四川省:基礎研究支援体制の構築に注力
2019年1月23日 盛利(科技日報記者)
「カチオン-π」動的共有結合を利用して架橋構造を持つ新型の高性能高分子材料を構築という研究成果が材料・科学分野の学術誌『先進材料』で発表され、被引用数が世界上位1%であることを意味するESIの高被引用論文(Highly Cited Papers)のランキング入りを果たした。このプロジェクトを率いる研究グループのリーダーは無名の西南科技大学に所属している。
「この研究プロジェクトは、中国が熱硬化性の高性能高分子の回収・再利用の分野で世界最先端の研究を行っていることを象徴している。将来、金属イオンによる水質汚染や二酸化炭素の大量排出対策において貢献するだろう」とプロジェクトリーダーの常冠軍氏は語る。
中国西部地区の科学技術大省である四川省では、現在、イノベーション能力向上の核心となる基礎研究が非常に重視されている。加えてオリジナリティのある研究成果や既成概念を覆すような技術、中核基盤技術等におけるイノベーションやブレイクスルーを加速させることが四川省経済の質の高い発展に対する強力な下支えとなっている。
新政策の「集中的実施」で重点実験室をレベルアップ
昨年5月、四川省では初となる「省部共建国家重点実験室」(国と省が共同設置を行う国家重点ラボ)として「環境友好能源材料国家重点実験室」(環境にやさしいエネルギー・材料に関する国家重点ラボ)の設置作業がスタートした。産業発展の最先端や重点研究分野に関して、四川省はすでに14ヵ所の国家重点実験室が設置され、これを基盤として省傘下の高等教育機関においてハイレベル国家イノベーション基地の設立が積極的に支援されており、四川省重点実験室の質の向上・優秀人材の育成も同時に進められている。
「まずは自分のポケットをいっぱいにして、その中からより良いものを取り出すという作戦だ」。環境友好能源材料国家重点実験室の副研究員で、今年36歳になる常氏は記者にこう語った。彼自身も2015年、2016年と続けて国家自然科学基金プロジェクトや四川省科技庁の傑出青年科技人材プロジェクトによる資金援助を受けている。
「オリジナリティのあるものを作りだすには、落ち着いて取り組むことが重要だ。きっかけさえつかめば、成果は次々とついてくる。」常氏によれば、カチオン-πの作用とはカチオンと芳香族化合物の間に存在する相互作用であり、新型の分子間相互作用として認識されている。「われわれは4~5年にかけてこの研究を進めており、すでに新素材や汚染対策、クリーンエネルギーの利用等の分野で大量の先進的成果を得ている」と彼は続ける。
昨年以降、四川省では重点実験室の建設や管理に関する新政策「集中的実施期」を迎えており、「重組一批、提昇一批、新建一批」(大量再編・グレードアップ・新設)という戦略に基づき四川省内の既存の重点実験室の分類業務を実施している。四川省科技庁基礎研究処の副処長華莉氏によれば、四川省の重点実験室はすでに116ヵ所に達しており、近代農業や電子情報、機械工学等、30以上の学問分野に及び、四川省における基礎研究や応用基礎研究の推進、優秀な科学技術人材の集積と育成、ハイレベルな学術交流の実施の場となっており、先進的な研究設備を備える重要基地となっている。「将来的には、実験室における科学技術成果の実用面への転化をさらに推進し、高品質な科学技術成果を省全体の経済・社会の発展を促す実際の生産力へと着実に転化していく」と決意を示す。
需要主導型の広大な「ステージ」を築く
昨年12月、四川省政府は国家自然科学基金委員会と北京で合意書を締結した。これによって四川省は国家自然科学基金の地域イノベーション発展聯合基金に正式に加盟することになり、双方は6億元を共同出資し、四川省における優良産業分野の基礎研究を支援することとなった。
四川省では長年にわたり、軌道交通や地質・災害、中医学・中薬(漢方薬)、生物医学等のさまざまな基礎研究分野において需要主導型の基礎研究が行われ、多くの成果が生まれてきた。最近開催された国家科技奨励大会においても、四川大学の楊勝勇教授の研究グループによる「ファーマコフォアモデルに基づくオリジナルな小分子標的薬の発見」と王清遠教授の研究チームによる「超長寿命疲労クラック発生のメカニズムおよび寿命予測」の2つのプロジェクトが国家自然科学賞で2等賞を受賞した。
「四川省は中薬大省である。中国西南部の豊富で特色ある生薬資源と優れた産業的アドバンテージを基盤に、中薬産業を資源集約型から技術集約型へと着実に転換させるには、基礎研究と応用基礎研究が必要である」。基礎研究の意義に話が及ぶと、成都中医薬大学西南特色中薬資源重点実験室主任の彭成氏は、「応用性の比較的高い中薬分野であっても、基礎研究を強化し、中薬資源の保護や持続可能な発展といった問題や、中薬品質基準や作用原理・効果的な応用等の段階における重要問題を解決することは、中薬産業の発展と学問分野の構築に関わる核心となる」と語り、「われわれは今後、中国西南部の特色ある中薬資源における遺伝資源の保存とイノベーション、そして中薬の多次元評価・中薬資源の実用化メカニズム・制御の3つの分野における重要問題に関して理論と実験の面から基礎研究を行い、中薬資源研究における思考と技術のオリジナリティを全面的に高めることで、四川省を中薬大省から中薬強省へと発展させる」と続けた。
支援体制の整備によって基礎研究に有力な保障を提供
四川省科技庁の陳学華副庁長によれば、中国共産党四川省委員会と四川省政府は長年にわたって基礎研究を重視しており、基礎研究に対する投資を継続的に拡大させ、支援体制の整備を続けており、全省における基礎研究の支援に有力な保障を行っている。全省の基礎研究経費に関する支出は2011年の20億7千万元から2017年には36億9千万元に増え、75%以上増加した。また、2017年に四川省では国家自然科学基金による研究系プロジェクトと人材系プロジェクトの資金援助を1453件獲得しており、その金額は6億3763万5000元に及び、それぞれ前年比で8.1%増と14.7%増となっている。
四川省では今年から、既存の四川省応用基礎研究(需要主導型)、傑出青年科学技術人材、青年科学技術イノベーション研究グループや重点実験室等の基礎研究プロジェクトをベースとして、さらに初めて応用基礎研究(自由探索型)プロジェクトを実験的に設置し、全省の経済・社会発展に関する戦略的・基礎的・先見的な重大科学問題に引き続き焦点を合わせ、基礎研究と応用基礎研究が行われている。
「四川省は基礎研究大省で、科学技術者38万人を擁し、基礎研究と応用基礎研究プロジェクトに対する資金援助の需要も旺盛である」と華氏は話す。また、応用基礎研究(自由探索型)プロジェクトに関しては基礎研究のルールを守りつつも研究分野や方向性を設定せずに自由にテーマを選ばせることで研究者のイノベーティブな思考の活力を引き出すようにしているという。このため、重点的な支援年齢は40歳以下の研究者とし、若い人材の自由な創造を最大限に支援・育成し、研究者、特に若い人材が基礎研究に対する積極性を堅持するよう導いていくということだ。
そして最後に、「われわれは純粋で自由な模索を支援することによって、オリジナルな成果や、従来技術・中核基盤技術といったいわば『古い障子紙』を突き破るような新たな『ひらめき』がさらに多く出現し、よりオリジナリティが高く、基礎的な発見や発明がさらに多く登場することを期待している」と彼女は語り、将来を展望した。
※本稿は、科技日報「四川:着力構建基礎研究支持体系」(2019年1月10日付3面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。