第142号
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技術特性とリスクの把握 航空宇宙製品開発のモデルと方法の改良(その2)

2018年7月31日

余 後満:中国空間技術研究院研究員

略歴

中国空間技術研究院副院長。航空宇宙システムの研究・生産総合管理、宇宙関連プロジェクト業務に従事。研究テーマは、システム工学とプロジェクト管理、宇宙機の品質と信頼性の管理、製品エンジニアリング。 

その1よりつづき)

4 航空宇宙製品のリスク類型

 航空宇宙製品に関するリスクの知識の掌握、リスクの識別、リスクの制御の難度などを考慮すると、航空宇宙製品のリスクを顕在的リスク、半顕在的リスク、潜在的リスクの3類型に分けることができる。顕在的リスクは、リスクの原因と結果がいずれも非常に明確である。半顕在的リスクは、リスクの結果は明確だが、原因が不明確である。潜在的リスクは、リスクの原因も結果も不明確である。

1)顕在的リスク

 宇宙機の長期にわたる開発や生産、試験、軌道上での飛行任務実施の過程においては、非常に豊富な顕在的リスクの識別と制御の面での知識が蓄積されてきた。使用の禁止または制限されたコンポーネントや原材料、工法などのほか、コンポーネントと原材料の使用、汎用工法の実施、ソフトウエア開発でよく見られる問題と制御措置など、さらに電子製品の設置、セキュリティギャップの制御などは、製品の保証の要求の中で、いずれも明確なリスク制御の要求がなされている。設計作業が周到に行われ、プロセスの検査や確認が適切に行われれば、顕在的リスクは大元の設計と生産の過程で良好な制御を実現することができる。

2)半顕在的リスク

 航空宇宙製品の開発過程では、半顕在的リスクの識別には一定の難度がある。この種のリスクに対しては一般的に、科学的な手順と方法に従った識別が行われる。例えば熱応力や力学応力などで起こる故障に対しては、専門的な熱分析や力学分析を行う。電磁両立性(EMC)や雑光、プルーム、潜在電子回路などのリスクに対しては、これらに特化した分析を行う。単一点が存在するかは、故障モード影響解析(FMEA)などを展開する。

3)潜在的リスク

 航空宇宙製品の開発過程において最も難しいのは、潜在的リスクの識別と制御である。科学的な手順と方法を通じて潜在的リスクを掘り起こし、リスク制御措置の有効な検証を行う必要がある。これらのリスクは主に次のいくつかの点に表れる。①新技術の特性。新たな技術特性の認識の不足や、潜在故障モードに対する認識の不十分は、新たなリスクをもたらしやすい。②総合技術リスク。複数の専門技術の特性が関連し、技術のリスクが組み合わさることで、リスクの分析と識別は往々にして困難となる。③月や深宇宙の探査任務などで遭遇する新たな宇宙環境、特殊な宇宙環境など。材料やコンポーネント、工法などは、新たな環境に未知の敏感特性を持つ可能性がある。④新たな任務の実施。例えば火星探査機による火星大気への進入や火星表面への着陸の過程で新たに遭遇する複雑な動的特性など。

 潜在的リスクに対しては、学科をまたいだ開発チームの設立、学科をまたいだ特性の分析と設計の評価と審査、フォルトツリー/イベントツリー(FTA/ETA)による立ち入った解析、地上での十分な開発試験などを通じて、関連するリスク特性の有効な発見・把握を進め、リスクの識別、リスク制御措置の検証を適切に行う必要がある。

5 航空宇宙製品開発のモデルと方法の改良

5.1 航空宇宙製品開発モデルの改良

1)多学科製品開発チームの設立

 複雑な航空宇宙技術製品に対しては、製品のかかわる学科内容と専門の特徴に基づき、学科を越えて多くの専門にかかわる製品の開発チームを設立する必要がある。これは学科の盲点や技術の盲点によってもたらされるリスクの識別のもれを避けるのに非常に重要となる。多くの学科の製品開発チームのメンバーは、異なる専門の視野を通じて、異なる専門の角度から、製品の特性とリスクを分析し、メンバー間の交流と相互活動を行い、専門知識を相互に補完し、相互に啓発することができる。これは専門をまたぐ技術の特性の分析や関連特性の研究、結合リスクの識別、制御措置の制定などに非常に重要であり、製品の総合設計の強化と全体の最適化にとって非常に重要となる。

 複雑な航空宇宙製品に対しては、同一機構内部にも専門室をまたぐ開発チームを設立することができる。大型の複雑な航空宇宙製品に対しては、専門をまたいで開発チームを設立し、機構間では緊密な協同開発モデルを構築・形成する。チームのメンバーは、専門家の身分で製品開発にコンサルティングを提供するのではなく、製品開発の主体としての責任を担わなければならない。機構内部の関連スペシャリストが確かに欠けている場合にだけ、外部の専門家にコンサルティングを依頼する。

2)工法性、試験可能性、整備可能性、保障性などの設計強化

 製品の工法性や試験可能性、整備可能性、保障性などは、製品の固有の品質特性であり、製品の設計開発の過程で形成されたものであり、設計開発段階では、関連特性に対して一体的な設計と統一的な検討を行い、関連リスクをできるだけ早く分析・識別し、製品の開発過程でリスク制御措置を検証し、製品状態の確定に従って固定化していく必要がある。

 工法設計は、製品設計の非常に重要な一環であり、工法の特性と方法の研究は、製品設計の重要な内容である。工法性設計と工法の保証を通じて、新材料や新工法の応用による新たなリスクを根本から回避し、敏感材料と敏感工法に存在する敏感特性、一部の材料と工法に存在する時効特性などを早くから注目することができる。成熟した工法の応用、安定した工法の選択、工法特性の十分な把握は、製品の機能性能の有効な実現、製品の全ライフサイクルでの安定した作動の実現にとっての大きな鍵となる。工法は生産段階の仕事だという遅れた考えを改め、工法性設計を通じて、製品機能のさらに良好で安定した実現を確保する必要がある。

 製品の試験可能性設計の展開によって、製品設計で生まれ得る予測・検出不可能な部分をできるだけ回避することができる。製品の特性の持続的なモニタリングを通じて、製品の特性に対する認識を深め、特性変化法則に対する研究を進め、製品の品質の一致性や安定性を有効に評価することができる。

 製品の整備可能性・保障性設計の展開によって、製品の整備と保障のコストを有効に引き下げ、整備と保障の効率と効果を高め、製品の整備と保障の人員への依頼を減らすことができる。航空宇宙製品に対しては、ソフトウエアの整備とアップグレードの能力を高め、プログラムの改変を通じて、軌道上のソフトウエアの欠陥の修復と機能の高度化を実現する必要がある。

3)新技術開発人員とプロジェクト開発人員、製品保証人員の緊密な結合の実現

 新航空宇宙製品の開発過程で発生する品質問題の一部は、新技術の特性が有効に消化されていないために起こったわけではなく、基礎的な材料や工法、コンポーネントの選択や応用の不適切によって生じる。一部の航空宇宙製品の開発作業が繰り返しになっているのは、プロジェクト開発の手順に従わず、プロジェクトの制約や要求への考慮が十分でないためだ。製品の保証人員の早期の介入は、航空宇宙製品の長期的な開発過程で積み上げた豊富な知識を運用し、顕在的リスクを有効に回避することを可能とする。同時に半顕在的リスクや潜在的リスクに対しては、製品保証人員は、開発チームに向けて科学的な手順と方法を構築し、関連リスクの有効な識別と制御を確保することができる。

 豊富な経験を持つ航空宇宙製品プロジェクト開発人員と新技術開発人員の協同開発は、製品開発の早期に、成熟した材料やコンポーネント、工法の選択と応用を十分に考慮し、宇宙環境条件やインターフェース条件、力や熱などのプロジェクトの制約条件を全面的に検討し、製品環境適応性やインターフェース協調性の設計を展開し、製品の信頼性や安全性の設計を体系的に展開し、製品設計検証案を制定し、製品の開発成功後の開発作業の繰り返しの回避を確保できる。

 このほか製品設計開発チームの安定性を保つ必要がある。そうすることによって設計開発チームによる製品特性への立ち入った研究の継続、製品の総合技術特性や関連特性などへの全面的で十分な把握が可能となる。

5.2 航空宇宙製品開発方法の改良

1)航空宇宙製品の詳細な設計と評価審査の強化

 (1)航空宇宙製品の詳細な設計作業の適切な実施。航空宇宙製品の詳細な設計の展開を通じて、製品の環境適応性やインターフェースの協調性、各方面のプロジェクト制約条件の全面的で十分な検討と検証を確保する。製品の設計・生産・飛行過程で存在し得るリスクの全面的で詳細な分析と有効な識別、制御措置の有効性を確保する。製品の機能性能や信頼性、安全性、工法性、試験可能性、整備可能性、保障性などの全面的な統一調整と考慮を確保する。製品の設計パラメーターの精確な協調、工法パラメーターの細分化・量化、工法過程の厳格さと周到さを確保する。製品技術状態定義の明確さや正確さ、総合ドキュメントの全面性を確保する。製品の鍵となる技術特性の分析の適切な実施、リスク技術特性の十分な識別、鍵部品や重要部品の明確化、鍵となる検査ポイントや強制検査ポイントの合理的な設置、プロセス制御措置の有効性を確保する。航空宇宙製品の詳細な設計ドキュメント体系を構築・形成し、より厳格な設計基準を構築する。

 (2)航空宇宙製品の詳細な設計と評価審査の方法改良。詳細な設計と評価審査のドキュメント体系を確定し、重要な関連性の設計ドキュメントの一括的な評価審査を行い、評価審査専門家の全面的で体系的な設計発想を確保し、設計結果の評価審査をしっかりと行う。設計にかかわる検証ドキュメントは関連評価審査を行う。これには任務/機能分析報告、プラン設計報告、環境試験条件、製品鑑定状態、設計検証マトリックス、試験網羅性分析報告、開発・鑑定・検収の各類の試験大綱などが含まれる。関連性の強い製品保証ドキュメントに対しては、ドキュメントパッケージとしての全体の評価審査を行う必要がある。これには鍵となる項目、3類の鍵となる特性、鍵部品・重要部品の確定、試験網羅性検査報告、測定・検出不可能な項目や検査計画、鍵となる検査ポイントや強制検査ポイントのリスト、信頼性安全性設計報告、FMEA/FTA/ETA報告、残留リスク分析報告、飛行制御故障対応プランなどがある。評価審査専門家の選択に当たっては製品の各学科の代表を総合的に考慮し、評価審査時間は、製品の複雑さに応じて数日間連続での評価審査を行い、評価審査専門家による審査ドキュメントの十分な消化と評価を確保する。

2)FMEAとFTA/ETAの2種類の方法の総合的運用の強化

 FMEAとFTA/ETAは、製品開発活動において非常に重要な2つのリスク分析方法であり、製品リスクの識別と制御、製品の設計改良に非常に重要となる。FMEAは下から上へのリスク識別方法であり、一種の収斂の発想であり、航空宇宙製品のあらゆるレベルから下から上へと展開できる。FMEAは、既存の認識と知識に基づき、それぞれの要素のすべての可能な故障モデルを提起し、製品の最終的な機能に対してそれらが生じる影響を分析し、それぞれの故障モデルが生む結果を評価する必要がある。新製品や新技術、とりわけベースとなる要素(新たなコンポーネントや材料、工法)の新たな技術特性に対する認識が不十分で、故障モードの認識が不足している場合には、分析過程でのリスクの漏れが起こる可能性がある。FTA/ETAは、上から下へのリスク識別方法であり、解析の発想である。理論的には限りない分析が可能で、確認できないボトムイベントや故障モードを解析し、ターゲットを絞った研究を展開し、潜在リスクの検証と確認を行うことができる。FTA/ETA法はFMEA法に存在する不足を有効に補完できる。複雑な新技術製品に対しては、FMEAとFTA/ETAを同時に展開し、2種類の方法の総合的な運用を通じて、リスク識別の全面性とリスク特性の有効な把握を確保することを提案する。

 FTA/ETAの展開の際には、多学科からなる分析チームを設立し、さまざまな専門知識を備えたチームが複雑な製品に対して協同分析を行い、製品リスクを一歩ずつ推論し、潜在リスク要素に対する体系的で立ち入った細かい研究を行うことを提案する。こうした学科を越えた多くの専門にかかわる協同分析モデルは、専門知識の不足や関連特性の考慮の不十分によって引き起こされるリスク識別の漏れを比較的良好に回避することを可能とする。

3)開発性試験の強化

 新航空宇宙製品が開発段階で展開する開発性試験は主に、2つの方面の目的がある。第一に、設計方法の正確性の検証、設計モデルの修正、設計法則の検証、設計マージンの確定。第二に、製品の新たな技術特性の把握、製品の故障モード、とりわけ新たな故障モードと潜在的な未認識の新たなリスクの研究だ。

 新たな航空宇宙製品に対しては、既存の知識に基づき、フォワード・エンジニアリングを通じて関連技術の特性を全面的に分析することは難しく、潜在的なリスクを十分に識別することも難しい。このため開発性試験を通じて、製品の新たな技術特性と未認識のリスクを十分に明らかにする必要がある。開発性試験は主に、機能性能試験、インターフェースマッチング試験、各種作動モデル・条件の設計検証試験、環境適応性試験、バイアス試験、極限試験、寿命試験などが含まれる。

 複雑な単機製品に対しては、材料やコンポーネント、工法、部品、モジュールから完成品まで、試験の計画を一つずつ展開する必要がある。展開しなければならない試験項目と生産に投じなければならない試験部品に対しては、統一的な計画と手配を進める。設計と検証の十分性を確保するため、設計・検証のマトリックスを編成し、各層の製品の設計と検証の項目を整理し、検証作業の妥当性を分析・確認する。新たな技術特性を把握するため、バイアス試験や極限試験、寿命試験を強化し、これらの試験の展開を通じて、新たな技術特性の十分な把握、未認識の故障モードとリスクの十分な識別と有効な制御を確保する必要がある。バイアス試験の目的は、製品の試験パラメーターにバイアスをかけることにより、製品の弱い部分を有効に明らかにし、改良することにある。極限試験の目的は、製品のロバスト性を査定し、製品の特性の変化の傾向を全面的に分析し、製品設計の裕度を確認することにある。

6 結語

 複雑な航空宇宙製品の開発リスク管理事業は、航空宇宙製品技術の特性を十分に掌握し、航空宇宙製品技術のリスクの特徴を認識した土台の上で展開されるものだ。現在の航空宇宙製品開発のモデルと方法には不足が存在し、一部の特性やリスクの体系的で全面的な把握は難しく、リスク制御には隠れた危険性が存在する。具体的な措置を取って改良と改善を行い、作動の精度を高め、技術や特性の把握やリスクや弱点の解消、品質の確保を実現する必要がある。

(おわり)


※本稿は余後満「把握技術特性和風険点 改進宇航産品研制模式和方法」(『航天器工程』2017年第26巻第2期、pp.1-6)を『航天器工程』編集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記 事提供:同方知網(北京)技術有限公司