第143号
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合弁企業依存から脱却したい広州汽車

2018年8月17日

陳選

陳 選(チン セン):フリーライター

略歴

 1982年、 吉林大学日本語科卒、1986年、中国社会科学院大学院日本研究所修士課程卒、中国国際信託投資公司( CITIC)勤務。1989年来日、北海道大学法学部大学院修士課程卒、大 手商社長年勤務。中国自動車メーカーのビジネスアドバイザーでもあった。

 広州汽車集団股份有限公司(略称「広州汽車」)はその前身が元々、実力のない無名な企業であったが1997年6月に広州の自動車関連企業がまとめられ広州汽車の原型となり、さらに8年後の2005年6月に広州市で今日の形の企業として設立された。現在、従業員8.4万人を有する地方政府傘下の大手企業となっている。

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(広州汽車本社ビル)

 広州汽車は自主ブランド、日本の大手メーカーとの合弁会社、欧米系一流メーカーとの合弁会社という三匹の馬の牽引する馬車であるといっても良かろう。広州汽車が短い間で急速に成長してきたのは様々な理由によるが、合弁企業の数が中国自動車業界では圧倒的に多いことが一つの重要な点であろう。特に日系自動車メーカーとの合弁会社が集団全体の支えになっていると思われる。乗用車では日系企業3社と、広州汽車本田、広州汽車トヨタ、広州汽車三菱を、商業車分野で日野と広州汽車日野をそれぞれ設立した。その他、イタリアのフィアット・クライスラーと合弁した広州汽車フィアット・クライスラーがある。

 広州汽車の2016年の販売台数は185万台で、2017年は市場全体がやや不振の中でも200万台を突破し、前期比21%超で業界平均の7倍の成長ぶりを見せ、広州汽車の全国における市場シェアは7%になった。

 日系メーカー無しでは、今の広州汽車は無い。

 何故、日系メーカーの中国進出が広州に集中しているのか、日系完成車の人気が圧倒的に強かったという歴史がある一方、広東人が外国資本に開放的で排他主義でなく官僚主義的な悪習も薄いためと思われる。1980~90年代、中国人の所得レベルが低かったので、日系メーカーはまだ中国に進出していなかった。ただし、香港に近い広東省では開放、改革がいち早く実施された地域として、所得水準が割と高かった。不法な商人は法の不備を利用し香港を密輸拠点として、深センなど経済特区経由で日本の中古車を数多く輸入してきた。選択肢の無い中国人が日本車の良さに魅了され、当時、広東省で街を走っていたのは殆ど日本の中古車であった。

 日系メーカーが広州汽車の成長の大黒柱であるといっても過言ではない。2018年広州汽車上半期の販売状況を見てみると、この特徴がはっきりと分かる。

 1-6月の間、累計販売台数は100万台超に達し、その中でも、広州汽車本田、広州汽車トヨタ、広州汽車三菱、広州汽車日野等の販売が好調になっている。特に広州汽車トヨタ、広州汽車三菱の販売台数が二桁増になり、前者が同期比16.37%増で、後者が38.64%増という驚異的な数字を示した。また、6月に公表された2018年中国自動車販売満足度調査レポート(SSI)では、広州汽車本田が674点で第3位であった。6月の1か月で広州汽車の単一車種の販売台数が1万台以上になったのは7車種あり、そのほとんどが日系合弁メーカーの製品であった。その中でも広州汽車本田は4車種を占めており、フィットが14,294台で同期比58.5%の伸びでアコードが14,443台(HP除く)で,同期比24%増になった。また広州汽車トヨタのカムリ(HP除き)が14,035台、同期比57.7%増であった。広州汽車三菱が製造するアウトランダーの販売台数は9,956台で同期比41.7%増になった。

 そして広州汽車日野について提起するべきであろう。日野自動車は恐らく世界の自動車メーカーの中で中国進出の先駆者であろう。1980年代に最初にハルビンで黒竜江客車工場と龍日客車といった合弁バスメーカーを作ったが、うまく行かなかったため、合弁を解消した。その後、瀋陽で中国航空工業傘下の企業と新たに合弁会社を設立したものの、またもや失敗した。辛うじてトヨタと広州汽車の合弁ができた後、2007年11月に広州汽車と広州汽車日野を設立することができた。現在では一転して、生産能力が5,000台/一交替にもなっている。ここ数年で販売不振の状況を一掃し、2017年の販売台数が2,452台となり、同期比213.15%に達し、右肩上がりの勢いを保っている。広州汽車日野は北京福田汽車を代表とするローエンド商用車が主流である中国商用車市場に「高品質、高耐久性、高中古価値、安全性、快適性、経済性」をもって入り込み、ハイエンドの商用車として好評を博し、その地歩を固めつつある。

 完成車のみならず、広州汽車の日系自動車メーカーとの合弁部品メーカーも順調である。例えば、2004年2月に成立した広州汽車トヨタ発動機有限公司はAZ、AR、NR、ARという4つのシリーズの直接噴射式エンジンを製造し、中国国内及び日本、台湾、タイ等で生産するカムリ、カムリハイブリッド、RAV4、アルファード、レクサスES、ヤリス(ヴィッツ)等に搭載している。2017年までに累計400万台を生産している。

 広州汽車三菱も年間15万台の高品質エンジンの生産工場を建設しており、今年中に稼働を予定している。

新エネルギー車分野でも注力

 2017年4月に広州汽車智聯新エネルギー車産業団地の建設が始まった。広州汽車自主ブランドの伝祺の新エネルギー車20万台/年を含む新エネルギー車40万台/年や、パワートレイン及び重要部品の製造などが行われる予定である。工場竣工後、最初の量産車種は伝祺のコンパクトカークラスの純電気自動車で次第にその他乗用車、SUV等の純電気車種を製造し、軽自動車、コンパクトカーや中級車をカバーするという野心的な計画である。

 一方、新エネルギー車分野で約10年間にわたっての広州汽車の弛まぬ努力がようやく成果として表れた。2017年にブランクインハイブリッド車のGA3S、GS4と純電気自動車SUV GE3がデビューし、自主開発の新エネルギー車を商品化している。今年に入ってから広州汽車新エネルギー車の販売が安定して伸びている。6月の販売台数は1,500台強で、同期比19.7%増になった。特に広州汽車三菱のブランクインハイブリッド車は販売が好調で今年上半期の販売台数が集団全体の18.4%を占めている。

 また、今年4月の北京モータショーでは広州汽車本田アコードハイブリッド、広州汽車トヨタの初代純電気SUVもデビューし、反響を呼んだ。

未来の広州汽車

 広州汽車もその他の中国自動車メーカーと同様に自主ブランド、電気自動車、自動車のコネクテッドカー化を未来に向かっての成長の鍵と見なしている。

 広州汽車の自主ブランドの代表格とされる伝祺GM8の今年上半期の販売台数が4,005台になり、同期比約24%増になった。さらに6月に公表された2018年中国自動車販売満足度調査レポート(SSI)では伝祺は国内自主ブランド分野ではナンバーワンになった。2019-2020年前後、伝祺ブランドで每年、航続距離が500km以上になる純電気自動車を2車種ずつ発売する計画であるが、自主ブランドは果たして集団全体の柱の一つになれるのかどうか楽観視できないと思われる。いずれにしろ、広州汽車が日系メーカーに頼らざるを得ない状況が当分の間、続くであろう。

(本文に引用したデータなどは広州汽車のHPとネット自動車新聞によるものである)

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