第144号
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動力電池メーカーの明暗を分ける「生産能力過剰」と「リサイクル」

2018年9月7日 劉珊珊(文)/吉村 學(翻訳)

生産停止と華々しい上場――中国EV用車載電池大手2社の対照的なニュースは、「EVシフト」の時代に大きな課題を投げかける。解決すべき問題と、循環型経済へ向けた取り組みに求められるものとは?

 わずかひと月の間に、動力電池メーカー2社がニュースのヘッドラインを飾った。だが、その内容には天と地ほどの開きがあった。

 深圳市沃特瑪電池(オプティマムナノエナジー)の全従業員は、7月1日から半年間の休暇という現実を突きつけられた。記者が入手した同社の通知には、「受注不足と資金難によってもたらされる事態解決のため、経営陣は戦略的判断により、『7月1日から6カ月間、全従業員を休暇とする』決定を下した」とある。

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写真1 7月から生産停止に入った深圳市沃特瑪電池(オプティマムナノエナジー)だが、グループとしては湖南省などにも進出している。そちらの動向も気がかりだ。(撮影/中国新聞社 賀茂峰)

 沃特瑪が「受注不足と資金難」の泥沼でもがいているさなか、寧徳時代新能源科技(CATL)は6月11日、株式市場への上場 を果たした。8回のストップ高を記録した同社の市場価値は、いまや1,600億元を超える。

 寧徳時代と沃特瑪の浮き沈みは、ホットな業界の背後にある、いわく言い難い現状を反映している。かつての資本の大量流入が動力電池業界にもたらしたのは表面的な繁栄に過ぎない。実のところ、業界内の競争は異常なまでに過酷だったのだ。

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写真2 2011年の設立以来、寧徳時代(CATL)のバッテリーは、BMWなど世界の名だたるメーカー のEVに採用されている。(撮影/中国新聞社 余娳娜)

「中国の動力電池メーカーは、2015年の約150社から昨年には約100社まで減少し、3分の1がすでに淘汰された」。6月27日、青海省で開催された「リチウム産業と動力電池国際サミットフォーラム」で、中国電動自動車百人会の陳清泰(チェン・チンタイ)理事長は、そう述べた。

 浮き沈みの両極端の企業の存在は、動力電池業界の普遍的な問題を反映している。原材料価格の暴騰や、補助金減額後の新エネルギー車(NEV)メーカーによるサプライヤーへの仕入れ価格引き下げ圧力などだ。動力電池メーカーの生き残りは、ことのほか厳しいのである。

原材料価格上昇、補助金減額のダブルパンチ

 このところ調整の動きがみられるリチウム、コバルトなどの原材料価格だが、それまでは長期にわたり上昇を続けてきた。

「資源開発技術がネックとなり、生産性は低いまま。このため、原材料の供給がひっ迫すると価格が高騰し、産業チェーン全体のコスト圧力も急上昇する」(陳理事長)

 統計では、昨年の中国の動力用リチウム電池の出荷量は 39.1GWhに達し、リチウム電池業界全体の約50%を占める。そのうち、車載用電池の出荷量は38GWhで、これは全世界の車 載電池出荷量の65.4%になる。リチウム電池の利用範囲は将来さらに拡大し、リチウムやコバルトの需要はますます高まると陳理事長は予測する。

「世界のリチウム、コバルト、ニッケルは寡占状態にある。中国の場合、リチウムは豊富だが、質が良くないので利用率は比較的低く、一方でニッケル、コバルトは海外依存度が高い。このため、長期的に見れば資源リスクが存在する」(陳理事長)

 また、さきごろ発表された2017~2018年の新エネルギー車への補助金政策は、国の補助金を2016年比で20%減らし、地方政府の補助金は国の補助額の50%を超えてはなら ないとしている。自動車メーカーへの補助金減額がコスト削減圧力となり、結果的に動力電池メーカーに影響を与えるわけだ。この二重の圧力によって動力電池メーカーには資金調達圧力がのしかかり、経営に支障をきたすところも出始めている。

生産能力のいたずらな拡大は産業革新の足かせになる

 データによれば、中国の動力電池の生産能力は昨年すでに200GWhを超えているが、生産能力利用度はわずか40%。生産能力の二極化は明らかだ。

「高品質で優れた生産能力による製品は供給が、低品質な生産能力による製品は受注が足りない。そのため、生産・経営が困難となり、構造的な生産能力過剰を生み出している(陳理事長)

 中国電動自動車百人会秘書長兼チーフエキスパートの張永偉(ジャン・ヨンウェイ) 氏は、こう分析する。「中国の動力電池の生産能力は規模という点では大きいが、投資の無駄、すなわち硬直化した技術への大量投入が、一部の低品質な分野に集中してみられる。こうした投資は競争力のない生産能力を生み出しやすく、結果的にイノベーションの妨げになる。生産能力の規模が大きいことは、必ずしも強みになるわけではない。だが、生産能力がなければ、競争上のハードルを築くことは難しい。まさに諸刃の剣だ」

「これまでは生産能力を追求し、管理することで中国の国内企業を急成長させてきた。だが、次世代の動力電池の競争での勝敗の行方は、不確実性に満ちている」。中国の動力電池メーカーは生産能力の拡大競争では勝利した。だが、真の競争圧力は技術面にあると張氏はみる。

「業界では、中国企業が次世代動力電池の技術開発を急がなければ、競争の構図が様変わりしてしまうであろうことは暗に感じ取っている。ゆえに、そのプレッシャーもまた強烈だ」(張氏)

リサイクルシステムの構築も今後の大きな課題

 これまでに述べたこと以外にも、業界が重視しなければならないことがある。バッテリーのリサイクル技術とそのためのシステム構築の未熟さだ。

 中国電池聯盟のデータによれば、理論上の使用済み動力電池が今年は5.14GWh、2023年には48.09GWhに達する見込みだが、中国のリサイクルネットワークはいまだ未整備のままだ。「現在のところ、リサイクル技術も、買い取りのためのネットワーク構築も未整備。管理対策や支援政策も不十分。ビジネスモデルや収益モデルについてもいまだ研究中の状態」(陳理事長)

 バッテリーの回収を専業とする格林美の社員はこう解説する。「廃電池回収の主体的責任は自動車メーカーにある。そのため、回収については完成車メーカーやバッテリーメーカーとの合意や提携が必要になる。それ以外の方法での回収は困難だし、回収量も非常に少ない」

 現在、廃電池回収業界は、未整備のまま成長期を迎えている。多くの自動車メーカーが高値で引き取る業者に廃電池を引き渡しており、そのため、大部分の廃電池は法に適うような処理ルートに乗っていない。

 8月1日から「新エネルギー自動車動力蓄電池のリサイクルに関する暫定弁法」が施行された。「暫定弁法」では、動力電池リサイクルを刷新するビジネスモデルの確立と、自動車メーカー・バッテリーメーカー・バッテリーの総合利用企業などによる廃電池回収チャネルの共同構築・共同利用の必要性が提起されている。また、拡大生産者責任制度(EPR)を実施し、自動車メーカーが動力蓄電池回収の主体的責任を負うよう求めている。

 政策に従い、関連分野に手を打ち始めている企業もある。

 今年5月、北汽集団傘下の北汽鵬龍と格林美は、戦略的協力枠組み合意に署名した。合意によれば、両社は新エネルギー車動力電池の回収システムの共同構築、使用済み動力電池のリサイクルなどの循環型経済分野で、協力関係を深めていく、としている。時を同じくして、化学品メーカー・光華科技も、リチウム電池回収子会社の設立を発表した。

 このほか、工業・情報化部が現在、江蘇省と浙江省でおこなわれている新エネルギー車動力電池リサイクルの取り組みを調査・研究中とのニュースもある。同部は5月にも広東省、湖南省、湖北省で調査・研究をおこなっており、この件を重視している姿勢が見て取れる。

 この先も新エネルギー車の急速な発展は続き、それに牽引される形で動力電池業界も発展していくことが予想される。それはつまり、規範にもとづいた業界の発展がますます重要さを増すということを意味している。

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写真3 (資料写真)山東省の電池交換・充電ステーション。車載電池の充電がおこなわれている。写真/中国新聞社


※本稿は『月刊中国ニュース』2018年10月号(Vol.80)より転載したものである。