に、システム工学とコンカレントエンジニアリング、近代的なプロジェクト・マネジメント理念、ヘリコプターの新コンフィギュレーションおよびデジタル技術の、ヘリコプター全体設計の方針・手法への影響について重点的に分析する。最後に、ヘリコプター設計手法の今後の発展の趨勢について展望する。

キーワード:ヘリコプター;全体設計;デザインシンセシス;プロトタイプ法;多分野統合最適化技術

 ヘリコプターは前進、横移動、後進、さらにホバリングや垂直飛行などの動きが可能で、低空・高機動性という独特な特徴を持つことから、国防や国民経済建設、社会公益事業など各方面で重要な役割を果たしている。ヘリコプター使用に対する要求はますます高まっており、これに応えるべく、ヘリコプターのコンフィギュレーションと技術は絶えず革新と発展を遂げている。ニーズの高まりに後押しされ、近代のヘリコプター設計は最新の科学技術とプロジェクト・マネジメント手法を絶えず取り入れつつ、設計理念・方針の革新をけん引しており、その手法は絶えず改良され、発展している。技術が複雑化したことから、新たなヘリコプターを開発する際、設計案の提起から試作、試験、生産、実際の使用開始に至るまでには、依然として数年にわたる時間が必要である。ヘリコプター開発のプロセスにおいては、使用ニーズの検証、コンセプト・コンフィギュレーションの分析、理論モデルの計算、設計図の編集、試作組立生産、試験・テスト飛行・検証など、非常に多くの工程を経る必要がある。ヘリコプターの全体設計はプロジェクト開発の全プロセスにわたって貫かれ、影響を及ぼすことから、全体設計案の優劣がプロジェクトの開発成功の決め手となる。ゆえに、全体設計の理念と設計手法は常にヘリコプター技術研究の重点であり、ヘリコプターの型式と技術の発展に伴って、同時進行で改良され、発展を遂げている[1-6]

 ヘリコプターの全体設計において、フロントエンドはユーザーの使用ニーズと直結する。一方のバックエンドは設計要件の分析、機体全体の構造および各システムの設計・試験・製造、そして機体の最良のパフォーマンス実現という重大な責任を担っている。ヘリコプターの型式や、関連学術分野の理論と技術の発展に伴い、ヘリコプターの全体設計はプロトタイプ設計法、パラメータ統計法、最適化設計法、そして近代的な多分野統合最適化技術(MDO)など様々な手法を取り入れてきた。これはヘリコプターの型式の発展にきわめて重要な役割を果たした。ヘリコプターの新コンフィギュレーションが次々と出現し、新たなプロジェクト・マネジメントの理念・手法が応用され、ヘリコプターの空気力学、飛行力学、構造力学、音響学といった学科および数値分析とシミュレーション技術などのサポート技術が発展するに伴い、新たなヘリコプター全体設計技術は絶えず改良、改善されていくであろう。

1 ヘリコプター全体設計の基本方針

 中国の航空機開発の手順によると、ヘリコプターの開発には論証、企画、技術開発、設計の確定、生産の確定という5つの段階[7-9]がある(図1)。米国や欧州などでは、ヘリコプター設計のプロセスは概念設計、基本設計、詳細設計の3段階に分けられ、基本的には図1における初めの3段階の作業内容に対応する[6](図2)。全体設計はヘリコプター開発のプロセスにおいて前期作業と後期作業とを結びつける重要な部分であり、全局面に影響を及ぼす重大な意思決定のほとんどは全体設計で行われる。

図1

図1 ヘリコプターの開発プロセス

Fig.1 Development process of a helicopter

図2

図2 従来の全体設計・開発の手法[6]

Fig.2 Traditional general design and development approach[6]

 統計分析によると、ヘリコプター開発のプロセスにおいて、全体設計に使われる時間は多くても全作業時間の20%~25%、使われる資金は総資金の5%~10%であるにもかかわらず、ヘリコプターのライフサイクルコストの75%~85%を決定づける役割を果たす。航空機の設計コストと時間の関係は図3の通り[6]。このほか、飛行性能、飛行品質、生存性、環境への影響、および安全性、信頼性、保守性、テスト容易性、保障性、適用性などの面において、全体設計はいずれも非常に大切な役割を果たしている[1,8-9]。図4は、ヘリコプターの全体設計の手法が、総合的なパフォーマンス、開発コスト、開発サイクル、開発リスクなどの面において開発に及ぼす影響の比率についてイメージ図を使って表している。図からわかるように、全体設計はヘリコプターの総合的パフォーマンスと開発コスト、サイクルをほぼ決定づける役割を果たしており、ヘリコプター開発のキーテクノロジーと言える。

図3

図3 航空機の設計コストと時間の関係[6]

Fig.3 Relationship between aircraft design cost and time[6]

図4

図4 全体設計の手法が及ぼす影響の比率

Fig.4 Influence proportion of general design technology

 近代的なヘリコプターの使用に対する要求は高く、技術難度も高く、構造・システムは複雑で、各サブシステムは技術が複雑なばかりでなく相互に結びついているため、全体設計への要求はますます高まっている。概念設計の段階で、いかにして最善の全体基本案を合理的に確定し、基本設計の段階でいかにして合理的なデザインシンセシスを実現するか、そして詳細設計の段階でいかにして期日通りに質を保証しつつ設計分析を完成させ、設計図と技術案を確定するかなどは全て、先進的な全体設計の理念と合理的な全体設計の手法を採用するか否かにかかっている。空気力学、飛行力学、構造強度、振動・音響学、パワーユニット、飛行制御、統合アビオニクス、材料技術など多くの学術分野を統合することで、使用の要件を満たし、かつ最高のパフォーマンスを持つヘリコプター全体設計案を最終的に得ることができる。実践が証明するように、全体設計の方針が正確で、手法が合理的であれば、満足のいくヘリコプター設計案が得られ、ヘリコプターのパフォーマンスが高まるだけでなく、ヘリコプター開発の質を効果的に高め、開発サイクルを短縮し、開発コストを削減することができる。

 ヘリコプターの全体設計方針の進化は、ヘリコプター開発のプロジェクト・マネジメント方針、ヘリコプターの関連学術分野の技術、計算技術の発展などと密接に関わっている。初期のヘリコプター開発は、ヘリコプターの主要学術分野の理論および計算技術の発展と呼応しており、ヘリコプター全体設計は、ほとんどがプロトタイプ設計を参考にするか、あるいはパラメータ統計データを分析するといった手法を採用していた。その後、システム工学、プロジェクト・マネジメント、関連の学術分野の理論および計算技術の発展に伴い、ヘリコプターのシステム統合と最適化設計が徐々に発展し、ヘリコプター空気力学、飛行力学、ローターおよび構造力学、システム設計などの分野で最適化設計技術と基本的なシステム統合の手法が幅広く応用されるようになった。さらに全体設計においては、主な設計要件を満たすことを目標とし、性能・コスト・重量など各方面の要件を満たすことを制約条件とする最適化設計の手法も発展し、型式設計の実践において幅広く応用された。最高のパフォーマンスを実現すると同時に、主な学術分野・コアコンポーネント・システムの要求を満たす性能を実現するため、ヘリコプターの全体設計において、多層的に最適化設計を行う方針が徐々に業界から重視されるようになった。特にコンカレントエンジニアリング・マネジメントの出現と、それが航空機開発において顕著な成果を上げたことは、ヘリコプターの全体設計の理念と方針に飛躍的発展をもたらした。システム工学とコンカレントエンジニアリングの方針によれば、縦方向を見ると、フロントエンドは使用要件の分析・論証にまで拡大し、バックエンドは詳細設計、エンジニアリング・製造、試験・テスト飛行、さらには使用サポートにまで拡大する。横方向を見ると、空気力学、飛行力学、構造力学、音響学、主要システムと構造設計、重量コストおよび「六つの性質(安全性、信頼性、保守性、テスト容易性、保障性、適用性)」など各方面の要素を同時に考慮しつつヘリコプターの全体設計を行い、より全面的にユーザーのニーズ、詳細設計、製造・生産と使用サポートの実行可能性、有効性、経済性に配慮し、より満足のいくヘリコプターのパフォーマンスが得られるようにする。

その2へつづく)

参考文献:

[1] STEPHEN G K.Guide for conceptual helicopter design [D].Monterey:Naval Postgraduate School,1983.

[2] ALLEN C H.An analysis of three approaches to the heli-copter preliminary design problem[D].Monterey:NA-VAL Postgraduate School,1984.

[3] RUTHERFORD C J W,STROZIER C J K.Formulationof a helicopter preliminary design course[C]//Proceedingsof AIAA Aircraft Design,Systems and Technology Meet-ing.Reston:AIAA,1983.

[4] PROUTY R W.Helicopter design technology[M].2nded.Malabar:Kieger Publishing Company,1998.

[5] MARAT N T,VENGALATTORE T N,INDERJIT C.Preliminary design of transport helicopters[J].Journal of the American Helicopter Society, 2003,48(2):71-79.

[6] JOHN R B,DONALD J M,BRENDA J,et al.Integratedhelicopter design tools[C]//Proceedings of the 52nd AHS Annual Forum.Fairfax,VA:AHS Press,1996.

[7] 張呈林,郭才根.直昇機全体設計[M].北京:国防科技出版社,2006:1-7,22,136-150. ZHAND C L,GUO C G.Helicopter general design[M].Beijing:National Defense Industry Press, 2006:1-7,22,136-150(in Chinese).

[8] 劉虎,羅明強,田永亮,等.飛機全体設計支持技術探索與実践[M].北京:北京航空航天大学出版社,2013:3-12. LIU H,LUO M Q,TIAN Y L,et al.Exploration andpractice of supporting technology for aircraft conceptualdesign[M].Beijing:Beihang University Press,2013:3-12(in Chinese).

[9] 顧誦芬.飛機全体設計[M].北京:北京航空航天大学出版社,2001. GU S F.Aircraft general design[M].Beijing:Beihang University Press,2001(in Chinese).

※本稿は倪先平、朱清華「直昇機総体設計思路和方法発展分析」(『航空学報』2016年 37巻 1期、pp.17-29)を(『航空学報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司