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民間ロケット、商業化の「悩みの種」

2019年2月14日 姜璇(『中国新聞週刊』記者)/桑山未央(翻訳)

 2015年頃に商業化の機運が生まれてから3年、中国の民間宇宙航空企業の進歩は、商業宇宙事業の全過程を賄う「自己循環メカニズム」を端緒的にせよすでに確立するところまできている。つまり、人工衛星やロケットの設計・開発・製造、打ち上げから軌道上での運用、さらには商業的応用に至る全プロセスを実現する力をもっているということだ。ここからどうやって本格的な商業化を実現していくかが、いま業界全体が直面する「大テーマ」だ。

 2018年10月末、中国の民間宇宙航空企業ランドスペース〔藍箭航天〕は、甘粛省の酒泉衛星センターで、中国初のキャリアロケット打ち上げを実施した。ロケットが打ち上げられたとき、現場のスタッフから万雷の拍手が起こったが、残念ながら、衛星の軌道投入の知らせが来ることはなかった。キャリアロケット「朱雀一号」は、三段目の固体ロケットにトラブルが発生してしまったため、同ロケットに搭載していた中国中央テレビ〔CCTV〕総合チャンネルの番組『加油向未来』が特注した小型衛星の軌道投入を実現できなかったのである。

 これは中国の民間ロケット企業が経験した初めての「挫折」だった。それでも、今回の「朱雀一号」の技術的パフォーマンスに対する各界の高い評価は変わらない。「今回の『朱雀一号』の打ち上げプロセス全体のパフォーマンスは、過去の数々の『初回打ち上げ』と比較しても遜色のないものだった。その意味で、今後の成長にさらなる自信が持てた」。ランドスペース創業者の張昌武(ジャン・チャンウー)CEOは、そう語っている。

 また、ライバル企業であるワンスペース〔零壱空間〕の創業者・舒暢視(シュー・チャンシ)CEOも、自身のSNSで「中国の商業宇宙事業にとって、特別な意味のある1日だった。専門家チームによる最初の偉大なチャレンジだ。探求の道に終わりはない。ネバー・ギブアップ!」と発信し、同社に敬意を表している。

商業化元年

 北京の「亦庄」という、面積にしておよそ60㎢を有する経済技術開発区。ここに中国の宇宙航空産業の新たな力が集まっている。ワンスペースやランドスペース、アイスペース〔星際栄耀〕といった民間ロケット企業の多くはここに本社を置いている。

 これは、人材面や立地面での優位性を重視してのことだ。亦庄の「東高地」といえば、中国の宇宙産業関連人材やマネジメント人材の「エリート士官養成校」―― 中国キャリアロケット技術研究院がある。中国宇宙産業における最大のキャリアロケット研究開発拠点として、かの「長征」シリーズを生み出した研究院だ。これを囲むように点在している民間ロケット企業は、同研究院の擁する技術・人材にアクセスするには非常に有利だといえる。

 ワンスペースの所在地は、亦庄の「科創十三街」というエリアだ。オフィスビル一階の展示エリアでは、準軌道ロケットの打ち上げに二度成功した際に回収された機体の一部が展示されている。機材の表面には、1000度という高温の気流で焼かれた痕がくっきりと残っている。2018年5月、中国初の「中核技術の100%を自社で掌握した、民間企業による自主研究開発」ロケット打ち上げに成功したことで、同社は業界の注目を集めている。投資ラウンドのシリーズBが終了した現在、同社の調達資金の累計は8億元近くにのぼっている。

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写真①:5月17日、中国西北地方の某所。ワンスペース社が自社で研究開発した「重慶両江之星」OS–Xロケットが、無事点火・打ち上げの日を迎えた。写真/中新社

 そのワンスペースを西北に進むと「地盛南街」というエリアに行きあたる。ここがアイスペースの所在地だ。アイスペースは2017年8月に正式に操業を開始し、複数のシリーズで融資を勝ち取ってきた。出資者には、雷軍(レイジュン)氏率いる「順為キャピタル」も含まれている。2018年9月6日、初の観測ロケットの打ち上げに成功したアイスペースを祝福するため、順為キャピタルの許達来(シュー・ダーライ)CEOは「宇宙に行ったんだ、我々は」とのメッセージを発信している。

 一方、2015年6月設立のランドスペースの本社は、亦庄の「中航国際広場」にある。創業チームには、金融業界出身の張CEOをはじめ、元中国衛星発射計測制御システム部宇宙事業シニアエンジニアだった王建蒙(ワン・ジエンモン)氏や、南京航空航天大学博士で、フンボルト財団による奨学支援を獲得した研究者である呉樹範(ウー・シューファン)氏などがいる。

 2018年は中国宇宙産業の「商業化」元年であるといえよう。ワンスペース創業者の舒CEOは、次のように語っている。「一昨年は『製品化』、昨年は『商業化』をメインテーマにしてきた。業界において、率先してきちんとした財務資料を提示していきたい」

 そのワンスペースのファースト・モデルである、軌道(太陽同期軌道)投入が可能なOS–Mシリーズのキャリアロケットは、全長19m、離陸重量20t。ロケットの各段階のエンジン性能検証は、すでに無事完了している。計画によると、本キャリアロケットは四段階式になっており、今年はじめにも初打ち上げを実施し、衛星も搭載することになっている。

 衛星が無事に軌道に投入されるということは、民間ロケットによる軌道上での引き渡しが可能になるということだ。これは商業化実現のキーポイントになる。「どのように商業化を実現するか、という問題に一番思考を割いている。人材や資金をどう確保するかももちろん問題だが、もっと重要なのはその次の段階、言うなれば『そのヒトとカネでなにをつくるのか、つくったものでなにをするのか』ということだ。これからはそこでの競争になる」。舒CEOはそう語る。

 確かに競争は激しい。現在、「ナショナルチーム」は商業宇宙産業という「サーキット」で、「勝つための布石」をすでに次々と繰り出している。中国航天科技集団〔CASC、国有企業〕は、2018年、商業ロケットの主力「長征11号」の「ライドシェア」や「チャーター」サービスをローンチし、国家プロジェクトの打ち上げに「相乗り」しなくても商業衛星を打ち上げることができるしくみをつくった。また、2018年9月には中国航天科工集団〔CASIC、同じく国有企業〕傘下の企業が、自社製ロケット「快舟一号A」の二度目の商業打ち上げを実施した。契約締結から打ち上げまでわずか4カ月、「ロケット1基に衛星3基を搭載」する方法で初の商業打ち上げを実施した前回の8カ月を更新するスピードだ。

 聞くところによると、商業打ち上げに特化した別モデルの主力ロケット「快舟11号」の初打ち上げも「ロケット1基に衛星6基を搭載」する方法で近いうちに実施されるという。しかも「快舟11号」はコストダウンを目標にしている。500キロ以下の小型衛星でいえば、現状、海外での一般的なコストが1キロあたり3~5万ドル、中国国内の場合で1.5~2万ドル、これを1キロあたり1万ドルまで下げるということだ。

異なる方向性で成長

 しかし、宇宙産業関連技術の専門家であり、技術評論家でもある黄志澄(ホァン・ジーチェン)氏は、中国の民間宇宙企業の立ち位置は「宇宙に向け打ち上げをおこなう『ナショナルチーム』をよい意味で補完するものであって、競合相手ではない」と分析している。

 ワンスペースの舒CEOも、次のように述べている。「過去『ナショナルチーム』は一部の国家的プロジェクトに対し貢献すべきものだった。そのため、衛星の多くは『ナショナルチーム』のロケットに搭載してもらえるチャンスを待たねばならなかった。一部の特殊用途の衛星については、軌道の高度、傾斜角度でも特定の基準をクリアする必要があった。ワンスペースが全力で取り組んでいるのはこうした状況の変革、すなわちもっと幅広く商業衛星を打ち上げられる環境を整えることだ。コスト、効率、サービスレベル、いずれの面でも優位性を打ち出していけると思っている」。同CEOによると、国策という制約から中国の衛星をアメリカで打ち上げることは認められておらず、同様にアメリカも、同国のスペースX社のロケットを中国で打ち上げることを認めていないため、中国の民間ロケットには手付かずのマーケットビジネスチャンスが残されているという。

 資料によると、ワンスペースが注力しているロケット開発は、OS–XシリーズとMOS–Mシリーズの2種類に分かれる。そのうち、OS–Xロケットは、宇宙高度先端技術の研究のため、飛行テストを実施するのが主たる目的で、昨年に打ち上げが2度実施されている。一方、OS–Mシリーズは、固体燃料を採用した廉価版の小型キャリアロケットで、500キロ以下の小型衛星の打ち上げに利用する位置づけになっている。

 差別化戦略について、同社の舒CEOは次のような路線を打ち出している。小型衛星の打ち上げや研究機関の飛行テストは、一律「打ち上げチーム」の業務とする。一方、自社研究開発のロケットエンジンや電子機器は、将来一部民間企業、ときには「ナショナルチーム」にも提供できるようにしていく。

 同様に差別化戦略にこだわり、「ナショナルチーム」とは異なる成長を果たしてきたランドスペースが独自路線にしているのは、液体燃料タイプのロケットエンジン開発だ。一般に燃料の違いでロケットを分類するが、大型ロケットは液体燃料を、小型ロケットは固体燃料をエンジンに利用している。通常、民間企業は、構造がシンプルで自社研究開発のコストが低い後者から手掛ける。一方、液体燃料エンジンでも、特に液体酸素とメタンを利用したエンジンは、「コストが低い」「コークス化しにくい」「粘度が低い」「冷却力に優れる」「比推力が高い」などの利点があり、宇宙工学の世界の「王道」になっている。

 継続的な技術改善・技術向上のプロセスは、インターネット関連製品が次々と「代替わり」することに似ている。とはいえ、ロケットエンジンというスケールの大きなプロダクトは、「バグ」の修正ひとつをとっても、少しでも気を抜けば爆発という惨事を呼び込んでしまう。実際、アメリカのスペースX社は、エンジンの過熱による焼け落ち、ひいては爆発まで起こった事故を過去に3度経験している。

 民間ロケット企業の生き残りの道は、従来型のモデルよりも低コストのロケットを作り出すことにある。ランドスペースの張CEOは、そのために必要なのが技術革新と技術的蓄積であると述べている。「たとえば、ロケットエンジンの重要工程のひとつに、エンジンノズルの加工がある。従来の宇宙工学では、加工に約3カ月かけていた工程を、我々は3時間に短縮している」

 また、張CEOは、ある上司の激励をいまも鮮明に覚えているという。「宇宙航空産業の技術をさらに上の領域に引き上げることができるのは、民間ロケット企業だけだ。なぜなら、イノベーション能力を向上させながら、宇宙航空産業への参入コストを引き下げることができるからだ」

サプライチェーンの効用

 ランドスペースの張CEOは、過去に取材を受けた際、自身が「やむにやまれず」研究開発の道に進んだ人間であることを何度か口にしている。価格競争が予想される民間のロケット市場では、コストを圧縮しようとすれば、中核技術を手中に収めるほかない。ランドスペースは、この点で過去に「回り道」を経験している。当初張CEOは、外注集約型方式でロケットの研究開発期間を短縮し、ロケットの中核となるエンジン技術を研究機関からの技術移転に頼ろうと考えていたが、エンジンに関する契約が最終的に「空振り」に終わってしまったのだ。

 中核技術を手にする際の「関門」は、いかにサプライチェーンを切り開くかだ。実際、宇宙航空産業の「新兵」スペースXも、創業間もない時期に、同じくサプライチェーンの問題にぶつかっている。創業初期のスペースXは、高圧二段燃焼サイクルで液体酸素とケロシンを推進剤としたロシアのエンジン技術を高額で購入する資金もなく、同エンジンを独自に開発できる技術チームももっていなかった。同時に、宇宙産業の古参企業による技術的囲い込みという制約にもぶつかっていた。スペースXは、最終的にガス発生器を利用した液体酸素とケロシンを推進剤とするエンジンからスタートすることに活路を見出し、初号機であるマーリーン1Aエンジンを開発している。

 中国の場合、過去60年の発展を通じて古参の宇宙航空企業に資するサプライチェーンの仕組みはすでに整っているが、閉鎖的な傾向が強く、商業化には程遠いうえ、多くの技術が「金を出せば買える」ものではない。

 ワンスペースの舒CEOは、要するに「商業宇宙ロケット全般を中心に据えた一体型サプライチェーンシステムの構築」に尽きるとしている。「宇宙分野にサプライヤーとして参入できない民間企業は多い。それだけ敷居が高いということだ。選別の結果、当社に関しては現在、主要サプライチェーンの70~80%は非宇宙航空産業の企業で、うち60%が民間企業になっている」

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写真②:アメリカ・スペースXの本社にある宇宙船「ドラゴン」のシミュレーター。「サプライチェーン」は、中国・海外を問わず、民間ロケット企業が直面する共通の問題だ。写真/視覚中国

 十全のサプライチェーンシステムを再構築することは、より長期的な視座に立った場合、非常に意義のあることだ。ランドスペースの張CEOは、過日のタイの洞窟事故に際し、スペースX社がすぐに小型潜水艦の提供に動いたことを例に、次のように述べている。「この件は、ゲリラ部隊のような企業が存在すればこそのことだ、といってもよいだろう。つまりレスポンスも早ければ、即時対応能力もあるということだ」

 ワンスペースやランドスペースなどの企業が地方政府の支援を得ていることを含め、民間ロケットは政府からも庇護を受けている。ランドスペースは、湖州市の軍民融合特別プロジェクト総合融資から2億元以上を得ており、ワンスペースも同様に「重慶両江航空産業投資集団」から融資を受けている。企業側もこれにこたえるべく設備投資をおこない、ロケット研究開発の川上から川下までを当該地域に形成している。

 十全のサプライチェーンを構築するには、それを保証する技術と人材が必要だ。民間資本の参入が解禁になると、国家のリソースや人材も民間に流れていく。しかも、ある程度の規模に成長した商業宇宙航空産業は、こうした体制内人材に対し、よりスケールの大きな技術構想を提示している。2018年9月の、某宇宙動力研究所設計副主任であった張小平(ジャン・シアオピン)氏のランドスペース入りは、人材争奪戦の一端を示すものであり、国有企業から民間への人材流出が近年ますます激しくなっている現状を露呈したものだ。

 実際、ワンスペースがエンジェル投資家からの出資を受けたあとも、CASC出身のシニアエンジニアが自ら同社を訪れている。当時の舒CEOは、「人材発掘」で窮地に陥っているところだった。ワンスペースの創業当初の中心チームのメンバー構成をみると、国内有数の総合研究開発機関、すなわちCASC、CASIC、中国航空工業集団〔AVIC〕といった国有企業の研究機関や、中国科学院などの高等教育機関の出身者がほとんどで、チームの80%以上が5年以上の業務経験をもつ者で占められていた。

 しかしながら、現段階の民間ロケット企業は、同じように人材流出の問題に直面している。前述の黄志澄氏は「中国で大量に誕生した宇宙航空産業のスタートアップ企業が直面している喫緊の課題は、創業チームを今後自分たちでどう積み上げていくか、というところにある。コアとなるチームをキープしていくのが非常に重要だ。中国の宇宙航空産業には、果敢にイノベーションに取り組み、コラボレーションに長けた人材が必要だ」と話す。

 「商業宇宙航空産業にはどんな人材が必要か」という記者の問いかけに、ランドスペースの張CEOは次のように語っている。「本気で商業ロケットに取り組む人材、あるいは起業からスタートさせる人材は非常にまれだ。起業スピリットが必要である一方、イノベーション思考を保ち続けることも必要だろう。リスク管理の意識やコスト意識を持ち、リソースの制約という非常に厳しい条件下で研究開発に取り組んでこそ、チャレンジといえるのではないか」


※本稿は『月刊中国ニュース』2019年3月号(Vol.85)より転載したものである。


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