煙霧汚染の都市間における動的相関とその成因に関する研究(その1)
2018年4月12日
劉 華軍: 山東財経大学経済学院教授
博士、博士課程指導教官。主な研究分野は資源環境経済、緑色発展(地球に優しい発展)、空間ネットワーク分析。
孫 亜男: 山東財経大学工商管理学院
陳 明華: 山東財経大学経済学院
概要:
深刻な煙霧気象と煙霧汚染の境界のたゆまぬ拡大という厳しい試練を前に、大気汚染のための連携対策システムの刷新を加速し、地域間の共同制御体制を構築することが必然の流れとなっている。本稿では、京津冀(けいしんき:北京市・天津市・河北省の総称)、長江デルタ、珠江デルタ、成渝(せいゆ:四川省成都市と重慶市)、長江中流域等の5つの地区の96都市における2015年の空気質指数(AQI)とPM2.5、PM10、SO2、CO、NO2、O3等の6項目の汚染物質の日報データに基づき、時系列データによる「予測能力」という視点からベクトル自己回帰モデル(VARモデル)によって都市間の煙霧汚染の動的相互作用による効果を認識し、社会ネットワーク分析の手法を利用して煙霧汚染の空間相関に関するネットワーク構造の特徴を描写した。そしてこれをベースに、2次割当問題の解法を利用して各汚染物質の視座から煙霧汚染の空間相関の重要な誘因を考察し、かつ、2変数のMoran I指標を利用して煙霧汚染とその影響因子間との空間相関性を明らかにした。研究の結果、都市の煙霧汚染間には普遍的に動的相関が存在する上に、関係が緊密で、安定性が強く、顕著な特徴のあるマルチスレッドの複雑なネットワーク構造の状態を示すことがわかった。地区内か、または全サンプル都市かを問わず、いずれにおいても孤立した都市ノードが存在しないということは、煙霧汚染という空間相関ネットワークに直面した場合には、いかなる都市も独善的でいることはできず、地区内および地区外の他の都市やそれらの構成する空間相関ネットワークの影響を受けることを意味する。6項目の汚染物質のうち、PM2.5の空間相関が煙霧汚染の空間相関を招く主な誘因である。都市の煙霧汚染とその影響因子、特に都市の人口密度、投資強度、工業汚染物質との間には有意な空間相関性が存在する。上記の結論に基づけば、中国はPM2.5の予防・制御を重点として煙霧汚染に関する地域間の共同制御体制の構築を加速し、それを都市群発展戦略と地域発展戦略に融合させ、煙霧汚染に対する共同対策を内包する全方位的な地域の共同発展の実現を最終目標とすべきである。
キーワード: 煙霧汚染、動的相関、社会ネットワーク分析、共同対策
現在、中国は世界でも大気汚染の最も深刻な地域の一つとなっており、特に経済が発展し、人口が密集する京津冀、長江デルタ、珠江デルタ、成渝、長江中流域等は中国の大気汚染の重点地域となっている。2015年12月以降、華北地区では広面積に及ぶ著しい煙霧気象が多数回にわたって出現しており、多くの都市で最悪のレベルを示す煙霧の赤色警報が連続的に発動された。さらに深刻なのは、煙霧汚染の境界のたゆまぬ拡張により、汚染の著しい地区内では空気質で独り勝ちできる都市は一つもなく、多数の都市間における動的相関によって都市をノードとする複雑なネットワークが構成されていることである。都市煙霧汚染の空間相関ネットワークは大気汚染対策に厳しい課題を突きつけており、行政区画境界における環境管理モデルと煙霧汚染の地域的特徴との間の矛盾は深刻化を続けている。このため、行政区画のみの視点から一つの都市の煙霧汚染対策を検討する「独自戦略」による環境管理や汚染対策モデルでは、深刻化を続ける地域の煙霧汚染問題を効果的に解決するのはもはや困難であり[1]、地域間の連携対策を強化することによって、地域間の共同制御体制を構築することが必然の流れとなっている。
関連分野における研究の進展を見れば、空気質モデルに基づく大量の先行研究によって、汚染物質の境界を越えた伝播が可能なことが証明されており[2-5]、空間統計技術に基づく一部の研究によって汚染物質の空間分布と空間相関に関する特徴が描かれ[6-9]、または時系列統計と計量経済学的技術を応用して汚染物質の時間変動の法則が示されている[10-12]。しかしながら、サンプルデータと研究方法の制約により、先行研究では煙霧汚染のさらに大きな空間スケールにおける動的相関は明らかにされていない。このような背景において、煙霧汚染の動的相関特徴を明らかにし、煙霧汚染の空間相関の成因を深く探究することは、煙霧汚染に関する地域間の共同対策システムの整備にとって重要な理論的価値と現実的意義を持つ。
本稿は、京津冀、長江デルタ、珠江デルタ、成渝、長江中流域等の5つの地区の96都市をサンプルとして、2015年に環境保護部が公布した都市の空気質指数(Air Quality Index,AQI)とPM2.5、PM10、SO2、CO、NO2、O3等の6項目の汚染物質の日報データを採用し、時系列データによる「予測能力」という視点からベクトル自己回帰モデル(VARモデル)によって地域における煙霧汚染の動的相互作用モデルを構築し、煙霧汚染の動的相関効果を実証し、考察した。そしてこれをベースに、煙霧汚染の空間相関ネットワークを構築し、かつ、社会ネットワーク分析( Social Network Analysis,SNA)の手法によってその構造的特徴を描写した。さらに、明らかにされた煙霧汚染の動的相関効果をベースに2次割当問題の解法( Quadratic Assignment Procedure,QAP)を応用して各汚染物質の視点から煙霧汚染の空間相関における重要な誘因を明らかにし、2変数のMoran I指標を利用して煙霧汚染とその影響因子との間の空間相関性を示し、最終的には煙霧汚染の地域間共同対策について対策上のアドバイスを提供する。
1 モデルの構築とサンプルデータ
1.1 煙霧汚染の地域間における動的相互作用モデル
地域開放のたゆまぬ深化に伴って地域(都市、都市群)間の空間相関も緊密になることは、大量の経験や先行研究によって実証されている。しかも、地域間の空間相関については、経済分野のみならずエネルギーや環境分野における関係も緊密さを増してきている[13-14]。煙霧汚染の空間関係については、空気質モデルに基づく研究によって汚染物質は境界を越えて伝播しうることが示されている。大気循環や経済発展等の因子による作用下において、煙霧汚染の相互作用については、1回の排出量が莫大な汚染物質が距離の比較的近い都市間で輸送され、転化し、結合するだけでなく、ある種の汚染物質、特にPM2.5を形成する汚染物質が都市や省といった行政区画の境界を越えて遠距離輸送を実現することにも表れている。このことは、煙霧汚染はもはや一つの地域で発生する孤立した汚染現象にとどまらず、地域間の煙霧汚染には一定の相関があることを物語っている[15]。大気循環等の自然条件による作用を受け、煙霧汚染は往々にして地域間で伝播するため、ある地域の煙霧汚染が他の地域の煙霧汚染の誘因となり、または他の地域の煙霧汚染を深刻化させている可能性がある。このことは、時系列という研究視座から地域間の煙霧汚染に関する動的相関を摸索する上で新たな契機を提供するものである。
時系列データの視点から見れば、ある地域における煙霧汚染の変動によって、他の地域の煙霧汚染の変動が誘発される可能性がある。換言すれば、ある地域の煙霧汚染は他の地域に「先行」(preceding)する可能性があるため、当該地域は他の地域の煙霧汚染について一定の「予測」能力を持つことになる。本稿では、ベクトル自己回帰モデル(VAR)の構築によって地域間の煙霧汚染における動的相関を明らかにする。
2つの地域x、yにおける煙霧汚染の時系列をそれぞれ{ xt} { yt}とし、2つの地域の煙霧汚染の間の動的相関と相互作用を検証するために、以下のように2つのVARモデルを構築する。
このうち、αj、βj、γj( j = 1,2)は解析待ちパラメータ(solve-for parameter)、{ εj,t} ( j = 1,2)は残差項で、{εj,t} ~ N(0,1)を満たす。m、n、p、qは自己回帰項のラグ次数である。方程式(1)で地域xの煙霧汚染が自身および地域yの煙霧汚染のラグ期による影響を受けるか否かを検証し、方程式(2)で地域yの煙霧汚染が自身および地域xの煙霧汚染のラグ期による影響を受けるか否かを検証する。VARモデルでは、自己回帰項係数の結合の有意性によって変数間の動的相関効果を識別できる。具体的には、方程式(1)の帰無仮説H0: γ1,1= γ1,2= ... = γ1,n = 0が拒絶された場合には、yのラグ値がxの説明に役立つことを意味する。すなわち、yはxに「先行」し、2つの地域間の煙霧汚染の動的相関関係は"y→x"として直感的に示すことができる。同じ道理で、方程式(2) の帰無仮説H0: γ2,1= γ2,2= ... = γ2,q = 0が拒絶された場合には、xの過去の値がyの説明に役立つことを意味する。すなわち、xはyに「先行」し、2つの地域間の煙霧汚染の動的相関関係は"x→y"として直感的に示すことができる。もし、上記の2つの方程式の帰無仮説がすべて拒絶されたとすれば、xとyには双方向の相関関係が存在することが示される。すなわち、2つの地域間の煙霧汚染の相関関係は"x←→y"として示すことができる。指摘すべきは、上記の検証はいずれも定常的な時系列データに適用されることであり、非定常的な時系列データについては差分を行い、定常化されてから再度検証を行う必要がある。
1.2 社会ネットワーク分析による方法
地域内において、煙霧汚染は複数の都市間の動的相関関係によってマルチスレッドの複雑なネットワークを形成する。社会ネットワーク分析(SNA)は、煙霧汚染における空間相関のネットワーク構造の特徴を示すのに実行可能なツールを提供している。社会ネットワーク分析とは、「関係性」を基本分析単位としてグラフツールや代数モデル技術によって関係モデルを描写する、「関係性データ」に関する学際的な分析方法であり、近年、その応用分野は社会学から経済学、管理学等の分野へと徐々に拡大し[16-17]、新たな研究パラダイムとなっている[18-19]。本稿では、SNAツールによって煙霧汚染における空間相関のネットワーク構造の特徴を描写し、SNA中のQAP方法を利用して各汚染物質の角度から都市における煙霧汚染の動的相関の成因を明らかにしたい。
1.3 サンプルデータ
本稿では都市煙霧汚染を評価する総合指標としてAQIを採用するとともに、PM2.5、PM10、SO2、CO、NO2、O3等の6項目の汚染物質についても考慮する。また、本稿では新たな空気質基準を実施している京津冀、長江デルタ、珠江デルタ、成渝、長江中流域等の5つの地域の96都市を研究サンプルとする。これら5地域を選択する理由は、中国において経済規模が最も大きく、人口が最も密集する国家級都市群の所在地域であり、これらの地域の煙霧汚染状況はその他の地域に比べて深刻なためである。上記の96サンプル都市の全汚染データの出典は環境保護部データセンターであり、各汚染物質データは環境保護部環境監測総合ステーションの同じ日の1時間ごとのデータの平均値を算出したものである。データの時期スパンは2015年1月1日から2015年12月31日までで、365 × 96 × 7 = 245,280データを全観測値とする。このほか、各地域の煙霧汚染はその地域内のすべての都市の汚染物質データの算術平均とする。
2 煙霧汚染の都市間における動的相関とそのネットワーク構造の特徴
都市の煙霧汚染の空間動的相関について認識する前に、まず都市のAQIと6項目の汚染物質の日報データにより構成される時系列データについて単位根検定を行う。検定結果によれば、すべての時系列において5%の有意水準下のすべてで単位根が存在するという帰無仮説が拒絶され、VAR変数の定常性という要求が満たされた。これをベースとして、本稿ではVARモデルのフレームワークにおいて2つの都市間の煙霧汚染の動的相関関係を認識し、都市の煙霧汚染における空間相関の複雑なネットワークモデルを構築してそのネットワーク構造の特徴を明らかにした。ノード、関係、連結線は複雑なネットワークモデルにおける3つの基本要素である。本稿では都市をノードとして選択し、5%の有意水準を閾値として都市ノード間の動的相関関係を決定し、都市ノード間の連結線を確定した。そして、上記の方法によってAQIと6項目の汚染物質についてそれぞれ5つの地区と全部で96のサンプル都市における煙霧汚染の空間相関ネットワークを構築した。表1にネットワーク構造特徴の指標に関する計算結果を示す。また、図1は京津冀のAQIを例にとって、煙霧汚染の動的相関を可視化したものである。図1を見れば、煙霧汚染間はマルチスレッドの複雑なネットワーク構造形態を示すことがわかる。
指標 | 汚染物質 | 京津冀 | 長江デルタ | 珠江デルタ | 成渝 | 長江中流域 | 全都市 |
ネットワーク密度 | AQI | 0.750 0 | 0.689 3 | 0.678 6 | 0.694 4 | 0.736 4 | 0.654 3 |
PM2.5 | 0.743 6 | 0.713 7 | 0.726 2 | 0.750 0 | 0.754 5 | 0.703 1 | |
PM10 | 0.737 2 | 0.682 3 | 0.704 8 | 0.666 7 | 0.690 9 | 0.639 0 | |
SO2 | 0.859 0 | 0.641 7 | 0.500 0 | 0.500 0 | 0.672 7 | 0.599 5 | |
CO | 0.833 3 | 0.598 7 | 0.447 6 | 0.541 7 | 0.527 3 | 0.603 0 | |
NO2 | 0.756 4 | 0.707 3 | 0.685 7 | 0.652 8 | 0.800 0 | 0.743 3 | |
O3 | 0.756 4 | 0.609 2 | 0.440 5 | 0.583 3 | 0.645 5 | 0.544 4 | |
ネットワーク効率 | AQI | 0.015 2 | 0.064 6 | 0.052 6 | 0.000 0 | 0.000 0 | 0.083 5 |
PM2.5 | 0.030 3 | 0.058 5 | 0.042 1 | 0.000 0 | 0.022 2 | 0.067 6 | |
PM10 | 0.015 2 | 0.065 9 | 0.026 3 | 0.035 7 | 0.044 4 | 0.090 0 | |
SO2 | 0.000 0 | 0.086 6 | 0.210 5 | 0.285 7 | 0.111 1 | 0.153 9 | |
CO | 0.015 2 | 0.072 0 | 0.321 1 | 0.178 6 | 0.244 4 | 0.139 1 | |
NO2 | 0.015 2 | 0.029 3 | 0.078 9 | 0.107 1 | 0.022 2 | 0.047 3 | |
O3 | 0.045 5 | 0.158 5 | 0.321 1 | 0.178 6 | 0.177 8 | 0.270 8 | |
平均距離 | AQI | 1.250 0 | 1.311 0 | 1.350 0 | 1.403 0 | 1.318 0 | 1.349 0 |
PM2.5 | 1.295 0 | 1.286 0 | 1.274 0 | 1.250 0 | 1.245 0 | 1.299 0 | |
PM10 | 1.269 0 | 1.321 0 | 1.300 0 | 1.250 0 | 1.240 0 | 1.362 0 | |
SO2 | 1.141 0 | 1.365 0 | 1.519 0 | 1.597 0 | 1.345 0 | 1.401 0 | |
CO | 1.167 0 | 1.405 0 | 1.679 0 | 1.514 0 | 1.618 0 | 1.397 0 | |
NO2 | 1.244 0 | 1.293 0 | 1.314 0 | 1.347 0 | 1.200 0 | 1.257 0 | |
O3 | 1.244 0 | 1.398 0 | 1.565 0 | 1.406 0 | 1.300 0 | 1.468 0 |
図1 京津冀地区における煙霧汚染の空間相関ネットワーク
Fig.1 Spatial correlation network of haze pollution in Beijing-Tianjin-Hebei region
2.1 煙霧汚染における空間相関ネットワークの全体的緊密度
(1) AQIのネットワーク密度については、5つの地区内または全サンプル都市のいずれにおいてもAQIのネットワーク密度は0.65を超える。このことは、煙霧汚染には地区内および地区間のいずれにおいても非常に緊密な空間相関が存在する上に、空間相関はもはや地区内の近隣都市間にとどまらず、マルチスレッドで、多数の都市にまたがり、地区を超えたネットワーク分布状態を示すことを意味する。5つの地区のうち、京津冀と長江中流域地区におけるAQIのネットワーク密度は0.70を超え、京津冀地区におけるAQIのネットワーク密度が最も高く、長江中流域地区におけるAQIのネットワーク密度は京津冀地区よりやや低い。珠江デルタ地区におけるAQIのネットワーク密度は最も低いが、それでも0.67以上に達し、長江デルタと成渝地区におけるAQIのネットワーク密度は珠江デルタ地区よりやや高い。一方、全サンプル都市におけるAQIのネットワーク密度が5つの地区より低いことは、地区内の都市間における煙霧汚染の相関は全サンプル都市間の相関より緊密であることを物語っている。
(2) 各汚染物質のネットワーク密度については、珠江デルタ地区のCOとO3のネットワーク密度が0.50より低いほかは、5つの地区および全サンプル都市における6項目の汚染物質のネットワーク密度はいずれも0.50を超えており、このことはそれぞれの汚染物質は都市間においても非常に緊密な相関関係を持つことを物語っている。他の4項目の汚染物質に比べてPM2.5とPM10のネットワーク密度は地区間の差が小さいことは、これら2項目の汚染物質については各地区の空間相関特徴が比較的一致することを物語っており、このためPM2.5とPM10の制御においては各地区においては類似の対策措施を講じることができる。一方、その他の4項目の汚染物質については、各地区間のネットワーク密度に大きな違いがあるため、地区の特色に応じた対策措施の必要性が非常に高い。
(3) AQIと6項目の汚染物質の空間相関ネットワークのいずれにおいても、孤立した都市ノードは存在しなかった。このことは、煙霧汚染の空間相関ネットワークに直面した場合には独善的でいられる都市は一つとして存在せず、いずれの都市も地区内や地区外のその他の都市ならびにそれらによって構成される空間相関ネットワークの影響を受けることを意味する。換言すれば、今や中国の煙霧汚染問題はすべての都市が共に直面する苦境となっている。例えば京津冀や長江デルタ、珠江デルタでは大気汚染に関する連携対策システムがおおむね構築されているとは言え、地区内のみにとどまることから、このような局地的な大気汚染対策では中国全体の煙霧汚染問題の根本的解決は不可能である。このため、「一つの地区」という空間概念を脱却し、より大きな空間範囲において大気汚染の連携対策を行わなければならない。このため、すでに実施されている煙霧汚染の局地的な連携対策をベースとして、中国は地域間における煙霧汚染の連携対策システムを早急に構築する必要がある。
2.2 煙霧汚染における空間相関ネットワークの安定性
社会ネットワーク分析においては、通常はネットワーク効率を採用してネットワークの安定性を描写する。ネットワーク効率が低いほどネットワークにはより多くの冗長連結線が存在し、安定性がより強い。表1に5つの地区と全都市におけるAQIと6項目の汚染物質のネットワーク効率を示す。①AQIのネットワーク効率について言えば、5つの地区と全都市サンプルにおけるAQIのネットワーク効率はいずれも0.10より小さい。このことは、5つの地区内または全サンプル都市のいずれにおいても、90%以上の連結線は「冗長」であることを物語っている。つまり、都市の煙霧汚染間の動的相関関係に著しい多重重畳現象が存在するということは、煙霧汚染のいずれの動的相関にも強いネットワーク安定性が存在することを意味している。また、対比によって、5つの地区内におけるAQIのネットワーク効率はいずれも全サンプル都市におけるAQIのネットワーク効率より低いことがわかる。このことは、AQIについては、5つの地区内の相関ネットワークが全サンプルのそれに比べてより強い安定性があることを意味するもので、まずは地区内で煙霧汚染の連携対策を行ってから地域間の連携対策システムを構築することに科学的根拠を提供している。②各汚染物質のネットワーク効率について言えば、PM2.5とPM10のネットワーク効率が低い。このため、一つの都市で講じられた汚染対策措施で得られる効果が相関ネットワークによって制約を受けるのは必然であることから、粒子状物質を重点とする煙霧汚染の連携対策システムの構築が急務となっている。
2.3 煙霧汚染の空間相関ネットワークにおける小世界的特徴
社会ネットワーク分析においては、通常は「平均距離」を採用してネットワークの小世界的特徴を定量的に示す。表1の推測結果に基づけば、5つの地区内と全サンプル都市のAQIと6項目の汚染物質の空間相関における平均距離はいずれも1--2の間にあり、平均距離が最大の珠江デルタ地区のCOであっても、その相関ネットワークの平均距離はわずか1.679 0である。この結果によってわかることは、地区内または全サンプル都市のいずれにおいても、AQIと6項目の汚染物質は任意の2つの都市ノード間において、1つから2つの中間都市を経れば関係を完全に構築することができ、煙霧汚染の空間相関ネットワークは顕著な小世界的特徴を示すことである。空間相関ネットワークの小世界的特徴によって煙霧汚染間の関係と相互作用が促進されるため、煙霧汚染の連携対策を行う必要性はより顕著となる。
(その2へつづく)
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※本稿は劉華軍、孫亜男、陳明華「霧霾汚染的城市間動態関聯及其成因研究」(『中国人口·資源与環境』2017年第27巻第3期、pp.74-81)を『中国人口·資源与環境』編集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司