第148号
トップ  > 科学技術トピック>  第148号 >  中国の知恵が詰まった「人工太陽」

中国の知恵が詰まった「人工太陽」

2019年1月11日 房琳琳(科技日報記者)

----中国も他の極と同等の立場で国際巨大科学プロジェクト・ITER計画に参加

 核融合エネルギーの実用化を目指す国際熱核融合実験炉(ITER)は「人工太陽」と呼ばれ、トカマク型と呼ばれる装置を採用して、磁場の力を利用して超高温のプラズマを制御し、最終的に核融合反応の際に放出されるエネルギーを利用する。2050年ごろまでに、核融合エネルギーの実用化を実現したい考えだ。

img

現在建造中のITER

 中国は、2003年からITER計画に参加している。2007年にはITER国際核融合エネルギー機構が設立された。中国は、ITER計画に参加する7極のうちの1極で、他の参加国・地域の欧州連合(EU)、インド、日本、韓国、ロシア、米国と共に、この計画をサポートし、建設工事の18種類の大型部品の製造、納品を担っている。

 ITERのベルナール・ビゴ機構長は、「中国は非常に素晴らしい提携パートナーだ」と称賛している。核融合に関する欧州共同プログラム、「EUROfusion」の責任者・Tony·Donné氏も「中国は短期間のうちに、核融合科学の分野で重要な存在になった」と評価する。このような称賛や高評価を得ると同時に、中国はこの11年間、どんな貴重な経験をしたのだろう?科技日報の記者はこのほど、中国国際核融合エネルギー源計画執行センターの羅徳隆センター長を取材した。羅センター長は、中国がITER計画の協議に派遣した代表団のメンバーの一人だ。

グローバル化+標準化 備えあれば患いなし

 ITER計画の規模は、国際巨大科学プロジェクト・国際宇宙ステーションに次ぐ大規模計画。1985年に提唱されてから、20年以上も推進が続く、世界最大規模で、大きな影響力を持つ国際科学研究協力プロジェクトの一つだ。

 この国際巨大科学プロジェクトの難度は想像をはるかに超えている。

 フランス南部にあるサン=ポール=レ=デュランスにある180ヘクタールの建設予定地で、参加7極のエンジニアチームが毎日、意思の疎通と調和を図り、プロジェクトを管理し、計画全体をまとめるなど、煩雑で繊細な作業に挑んでいる。

 中国は当初、実験炉の設計には参加していなかった。ITER計画に正式に参加するうえでの一番の困難は、学会と国際協力パートナーと、一つの談話システム、業務メカニズムの中で、平等な対話、全ての過程に参加する権利を保持することだった。

 羅センター長率いるチームは、丸3年かけて、ITER機構のメカニズムと完全にマッチした標準化プロジェクト管理体系を制定し課題を導き出した。

 どのくらい繊細かというと、例えば、ネジをどこで生産し、どのように現場まで運ぶのか、どこを経由し、いつ取り付けるのかなどの詳細に至るまで一つ一つを明確に記録し、問題が発生すると、全ての過程を追跡できる仕組みになっており、将来実験炉の運転が始まった時に、どこに問題があったかを突き止めることができるようにしている。

「備えあれば患いなしと言うように、全てのプロジェクト管理、協調を、同じ談話システム、標準体系の下で行えば、意思の疎通がスムーズになり、余分な時間が力を使う必要がなくなり、作業の効率が大幅に向上することを事実は示している。運行、管理のグローバル化により、中国は肝心な時にプロジェクトをめぐる難題を解決するための仕組みや時間を確保することができる」。

難題を解決、「中国製」に称賛の声集まる

 中国が担っている18種類の大型部品には、マグネットサポート、補正コイルシステム、Feeder & CLシステム、ガス注入システム、診断システムなど重要な部品が含まれる。同計画では、このプロジェクトに必要な全ての大型部品が2021年に揃う計画だ。

 ビゴ機構長は、「中国は、期日通りに、品質の良い部品を納品しており、提携者の中で模範的な存在だ」と称する。「中国製」がITER機構内部でこのように評判が良いのはなぜだろうか?羅センター長は、興味深いケースを挙げて説明してくれた。

 最初に設計されたバージョンでは、オールインワンの蒸気コンデンセイトドラムで、装置の一番上に取り付けられる予定だった。しかし、計画を進めていくと、その設計には大きな危険が隠れていることが分かり、蒸気コンデンセイトドラムを4機に分解し、基礎を作る前に、地下に埋めなければならなくなった。

 この設計の変更により、蒸気コンデンセイトドラムの生産計画と、納品期日が大幅に早まった。マニュアルに基づき、ITER機構は、参加者全てを対象に入札を募集した。一刻の猶予もなく、この難関を突破しなければならない状況となった。そんな中、中国の核融合センターは、「できることはしなければならない。中国には難関を突破する自信がある」と、すぐに国内の関連機関を組織し、実行可能な解決策を提出した。すると、製造能力、コストから納品期日に至るまで、ITER機構の要求に沿っており、それを超える部分もあったため、総合的に検討されたうえで、中国が落札した。

 「以前の受動的に部品の製造を担い、『言われたことをやる』だけの状態から、設計の最適化に参加して『積極的に最善策を考える』ようになり、私たちは貴重な知識、設計理念を学び、貴重な経験となった。そして、ITER機構とウィンウィンの関係を築くことができた」。

秩序ある人材育成 適切な組織管理

 ITERの装置は非常に複雑な構成で、先導技術によるサポートが必要だ。18種類の大型部品の製造、納品の任務は、中国国内の100以上の科学研究院所と企業が担っている。

 中国の科学技術部が開催した中国がITER参加の10年-回顧と展望をテーマにした会議で、中国科学院の院士・万元熙氏は、「中国の超伝導技術は、ITERのおかげで目覚ましい発展を遂げた。例えば、ハイレベルの連続波加熱、リモートコントロールロボットメンテナンス・材料、大型低温システム、大型電源など、中国は核融合の各分野で急速に発展しており、世界の先頭を走っている」と述べた。

 11年前、ITERを契機に、中国国内の人材育成を推進するため、4省庁の委員会は人材育成計画を策定し、4年間で、1000人のエンジニアリング、物理、管理関連の人材を育成した。そして、それら人材が現在、中国の核融合をめぐる偉大な事業に携わっている。

 中国は、中国トカマク装置二号A(HL-2A)と超電導トカマク型核融合実験装置(EAST」を相次いで製造し、アップグレードさせてきた。前者は2009年に、中国国内で初めてH-モード運行を実現した。後者は2017年に初めてプラズマガスの放出を102秒間持続させることに成功し、2018年には、高温プラズマ中心の電子温度が初めて摂氏1億度に達した。

 これら実験成果は、将来のITERの運行や「中国核融合工学実験炉・CFETR」のプロジェクトと物理設計において、重要な実験的根拠と科学的サポートに役立っている。

 中国の核融合技術の能力の向上に並行して、巨大科学工学プロジェクト・計画の管理水準も大幅に進歩している。

 この11年間、ITER機構の中国人職員数は増加の一途をたどっており、その割合は9%を超え、EUに次いで2番目に多くなっている。

 羅センター長は、「ITER計画に参加することで、中国は、国際ルールに精通する科学プロジェクトの管理人材を育成することができた。そして、将来、中国が国際的な巨大科学プロジェクト・計画で先頭に立つための人材的基礎が築かれた。現在、我々は、テクノロジー外交や国際協力展開において、さらに大きな発言権を持ち、さらに大きな影響力を持てるようにするために、さらに多くのハイレベル管理人材を育成し、国際組織に送り込まなければならない」との見方を示す。

規制概念にとらわれない企業のイノベーション 最先端工業製品を輸出

 ビゴ機構長は、「ITERは、経済発展促進や、イノベーション奨励において、大きな意義がある。工業投資を通して、企業はプロジェクトの必要に応じて、元々需要があまりない材料を大量に生産することができる。そして、製造を引き受けた部品の製造ノウハウを把握し、生活や生産の多くの分野の発展を促進することができる」との見方を示す。

 羅センター長もその見方に同意している。中国で発生したケースでもその見方が正しいことを示している。

 ITER装置には、直径0.8ミリ以内の超伝導線材が必要で、1万本以上の細い線を何層もの複数の材料で包まなければならない。問題は、このような精密な超伝導コイルが長さにして1キロ以上必要だったことだ。

 このため研究開発を担う西北有色金属研究院は、専門の会社を立ち上げ、コア技術をめぐるブレイクスルーを果たした。

「『コア技術について時間不足で準備できず技術が掌握できなかったらどうするのか?最先端の線材を輸入して放棄するのか?もし、研究開発できなかったら、他社製品を輸入して使ってそれでいいのか』と、西北有色金属研究院に伝えた。そのような、刺激して発奮させる方法をとったことで、研究開発チームは大きなプレッシャーを感じていたが、わずか10ヶ月という限られた時間内で、ネックになっていた難題を解決し、十分な長さのある、性能の高い超伝導コイルを製造できた」と羅センター長。

 中国はITER計画を通して、その技術の空白を埋め、コア技術の独自の知的財産権を手に入れた。その超伝導線材は、実際にITER装置に使われただけでなく、核磁気共鳴設備などの民用製品にも応用され、世界に輸出されており、世界公認の最先端超伝導線材となっている。

「企業が最先端技術のイノベーションを展開し、世界を舞台にした熾烈な競争に参加し、民用製品や経済の分野で技術的優位性を確保するよう推進するというのが、中国がITERという巨大科学プロジェクトに参加する大きな意義となっている」と、羅センター長は目を細める。


※本稿は、科技日報「中国智慧点亮"人造太陽"」(2018年12月18日付9面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。