第132号
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超小型飛行機の設計原則と戦略(その1)

2017年 9月25日

昂 海松:南京航空航天大学微型飛行器研究中心主任

主な研究分野:飛行機設計。

概要:

 超小型飛行機(MAV)の総体設計方法を探求するため、超小型飛行機の概念と技術的な難点を紹介した上で、筆者は、長年のMAVの研究と実験に基づき、超小型飛行機の設計原則に対する考えを提起し、研究向け・実用向けのMAV、さらに固定翼や羽ばたき翼、回転翼など異なるタイプのMAVの設計の特性を論じた。次にMAV設計の矛盾と協調、設計方法、最適化問題を通じて、MAV設計の特殊性を説明した。最後に、超小型飛行機設計の発展方向を展望し、超小型飛行機の総体設計研究に参考となる考えの道筋を提供した。

キーワード:超小型飛行機;総体設計;技術的難点;設計原則;設計戦略

 超小型飛行機(MAV)は、1990年代に打ち出された新概念の技術である。米国の国防高等研究計画局(DARPA)は1997年に超小型飛行機の基礎技術研究を正式に始動した。その後の十数年間、各国の多くの著名大学と研究機関がこれに呼応し、研究を進めてきた。米国や欧州などでは多くの超小型飛行機のショーと大会が開催され、多くの形式、さまざまな大きさ、ユニークな形状の超小型飛行機の試験機が登場した。

 現在、超小型飛行機技術は、二つの異なる目的に基づく方向に向かって発展している。

 一つは研究向けのMAVの発展である。大学を中心とする研究機関は依然として、DARPAが1996年に論じた「15cm以下」という目標[1]の追求に苦心し、各種の試験的な超小型飛行機を開発した。図1に示すように、固定翼と羽ばたき翼、回転翼の3種の超小型飛行機がある[2]。ショーと大会で披露された各国の超小型飛行機からわかるように、その形式は多様だが、多くは遠隔操縦されており、一定の自律的な飛行制御・ナビゲーション能力を持ったものは少ない。米国フロリダ大学はすでに、新型の15cm超小型飛行機を開発し、飛行に成功しており、15cm超小型飛行機の開発をリードする水準にある。超小型同軸二重回転翼飛行機と4軸プロペラ超小型飛行機は、空中でホバリングできることから多くの人の関心を呼んだ。多くの科学技術従事者の研究と探求、新たな突破口の模索によって、米国カリフォルニア大学バークレー校が開発した25mmの大きさの「ハエ型ロボット」(Micromechanical Flying Insect)やハーバード大学が開発した30mmの大きさの「Flying Robotic Insects」が生まれた。ただこれらは現在、羽ばたきの制御を行うことはできず、非常に短距離を「飛行」することしかできない。

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図1 研究中の15cm以下の超小型飛行機[2]

Fig.1 15cm or less micro air vehicle under research[2]

 もう一つは、実用向けMAVの発展である。DARPAと米軍はいずれも、軍事的な実用性に関心を向けている。米国防総省は2001年から、先進概念技術実証(Advanced Concept Technology Demonstration)プログラムにMAVを入れた。DARPAは150mmの開発計画をこれまでにも出しているが、実際の応用にはまだ困難がある。軍事上のニーズが急迫していたことから、多くの試験的な超小型飛行機のうち、DARPAと米軍は2006年、実用可能性は高いがサイズも大きい超小型飛行機をいくつか選択し、超小型空中偵察装備として、実証と戦場での試用を始めた。図2に示す通りである[2]

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図2 米国が軍事応用している超小型飛行機[2]

Fig.2 MAV applied to US military[2]

 米国エアロバイロンメント(AeroVironment)社が最初期に開発した「ブラック・ウィドウ」(BlackWidow)MAVは固定翼案を採用している。第一世代と第二世代の製品(150mm)は2000年に試験飛行を成功させ、一時話題となった。このうち第二世代「ブラック・ウィドウ」MAVは重量80gで、30分の連続飛行ができるが、積載能力が高くないために後に開発中止となった。同社はこれに替えてワスプシリーズ(WASP)MAVの開発を始め、このうちWASP I型の翼幅は330mm、WASP II型の翼幅は410mmである。同社はさらに、燃料電池で駆動する「ホーネット」(Hornet)も開発した。同MAVの翼幅は380mmである。2006年12月、米国の空軍と海兵隊は、米国エアロバイロンメント社が開発したMAV「ワスプ」のうちサイズの大きいWASP II型(重量273g)とWASP III型(重量430g)を選び、米国の「戦場空中目標偵察系統」としての開発を計画した。米国ハネウェル(Honeywell)社は、DARPAに向け、これまでの超小型飛行機とはまったく異なるダクテッドファン式MAVを開発した。ダクトの直径は330mm、高さは約600mm、重量は16lb(1lb=0.4535924kg)である。マルチタンクガソリンエンジンによって駆動され、積載重量が大きく、ホバリングも可能である。2006年、DARPAは同機を、軍事用途の先進概念技術実証プログラムに正式に組み込んだ。2007年、同MAVは、イラクでの試用に配備され、即席爆発装置(IED)の空中からの識別に利用された。

1 超小型飛行機の技術的難点

 超小型飛行機は新概念技術であることから、成熟した設計方法や設計資料は非常に少ない。筆者は、十数年にわたる数十種の超小型飛行機の開発と模索の中で、MAVの設計と開発、試験における一連の技術的難点を知った[3-4]

1)低レイノルズ数の空気力学特性が引き起こす不安定

 レイノルズ数Reは、流体の慣性力と粘性力の間の相互関係を表す無次元量である。Re=ρVL/μであり、このうちρは大気密度、Vは飛行速度、Lは飛行機特性長さ、μは粘性係数である。

 MAVはサイズが小さく、速度が低いことから、典型的な低レイノルズ数の空気力学特性を示す。超小型飛行機は飛行時、レイノルズ数が低いことから、表面の層流境界層を維持することは難しく、「分離」が発生しやすく、迎角が小さくてもMAVの表面気流の不安定が出現しやすい。図3に示す通りである[5]

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図3 煙風洞中の低レイノルズ数の層流境界層の分離発生実験[5]

Fig.3 Low Reynolds number laminar boundary layer separation experiment in smoke wind tunnel[5]

2)MAVの非線形・非定常力学的特徴

 超小型飛行機の外部配置は従来の無人機とは大きく異なる。固定翼MAVの小アスペクト比の単翼配置、羽ばたき翼MAVの複雑な運動翼、回転翼MAVの揚力と速度制御の結合などは、空気力学的・飛行力学的な強い非線形と非定常という特徴をもたらす。このためMAVの構造と運動形態、その飛行制御には特殊設計が必要となる(図4参照。図中のtは時間、Tは周期、αは迎角、fflapは羽ばたき頻度)。

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図4 羽ばたき翼の揚力と推力の非定常変化[5]

Fig.4 Variation of unsteady flapping wing lift and thrust[5]

3)MAVは重量が小さく、突風に抗する能力が弱い

 MAVは重量が小さく(典型的なものは200g以下)、風または大気の乱流のある状況下では安定を維持するのが難しいだけでなく、強風の作用で墜落する可能性もある。これは、環境が複雑で距離が比較的長い自律飛行制御に極めて大きな困難をもたらす。図5は、突風の作用の下、固定翼超小型飛行機の揚力係数CLと抗力係数CDの揺れが大きくなる様子を示したもの[5]。図中のfは突風脈動の頻度である。

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図5 MAVの揚力と抗力に対する突風の影響[5]

Fig.5 Effect of gust on MAV's lift and drag[5]

4)MAVの積載能力が小さく航続時間が短い

 MAVはサイズが小さく揚力に限りがあるため、積載能力はとても小さい。MAVの構造やシステム、ペイロードの機能を保障するため、システムの重量とサイズにはさらなる超小型化が必要となる。動力とエネルギーの重量にも制限があり、一定の航続時間も備えていなければならず、設計における難題となる。

5)高度に統合されたシステムの電磁干渉問題

 MAVは、重量に対する要求がどうしても「苛酷」となり、さらに内部システムも高度な統合が要求される。十数センチメートルの範囲内に、動力システムとエネルギー装置、飛行制御・ナビゲーションシステム、情報伝送システム、ミッション装置を配置しなければならず、それぞれの「サブシステム」に対して「グラム単位での計測」を行い、設計上のインターフェースを減らす必要がある。微弱な信号と高密度の電子回路によって産出される内部の電磁干渉の問題は、MAVの精密制御と情報伝送の難関となる。

2 超小型飛行機設計の原則

 超小型飛行機設計の特殊性について、国際無人機協会(AUVSI)のMichelson会長は、論文「超小型飛行機システム設計の概論と統合」[1]の中で次のような奥深い理解を示している。「15cm以下のスケールの超小型飛行機は、大きなサイズの飛行機を単純に縮小したものではない。物体の運動が受ける空気力学の作用が物体のサイズの縮小に伴って変わるからだ。(中略)さらに深刻な空気力学設計の問題は超小型化とエネルギー、ノンスケールの問題である」。

 超小型飛行機の設計は航空エンジニアに新たな挑戦を提起し、これまで通りのドローン設計のプログラムとは異なる新たな発想を求めざるを得なくなる。

1)研究向け超小型飛行機

 超小型飛行機は目下、探求中の新概念飛行機である。超小型飛行機はどこまで小さくすることができるのか。どのような機能を実現できるのか。どのような構造が適しているのか。こうした問題はさらに長期にわたる研究を必要とする。このため研究向けの超小型飛行機の探求は欠かせないものとなる。こうしたMAVの研究(理論研究にせよ試験機の開発にせよ)は、明確で具体的な実用的目標を持っているとは限らない。研究の目的は主に、超小型飛行機のサイズ効果、構造と配置、動力とエネルギー、飛行制御方法、積載能力、任務執行機能、システムの超小型化、障害回避機能などを探ることにある。このため超小型飛行機のサイズの小ささに基づき、各種の形式のMAVの設計やこれと適応した超小型部品の設計・製造、知能制御方法を推進することは、依然としてMAV研究の発展方向となっている。

2)実用向け超小型飛行機

 超小型飛行機は、体積が小さい、重量が軽い、ステルス性が高い、機動性が高い、近距離の細かい偵察に適しているなどの特性を持っていることから、新型作戦モデルと特殊環境(都市、山林、海からの上陸作戦、空からの上陸作戦、テロ対策など)下での新たな特殊装備または「スウォーム(群れ)」式作戦装置となりつつある。現在需要のある実用超小型飛行機の開発も大きな必要に迫られている。

 現段階においては、材料や微細加工、システムモジュール、動力、エネルギー、任務装置などの面での超小型化と重量に制限があることから、超小型飛行機に一定の実用機能(飛行距離、航続時間、積載能力、自律能力、任務遂行)を果たさせるためには、これまでの超小型飛行機に関する技術的な要求、とりわけスケールに対する要求を緩和し、十分な重量の積載や航続時間の要求を満たすエネルギー、十分な耐風能力を保証する必要がある。

3)超小型飛行機の型の選択

 微小なサイズという制限の下で多様な飛行機の型を開発することも、MAVの外形設計と従来の無人機のレイアウトとの大きな違いとなる。現在のMAVは、飛行原理の視点から、固定翼超小型飛行機と羽ばたき翼超小型飛行機、回転翼超小型飛行機の3類に分けられる[5-6]

① 固定翼超小型飛行機

 固定翼超小型飛行機は、現在の何種類かのMAVの中で飛行速度が最も速い種類であり、抵抗も小さく、エネルギー消費も小さいが、ホバリングができない。固定翼の超小型飛行機であっても従来の無人機とはいくつかの違いがあり、通常は単葉式の設計がなされ、最大サイズの制限を受けるために翼のアスペクト比は小さい。図6に示す通りである。

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図6 南京航空航天大学の開発した固定翼超小型飛行機の一部

Fig.6 Parts of fixed wing MAVs developed by Nanjing University of Aeronautics and Astronuatics(NUAA)

② 羽ばたき翼超小型飛行機

 鳥または昆虫を模した羽ばたき飛行モデルは、超小型飛行機の独特な形式の一つである[7]。羽ばたき翼超小型飛行機は空中で飛行する際には鳥に酷似しており、図7に示すようにステルス性が高い。現在の羽ばたき翼の駆動の多くは電気機械式の機構を用いており、生物の筋肉による駆動はまだ実現できておらず、エネルギー消費が大きい。しかし羽ばたき機構の改良と知能化に伴い、羽ばたき翼超小型飛行機は大きな発展の前途を持ったMAVとなる。

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図7 南京航空航天大学の開発した羽ばたき翼MAVの一部

Fig.7 Parts of flapping wing MAVs developed by NUAA

③ 回転翼超小型飛行機

 回転翼超小型飛行機とは、主に回転翼(プロペラ含む)を通じて揚力と前進力を得る超小型飛行機であり、単回転翼型と同軸二重回転翼型がある。現在急速に発展しているのはマルチ回転翼型である。図8に示す通りである。

 回転翼超小型飛行機の最大の特徴は空中でホバリングできることだが、エネルギー消費が比較的大きく、速度も遅い。

 超小型飛行機の実用製品はまだ少ないため、従来の無人機のように使用性能によって分類することはできない。使用の要求に基づいて、適切な型の超小型飛行機を選択・設計する。

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図8 南京航空航天大学の開発したマルチ回転翼MAVの一部

Fig.8 Parts of multi-rotor MAVs developed by NUAA

4)超小型飛行機の技術的要求

 ほかの無人機と同様、超小型飛行機の技術的要求も、任務・使命、環境適応性、ステルス性、飛行性能(速度、高度、航続時間、制御半径、離着陸方式、飛行制御など)、使用性要求(可用性、信頼性、整備性、安全性、携帯性など)、経済性要求にかかわる。

 だが超小型飛行機においては、ステルス性や特殊環境への適応、狭い空間における飛行、使用の利便性、低コストなどの特殊な要求も重要となる。超小型飛行機の具体的な技術指標の確定においては、総合的な設計と協調を入念に行い、修正を繰り返すことによって初めて、期待通りの技術的な要求に到達することができる。

その2へつづく)

参考文献:

[1]. DAVIS W R. Micro UAV[C]//23rd Annual AUVSI Symposium. Brussels: Unmanned Vehicle Systems,1996:15-16.

[2]. MICHELSON R. Overview of micro air vehicle system de-sign and integration issues[M]//Encyclopedia of Aero-space Engineering: Part 34 Micro Air Vehicles, Chapter 345.Reston:AIAA Inc.,2011:4253-4264.

[3]. 昂海松.微型飛行器與無人機不同的概念與特点[J].無人機,2006(6):20-24 ANG H S.MAV and the UAV concept and characteristics of different[J]. UAV,2006(6):20-24(in Chinese).

[4]. 昂海松.微型飛行器的技術難点及其突破途径[C]//2008尖兵之翼------中国無人機大会論文集.北京:航空工業出版社,2008:546-549. ANG H S.MAV technical difficulties and solutions[C]//Procceding in Chinese UAV Conference. Beijing: Aviation Industry Press,2008:546-549(in Chinese).

[5]. 昂海松,肖天航,鄭祥明,等.微型飛行器設計導論[M].西安:西北工業大学出版社,2012:1-285.

ANG H S,XIAO T H,ZHENG X M, et al. Introduction to the design of micro air vehicle[M].Xi'an: Northwestern Polytechnical University Press, 2012:1-285(in Chinese).

[6]. 昂海松,周建江,曹云峰,等.微型飛行器系統技術[M].北京:科学出版社,2014:1-326. ANG H S,ZHOU J J,CAO Y F, et al. The MAV system technology[M].Beijing: Science Press,2014:1-326(in Chinese).

[7]. ANG H S,XIAO T H,DUAN W B. Flight mechanism and design of biomimetic micro air vehicles[J].Science in China Series E:Technological Science, 2009,52(12):3722-3728.

※本稿は昂海松「微型飛行器的設計原則和策略」(『航空学報』2016年第37巻第1期、pp.69-80)を(『航空学報』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司