第133号
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中国自動車業界の風雲児-李書福さんと彼の吉利自動車

2017年10月20日

陳選

陳 選(チン セン):フリーライター

略歴

 1982年、吉林大学日本語科卒、1986年、中国社会科学院大学院日本研究所修士課程卒、中国国際信託投資公司(CITIC)勤務。1989年来日、北海道大学法学部大学院修士課程卒、大 手商社長年勤務。中国自動車メーカーのビジネスアドバイザーでもあった。

 世界の自動車業界で安全性がナンバーワンとも言われる人気の高いVolvoも、ロンドンの街中を走っているユニークなロンドンTAXIも、中国の民営自動車メーカーである吉利自動車集団の傘下企業である。吉利自動車集団は中国東南部の浙江省で急発展を成し遂げた民営自動車企業で、現在、従業員2万9千人を擁し、総資産が二千億元強になり、フォーチュングロバール500社の中で343位に位置している大手企業である。10年前にこのような想像ができた人は、世の中にいなかったであろう。

商才のある吉利汽車の創業者-李書福さん

 董事長の李書福さんは田舎町の台州市出身で今年、54歳である。彼は20世紀70年代後半から始まった中国の経済改革・開放政策による計画経済から市場経済への移行という歴史的な流れに乗り、自分で起業した。最初に冷蔵庫部品や冷蔵庫、装飾材料等様々な民生用製品の製造を試みていたが、1994年にオートバイの製造に転身し、ペダル式オートバイを作り、更に三年後の1997年に中国最初の民営乗用車会社を設立した。翌年の8月に吉利が製造した自動車がラインオフし、中国の自動車産業史上では初めて民間企業が乗用車を製造するという歴史的快挙を達成した。2001年、吉利自動車は民営企業として初めて中央政府自動車主管官庁の自動車目録に掲載され、中央政府に乗用車生産の資格を認められた。ところで乗用車と言っても、最初に作ったのは排気量が小さく、粗末なハッチバックであった。当時、李さんは庶民が購買できそうな価格、2万元から3万元位のローエンドの車しか製造しないと宣言した。

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吉利自動車の創業者で董事長李書福さん

 李書福さんは浙江省出身者でビジネスに長けており、市場の動きや時代の流れに敏感に動く持ち主である。その他の中国自動車メーカーと違って、派手な言動で注目を集め、金融資本を上手く使い、欧米の自動車メーカーや機能部品メーカーの買収を繰り返して行うことを通じて、吉利自動車を急成長のレールに乗せた。2005年、吉利自動車は香港株式市場に上場し新たな成長する段階に入り、その後、多彩で目が眩むばかりの道を歩んだ。

Volvoの買収は吉利の発展へ大いに貢献

 2008年9月15日、米国の投資銀行であるリーマン・ブラザーズ・ホールディングスの破綻に端を発し、続発的に世界的金融危機が起こった。このリーマン・ショックが欧州にも波及し欧州各国にて経済不振により、数多くの名門企業が経営上の苦境に陥ってしまった。2010年3月28日、世界自動車業界に激震が起こり世の中を驚かせるニュースが流れた。スウェーデンのストックホルムで吉利自動車は18億ドルで資金難に苦しむスウェーデンの名門自動車メーカーであったVolvoを買収する契約を、米国ビックスリーの一角であるフォードと締結した。この吉利によるVolvoの買収は正に「蛇が象を呑んでしまう」と言える劇的な出来事であって、その後の吉利自動車の発展と成功に計り知れない重要な意義を持っている。

 李さんはVolvo買収後、如何に自分より遥かに高いレベルに位置するこの名門企業を経営するのか、世界に注目されていた中、直ちに「経営をスウェーデン人に任せ、吉利は投資者に留まるべきである」といった現実的な方針を決めた。これは賢明な選択であった。Volvoは市場における信頼感が急回復し、吉利の買収によるVolvoのブランドイメージが壊れかねない危機を回避し、世界市場でVolvoの販売が直ちに上向き、中国市場における販売も大いに増え、最悪の状況から脱出した。

 李さんのVolvo買収は吉利にとって少なくとも「一石二鳥」の効果があると言っても過言ではなかろう。世界で吉利の名声を馳せたばかりでなく、世界名門自動車メーカーの経営や生産、技術開発のノウハウ等を自分の身近なところで勉強し、ハイレベルの技術が吸収できるチャンスを手にした。その後も吉利とVolvoの関係は良好で技術的交流も広範囲で行われ、2012年3月、Volvoの技術を吉利に譲渡する契約を結び、今年8月に、共同で技術開発を行う合弁会社を設立した。新会社は出資を吉利とVolvoで折半とし、技術面で相互授権の形でVolvoのSPAプラットホームと四気筒エンジン、吉利の基礎モジュールフレームと7DCTトランスミッション等最新鋭の技術をシェアするのみならず、部品の共同調達を行い、また次世代EVのプラットホームを共同に開発することになった。このような技術開発の成果をシェアし、部品の共同調達を行うことを通じて、新車開発、製造コストの削減ばかりでなく、吉利自動車にとっては、世界一流自動車メーカーの技術を速やかに吸収でき、中国市場の外資合弁メーカーのブランド車に追いつき、追い越し、さらに世界で認められる自動車メーカーの仲間入りという目標の実現に大いに貢献できるに違いない。

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風光明媚の杭州湾に位置する吉利自動車本社ビル

 李書福さんについてはVolvo等の買収劇以外、もうひとつ取り上げるべき決断があった。2006年10月24日、吉利自動車は、イギリスのMBH等と共同でロンドンで名高いロンドンTAXIを製造する合弁会社を設立し、2013年にMBHの出資持分を全部買い取り、2015年に新工場を建設した。同年10月21日にイギリス訪問中の習近平国家主席はウィリアム王子が同行の上、ロンドンTAXIの工場を訪問し、開発中のプラグイン電気自動車のTX5を見学した。

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吉利の合弁会社が製造するロンドンTAXI

 一方、吉利自動車は重要部品の自社製造を重視し、2009年3月に世界二番目のトランスミッションメーカーであったオーストラリアDSIを買収し、CVTの製造も手掛けて中国自動車業界のオートマチックトランスミッションの空白を埋めた。また燃費が良く排気ガスも削減できるターボーチャージャ付きの1.3Tや1.8TD等の高性能エンジンも作れるようになった一方、環境に優しいクリーンエネルギー車の研究開発にも力を注ぎ、2015年、吉利自動車は「吉利ブルー行動」という新エネルギー車戦略を打ち出し、帝豪EVを発売し、アイスランドの炭素循環会社に4,550万米ドルを投資しメタノールを燃料とする自動車を作り、中国南西部の貴州省貴陽ではメタノールを使用するTAXIが既に運営を開始している。

三本柱の体制

 現在、吉利自動車は自主ブランドを中心に、Volvoブランドと吉利とVolvoの共同開発の高級SUVである「LYNK&CO」というブランドを三本柱とする体制になっている。

 この十年来、吉利が製造した自主ブランド車は日増しに改善された。2014年、「すべての消費者のため念入りに作った車を提供しよう」というスローガンを掲げた後、その進歩は目に見えるほど顕著であった。現在、帝豪EC7(A級乗用車)、博瑞(B級乗用車)、博越(SUV)、帝豪GS(高級SUV)等十数種類の車からなるラインアップになる。

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帝豪

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博瑞

 これらの車種は発売後どちらもヒットし、ずっと国内市場月間販売の上位車種でありつづけている。さる9月6日に吉利自動車は自主ブランド車両の8月の販売が96,505台で、今年8月までの販売台数が718,236台に達し、前期比で88%増であったと発表した。この業績は既に上方修正であった自主ブランド車両の今年年間110万台の新たな販売目標の65%に達した。今年上半期中国自動車市場の販売台数が前期比ほぼ横ばいの中で吉利自動車のみ衰えず、年間販売台数では民族自主ブランドのナンバーワンになれるという見通しになった。

 勿論、吉利自動車の一翼を担っているVolvoは世界でも中国市場でも販売が順調に伸びている。

 吉利自動車のもう一翼を担おうとする「LYNK&CO」は吉利とVolvoの共同開発によるもので、吉利の自主ブランドとVolvoの中間にあるという位置付けであり、Volvo社の基幹技術を生かし、部品も両社の共同調達を行い、世界でも最新鋭の保安部品、電子部品、車載スマートネット技術を搭載するSUV、乗用車等多種類の車を作り、ハイエンド自主ブランドとしてまず、国内では合弁会社の完成車に挑み、将来的には国際市場での発売を計画するという。今年年末に第一弾としてコンパクトのSUVが発売される予定である。

 30年に亘る弛まぬ努力や研鑚により、吉利自動車は既に盲目的に外国の自動車メーカーの模倣から国内の外資メーカーに追いつくというマイルス―トンに到達している。

 目下、吉利自動車は「2020年に生産・販売台数200万に達成し、世界自動車メーカー上位10位に入る」という大きな目標に向かって、引き続き奮闘中である。吉利自動車は中国の自動車市場では、もっとも成長性のある自動車メーカーとして、同じ民営企業である長城自動車やBYDと肩を並べ、「中国民営自動車企業の三傑」として、中国自動車産業の希望の星と言っても良かろう。

(データーや写真等は吉利自動車のオフィシャルHP等によるものである)