第132号
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使用済み担持水素化処理触媒の金属回収技術の進展(その2)

2017年10月 3日

孫 暁雪:中国石油化工股フン有限公司上海石油化工研究院 博士研究員

劉 仲能:中国石油化工股フン有限公司上海石油化工研究院

楊 為民:中国石油化工股フン有限公司上海石油化工研究院 教授

触媒研究に従事。

その1よりつづき)

3 乾式回収

 乾式回収は、高温下で冶金炉を応用し、有価金属と精砿中の大量の脈石とを分離する各種の作業を指す。廃触媒の回収プロセスにおいては、乾式回収の方法は、廃触媒を温度1200~1500℃の冶金炉に置き、重金属を合金の形式で炉底に沈ませ、尾鉱と分離する。フランスのEURECAT社は欧州最大の触媒回収会社であり、全世界の触媒回収量の5%~10%のシェアを占める。同社は、触媒の再生や予備硫化、前処理、リアクター操作、金属回収などのサービスを提供している。EURECAT社の金属回収[49]が当初採用していたのは湿式と乾式の回収が結合した方式だった(図7)。まずアルカリ焙焼を通じて硫化物を酸化し、炭化水素や炭素を除去した後、熱水による水浸出でMoとVを溶液中に浸出させる。起こった固体残渣には主にAlとSi、Ni、Coが含まれている。溶液中のAlとP、Asは沈殿法で除去し、残った溶液は樹脂を通してMoとVを分離する。濾過ケーク中のNiとCoは抽出法で分離する。湿式と乾式の回収を結合したこのような方式は現在、乾式回収によって代替されている[6]。これは廃触媒を直接、温度1200~1500℃の熔炉に送り、重金属を合金の形式で炉底に沈ませ、スラグと分離し、スラグ中に含まれるAlやSiなどの担体は最終的に断熱材料とされる。乾式を利用して金属を回収している企業にはさらに、米国のMetallurgy Vanadium社がある。彼らは、乾式冶金の方法で廃触媒中の金属をFeNiMo合金など合金に転化し、産品を金属会社に売却した。

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図7 廃触媒金属回収技術

4 触媒メーカー

 現在、世界では多くの企業が使用済み触媒の金属回収事業に力を入れている。海外の主な企業には、米国のGulf Chemical & Metallurgical Corporation(GCMC)、AMAX Metals Recovery, Inc、Chevron Corporation、Metallurgy Vanadium、フランスのEURECAT社、日本の太陽鉱工株式会社(Taiyo Koko Company, Ltd.)、日本キャタリストサイクル(Nippon Catalyst Cycle Co. Ltd.)、ドイツのGfE Metalle and Materialien GMBH、AURA Metallurgie GMBH、Spent Catalyst Recycling(SCR)GMBHなどがある。このうちEURECATとMetallurgy Vanadiumの金属回収プロセスは第3節において述べたため、本節では繰り返さない。中国国内の企業と研究機関としては主に、大連東泰資源再生有限公司、瀋陽華瑞バナジウム業有限公司、北京砿冶研究総院、山東アルミニウム業公司、中国石油化工股份有限公司などがある。

4.1 海外の触媒メーカー

4.1.1 Gulf Chemical & Metallurgical Corporation

 米国のGCMCは、Eramet社の子会社であり、世界最大の石油触媒回収会社である。GCMCの廃触媒回収金属技術のプロセス[50-51]は図8に示す通りである。廃触媒をまずナトリウム塩と混合焙焼し、炭化水素と硫黄を除去し、MoとVを水溶性物質に転化する。その後、これを細かく粉砕し浸出し、浸出液中のMoとV、スラグ中のAl、Ni、Coを分離する。

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図8 GCMC社の廃触媒金属回収技術

 浸出液からまず、Al、P、Asなどの不純物を除去し、除去後の溶液でAMV(NH4VO3)を沈殿させ、AMVを400~600℃で熱分解すると、純度が99%を超えるV2O5が生産される。AMVを濾過した後の濾液からは、酸性化によってモリブデン酸が沈殿され、モリブデン酸は加熱によって純度98%を超えるMoO3を生成する。もう一本の路線では、モリブデン酸が高純度のモリブデン酸アンモニウム溶液に転化され、このモリブデン酸アンモニウム溶液は触媒メーカーに売却されている。

 浸出後の濾過ケークは、乾式冶金[52]の方法を使用し、アーク炉(Electric Arc Furnace、EAF)中でNi-Co合金を生成する。合金には37%~43%のNiと12%~17%のCoが含まれる。

4.1.2 AMAX Metals Recovery, Inc

 米国AMAX Metals Recovery, Incは、米国最大の金属回収会社である。使用済み水素化脱硫触媒の年間処理量は16kt、毎年1.36ktのモリブデン、130tのバナジウム、14.5ktの三水和アルミナを回収することができる[11]。AMAX Metals Recovery, Incの金属回収の技術プロセス[53-54]は図9に示す通りである。廃触媒をH2Sの存在する条件下で硫酸浸出し、温度は100~200℃、圧力は750~1500kPaとする。H2Sの作用は、MoとCoを硫化物の形式で沈殿させることにある。Al2O3は可溶性のAl2(SO43に転化する。酸浸出後の濾過ケークは加圧酸化し、MOS2を固体モリブデン酸に転化させ、CoSはCoSO4に転化させ、Moと分離させ、最後にCoをイオン交換の方法で回収した。

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図9 AMAX社の廃触媒金属回収技術(1psi=6894.76Pa)

4.1.3 Chevron Corporation

 Chevron Corporationは、米国第二の総合エネルギー会社であり、その廃触媒金属回収は、アンモニア浸出の方法で行われる。具体的な技術プロセス[55]は図10に示した通りである。

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図10 Chevron社の廃触媒金属回収技術

4.1.4 太陽鉱工株式会社

 日本の太陽鉱工株式会社(Taiyo Koko Company, Ltd.)は台湾の豊産公司と似た技術路線を取り[56]、ナトリウム化培焼法を用いて廃触媒の金属回収を行った。具体的な技術路線[57]は図11に示す通りである。廃触媒と炭酸水素ナトリウムを850℃の酸素雰囲気の炉中で2~5h加熱し、湿式粉砕と水浸出、濾過を行う。濾液中にはモリブデン酸ナトリウムとバナジン酸ナトリウムが含まれ、濾液に塩化マグネシウムを加えてAlとPを除去し、精製後の溶液に塩化アンモニウムを加えてメタバナジン酸アンモニウム(AMV)を沈殿させ、AMVを焼成してフレーク状のV2O5を得る。純度は98%に達する。Vを除去した後のMoを含む溶液は、塩酸を使用してモリブデン酸を沈殿させ、モリブデン酸から焼成を経てMoO3を得る。

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図11 太陽鉱工社の廃触媒金属回収技術

4.1.5 日本キャタリストサイクル

 日本キャタリストサイクル(Nippon Catalyst Cycle Co. Ltd.、NCC)は、住友金属鉱山(Sumitomo Metal Mining Co.)の子会社であり、使用済み水素化触媒中のMoとVの回収を主に行っている。同社は、焙焼浸出の技術を用いて金属を抽出した。その技術プロセス[5]は図12に示した通りである。抽出された金属は触媒の製造にもう一度使われる。

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図12 日本キャタリストサイクル社の廃触媒金属回収技術

4.1.6 ドイツ企業

 ドイツには、GFE Metalle and Materialien GMBHとAURA Metallurgie GMBH、Spent Catalyst Recycling(SCR)GMBHの3社の金属回収会社がある。用いられている方法には湿式冶金と乾式冶金があり、具体的な技術プロセス[5]は図13に示した通りである。

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図13 ドイツの廃触媒金属回収技術

4.2 中国の触媒メーカー

4.2.1 遼寧省の企業

 遼寧省は、中国の重要な旧工業拠点の一つであり、高投入と高消耗、高汚染という発展モデルが実施され続けてきた。経済建設では大きな成果が上がったが、資源環境の高すぎる代価という厳しい局面も生まれている[58]。こうした状況を背景として、遼寧省は、緑色(グリーン)経済を積極的に提唱し、循環経済の発展に力を入れている。例えば大連東泰資源再生有限公司は、廃触媒からコバルトとモリブデンを回収する方法を打ち出した[59-60]。廃触媒を前処理後した後、環境フレンドリーで生物分解可能なN,N'-エチレンジアミンジコハク酸をキレート剤として、抽出体系のpHの調整を通じて、廃棄物中の貴金属成分を浸出させた。同社の最新の方法は、ナトリウム化焙焼浸出法を利用して[61]、廃触媒中のコバルトやモリブデン、ニッケル、バナジウム、アルミニウムなどの有価金属を加工処理・分離精製した後、高純度の化合物産品を形成し、廃触媒の無害化処理と資源の総合回収利用という目的を達成するものである。瀋陽華瑞バナジウム業有限公司は、バナジウムとモリブデンを含む固体廃棄物からバナジウムとモリブデンを抽出した。これらの廃棄物には、廃触媒やバナジウムを含む鉱滓や赤泥、赤餅、油灰、炉灰などが含まれる。主要な技術路線は図14に示した通りである[62]。本方法を採用したバナジウムの回収率は90%、モリブデンの回収率は95%に達する。

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図14 瀋陽華瑞バナジウム業有限公司金属回収技術

4.2.2 北京砿冶研究総院

 北京砿冶研究総院は、廃触媒の多金属総合回収の方法[63]を公開している。その具体的な技術路線は図15に示す通りである。廃触媒を希硫酸の存在する条件の下で細かく粉砕し、濃硫酸を加えて熟成し、最後に添加剤フッ化物が存在する条件下でバナジウムを選択的に浸出し、浸出スラグは適切な溶剤を加えて乾式精練し、ケイ素やアルミニウム、その他の有価金属を分離する。その他の湿式と乾式の結合した回収方法との違いは、この技術は、乾式精練後に湿式浸出の方法を引き続き用いて産品を獲得するのであり、合金を直接得るのではないという点にある。技術プロセスはより複雑なものとなる。バナジウムを選択的に浸出する過程においてはフッ化物を添加剤として加えるが、これはコストを高めるだけでなく、環境も汚染する。

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図15 北京砿冶研究総院の回収技術

4.2.3 山東アルミニウム業公司

 山東アルミニウム業公司は、中華人民共和国第一のアルミナ生産拠点である。同社は、廃触媒中から金属を回収する一連の方法を打ち出しており[64-67]、使用された浸出方法はいずれもアルカリ性焙焼浸出法である。同社が打ち出したアルミニウム回収の技術路線[65]は図16に示す通りである。周知の通り、アルミニウムの価格は、触媒中のその他の有価金属、例えばコバルトやモリブデン、パラジウムなどをはるかに下回る。そのため金属回収に取り組む企業は往々にして重点をアルミニウム以外の金属の回収に置き、アルミニウムやケイ素を含む残りの尾鉱は廃棄物として埋め立てられたり、その他の低付加価値産品として建材や道路敷設に使われる。同社の打ち出すアルミナ回収方法は、廃触媒からのアルミニウム系化学工業産品の回収にとって高い参考意義を持っている。

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図16 山東アルミニウム業公司の回収技術

4.2.4 中国石油化工股份有限公司

 中国石油化工股份有限公司と中国石油化工股份有限公司撫順石油化工研究院は共同で、貴金属を含む廃触媒[68-70](パラジウム、白金、ロジウムなど)と重金属を含む廃触媒[71-76](モリブデン、コバルト、ニッケルなど)に対する金属回収の研究を行った。貴金属を含む廃触媒の処理方法には前処理や浸出、沈殿などの段取りが含まれ、このうち前処理プロセスについては、貴金属を還原型単体の形式で廃触媒上に存在させる方法を打ち出し[68]、貴金属の酸化物の形式での存在が後続の浸出プロセスの条件を厳しくするという難題を解決した。重金属を含む廃触媒に対して、金属の回収はアルカリ法が使われ、その段取りには主に、前処理と浸出、分離精製が含まれる。前処理には、粉碎後の廃触媒をアルカリ性物質と酸化マグネシウムと混合し高温焙焼するという方法が取られた。酸化マグネシウムを加える目的は、廃触媒に散乱状態を保たせ、油分を含んだ廃触媒の直接焙焼時に局部の温度が高まりすぎ、モリブデンの昇華減少が起こるのを回避することである。

5 結語

 触媒は、石油精製と化学工業に幅広く応用されている。石油精製工業の絶え間ない発展に伴い、水素化処理触媒の用量も年々増加し、失活する使用済み水素化触媒も年々増加している。失活水素化触媒は、重金属を多く含んでおり、勝手に処分すれば環境に危害を及ぼす。失活した水素化処理触媒には現在主に、再生と金属回収総合利用という2種類の処理方式がある。再生できない使用済み水素化処理触媒を鉱物資源として金属回収を行うことは、廃触媒の高付加価値資源化利用のための重要な手段となる。

(おわり)

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※本稿は孫暁雪,劉仲能,楊為民「廃棄負載型加氫処理催化剤金属回収技術進展」(『化工進展』2016年第35巻第6期、pp.1894-1904)を(『化工進展』編集部の許可を得て日本語訳・転 載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司