第139号
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定点観測シリーズ 中国の宇宙開発動向(その4)

2018年4月13日 辻野 照久(元JAXA国際部参事)

2018年3月末までの中国の宇宙活動状況

 今回は、定点観測シリーズの第4回目として、2017年10月1日から2018年3月末までの期間の中国の宇宙開発動向をお伝えする。

 2017年7月に長征5型ロケット試験2号機が打上げに失敗したため、2017年11月に予定されていた月サンプルリターンミッション「嫦娥5号」は2019年に延期された。2 017年の年間打上げも18回にとどまり、米露を下回った。飛躍的な発展段階に入ったはずが、少しもたもたしているという感があるが、本期間の打上げ状況を改めて米ロと比較すると、ロシアや米国旧勢力の勢いが衰えていることもあり、やはり米国のスペースX社と肩を並べる世界のトップクラスの宇宙活動を展開しているといえる。

 3月後半は制御不能に陥った天宮1号の落下に世界中の関心が集まったが、4月2日0時過ぎに南太平洋に落下したことで、中国としては安堵したことであろう。

宇宙輸送(ロケット・衛星打上げ状況)

 この期間に中国は19回の打上げで自国衛星40機と外国衛星7機を打ち上げた。上半期は6回しかなかったが、下半期は3倍以上の打上げ数となった。中国衛星のうち地球観測衛星は25機、航 行測位衛星は8機、AIS衛星(船舶運航情報自動収集)は1機で、いずれも実用性が高い。残る6機は技術試験衛星で、児童や生徒が利用する衛星など人材育成に資する衛星が含まれている。外 国衛星7機のうち5機は超小型衛星で、中国衛星と同時に打ち上げられた。表1に打上げに使われたロケットや軌道投入された衛星などの状況を示す。

表1 2017年10月1日から2018年3月31日までの中国のロケット・人工衛星打上げ状況
衛星名 国際標識番号 打上げ年月日 打上げロケット 射場 衛星保有者 ミッション 軌道
VRSS 2   2017-060A 2017/10/9 長征2D 酒泉 ベネズエラ 地球観測 SSO
BD-3 M1 北斗3M 1 2017-069A 2017/11/5 長征3B/YZ1 西昌 国防部 航行測位 MEO
BD-3 M2 北斗3M 2 2017-069B
FY-3D 風雲3D 2017-072A 2017/11/14 長征4C 太原 国家気象局 気象観測 SSO
HEAD 1 和徳1 2017-072B 和徳宇航 AIS
JL-1 04 吉林1-04 2017-074A 2017/11/21 長征6 太原 長光衛星 地球観測 SSO

JL-1 05

吉林1-05 2017-074B

JL-1 06

吉林1-06 2017-074C
YG30-02-01 遥感30
-02-01
2017-075A 2017/11/24 長征2C 西昌 PLA 地球観測 LEO

YG30-02-02

遥感30
-02-02
2017-075B

YG30-02-03

遥感30
-02-03
2017-075C
LKW 1 陸地勘査1 2017-077A 2017/12/3 長征2D 酒泉   地球観測 SSO
AlComSat 1   2017-078A 2017/12/10 長征3/G2 西昌 アルジェリア 通信放送 静止
LKW 2 陸地勘査2 2017-077A 2017/12/3 長征2D 酒泉   地球観測 SSO
YG30-03-01 遥感30
-03-01
2017-085A 2017/12/25 長征2C 西昌 PLA 地球観測 LEO
YG30-03-02 遥感30
-03-02
2017-085B
YG30-03-03 遥感30
-03-03
2017-075C
GJ-1 03 高景1 03 2018-002A 2018/1/9 長征2D 太原 四維世景 地球観測 SSO
GJ-1 04 高景1 04 2018-002B
BD-3 M7 北斗3M 7 2018-003A 2018/1/11 長征3B/YZ1 西昌 国防部 航行測位 MEO
BD-3 M8 北斗3M 8 2018-003B
LKW 3 陸地勘査3 2018-006A 2018/1/13 長征2D 酒泉   地球観測 SSO
JL-1 07 吉林1-07

2018-008E

2018/1/19 長征6 太原 長光衛星 地球観測 SSO

JL-1 08

吉林1-08

2018-008F

XX-2

湘江新区 2018-008A 長沙天儀研究院   技術試験  

QTT-1

全図通

2018-008C

Zhou Enlai

周恩来

2018-008B

零重空間

KIPP

 

2018-008D

カナダ

Weina-1

微納1

2018-011A

2018/1/25 長征2C 西昌 上海微衛星 技術試験 LEO
YG30-04-01 遥感30
-04-01
2018-011B PLA 地球観測
YG30-04-02 遥感30
-04-02
2018-011C
YG30-04-03 遥感30
-04-03
2018-011D

ZH-1

張衡1

2018-015C

2018/2/2 長征2D 酒泉 CEA 地球観測 SSO

Fengmaniu 1

風馬牛1

2018-015A

翎客航天 技術試験

ShaonianXing

少年星

2018-015H

中国教育学会他 技術試験
NuSat4  

2018-015D

アルゼンチン 地球観測
NuSat5  

2018-015K

GOMX4A  

2018-015F

デンマーク 技術試験
GOMX4B  

2018-015E

BD-3M 3 北斗3M 3 2018-018A 2018/2/12 長征3B/YZ1 西昌 国防部 航行測位 MEO
BD-3M 4 北斗3M 4 2018-018A
LKW 4 陸地勘査4 2018-025A 2018/3/17 長征2D 酒泉   地球観測 SSO
BD-3M 9 北斗3M 9 2018-029A 2018/3/29 長征3B/YZ1 西昌 国防部 航行測位 MEO
BD-3M 10 北斗3M 10 2018-029B
GF-1 02 高分1-02 2018-074A 2018/3/31 長征4C 太原   地球観測 SSO
GF-1 03 高分1-03 2017-074A
GF-1 04 高分1-04 2017-074A

 2017年の1年間の打上げ数を本期間の半年間で上回っていることは、このまま推移すれば2018年の中国の打上げ数が激増し、米国さえも上回る可能性がある。米 国は同期間に19回の打上げで米国衛星74機と外国衛星4機を打ち上げた。この中でスペースX社は11回の打上げで、米国衛星37機(半数)と外国衛星4機(全部)を占める。ロシアは10回の打上げ( うち1回は打上げ失敗)でロシア衛星8機と外国衛星11機(うち9機は超小型衛星)を打ち上げた。この数字を見る限り、米国と中国がロシアを圧倒しており、3強時代がまもなく終焉して、米中2強時代に移行しそうな気配となっている。米国の中でもスペースXの技術力と成功率の高さ、さらに再使用型ロケット運用の安定性は突出しており、筆者は今後「米スペースX社と中国が宇宙開発の2強となる」と予想している。

 一方、米国政府関係の宇宙開発の活力は、過去の米ロ2強時代の技術力や運用実績に翳りが見られ、新興勢力の台頭と比べて輝きを失っているように見える。

 2018年の中国の打上げ回数は40回以上と見込まれるという情報もある。その中には快舟1Aや長征11型などの小型ロケットによる打上げも多く含まれると予想される。中国も政府系の重厚な宇宙開発と民間活力による多様なミッション開発が競争的なのか補完的なのか、もう少し推移を見ていく必要がある。

宇宙ミッション1 地球観測分野

 中国地震局(CEA)は2018年2月に地震電磁波観測衛星「張衡(Zhangheng)」を打ち上げた。これは中国の陸域観測衛星の3種類のコンステレーションとは別に、地球観測分野の特定の目的で打ち上げる単独衛星である。この他、人民解放軍の「遥感(Yaogan)30」が3機セットで3回打ち上げられ、計9機、吉林省の衛星企業である長光衛星の「吉林(Jilin)」衛星が3機と2機の同時打上げで計5機、新しいシリーズとして「陸地勘査衛星(LKW)」が4機、「高分(Gaofen)1号」がシリーズ化されて同時に3機、四維世景科技の「高景(Gaojing)」の後続機が同時に2機、国家気象局の気象衛星「風雲(Fengyun)3号」が1機と、半年間で13回の打上げにより25機もの地球観測衛星を打ち上げた。衛星数だけでいえば、米国Planet社の地球観測衛星「Flock」は1回の打上げで88機も同時に軌道投入されたことがあるが、1機の質量が5kg程度で総質量は500kgにも満たない。本期間における中国の25機の地球観測衛星打上げ実績は、歴史的にも突出しているといえる。

 2018年にはフランスと共同で開発する海洋観測衛星「CFOSAT」や、「高分5号」及び「高分6号」などの地球観測衛星の打上げが予定されている。

宇宙ミッション2 通信放送分野

 本期間に打ち上げられた中国の通信放送衛星はなく、中国が打ち上げたアルジェリア初の通信放送衛星「AlComSat 1」が本期間で唯一の静止衛星打上げ実績となっている。アルジェリア側からは自国の通信システムを整備する上で中国の寄与が多大であったと絶賛している。今後、香港企業の「Apstar 6C」(2018年4月打上げ予定)、ニカラグアの「NicaSat 1」( 2019年打上げ予定)、カンボジアの「Techo 1(親王1号)」(2021年打上げ予定)などの打上げが予定されている。コンゴ民主共和国(旧ザイール)の衛星は2018年までに打上げ予定であったが、資金不足のために保留状態になっている。

 通信の実用ミッションではないが、2018年5月か6月には、月の裏側に着陸する「嫦娥4号」の打上げに先立って、地球との通信のためのデータ中継衛星が打ち上げられる予定である。月から6万km離れた地球-月系第2ラグランジュ点に配置される。中国の情報ではこの点が「地球の引力と月の引力が釣り合うところ」と説明したものがあるが、それは第1ラグランジュ点(地球と月の間にある)の場合であり、第2ラグランジュ点では月と地球の引力は同じ方向に働くので相殺することはない。厳密に言えば第2ラグランジュ点を飛行する宇宙機の遠心力が地球+月の引力と釣り合うのである。

宇宙ミッション3 航行測位分野

 本期間に航行測位衛星「北斗(Beidou)」の打上げは中高度軌道(MEO)周回型の北斗3M型が4回で8機も打ち上げられた。周回衛星はまだ数が少なく、実 用化には少なくとも24機体制を2020年までに構築する必要があり、2018年4月以降、引き続きMEO衛星が多数打ち上げられると見込まれる。こ れまで数年にわたって中高度衛星の打ち上げがさしたる進展を見せていなかったが、いよいよ2020年のフル運用体制構築完了に向けて宇宙インフラ整備が本格化してきたと感じられる。

宇宙ミッション4 有人宇宙活動分野

 2011年に打ち上げた「天宮(Tiangong)1号」について、中国は2016年3月に大気圏への再突入を安全に行えるよう制御して落下させると発表していたが、実はこの頃既に制御不能状態になっていたことが後になって判明した。制御がない場合、地球上で自然落下する可能性がある場所は北緯43度から南緯43度の間で、どこで落下するかは直前までわからないため、万一の危険に備えて「天宮1号」の飛行予測の情報には世界中で大きな関心が寄せられた。筆者も半年間にわたって軌道状況の推移を見守った。2018年4月2日、日本時間では午前9時を少し過ぎた頃に南太平洋中部に落下し、幸いにも被害はなかった。その直前の数時間で日本の領土・領海の上を何回も通過しており、北海道・東北・東海・九州・沖縄と徐々に西へ移動して、最後に沖縄付近を通過した後に南米大陸の直前で落下した。

 2017年7月の長征5型ロケット打上げ失敗は有人宇宙活動にも影響しており、中国独自の宇宙ステーション「天宮」の構築開始は2020年にずれ込みそうである。

宇宙ミッション5 宇宙科学分野

 本期間では青海省に設置する火星模擬基地の具体的な設置場所が決定された。写真で見ると赤い地肌の砂漠のようで、火星に実際に行ったような気分になる。

 2018年12月頃に世界初の月の裏側着陸を行う嫦娥4号の打上げを行う。

 また、中国科学院の国家空間科学センター(NSSC)が中心となって、多数のプロジェクトが同時並行的に進められている。国際協力プロジェクトも含まれる。末 尾の参考資料で8件のプロジェクトの名称やミッションなどの一覧を示す。

宇宙ミッション6 新技術実証分野

 本期間に打ち上げられた技術試験衛星は比較的少なかった。

 新たに技術試験衛星の初打上げを行った機関とその衛星は、北京零重空間技術の「周恩来(Zhou Enlai)」、翎客航天技術(Link Space Aerospace Technology)の「 風馬牛(Fengmaniu)」、中国教育学会や中国宋慶齢基金などの共同計画による「少年星(Shaonianxing)」などである。3文字の衛星名が多いのは新たな傾向かもしれない。

参考資料:宇宙活動に関連する中国の政府組織

 2018年に開催された第13回全国人民代表大会の期間に、国務院の省庁再編が発表された。宇宙に関連する省の中では、農業部が農業農村部に、環境保護部が生態環境部に、国土資源部が自然資源部に、そ れぞれ改編された。

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※図をクリックすると、ポップアップで拡大表示されます。

 中国の2大宇宙企業であるCASCとCASICは2017年12月に有限公司となり、企業名が中国航天科技集団有限公司と中国航天科工集団有限公司と改称された。CASCの従業員は約17万4千人、CASICは約15万人である。

以上