両院院士選出「2017年中国・世界10大科学技術進展ニュース」を振り返る(その1)
2018年1月22日 中国総合研究交流センター編集部
既報 のとおり、2017年12月31日、中国科学院院士と中国工程院院士の投票によって選出された「 2017年中国10大科学技術進展ニュース」および「世界10大科学技術進展ニュース」( 主催:中国科学院、中国工程院、実施:中国科学院学部工作局、中国工程院弁公庁、中国科学報社)が北京で発表された。
一年に一度のこの選考活動はこれまでに24回にわたって行われてきた。選考結果は、ニュースメディアを通じて幅広く報道され、社会に強い反響を生み、中 国内外の科学技術の発展の動態に対する人々の理解を深め、科学技術の宣伝と普及に積極的な役割を果たしている。
以下に、「2017年中国10大科学技術進展ニュース」の各研究の内容について説明する。
2017年中国10大科学技術進展ニュース
1.化学物質を利用した完全な活性染色体の合成に中国人科学者が成功
中国人科学者が化学物質を利用し、人工的に設計された出芽酵母染色体4本を合成した。これは人類が「生命の再生」に向けて再び大きな一歩を踏んだことを意味する。同研究は、小分子ヌクレオチドを利用し、生 体の真核染色体を正確に合成したもので、人工ゲノムの合成シーケンスと設計シーケンスの完全な整合を初めて実現し、これによって得られた酵母ゲノムは完全な生命活性を備えたものとなった。こ の研究結果は2017年3月10日に『サイエンス』で発表され、中国は、真核ゲノムの設計と構築の能力を備えた米国に継ぐ2番目の国となった。2012年から、天津大学と清華大学、深セン華大基因研究院は、米 国などの科学研究機構と共同で、酵母ゲノム合成国際計画(Sc2.0)を推進してきた。そのねらいは、出芽酵母ゲノムの人工的な再設計と化学的な再生にある。中 国の科学者が今回合成に成功した4本の出芽酵母染色体は、Sc2.0計画がすでに合成した染色体の3分の2を占める。
2.国産水中グライダーが潜航深度6329メートルの世界記録を樹立
中国が自主開発した水中グライダー「海翼」は2017年3月、マリアナ海溝チャレンジャー海淵で、大深度への潜航・観測任務を完了し、安全な回収を実現した。最大潜航深度は6329メートルに達し、水 中グライダーの最大潜航深度の世界記録を更新した。水中グライダー「海翼」は、中国科学院B類戦略的先導特定プロジェクトの配置に基づき、中国科学院瀋陽自動化研究所が開発した、独 自の完全な知的財産権を備えた新型水中観測プラットフォームである。原型機の開発から海淵での観測任務の成功まで13年の歳月を要し、浅海・深海・海淵など異なる型の水中グライダー20基余りが開発されている。「 海翼」は今回、マリアナ海溝で12回にわたる潜航作業を完了し、総潜航距離は134.6キロメートルに達し、海淵域における高分解能の情報を大量に収集し、海 洋科学者による同海域の水文特性の研究に貴重な資料を提供した。
(写真:SPC科学技術ニュース「国産水中グライダー、最大潜水深度を更新」より)
3.初期の古典的コンピューターを超える世界初の光量子コンピューターが誕生
2017年5月3日、中国科学技術大学の潘建偉院士の率いる研究グループが、光量子コンピューターの構築の成功を宣言した。潘建偉グループは、多光子絡み合い分野で世界をリードする水準を保ってきた。同 グループは、世界で最も優れた総合的性能を誇る自主開発の量子ドット単一光子源を利用し、電子制御がプログラマブルな光量子回路を通じて、多光子「ボソンサンプリング」任 務のための光量子コンピューターの原型機を構築した。実験によって、同原型機のボソンサンプリングの速度は、世界の同分野の類似した実験と比べて少なくとも2万4000倍速く、古典的な計算法と比較しても、人 類史上初の真空管コンピューターとトランジスタコンピューターの演算速度よりも10倍から100倍速いことがわかった。この光量子コンピューターは、光 子に基づく量子コンピューターの研究の面で中国が飛躍的な進展を実現し、古典的な計算能力を超える量子計算の最終的な実現に堅固な土台を築くものとなった。
(写真:SPC科学技術ニュース「世界初の光量子コンピューター、中国が開発に成功」より)
4.国産大型旅客機「C919」が初飛行
世界のメインストリームの水準に達する中国初の国産大型旅客機「C919」が2017年5月5日午後2時頃、上海浦東国際空港からの初飛行を行った。C919のフルネームは「COMAC919」。C OMACはC919の主要メーカーである「中国商用飛機」の英語名の略称で、「C」は「COMAC」の頭文字であると同時に、中国の英語名「CHINA」の頭文字でもあり、大型旅客機が国家の意志であり、国 民の希望であることを表している。最初の「9」は「天長地久」(天地のようにいつまでも続くこと、「久」と同音の「九」をかける)を意味し、「19」は C919大型旅客機の最大輸送能力が190人であることを指す。C919は、独自の完全な知的財産権を持った革新型国家建設の代表的なプロジェクトであり、中 国国内で最も優秀な設計人材とプロジェクト人材が結集された。開発人員らは、先進的な空気力学的レイアウトや構造材料、機上搭載システムをターゲットとし、機体とエンジンの一体化設計やフライ・バイ・ワ イヤシステムの制御法則の設計、能動制御技術など102項目の主要技術の難関突破を計画した。
(写真:SPC科学技術ニュース「「C919」第2号機が初飛行に成功」より)
5.中国初の海域天然ガスハイドレートの試験採掘を実現
2017年5月18日、中国は初めて、海域におけるメタンハイドレートの試験採掘を実現した。南中国海の神狐海域での天然ガスハイドレート(メタンハイドレート)の試験採掘では、連 続187時間の安定したガス採掘が実現された。これは「中国の理論」「中国の技術」「中国の設備」の結晶と言える際立った成果であり、中国国民は再び、世界の科学技術の新たな高みへと到達した。1 200メートル以上の深海底のさらに200メートル余り下の層から絶え間なく採掘される天然ガスが、世界最大の海上掘削プラットフォーム「藍鯨一号」のフレア装置を点火した。資源量の90%以上を占め、開 発難度最大とされるシルト・粘土層に埋蔵されたメタンハイドレートはこれにより、中国で初めて、また世界でも初めて試験採掘の実現に成功した。「藍鯨一号」の開始したメタンハイドレートの試験採掘は、中 国の未来のエネルギー安全保障やエネルギー構造の最適化に重要な意義を持つだけでなく、世界の代替エネルギーの研究の枠組みを変える可能性を持つものともなった。
(写真:SPC科学技術ニュース「メタンハイドレート試験掘削、無事完了」より)
6.中国の「人工太陽」が世界新記録を達成
国家ビッグサイエンス装置の一つである全超伝導トカマク核融合実験装置「東方超環」(EAST)が、安定長パルスHモードプラズマの101.2秒の安定した運行を実現し、新たな世界記録を打ち立てた。こ の重大なブレークスルーは、中国の磁場閉じ込め核融合の研究が、安定的な運行の物理学と工学の面で、引き続き世界をリードしていることを示す。東方超環は、安 定Hモードの運行で世界で初めて100秒級の持続時間を実現したトカマク核融合実験装置であり、国際熱核融合実験炉(ITER)計画に対して重大な科学的意義を持っている。核 融合の反応原理は太陽と似ていることから、東方超環は「人工太陽」とも呼ばれる。この成果は、未来のITERの長パルスHモードの運行に科学と実験の面での重要な支えを提供し、中国の次世代核融合装置「 中国核融合プロジェクト実験炉」の予備研究と建設、運行、人材育成に土台を築くものともなった。
(写真:SPC科学技術ニュース「中国の「人工太陽」、一部技術が世界トップ水準に」より)
7.従来の分類を超えた新型フェルミ粒子を中国人科学者が発見
中国科学院物理研究所の研究グループが、伝統的な分類を突破する新型フェルミ粒子「三重縮退フェルミ粒子」を発見し、固体材料における電子トポロジー研究に新たな方向を示した。こ の研究成果は2017年6月19日、『ネイチャー』誌のウェブ版で発表された。新型フェルミ粒子の探求は、近年のトポロジー分野における挑戦的な先端科学問題であり、こ の分野の国際競争の焦点の一つともなっている。今回の新型フェルミ粒子の発見は、理論的予想からサンプル製造、実験観測の全過程を中国人科学者が単独で完成させ、凝 縮系物理の固体理論における重要なブレークスルーとなった。この研究成果は、電子・トポロジーにかかわる物性に対する人々の認識や新たな物理現象の発見、新型電子デバイスの開発、基 本粒子の性質のさらなる理解を促進するのに重要な意義を持っている。
8.量子通信が「理想の王国から現実の王国に到達」
2017年1月18日、中国の開発した世界初の量子科学実験衛星「墨子号」が4カ月の軌道での試験をスムーズに完了し、運用に向けて正式に引き渡された。中 国科学技術大学の潘建偉や彭承志らが率いる研究グループは2017年6月16日、「墨子号」を利用して世界で初めて、1千キロメートル級の衛星・地球双方向の量子もつれの配送に実現し、これを土台として、空 間尺度下で「アインシュタイン局所性条件」を厳格に満たす量子力学の非局所性の検証に実現したと発表した。世界初の量子機密通信幹線「京滬幹線」は9月29日に正式に開通した。「墨子号」衛星と連携し、中 国人科学者は、オーストリアとともに、世界初の大陸間量子機密通信を実現した。「墨子号」は、既定の3大科学目標を首尾よく実現し、潘建偉の言葉を使えば、1千キロメートル級の衛星・地球双方向量子通信はついに「 理想の王国から現実の王国へと到達した」。
(写真:SPC科学技術ニュース「量子科学実験衛星「墨子号」、3大科学目標を達成」より)
9.中国科学院が高収量の水稲新遺伝資源を開発
中国科学院亜熱帯農業生態研究所の夏新界研究員が率いる水稲育種グループは2017年10月16日、10年余りの研究を経て、同グループがこのほど、超高収量の優れた「巨型稲」の 開発に成功したと宣言した。株の高さは2.2メートル、1ムー(1ムーは約667平方メートル)当たりの収量は800キログラム以上に達し、高収量や耐倒伏性、耐病虫害性、耐冠水性などの特性を備えている。農 業部植物新品種試験センターのDNAフィンガープリントテスト、華智水稲生物技術有限公司の56k水稲SNP遺伝子チップフィンガープリント法によるテストを経て、「巨型稲」が 一種の水稲の新遺伝資源材料であることが確認された。この「巨型稲」は光合成効率が高く、単位面積当たりの生物量は既存の水稲品種より50%高く、有効分げつ数は40本、1 穂当たりの登熟籾数は最高500粒余りに達し、1シーズン当たりの収量は1ムー当たり800キログラムを超えた。これは、突然変異誘発や野生稲の異系交配、分 子マーカー定向育種などの一連の新育種技術を利用して獲得された水稲の新遺伝資源材料である。
(写真:SPC科学技術ニュース「中国で巨大稲を開発、高さは2.2メートルに」より)
10.「悟空」が暗黒物質の痕跡を発見か
2017年11月30日、中国暗黒物質粒子探査衛星「悟空」の最初の探査の成果が『ネイチャー』誌に発表された。「悟空」は、電子宇宙線エネルギースペクトルのエネルギー1.4テラ電子ボルト(TeV)で の異常な波動を測定した。この神秘的な信号が人類によって観測されたのは初めてで、中国人科学者による独自の発見となった。後続研究によってこの発見が暗黒物質と関係することが証明されれば、新 たな時代を切り開く科学成果となり、人類は、「悟空」の歩みに従って、宇宙の5%以外の広大な未知を探索できるようになる。そうなれば想像を超えた成果となる。暗黒物質と関係がないとしても、現 在の科学理論にブレークスルーをもたらすものとなる可能性がある。「悟空」への投入は比較的小さいが、「高エネルギー電子やガンマ線のエネルギー測定の精度」と「異なる種類の粒子を区分する能力」と いう二つの主要技術指標で世界をリードしている。
(写真:SPC科学技術ニュース「暗黒物質粒子探査衛星「悟空」、最高精度の宇宙電子線スペクトルを入手」より)
( その2へつづく)
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※本稿は2017年12月31日付の中国科技網「両院院士『2017年中国・世界10大科学技術進展ニュース』を選出」等を参考にその概要をまとめた。