第149号
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上海のハイテクが産業化の急成長段階に

2019年2月26日 侯樹文(科技日報実習生)/王春(科技日報記者)

視覚中国より

企業のコア競争力を持続させるハイテク成果実用化プロジェクト認定制度―

 科学研究成果が実験室を出て、市場で商品化されるまでに、さまざまな課題をクリアしなければならず、体制やメカニズムといった足かせが存在する。ボトルネックを打破し、イノベーション技術をスムーズに実用化するためには、市場の各段階を緊密にマッチングさせ、共にテクノロジーイノベーションバリューチェーンを連結、構築しなければならない。

 中国のインターネットサービス企業トップ100に入る上海二三四五金融科技有限公司の「人工智能(AI)アルゴリズムに基づく的を絞ったマーケティングシステム」と「ビッグデータに基づくパーソナライゼーションモバイルアプリケーション配布システム」がこのほど、上海市ハイテク成果実用化プロジェクトに認定された。この2つの技術成果は、今後、ウェブディレクトリ・2345.comのソフトウェアやアプリの産業化に活用される。同社は技術研究開発スタッフが約70%を占めるハイテク企業で、ハイテク成果実用化プロジェクト認定後、同プロジェクトに参加する中核技術の開発者は、上海の戸籍を取得できる資格を得ることになる。同社を含めて、認定を受けたプロジェクトを実施する企業は、財政資金や職階の評価・選考などのサポート政策を享受できるようになる。

 1998年からハイテク成果実用化促進政策が実施されて以降、上海は、成果の移転・実用化において足かせとなっている主な問題や手薄な部分にスポットを当て、積極的にテクノロジー成果の実用化の良好な生態環境づくりを行ってきた。20年の発展の過程で、上海のハイテク成果実用化プロジェクト認定政策は、新興産業化プロジェクトを重点的にサポートし、認証を受けた企業がプロジェクトを長期にわたって持続させ、技術成果一つ一つをできるだけ早く市場に投入し、イノベーション成果を迅速に経済の原動力へと実用化するための「レール」を敷いている。

企業の発展の節目となる時期に継続したサポート

 ハイテク成果実用化プロジェクトに多く認定されているのは、電子情報、バイオ医薬品・新医薬品、航空・宇宙飛行、新材料、先端製造・自動化などの新興産業技術で、そのうち、マイクロ電子技術系(集積回路)プロジェクトの販売実現率が84.85%に達し、電子情報の分野でトップに立っている。

 集積回路製品が継続的にアップグレードするにつれ、集積回路設計に携わる企業は業界の発展の動向の行方を正しく見極め、それに合わせてすぐにイノベーションの方向性を調整し、イノベーション成果を成熟した製品に実用化して市場に投入しなければならない。上海富瀚微電子股份有限公司は、2004年に設立されてから、2017年に新興企業向け市場・創業板(チャイネクスト)に上場するまでの、発展の過程でカギとなる時期に、ハイテク成果実用化プロジェクト政策のサポートをずっと受け、スタートアップ企業としてイノベーションをめぐるさまざまなハードルを越えることができた。

 2012年、スマートフォンを代表とするコンシューマー・エレクトロニクスが、新たな技術革新を牽引していた。富瀚微電子は、セキュリティ監視の分野の画像処理チップの分野では、相補型金属酸化膜半導体(CMOS)技術が主導的存在になると予測して、早くから研究開発を行い、新たな技術革新に備えたことが功を奏し、市場で主導権を握るようになった。当時、富瀚微電子のFH8510ISPチッププロジェクトの成果は、CCDイメージセンサがリードしていたセキュリティ監視カメラの分野に革新をもたらし、業界をCMOS時代へと導いた。それまで、従来のCCD技術は日本のソニーがリードし、センサと画像処理チップを一体化させているため、中国国内ではソニーの言い値となっていた。富瀚微電子の万建軍副社長は、「従来のCCDと比べると、CMOS技術は、消費電力が少なく、映像が一層鮮明で、画素生産能力が高いなどのメリットがある」と説明する。

 そして、「当プロジェクトの産業化による効果は、川上のサプライヤーにも商機をもたらした。ハイテク成果実用化プロジェクト認定は、企業が技術的側面のコア競争力を有していることを証明しており、技術や商品の市場へのPRという面でも大きな効果があった。その後も、当社は監視カメラを中心とする製品に使う一連の画像処理チップを相次いで開発した。例えば、2015年にFH8810チップの成果により、当社は、業務用セキュリティネットワークビデオカメラ市場に本格的に参入することができた。当社は同プロジェクトを通して、トータルソリューションを提供する力を備えることができた。2015--17年、当社の12の集積回路製品設計プロジェクトが相次いで認定を受けた。2017年の時点で、売上高は約4億元(1元は約16.5円)、利益は約2億元に達し、産業化効果は非常に顕著だ」と語った。

成果の市場進出をサポート

 富瀚微電子と同じく、長期にわたってハイテク成果実用化プロジェクト認定のサポートを受けた華東理工大学華昌聚合物有限公司は1981年から、ビニール・エステル樹脂の成果の実用化と産業化を行っていた。だが、テクノロジー成果を実用化できる管理体制や経営メカニズムが整っていなかったのに加えて、融資を受ける能力とルートもなく、暗礁に乗り上げた状態に陥っていた。しかし、1990年代以降、同社の10以上のプロジェクトがハイテク成果実用化プロジェクトの認定を受けた。そのうち、「MFEビニール・エステル樹脂」プロジェクトは、生産開始後、売上高が累計45億元に達している。長年の成果の実用化を経て、同技術を使った製品は、化学工業・防腐、交通運輸、環境保護、新エネルギーなどの分野に広く応用され、10年以上連続で、中国国内市場シェアトップの座を守り、多国籍企業の独占状態を打破した。同社は、中国のビニール・エステル樹脂の分野を牽引する地位を確立している。

 その後も、同社は市場のニーズに合わせた製品の研究開発を行い、さまざまな性能と用途を持つ化学工業・防腐製品を開発してきた。そして、ビニール・エステル樹脂など応用の分野を拡大し続け、「ゼロ」から各応用分野をカバーする商品体系を形成するまでに成長し、その商品も耐腐食性材料から、構造材料、機能構造一体化材料へと変化してきた。

 上海市テクノロジー起業センターの彭建平・副センター長は、「他のサポート政策と違う点は、ハイテク成果実用化プロジェクト認定政策が、プロジェクトに対する継続的なサポートを通して、企業の発展を助ける唯一の政策である点だ。プロジェクトは市場に進出しなければ、大きな政策的利益を実現できない。ハイテク成果の市場進出をサポートし、企業の市場における競争力を継続的に強化するというのが、この政策の核心だ。一つの企業が、複数のプロジェクトを、ハイテク成果実用化プロジェクトとして認定してもらうよう申請することができる。プロジェクト1件に対して最低5年、最長で8年サポートを行う。プロジェクトが市場での販売にまで到達すれば、財政資金からプロジェクトの研究開発に対してインセンティブが与えられる。そのような継続的なサポートを通して、企業が市場の需要に照準を合わせてイノベーションを行うよう牽引することができ、人材構造や産業構造も継続的に最適化できる」と政策のメリットを説明する。

企業のために各種リソースを確保

 上海市テクノロジー起業センターの赤い壁には、「上海市テクノロジーイノベーション政策ワンストップサービス」と大きく、目立って書かれている。同センターには、上海市科学技術委員会、財政局、人力資源・社会保障局、市場監督・管理局、知的財産権局、商務委員会などが集まり、ハイテク成果実用化プロジェクト認定に関する、上海市の各委員会、弁公室(事務局)のさまざまな機能、職責を担っている。

 企業のハイレベル人材に対するニーズは非常に高い。しかし、人材は上海戸籍の取得や職階の評価・選考などの面で難しい問題に直面する。上海市ハイテク成果実用化プロジェクト認定政策は、人材に対する奨励、人材誘致などの方法で、企業が人材を育成し、人材を確保できるようサポートしている。例えばハイテク成果実用化プロジェクト認定に参加する企業において、中核技術の開発者は、「ワンストップサービス」にある人力資源・社会保障局を通して、上海の戸籍取得を申請することができる。

 2015年、「上海市労働模範」の称号を授与された孫剛さんは、上海金発科技発展有限公司がハイテク成果実用化プロジェクト認定政策を通して、確保したハイレベル人材だ。孫さんが責任者を務めて開発した上海市科学研究ブレイクスループロジェクト「ハロゲンフリー防炎加工強化イソタクチックポリプロピレン」は、ハイテク成果実用化プロジェクトの認定を受けた。プロジェクトに欠かせない技術を持つ孫さんは、商品の量産化の過程で、生産ノウハウに基づいて、自ら指導を行い、技術を伝え、その場で量産における問題を解決し、成果の迅速な産業化を実現した。同プロジェクトは、実行期間中の売上高が累計1800万元に達し、利益と税金が合わせて270万元に達した。ここ5年、同製品の売上高は累計9億5000万元に達している。それにより、孫さんはハイテク成果実用化プロジェクト認定政策の人材誘致対象になった。

 また、ハイテク成果実用化プロジェクト認定のサポートを通して、加冷松芝も2017年にプロジェクトにおける中堅技術者2人が、人材誘致を通して、上海の戸籍を取得した。加冷松芝によるハイテク成果実用化プロジェクト関連の持続的イノベーションが優れた経済的効果を上げた、ここ3年、製品を中東、ロシア、トルコなどに輸出している。

 ハイテク成果実用化プロジェクト認定政策は、成果を速やかに実用化しているだけでなく、実用化の過程において必要な人材の戸籍に関する悩みを解決し、企業の様々な財産を確保できるようサポートしている。

ハイテク成果実用化プロジェクト認定によるサポート実施20年

 ハイテク成果実用化プロジェクト認定は、上海市科学技術委員会の資金がバックアップするプロジェクトだ。関係規定によると、ハイテク成果を活用して、初めて実用化を実現し、サンプルや試作機、サービスなどを作ったプロジェクトは、その認定を申請できる。認定を受けたプロジェクトは、認定の有効期間内、上海市ハイテク成果実用化財政資金や、融資利子補給、人材誘致、職階評価・選考などの面の優待政策のサポートを申請することができる。

 うち、財政特定項目資金サポートは、上海市財政当局が特定項目資金を支出してサポートし、職階評価・選考は、上海市ハイテク成果実用化系高級専門技術職務担当資格評価・選考委員会が担当し、上海市のハイテク成果実用化に貢献している工学技術者、経営管理スタッフ、技術移転・実用化の仲介サービス組織のスタッフの担当資格を評価・選考する。人材誘致の面では、テクノロジー成果実用化プロジェクトの認可を受けた企業が誘致したテクノロジー人材、技能人材は、上海市の戸籍取得を直接申請できる。戸籍取得の条件を満たしていない場合は、関係規定に基づき、まず、「上海市居住証」を取得し、その後「居住証」を戸籍に変える手続きを行うことができる。

 上海ハイテク成果実用化プロジェクト認定政策は実施が始まって既に20年が経過した。2018年末の時点で、上海市では、その認定を受けたプロジェクトは累計1万2118件、支出された財政資金は86億2000元、融資利子補給は1億6900万元、ハイテク成果実用化プロジェクト実施のための誘致人材は約2600人、成果実用化類で中・高級職階の評価・選考を受けた人材は約9300人に達している。テクノロジー企業の独自イノベーション能力を向上させ、上海のハイテク産業の発展を加速させ、上海経済のモデル転換させるための良い基礎が築かれている。


※本稿は、科技日報「上海高新技術駛入産業化快車道」(2019年2月14日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。