第147号
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新興スマホメーカー「小米(シャオミ)」―凋落と復活・インド市場No.1に至るまで

2018年12月19日

須賀昭一(すが しょういち): 伊藤忠経済研究所

略歴

2003年、内閣府入府。北京大学大学院(政治経済学)留学、「月例経済報告」の中国経済分析担当の参事官補佐、国家戦略会議フロンティア分科会委員などを経て、2015年から現職。主に中国の経済・産 業の調査分析に従事。

設立わずか数年で中国市場を制したシャオミ。かつての熱狂は色褪せたものの、スマホ以外に事業の幅を広げるとともに海外進出も進め、昨年はインドのスマホ市場で売上げトップに。過 去の成功にすがることなくしぶとく変化を続けるシャオミの市場戦略とは?

 中国事情やスマホ事情へのアンテナが高い人なら「小米(以下、シャオミ)」の名前は耳にしたことがあるだろう。登場してわずか数年で中国市場の頂点に駆け上ったスマホメーカーだ。現在、中国市場ではかつてほどの勢いはないがスマホブランドとして定着するとともにIT家電まで手掛ける企業に成長、7月には香港株式市場に上場した。同時に海外市場の開拓も進め、昨年はインド市場で首位を獲得している。

 設立からわずか8年の間に山あり谷ありを経験しながら成長を続けるシャオミの軌跡を見てみたい。

 シャオミは、2010年にソフトウェア開発会社出身の雷軍氏らが設立した。当初シャオミは、①ハイスペックながら低価格、②スマホ界の無印良品と称されるシンプルなデザイン・ファッション性、③ 1年間1モデルだけ、しかもオンラインでの予約購入に限定という希少性、を売りにスマホ市場に参入。他とは一線を画すシャオミの戦略は、「米粉(ミーフェン: 粉フェンはfanも意味することから、「米粉」は 元々意味するビーフンと、シャオミ製品ファンをかけた造語)」と呼ばれる熱烈な支持者を生み、彼らはシャオミの宣伝・普及を後押しした。

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写真:新機種のプレゼンをする雷軍CEO。同氏は「中国のジョブス」、また、熱烈なファンからは「米神」と呼ばれるカリスマ経営者である。 撮影/中 国新聞社記者 李慧思

 また、シャオミは、「中国のApple」とも称されている。これは、革新性もさることながら、スマホの外形がiPhoneに似ていること、1年間に1モデル投入という戦略がiPhone販売戦略に似ていること、雷軍氏のプレゼンがApple創始者のスティーブ・ジョブスそっくりと言われていること、などによる。

 こうした戦略が功を奏し、シャオミは2014年には中国のスマホ市場でシェア1位を獲得したが、早くもその2年後には5位に転落した。これは、格安モデルの導入や実店舗での販売などによって、シ ャオミのブランド性を支えていた販売戦略を変えたことが原因と言われている。ただ、希少性を売りにした販売戦略は、スマホ市場の成長が右肩上がりの時代しか通用しないという見方もあるように、遅 かれ早かれ転換せざるを得なかったかもしれない。

 シャオミの中国市場戦略の方向転換は軌道に乗り、2017年の中国での販売台数は4位に回復したが、かつてシャオミの後塵を拝していた国内メーカーも追い上げてくるなど、中 国国内のスマホ市場は激しい競争状態が続いている。

 こうした状況下でシャオミは2014年にインド市場に進出、そのわずか3年後の2017年にはシェア1位を獲得した。雷軍氏も、「インド市場はすでに中国本土市場より優先度が高い市場」と まで発言するなど、今やシャオミにとってインドは最重要市場である。

 インドに進出したシャオミは、かつて中国を席巻した際の販売戦略――高性能だがリーズナブルで洗練されたデザインのスマホを、オンラインのみで販売――を打ち出した。この販売戦略はインドでも当たり、シャオミのインド進出は好調に滑り出した。

 ただ、雷軍氏は、中国市場での失敗から、希少性に訴えた販売戦略は一過性に過ぎず、競争の激しいスマホ市場で生存していくためにはサプライチェーンの強化が重要と考えるようになった。そこでシャオミは、インド進出の翌年には「Made in India計画」を打ち出し、工場を続々設立。部品供給サプライヤーに対してもインド生産を呼びかけるなど、インド国内でのサプライチェーンの構築を進めており、す でに販売機種の95%以上はインド製と言われている。現地生産化は、モディ首相が進める「Made in India」の政策方針にも合致、シャオミはインド政府とも良好な関係を構築している。

 さらに、雷軍氏はシャオミ・インドのトップにインドのインターネット業界の著名人物を据えて、大幅な裁量を与えた。インド人主導の経営体制、400万人以上と言われているインド版米粉「MI fan」の 活動、スター女優のブランドアンバサダーへの起用などを通じて、シャオミはインドに根差したブランドとしてのイメージを確立しつつある。2017年7月に中印関係が悪化した際に、インド国内では中国製品購入拒否の運動が広がったが、「MI fan」たちは、シャオミ製品の支持を表明した。

 そして、今年の8月末、インドでの展開を主眼としたサブブランド「POCO」を発表。POCOはこれまでの機種より価格もスペックも大幅に高く、シャオミにとっては、ス マホ市場が草創期から次の段階に移行しつつあるインドでの新たな挑戦となる。

 危機やチャンスに直面するたびに柔軟に変化し飛躍してきたシャオミの軌跡。それは、中国市場やスマホ市場の競争の激しさ、変化の速さを象徴するとともに、そこで生き延びていくヒントを示している。

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※データの出所はIDC


※本稿は『月刊中国ニュース』2019年1月号(Vol.83)より転載したものである。