第145号
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3D印刷技術の応用および発展

2018年10月31日

程 俊廷: 黒竜江科技大学機械工程学院

内モンゴル自治区涼城県出身。博士、教授、副院長。黒竜江省省級トップ人材幹部予備育成リーダー。研究分野:付加製造技術、リバースエンジニアリング技術。

張 懌 黒竜江科技大学機械工程学院

盧 建軍 首都信息発展股分有限公司

概要

近年、3D印刷技術は広く注目を集めている。関連技術の発展に伴い、3D印刷技術も急速に発展し、広く応用されるようになった。このため、本稿ではこれまでに実施されたさまざまな調査や先行研究を通じて3D印刷技術およびその材料を総合的に紹介し、その応用の状況について整理した。その上で、中国および海外の付加製造設備およびその精度について比較分析を行い、中国および海外の特許の状況を提示し、3D印刷技術の発展傾向を展望する。

[キーワード]:3D印刷、プロダクトデザイン、発展傾向

はじめに

 3D印刷技術は新しい製造技術である[1]。これは、デジタルモデルによって実体を構築する技術であり、その構想の出所は米国の地形・地層関連の特許にある。この技術は伝統的な加工技術と大きく異なり、これまでの減法的製造技術を根本から覆すものであり、加工・製造プロセス全体をデザインの最初の段階から変革するもので、さまざまな分野に関係する。この技術の応用が普及すれば、オフィスから家庭、ひいては宇宙分野にいたるまで、任意の場面に合わせた簡単なマニュファクチャリングが可能となる[2]

 3D技術の登場は、さまざまな新規産業や新規のデザインコンセプトの誕生を促した。3D技術は製品の生産方式に変革をもたらすことで世界経済の発展構造を変化させ、最終的には人々の生活方式を変えることになるだろう[3]

1 3D印刷技術の紹介およびその材料の比較

1.1 3D印刷技術の紹介

 現在、主流となっている3D印刷技術には熱溶解積層法、光硬化成型法、レーザ焼結法、薄膜積層法等がある[4]

1.2 材料の関する比較分析

1.2.1 3D印刷技術および使用材料の比較

 上記の各技術の長所と短所を表1にまとめ、分析した。

表1 3D印刷技術の長所・短所に関する分析
技術分類 長所 短所
熱溶解積層法技術 1.製造システムの信頼性が高い
2.製造技術がシンプルでオペレーションが容易。廃棄物が発生しないため環境に優しい。
3.原料の輸送、交換が容易なため、コストが低い。
4.ビン型または中空構造のサンプルを迅速に製作できる。
5.選択可能な材料の種類が多い。
1.精度がやや劣る。
2.スピードが遅い。
立体光硬化技術 1.高品質。
2.精度が高い:精密な噴射によって薄壁やディテールを確保できる。
3.清潔を保ちやすい:オフィス環境に適用できる。
4.迅速:広角の高速グレーティング技術で構築するため、迅速な処理が可能で、複数プロジェクトの同時構築も可能。
5.多用途:さまざまな幾何学的形状、機械的特性、色成分の多様な材料に適用可能。
1.構造支持材が必要。
2.消耗品コストが比較的高い:感光性樹脂を材料に使用するため、コストが比較的高い。
3.強度が比較的低い:樹脂を材料とするため、強度と耐久性でやや劣る。
立体光硬化技術------PolyJet技術 1.高品質。
2.精度が高い:精密な噴射によって薄壁やディテールを確保できる。
3.清潔を保ちやすい:オフィス環境に適用できる。
4.迅速:広角の高速グレーティング技術で構築するため、迅速な処理が可能で、複数プロジェクトの同時構築も可能。
5.多用途:さまざまな幾何学的形状、機械的特性、色成分の多様な材料に適用可能。
1.構造支持材が必要。
2.消耗品コストが比較的高い:感光性樹脂を材料に使用するため、コストが比較的高い。
3.強度が比較的低い:樹脂を材料とするため、強度と耐久性でやや劣る。
立体光硬化技術------DLP技術 精度が高いため、高精度な小型製品の製作が可能。  
選択性レーザ焼結技術 1.金属粉、石膏粉等の材料を採用可能。
2.粉体の粒径が小さいほど精度が高い。
3.支持構造を必要としない。
4.材料の利用率が高い。
1.表面が粗い。
2.焼結プロセスで揮発臭がある。
3.比較的複雑な補助技術を必要とする時がある。
薄膜積層法 1.製造プロセスで材料に化学変化が生じないため、未加工材料への影響が少ない。また、熱応力がないため、原型の幾何学的形状に収縮や変形が生じない。
2.支持構造を必要としない。
3.処理後のパーツに修正が必要ないため、直接使用することができる。
1.選択可能な原材料の種類が少ない。
2.表面が粗いため、処理後の下降が必須である。
3.水分を吸収しやすいため、上塗り等の後処理を直ちに行わなければならない。
4.材料の一部が無駄になる。

1.2.2 各国の3D印刷設備および精度の概況

 世界各国の3D印刷製造設備および精度の概況について、図1に示した[5]

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図1 各国の3D印刷設備および精度の概況

2 3D印刷技術の特許の状況

2.1 世界の特許の状況

 発明特許申請数の上位国は、中国、米国および日本の順となっている。図2に示すように、中国の申請数は2013年以降飛躍的に増加している。2017年現在、中国の特許申請件数は合計9,907件、申請人数は合計3,062人に及び、特許平均件数は3.24件である。2016年通年の特許申請件数は3,554件で特許総数の35.87%を占めた。また、公開特許件数は4,739件で特許総数の48.38%を占め、前年同期比79.78%増であった。

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図2 特許申請数

2.2 中国の特許の状況

2.2.1 概況

 中国は3D印刷分野における研究では遅れており、初期段階の特許の多くは少数の研究開発機関に集中していた。現在もなお、欧米等が世界の研究開発において中核を占めているが、日本も非常に競争力がある。

2.2.2 特許の種類とその割合

 中国では現在、3D印刷の分野で実力が強化されつつあり、多くの企業が3D印刷業界に参入し始めている。関連報道に基づく中国の各分野における特許申請の割合は、図3のとおり[6]

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図3 中国の3D印刷分野における特許の分類

2.2.3 印刷材料の割合

 材料は、ポリマー、金属および複合材料の3つに基本的に分類できる。統計によれば、2017年には3D印刷材料市場における割合はポリマーが51%、金属が19.8%、複合材料およびその他の材料が29.2%であった(図4)[7]。発展傾向としては、金属と複合材料等に依然として大きな発展の余地がある。

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図4 3D印刷における新素材の市場分布

2.2.4 応用の状況

 Wohlers Report(ウォーラーズ レポート)によれば、3D印刷の応用分野に関しては航空宇宙分野が14.8%、工業応用が17.5%、家庭用電化製品が16.6%、自動車工業が16.1%、医療分野での応用が13.1%、学術機関が8.2%、政府・軍事が6.6%を占め、その他が7.1%であった(図5)。

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図5 中国の3D印刷産業の分野

3 3D印刷の発展傾向

 長年にわたる蓄積と発展を経て、中国は3D印刷の産業化に向けてスピードを速めている。「中国製造2025」等の関連政策による指導と支援を受け、中国の3D印刷関連業界は急速に発展しており、コア技術でブレイクスルーが相次ぎ、設備性能も著しく強化されている。また、生産モデルも徐々にシステム系統化され、サービス分野も拡大し続けている。

3.1 産業規模の急速な成長

 Wohlers Associatesに記載の産業システムメーカー61社、特種材料メーカー19社、サービス分野100社および一部の家庭向け3D印刷設備メーカーの統計データ(図6)を見れば、産業向け3D印刷設備メーカーの数が増加し続けていることが分かる。

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図6 中国の3D印刷産業の分野

 産業規模が急速に拡大している。大企業23社の経営データの統計比較によれば、2016年における関係する大企業の総生産額は20.3億元で2015年の10.8億元から88.0%増であった。また、2017年上半期については総生産額が11.6億元となり、前年比50.5%増で産業規模が急速に拡大した。3D印刷産業は主に設備、材料、サービスの3つの分野で構成され、生産総額でみると設備が50.1%、材料が26.9%、サービスが23.0%を占めており、3D印刷設備だけで約半分を占めることが分かる[8]

3.2 産業構造

 中国の3D印刷産業の発展は形になりつつあり、環渤海地区と珠江デルタ、長江デルタが中核となっている。環渤海地区は3D印刷産業の発展において中国をリードする位置にあり、北京を中心として協調的に発展する産業構造となっている。長江デルタも経済発展の良好な情勢や位置条件、強大な産業基盤を構成しており、その3D印刷産業チェーンには印刷設備の研究開発、生産、サービスおよび関連設備が含まれている。珠江デルタ地区に関しては、3D印刷産業は深圳や東莞等において発展しており、主にサービス産業で運用されている。

おわりに

 鋳造や鍛造、溶接等の伝統的な製造技術においては、数百年にわたる研究や応用、発展を経て豊富な経験が蓄積されており、整った標準体系が存在する。それに比べ、3D印刷という新興技術には長期間にわたる技術の蓄積と検証が必要とされているため、大規模な応用研究が数多くなされることによって、ようやく実際の問題が発見され、解決されることになるだろう。

 イノベーションが世界を変革し、知識によって未来が育て上げられる。3D印刷の時代はもう到来しており、3D印刷技術はすでに研究開発から工業応用に向かいつつある。3D印刷は多くの国で未来産業の突破口と見なされている。3D印刷技術とインターネット、新素材の融合を加速し、将来の科学技術ならびに産業のトップを勝ち得ることが急務となっている。

参考文献:

[1] 韓霞,楊恩源.快速成型技術與応用[M].北京:機械工業出版社,2012.

[2] 梁吉祥. 3D打印技術対産品設計的影響研究[J].芸術科技,2017,30(7):261.

[3] 王飛躍. 縦社会計算到社会製造:一場即将来臨的産業革命[J].中国科学院院刊,2012,27(6):658-669.

[4] 王暁燕,曽秀妮. 3D打印技術概況[J].軽工科技,2017(10):85,87.

[5] 王紅軍.増材製造的研究現状與発展趨勢[J].北京信息科技大学学報(自然科学版),2014,29(3):20-24.

[6] 張暁艶,任金晨. 基于専利分析的3D打印技術及材料研究與応用進展[J].当代化工,2017,46(8):1651-1654.

[7] 李壮,閻亜飛,陳小莉,等.3D打印技術専利発展態勢分析[J].科学観察,2016(3):44-54.

[8] Wohlers Associates. Wohlers Report 2017[R],2017.

※本稿は程俊廷 張懌 盧建軍「浅談3D打印技術的応用与発展」(『機電信息』2018年27期、pp.96-97, 99)を『『機電信息』編集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司