食品検査におけるバイオチップの応用の進展(その2)
2018年6月6日
苗 小草: 乳業生物技術国家重点実験室,上海乳業生物工程技術研究中心,光明乳業股份有限公司乳業研究院,上海大学生命科学学院
修士課程大学院生。研究テーマは食品安全。
陳 万義、游 春苹: 乳業生物技術国家重点実験室,上海乳業生物工程技術研究中心,光明乳業股份有限公司乳業研究院
張 娟: 上海大学生命科学学院
(その1よりつづき)
2.4 違法添加物と偽物の検出
経済的利益に駆り立てられ、悪質なメーカーは、食品に違法添加物を添加したり、偽物を混ぜたりしている。彼らの方式と手法は日増しに複雑となり、用いる物質もさまざまで、伝統的な検査方法は、こうした違法な手段の進化に追いつかなくなっている[36]。
コカインの食品中への添加は厳しく禁じられている。だが食品の風味を高めるため、火鍋のスープなどの食品に微量のコカインを添加するケースがある[37]。Kawanoら[38]は、膜タンパク質チャンネルを用いてDNAアプタマーと結合しコカインの測定を行った。DNAアプタマーは、コカイン分子を選択的に確認し、バイオナノ孔をはめたマイクロチップを通じて60秒以内に300ng/mLのコカインを検出できる。
肉製品の検査は世界各地の食品検査機関の基本的な任務の一つである。現在、肉製品の安全検査で最も常用されている2種類の方法は、免疫吸着試験法とポリメラーゼ連鎖反応法である[39]。この2種類の方法は幅広く認められているが、多くの肉類サンプルの同時検査への検査には適しておらず、想定外の汚染や故意に偽物を混ぜられた肉類製品の検査に用いるには高いコストが必要となる。Iwobiら[40]が用いた2つの商用動物チップ検査システム(CarnoCheck検査キットとMEATspecies液晶アレイ)は、感度が高く、繰り返し利用でき、操作が簡単で、8~14種の肉類製品中の動物の種類を効率的に同時検査できる。この2種類のチップは效果が優良で、どの食品検査機構でも通常使用できる。Royら[41]は、新型電気化学バイオセンサー技術を用いて、DNA酸化還元の静電相互作用を通じて、分子と非特異的にグラフェンバイオチップ上に吸着し、肉の種類の鑑定を完了する。これらのグラフェンバイオチップはコストが低く、スピーディーで効率が高く、肉類の偽物の監督管理に技術の下支えを提供した。
2.5 遺伝子組み換え食品の検出
1994年に米国で最初の遺伝子組み換えトマトが米国食品医薬品局の認可を監督して市場に入ってから、遺伝子組み換え製品は世界で急速に発展してきた。遺伝子組み換え食品の安全問題には大きな論争があり[42]、遺伝子組み換え食品が半永久的に安全であることを裏付ける国際的な正式な科学報告はまだない[43]。また遺伝子組み換え製品の検査測定のための国際的に統一された標準や方法もない。伝統的な遺伝子組み換えの検出方法は、多くの目標に対する同時検査ができず、精度も低かった。また遺伝子組み換え食品には、人々がまだ完全には明確に認識していない成分が含まれている。このため効率的でハイスループットな検査技術の開発は今後の不可避の流れと考えられる。
Chengら[44]は、薄膜バイオセンサーチップを用いて遺伝子組み換えの大豆と水稲、トウモロコシを検査測定し、9つの外来性DNA断片を選んで標的遺伝子とし、プライマーとプローブを設計・合成し、PCR技術を用いてサンプル中のDNA目標配列を増幅し、PCR産物とバイオチップをハイブリダイゼーションした。このチップは、ハイブリダイゼーションの結果を直接表示する。この試験方法では、よく見られる5種の改質植物を検出できる。この方法は、効率的・正確で、操作性が高く、ハイスループットで実用的、さらに蛍光スキャナーを使用しない。Gryadunovら[45]は、遺伝子チップとPCR技術を用いて、10種の異なる遺伝子組み換えの食品と飼料を同時に検査・測定した。このチップは、植物のDNAの検査・測定、植物(大豆、トウモロコシ、ジャガイモ、水稲)のタイプの測定、遺伝子組み換え成分(CaMV35S・FMV35Sの配列、水稲アクチンがプロモーター、NOSとCaMV35S、OCS、エンドウrbcS1がターミネーター;BarとGUS、NPTIIが標識遺伝子)の鑑定ができる。このチップは、遺伝子組み換えサンプルのスクリーニングに応用できる。
Von Gotzら[46]は、DNAマイクロアレイの発展の行方を研究した。ここ数年、多重PCRとマイクロアレイ技術の結合が遺伝子組み換え生物の定性評価に用いられている。例えばドイツのDualChipA(R)GMOは、複数のセンターの研究を経て認可された唯一の遺伝子組み換えスクリーニングシステムであり、増幅技術の革新を通じて、遺伝子組み換えのマイクロアレイの検査・測定は定量の方向へと発展している。
2.6 食品アレルゲンの検出
食品アレルギーの発症率と流行は日増しに高まっている。とりわけ先進国では、これは医学・食品工業に巨大な圧力をもたらしている。さらに人々の生活習慣が変化し、飲食面で大きな広がりを見せていることで、アレルギー症状は多様で複雑、より深刻なものとなっている。世界各地のアレルギーの専門家と企業は、新たな測定方法の開発に努め、リスク評価とアレルギーの早期の予防性治療の仕方を前進させている[47]。
Wangら[48]は、光学薄膜チップを用いて、食品中の8つのアレルゲン(セロリ、杏仁、エンバク、ゴマ、カラシ、ルピナス、クルミ、ヘーゼルナッツ)を多重検査・測定した。PCR増幅の後、バイオチップで検査・測定すると、30分で結果が出る。光学薄膜チップは、PCR目標断片の存在を検査・測定できる。チップ表層の光干渉の様相が変わり、肉眼で見える色の変化が起こる。これは一種の食品サンプルのアレルゲンを特異的にハイスループットに検査・測定できる方法と言える。
Harwaneggら[49]は、複用チップ免疫検査を用いて牛乳と鶏卵の中のアレルゲンを分析した。Pasquarielloら[50]は、複用チップ免疫分析を用いてアレルギー性のリンゴを検査した。この研究は、10種の伝統的なリンゴ品種と2種のイタリア南部で幅広く栽培される品種とを研究した。アレルギー体質者の血清をプローブとし、IgEとIgG、IgG4の抑制試験を複用遺伝子チップの上で行うと、アレルギー成分をすぐに得られる。この技術は、アレルギー性食物のすばやい検査・測定ができる。
3 食品毒性学研究におけるバイオチップの応用
食品毒性学の研究は、食品安全の検査と評価の水準を高め、これに根拠を与えるものである。伝統的な食品毒性学は、動物実験によって行われおり、時間と力がかかっただけでなく、動物愛護に反する上に、人体と動物とは大きく異なることから結果は不正確だった。それに対しバイオチップは倫理の問題を解決した。また分子と細胞(体外)の研究は、動物と人類の志願者に対する試験の数を大きく減らすことを可能とした[51]。
Protら[52]は、パラセタモルを含むか含まないマイクロ流体バイオチップ内で培養した肝がん細胞のトランスクリプトームとプロテオーム、メタボノミクスのアトラスを分析した。パラセタモルを含まない時には、自己適応細胞はマイクロ流体環境に対していくらか反応し、抗酸化ストレス反応と細胞保護ルートを誘導した。パラセタモルを含む時には、カルシウムホメオスタシスの波動と脂質過酸化、細胞死が出現する。メタボノミクスとトランスクリプトーム、プロテオームの概况の統合は、パラセタモルダメージチャンネルの再建をさらに完全なものとすることができる。これは世界初のマイクロ流体バイオチップによる毒性評価の例であり、この試験は毒性学方面でのバイオチップの応用の潜在力を示した。
4 食品と健康の研究におけるバイオチップの応用
バイオチップ技術を利用した栄養素とタンパク質、遺伝子発現の関係の研究は、病気の耐性と予防のメカニズムに理論的根拠を与えることができる。例えば栄養と高血圧、糖尿病[53]、免疫システムの分子水準の研究などである[5]。Linら[54]は、マイクロ流体バイオチップシステムを用いて、トリアシルグリセロールとメタノールの精確な測定を行った。この技術は、医学におけるスピーディーな診断や食品安全の分野に用いることができる。孫麗ら[55]は、DNAメチル化チップ技術を用いて、高脂肪の飲食がアテローム性動脈硬化マウスゲノムのDNAメチル化水準を高めることを裏付けた。この技術はマウスから、食品の栄養と人類の健康の研究へと広がっている。
5 バイオチップの展望
バイオチップは、人類生活に静かな革命をもたらしつつある。伝統的なバイオ技術と比べると、バイオチップには顕著な優位性があるが、人材や資金、技術水準などの面での制約から、バイオチップシステムはまだ広く普及してはいない。そのためまったく新しい考え方でのバイオチップの革新と改善が進められている。可視チップ技術[56]はブレークスルーの一つで、高価な蛍光スキャン設備が必要ない上、すばやく便利に使えることから、バイオチップの発展の方向性とみなされている。馬鋭ら[57]は、「金標銀染可視化遺伝子チップ」を用いて豚流行性下痢ウイルスを分析した。李永進ら[58]は、アルカリホスファターゼと基質の間の酵素学的発色反応を検査・測定体系に導入してチップを可視化し、9種の遺伝子組み換えトウモロコシや綿花、大豆などの材料を検査・測定した。可視化バイオチップはさらに、遺伝子突然変異の検査・測定[59]や道具酵素の機能の鑑定[60]などの分野に応用でき、幅広い発展市場を備えている。
李丫丫ら[61]の欧州特許庁(EPO)のPATSTATデータベース中のバイオチップ関連の特許データの統計分析によると、中国のバイオチップ技術導入は、米国や日本、韓国、ドイツ、フランスよりいくらか遅く、現在は成長期にあり、チップの技術軌道も安定化しているものの、中心的な技術の設計はまだ完了しておらず、完了は2022年以後になるものとみられる。中国のチップ技術の革新・開発力は若干弱く、他国からの参考・消化の水準は低く、さらに政府の投資も足りておらず、特別資金も不足し、先進国とは一定の差がある。バイオチップは中国で、広大な発展の市場と潜在的な応用の見通しを備えており、中国の研究者と世界各国の研究者による共同の努力の下、バイオチップはより多くの分野でより大きな優勢を発揮する見通しだ。
(おわり)
参考文献:
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※本稿は苗小草,陳万義,張娟,游春苹「生物芯片在食品検測中的応用進展」(『河南工業大学学報(自然科学版)』2017年第38 卷第1 期、pp.114-121)を『河南工業大学学報(自然科学版)』編集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司