中国の海水淡水化技術の分析
2019年1月7日 邱明英(中冶京誠工程技術有限公司)
概要:中国では現在、淡水資源の開発と合理的な利用に関しては戦略的なレベルにまでその重要性が引き上げられ、海水の利用は「第13次5ヵ年計画」における海洋経済イノベーション発展区域モデル事業として重点的に支援される三大産業の一つとなっている。本稿では、中国で比較的広範囲で応用されている海水淡水化技術と海水淡水化産業の発展の現状を分析し、紹介する。
キーワード:海水淡水化、逆浸透法、多段フラッシュ法、低温多重効用法
中国では淡水資源の不足が深刻であることは周知の事実である。400都市以上が年間を通して水不足の状態にあり、なかでも北部沿海地域ではその多くが水不足の最も深刻な地区の一つとなっている。淡水資源の増量技術として海水淡水化技術がますます多く実用化され、沿海地区、特に島嶼地区の水不足解決に効果を上げている。淡水資源の欠乏や水道料金の値上がりを考慮すると、海水淡水化技術の成熟や新材料の利用、海水淡水化プロセスの国産化によって整水コストの削減に効果があり、海水淡水化技術の経済コストに年々低減する傾向が見られることは、中国沿海地区における淡水資源不足の将来的な解決のための必然的な流れといえる。
海水淡水化技術やそのプロセスの種類は多く、技術は20種類以上存在し、多段フラッシュ法や低温多重効用蒸留法、逆浸透法、電気透析法、凍結法およびイオン交換法等がある。技術の成熟度や経済コストによる制約を考慮すると、現時点で国際的に商業化実用に成功している技術は主に、多段フラッシュ法(MSF)、低温多重効用蒸留法(LT-MED)および逆浸透法(SWRO)の3種類といえる[1,2]。
1 中国の主な技術
1.1 多段フラッシュ法(MSF)[3]
多段フラッシュ技術は蒸留法の一種であり、海水淡水化の中でも比較的早期に商業化された技術の一つである。海外の海水淡水化装置では1980年代以前から本技術が多く採用されている。本技術は1989年に初めて中国に導入され、天津大港電厰海水淡水化第二期プラントで実用化に成功している。ここでは多段フラッシュ装置一式すべてが米国から輸入されており、現在のところ中国で唯一の多段フラッシュ技術を採用した海水淡水化プラントとなっている。
技術プロセス:海水はまず浄化・塩素消毒による前処理を経てから蒸気により予熱されて蒸気加熱器に送られ、90℃~115℃まで加熱されてから第一フラッシュ室に送られる。それと同時にフラッシュ室内の圧力が海水の飽和蒸気圧より低く制御されることによって海水の一部が急速に蒸気となり、その蒸気はミスト除去器を経て不純物が除去された後に凝縮管束で表面が凝縮され、それが集められて淡水が得られる。そして、残りの気化されていない海水の温度を下げ、次のフラッシュ室に流し入れて一段とフラッシュの工程を経て、さらに蒸発と凝縮のプロセスを繰り返すというように、圧力を徐々に下げた一連のフラッシュ室を連結させれば淡水を連続的に生産できる。技術プロセスのフローは図1のとおり。
図1 MSF技術プロセスのフロー
この技術の主な長所は1機あたりの設備容量が大きく、生産される淡水の品質が良好であり(製品水の塩度は一般的に3~10mg/L)、設備の耐用年数が長く、造水比が高く(4万~5万m3/t規模の装置の造水比は13~14)、熱効率が高いこと等である。逆に欠点は、オペレーション時の温度は多くが110℃~120℃で、設備材料に耐腐食性の高いステンレスおよび銅ニッケル合金が使われることからプラント投資が高く、逆浸透技術プラントを採用した場合の2倍となることである。このほか、設備操作の柔軟性が低く、一般的には設計値の80%~110%であることから、産水量の変動が大きいプラントにはあまり適さない。
適用範囲:多段フラッシュ技術には運転コスト削減のため一般的に発電所の低位蒸気が熱源として利用される。この技術は大型の海水淡水化プラントに多く用いられ、石炭焚きボイラに良質な淡水を提供できるほか、生活用水にも使用できる。
1.2 低温多重効用蒸留法(LT-MED)[4]
低温多重効用蒸留法は、1980年代以降に徐々に発展し、成熟した技術である。ここでいう「低温」とは、海水の最高蒸留温度が70℃を超えないことを指す。この技術プロセスで用いられる蒸発缶は、一連の水平管噴射液膜降下式蒸発装置が順次連結されて構成される。海水は凝縮器で予熱され、脱気後に二股に分けられ、その排管の1本からは海に戻され、もう1本が原料供給管となる。スケール防止剤を加えられた原料液は、まず蒸発装置の中で温度の最も低い効用缶ユニットに導かれる。噴射システムでは原料液を最上部の冷却管に分散させ、液膜降下プロセスを上から下に向かって経た後に、海水の一部が管束内の凝縮蒸気の潜熱を吸収して気化され、冷却液は淡化水となる。また、蒸気は次の効用缶ユニットに導かれ、残りの原料液もポンプを通じて次の効用缶ユニットに送られる。この効用缶ユニットはその前に位置するユニットより操作温度が高く、蒸発および噴射プロセスが繰り返され、最終的には原料液が温度の最も高い効用缶ユニットから濃縮液となって排出される。技術プロセスのフローは図2のとおり。
図2 LT-MED技術プロセスのフロー
低温多重効用装置では約70℃、0.03~0.035MPaの蒸気を熱源として用いることができ、熱圧縮装置を採用することもできるため、システムの熱効率をさらに向上できる。現在、ほとんどの低温多重効用蒸留技術が蒸気圧縮蒸留法を採用しており、、蒸気噴射器を利用した蒸気の圧縮によって熱効率を高めているため、熱蒸気圧縮法(TVC)と呼ばれている。また、機械圧縮法プラントを採用しているものは機械式蒸気圧縮法(MVC)と呼ばれる。
その主な長所は、海水の複雑な前処理を必要とせず海水条件の多様な変化に適応できること、用地面積を減らせるため建設コストを削減できること、消費電力が非常に少ないこと(1.5kW·h/m3)、熱効率が多段フラッシュ法より高く約30℃の温度差で10前後の造水比にできること、運転温度が多段フラッシュ装置の110℃よりはるかに低く、エネルギー消費・管壁の腐食・スケール形成速度のいずれも低いにもかかわらず熱効率が高いこと、オペレーションの柔軟性が大きく、負荷範囲を110%から40%に変えても正常な操作が保たれる上に、造水比が下がらないことである。逆に欠点は、逆浸透技術と比べて設備体積が大きく、設備建設費が高いことである。
適用範囲:低温多重効用蒸留法と多段フラッシュ法の適用条件は基本的に同じである。低温多重効用蒸留技術の近年における中国での主な実用例には、河北首鋼京唐鋼鉄厰における5万m3/t規模の造水・発電の連産を行う海水淡水化プラントや、天津北疆の20万m3/t規模の第一期海水淡水化プラント等がある。
1.3 逆浸透法(SWRO)[5]
逆浸透(SWRO)技術とは、逆浸透膜の片側にある水に浸透圧より大きな圧力をかけることによって、逆浸透膜の選択透過性を利用して水分子を逆浸透膜に通し続け、逆浸透膜の出水側においてそれを集めた後、最終的に排水端から流出させる一方で、取水中の不純物を逆浸透膜の取水側に差し止め、濃縮水排水端から流出させる方法である。
逆浸透装置は高圧ポンプ、エネルギー回収装置、加圧ポンプ、逆浸透装置、周波数制御器および補助装置により構成される。海水は前処理によって浮遊物が除去された後に高圧ポンプにより増圧されて1つ目の膜エレメントに送られ、比較的高い圧力条件下でスパイラル状に巻かれた取水膜流路内を流動し、そのうちの一部の水分子は透過膜を通り、集水膜流路を経てスパイラル型膜エレメントの中心管に集められ、淡水が生産される。そして、残りの取水は水流方向にそって次の膜エレメントへと流動し、複数の連続した膜エレメントを通過することによって淡水が連続的に生産される。本技術システムの核心は逆浸透膜にある。現在、主流となっている透過膜エレメントは8インチのエレメント(直径20cm)であり、さらに大きい16インチのエレメント(直径40cm)もシンガポールの海水淡水化プラントで使用されていることから、今後の主流エレメントとなる可能性がきわめて高い。また、本技術システムでは蒸気を消費せず電力のみが消費され、電力使用量の多寡や取水中の塩分含有量、水の温度、濃縮倍率が排水水質と関係する。電力消費量は一般的に9~10kW·h/m3であり、エネルギー回収装置がある場合は必要とされるエネルギー消費量が3.5~6kW·h/m3となる。
逆浸透技術は、多段フラッシュ技術や低温多重効用蒸留技術と比べて蒸気を消費する必要がないことから、効率が高く、エネルギー消費が低く、設備に無駄がなく美観に優れ、自動制御しやすい等の長所がある。現時点では、この技術システムのほとんどは中国での国産化が実現しているが、高圧ポンプやエネルギー回収装置、一部の膜エレメントの技術はまだ模索段階にあるため、設備輸入が必要である。また、この技術の欠点は膜透過量が温度に左右されやすいことで、特に冬季の水温が低い時期には膜通過量が大幅に減少する。
適用範囲:各種海水淡水化プラントに適用する。近年の中国における代表的な実用例としては、山東青島百発の10万m3/d規模の海水淡水化プラント、山東青島董家口の10万m3/d規模の海水淡水化プラント、天津大港新泉の10万m3/d規模の海水淡水化プラント等がある。技術プロセスのフローは図3のとおり。
図3 SWRO技術プロセスのフロー
1.4 技術性能の対比
上記3種類の淡水化技術の技術性能は、次の表のとおり[6-8]。
技術名 | SWRO | LT-MED | MSF |
製品水の水質(mg/L) | 200~500 | 1~10 | 1~10 |
電力消費量(kW•h/m3) | 3.5~6.0(エネルギー回収装置あり) | 1~2 | 1.5~4 |
設備エネルギー消費(kJ/kg) | 190~400 | 190~400 | |
取水の前処理(mg/L) | 完備された前処理システムの設置が必要 | 取水濁度が20~300mg/Lを下回ることを要求 | 取水水質要求は比較的低い |
海水利用率(%) | 35~55 | 25~40(冷却水量を含む) | |
排出される海水の濃度(倍) | 1.6~1.9 | 1.5~1.8 | 1.7~2.2 |
1機あたりの最大産水量(m3/d) | 相対的に少ない | 68,190 | 91,000 |
オペレーションの柔軟性(%) | 制限なし | 40~110 | 80~110 |
上記の表から、蒸留法と逆浸透法の主な技術の違いは、取水水質に対する要求の違い、1機あたりの産水量の違い、非設計点における能力の違い、エネルギー(熱量)消費の違い等にあることがわかる。蒸留法は装置の規模や前処理システムに対する要求、排水水質、運転の信頼性および電力消費の面で顕著な優位性があるが、エネルギー消費総量は逆浸透法より高い。一方、海水使用量から見れば逆浸透法は水利用率が高いことから、取水量が少なくてすむ。また、非設計点における能力から見れば、逆浸透法には制限がない。
2 中国における海水淡水化の現状[9,10]
中国では現在、淡水資源の開発と合理的な利用に関しては戦略的なレベルにまでその重要性が引き上げられ、海水の利用は「第13次5ヵ年計画」における海洋経済イノベーション発展区域モデル事業として重点的に支援される三大産業の一つとなっている。「全国の海水利用に関する第13次5ヵ年計画」においては、2020年末までに中国国内の海水淡水化プラントの生産能力を220万m3/d以上に、沿海都市における新規の海水淡水化プラントの規模を105万m3/d以上にし、海水利用の大規模実用の実現を目指すことが明記されている。
2016年末現在、中国では海水淡水化プラントが131件建造されており、産水能力は118.80万m3/dに達している。このうち、2016年における海水淡水化プラントの新規生産能力は17.90万m3/dであった。技術の実用化に関しては、中国の海水淡水化プラントでは逆浸透技術および低温多重効用蒸留技術が多く採用されており、逆浸透技術を採用している海水淡水化プラントは合計112件で生産能力は81.26万m3/dに達し、総生産能力の68.40%を占める。一方、低温多重効用蒸留技術を採用しているプラントは16件でプラント総規模は36.92万m3/dに達し、総生産能力の31.07%を占める。また、多段フラッシュ技術を採用しているプラントは1件だけで、プラント規模は約0.6万m3/dで総生産能力のわずか0.50%に過ぎない。中国における海水淡水化プラントの2016年の年間産水コストは5~8元/m3で、これには主に電力消費コスト、蒸気消費コスト、薬剤消費コスト、膜交換コスト、労働力コスト、減価償却コストとメンテナンスコスト等が含まれる。このうち、1日あたりの産水能力が1万トン級以上のプラントの産水コストは平均6.22元/tで、1日あたりの産水能力が1千トン級のプラントの産水コストは平均7.2元/tである。
3 まとめ
海水淡水化技術を代表とする海水利用技術は、中国の淡水資源不足を解決する重要な方法となっている。中国では逆浸透法と多重効用蒸留法が主となっており、なかでも逆浸透技術はその利便性や汎用性によって市場が拡大しつつある。海水淡水化方法はそれぞれに長所があり、その用途は異なり、相互に代替不能である。このため、海水淡水化技術に対する充分な理解を土台に、現地の環境特性や運行目標に基づいて具体的な経済技術分析と慎重な選択を行い、地域の経済発展によりふさわしいプラント計画を選ぶ必要がある。
参考文献:
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[10] 国家海洋局.2016年全国海水利用報告[R].2017.
※本稿は邱明英「浅析我国海水淡化技術」(『中国環保産業』2018年03期)を『中国環保産業』編集部の許可を得て日本語訳/転載したものである。記事提供:記事提供:同方知網(北京)技術有限公司