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41ヶ所の炭鉱をめぐり開発したシステム、炭鉱事故の根本原因に対処

2019年2月14日 張曄(科技日報記者)

 中国では冬至からの81日間が一年で最も寒い時期と言われ、山東省南西部に位置する済寧市も同時期になると北風が吹いて厳しい寒さとなる。それでも、兗鉱集団傘下の南屯炭鉱の安全生産監督処の趙志剛科長は、早朝に炭鉱に行き、勤務交代の時に、前の担当者のリスクコントロールおよび潜在リスク洗い出しの記録をチェックする。

 炭鉱は中国の工業・採鉱企業の中でも危険度が非常に高い業界で、陝西省神木市にある百吉鉱業李家溝炭鉱では1月12日に作業員21人が犠牲となった落盤事故が起きたばかりだ。

「過去に一番悩ましかったのは、定期的に潜在リスクの洗い出しを展開しているにもかかわらず、潜在リスクがはっきりとは減少しなかったことだ。そして、安全管理の水準を向上させたいのに、その方向性が見つからなかった」と趙科長は言う。

 その後、同集団は中国鉱業大学の二重予防管理情報システムを採用し、その科学研究成果を自社で実用化、応用したことで、趙科長を含む、炭鉱で働く全ての作業員が速やかにリスクを識別できるようになった。識別のプロセスを円滑化し、リスクをレベル分けしてコントロールし、潜在リスクの洗い出しと対処を行う管理の一体化を実現したのだ。

原因が複雑なため、なかなか減らない炭鉱事故

 急速な発展には、血と涙がつきものだ。急速に発展する採掘の過程で起きる炭鉱事故のニュースには、いつも胸が張り裂けそうになる思いにさせられる。

 世界では毎年数千人が炭鉱事故で亡くなっている。炭鉱事故の原因は有毒ガスや天然ガス爆発、炭塵爆発、地震、水害、機械の故障、指示ミスなど、非常に複雑だ。

 中国などの発展途上国における炭鉱事故の発生頻度が特に際立っている。2003年、中国で生産された石炭が世界の生産量に占める割合は約35%だったものの、炭鉱事故による死亡者数は世界全体の約80%を占めた。

 その根本的な原因は、当時中国の安全をめぐる理論体系の研究は全くまとまりがなく、中国全土の炭鉱では毎日、粗放的な安全管理・コントロールの中、生産が行われていたからだ。

 中国鉱業大学安全科学・応急管理研究センターの李爽教授は科技日報の取材に対して、「災害連鎖の法則(ドミノ理論)からすると、国外ではリスクコントロールが強調され、事故防止が第一とされている。一方、中国では作業をしながら潜在リスクを洗い出すことに重きが置かれている。そして、その潜在リスクが原因で事故が起きている」と指摘する。

 事故は往々にして量的変化から質的変化への実用化の過程で起きる。事故防止を重視すればするほど、代価は小さくなる。例えば、自動車のエンジンが壊れると、非常に高い修理費が必要になるが、普段からメンテナンスをしておけば、そのような大きな問題の発生を防ぐことができる。

「リスクを事前にコントロールすることはできないだろうか」と考えた李教授率いるチームは2005年、中国では先陣を切ってリスク予防・コントロール理論の研究を展開し、事前のリスクコントロールを行う海外の方法と、作業をしながら潜在リスクを洗い出す中国独自の方法を組み合わせて、中国に合った安全理論体系を打ち出した。また、リスクと潜在リスクの関係を整理してはっきりさせ、リスクの線引き、評価方法、潜在リスクの識別方法などを系統的に説明した。

 李教授率いるチームは中国国内外の権威ある定期刊行物に論文100編以上を発表し、10編がSCI、SSCI、CSSCI検索、中国人民大学復印報刊に全文掲載され、10冊以上の著作を出版してきた。

 2016年、習近平総書記が重要講話を発表し、安全な生産、作業を全面的に強化することに関して、特大・重大事故が起きやすい業界、分野では、リスクをレベル分けして管理・コントロールし、潜在リスクの洗い出しと対処のための二重予防業務のシステムを採用し、安全な生産のために事故防止を第一にするようにと、明確な指示を出した。

 李教授率いるチームは、それを聞いてすぐに、中国の工業・採鉱企業の安全な業務のためのシステムは大きな調整の時を迎えたと察知し、「習総書記の講話は、安全な業務システムの問題点をずばり突いていた。それにより、私たちの情報化システムや研究成果の実用化と応用の明確な方向性ができた。」

中国の炭鉱に合ったシステムを構築

 中国鉱業大学安全科学・応急管理研究センターに入ると、安全情報プラットフォームの大型スクリーンが目に飛び込んでくる。そこには、中国全土の300以上の大型炭鉱、政府監督・管理当局が使用するリスクレベル分け、コントロールと潜在リスクの洗い出し対処の二重の予防管理情報システムのリアルタイムデータが映し出されている。

 大型スクリーンとケーブルで繋がっているのは各企業の安全情報システムだ。

 陝西下峪口炭鉱双重予防弁公室の厳謙・室長は取材に対して、同炭鉱は二重の予防管理情報システムを知り、中国鉱業大学と成果の実用化の面で提携し、その成果を全面的に実用できるようにしたと説明。「当社の各事務用のパソコンには全て二重予防管理情報システムがインストールされており、検査担当者はリストに沿ってチェックをすれば、潜在リスク情報を二重予防管理情報システムに盛り込むことができる。盛り込まれた潜在リスク情報は、自動的に関連の管理部門の各課・各室に送信されて、閉ループプロセスに入り、潜在リスクの閉ループの効率が大幅に向上した」という。

 このシステムは、李教授が行ったおよそ10年前のリスク予防とコントロール理論研究の上に誕生した。

 「中国の炭鉱は地域によって特徴が大きく異なり、生産や建設の面における特徴も異なる」と李教授。2015年から、李教授のチームは兗鉱集団と提携して、同社傘下の興隆荘炭鉱でリスク予防とコントロール体系の構築をめぐる研究と実践を行った。

 李教授の研究チームに所属するコンピューター情報の専門家・楊勇氏は、「二重予防システムの体系は、操作が簡単で、一般的適用性があり、企業の必要に合わせたオーダーメイドサービスを提供しやすく、さらに、データは必ず正確でなければならない」と指摘する。そのため、同チームは、炭鉱41ヶ所の生産現場に足を運び、企業と提携して、調査研究を行うと同時に、研究成果の実用化に取り組んだ。

 現場での調査研究を通して、同チームは情報システムプラットフォームの主な機能は、安全リスクのレベル分けとコントロール、事故の潜在リスクの洗い出しと対処、安全基準化の審査、安全決定分析、リスク可視化警報―――の5つであることを発見した。

 二重予防情報システムは2017年、兗鉱集団の興隆荘炭鉱の現場への応用に成功した。「炭鉱の通用危険源データバンクを構築し、『赤・オレンジ・黄色・青』の安全リスクスペース分布図を作成した」と楊氏。

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二重予防情報システムプラットフォームの主な機能は、安全リスクのレベル分け、リスクコントロール、事故の潜在リスクの洗い出しと対処、安全基準化の審査、安全決定の分析、リスク可視化警報などだ。画像は同システム採用企業による提供。

安全管理の「神器」

 「毎日リスクの洗い出しを行っていたのに、潜在リスクの数は減らなかった。また、リスクに対する認識もはっきりせず、グループ分けするという概念もなく、眉毛もひげも一緒に剃っているような状態だった」趙科長は、以前の安全業務を振り返り、四苦八苦していたと語る。

 しかし、今ではスクリーンに映し出されるリスクスペース分布図を通して、ビッグデータを活用した管理とコントロールプラットフォームによる安全管理を行うことができる。

 李教授によると、このプラットフォームは基準化した二重予防理論体系を頼りに、各企業に合わせてオーダーメイドで作成することができると同時に、業界や企業のリアルタイムの警報・分析模型を盛り込み、人ではなくデータに頼って、リスクの予断や潜在リスクの洗い出しが行える。

 山西陽煤集団傘下の炭鉱は、二重予防管理情報システムを使用する過程で、ガス関連の潜在リスクが多いことに気付き、関連リスクの検討判断を通して、潜在リスクの根本的な原因を分析し、人、物、環境、管理の4つの分野で管理・コントロールの実施を最適化することで、現場管理における難題を解決し、ガス関連の潜在リスクの割合をかなり減少させた。

 二重予防管理情報システムを採用した炭鉱企業は、予想通りの効果を上げており、今でもこの科学研究成果のさらなる実用化と応用が進められている。

 今では、国の応急管理当局も、安全管理システムの構築に力を入れて取り組んでいる。中国全土の300以上の炭鉱企業、グループ会社、政府監督・管理当局が、中国鉱業大学安全科学・応急管理研究センターが研究開発したリスクのレベル分けとコントロールおよび潜在リスクの洗い出しと対処の二重予防管理情報システムを使用している。また、このシステムは、炭鉱業界だけでなく、非石炭、危険化学品、電力などの危険度の高い業界でも応用されるようになっている。

 最も早い時期に同システムを採用した神華集団の石炭生産量100万トン当たりの死亡率は0.03%以下を保っており、米国やオーストラリア、ロシアなどの石炭生産先進国の死亡率を大きく下回っている。また、神華傘下の神寧煤業集団、烏海能源公司などの企業の石炭生産量100万トン当たりの死亡率も大幅に低下した。うち、神寧煤業集団は2009—2011年の3年連続で、事故による死者ゼロを達成している。


※本稿は、科技日報「走遍41個煤鉱 研発系統堵住鉱難“火山口”」(2019年1月31日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。


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