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貴陽のビッグデータ

2019年4月5日 閔傑(『中国新聞週刊』記者)/ 及川佳織(翻訳)

 貴陽は中国の西南部にある都市で、かつては「存在感のない省都」とあだ名されたこともある。ところが2013年から2018年にかけて、ビッグデータ産業がここで「無から生じ」、根を下ろし、大きく成長した。この都市は華麗な逆襲を果たしたのだ。いまでは、中国経済では数少ない2桁成長で全国の都市のトップを行く。イノベーションで従来型産業の構造転換と高度化を先導し、後発地域にとってあこがれの的となっている。

 貴陽市にとって、ビッグデータは間違いなくトップダウンで始まった。「貴陽市は、ビッグデータを原動力に、誰もが等しく共有できるイノベーション型センター都市建設構想を打ち出しました。イノベーション面での際立つ特徴はビッグデータ、際立つ強みもビッグデータです」。貴陽市委員会副書記でもある陳晏(チェン・イエン)市長はこう話す。この構想はこの3年間、絶えず最適化を図ってきた。指導部の交替は何度かあったが、当初貴陽市が打ち出したイノベーション型センター都市建設の構想も決意も変わることはなく、一枚の青写真が次々と受け継がれてきた。

 慣例にとらわれずに発展の方向を見極め、理念と政策の連続性を維持し、全方位的な調整に注力し、ビッグデータを貴陽市前進のエンジンにしたのである。

 2017年、貴陽市はGDP伸び率11.3%で、全国の省都のトップに立った。貴陽市が全国省都GDP伸び率トップとなるのは、これで5年連続だ。

 2018年11月29日、工業情報化部CCID〔工業情報化部の情報産業研究機関〕は「中国デジタル経済ベスト100都市発展研究白書」を発表し、貴陽市は26位にランクされた。これより上位にランクされたのはほとんどが東部沿海部にある1、2線級都市である。

 リポートは、特に貴陽市に言及している。「中西部はイノベーション資源集中という点では優位性に欠けるが、基本的資源と市場の点では潜在力がある。重点的な政策と資金援助があれば、中西部の都市は上を追い抜くことが可能になる。貴陽市の資源型デジタル経済の発展レベルはGDPのランキングをはるかに超えており、上を抜き去る典型的なモデルになっている」

ビッグデータでイノベーションを牽引

 貴陽市のビッグデータ産業の模索は2014年に始まった。この年の3月、貴州・北京ビッグデータ産業プロモーションイベントが開かれ、貴州省のビッグデータ発展が始まった。

 実は貴陽市にとって、ビッグデータは苦境を脱する突破口だったのである。

「そのころ、貴陽市の産業はちょうど端境期に当たり、難しい転換期にあった。従来型産業は衰え、新興産業はスタートしたばかりだった」。陳市長はこう話す。さらに貴陽市は典型的なカルスト地形にあり、生態環境がもろく、いったん破壊されると回復が困難なため、開発方法に対する要求は厳しかった。

 「国内ではちょうど『三去一降一補〔過剰生産能力・不動産在庫・レバレッジの削減、コスト引き下げ、脆弱産業の支援〕』政策が打ち出されたばかりで、基本的に生産能力過剰の状況だった。しかしむしろエネルギー大量消費型産業が当時の貴陽市の主要産業だった」。貴陽市ビッグデータ管理委員会の唐振江(タン・ジェンジアン)主任はこう分析する。当時の貴陽市の5大産業は設備製造、アルミとその加工、リンとリン化学工業、医療・薬品産業、食品工業である。前の3産業は生産力過剰、政府補助依存、費用対効果逆転になっているか、エネルギー大量消費、環境汚染型であるかのどちらかだ。医療・薬品は現地特有の民族薬がメインで、化学合成薬やジェネリック薬ではなく、生産力の拡大は難しかった。

 2015年6月、国家主席の習近平総書記が貴州省を視察し、経済発展と生態環境の2つの路線を維持するよう求めた。

「当時の貴陽市にとって、方法の選択が課題だった」。唐主任によれば、全面的で詳細な研究をおこなった上で、当時の指導者が鋭敏にビッグデータ発展のチャンスをつかみ、世界の歩みに同調したのである。「米国が最初にビッグデータを打ち出したのも、2013年前後だった」

 貴陽市にとって、ビッグデータはすでに単なる産業の概念ではなく、都市発展の原動力、トップダウンの設計理念となっていた。

 2016年7月、貴陽市委員会第9期第6回全体会議で、「ビッグデータ主導によるイノベーション型センター都市の建設加速に関する意見」が可決され、ビッグデータによって3段階で貴陽市を全国のイノベーション型センター都市につくり上げることが明確になった。2017年、この理念はさらにレベルアップし、公平共有の理念を取り入れ、「共に建設し、社会で管理し、成果を共有する」という構想を打ち出した。

 陳市長によれば、「ビッグデータ主導でイノベーションを公平に共有するセンター都市を建設する」という考えは強烈な「貴陽モデル」であり、他の都市のいうイノベーション都市建設の内容や方式と同じものではない。

 理念において、貴陽市の求めたのは「全方位的なイノベーション」である。道筋としては、ビッグデータ主導により、西部の遅れた都市を脱却して上に追いつき追い越すことのできる発展の道を選ぶ。体制とモデルにおいては、ビッグデータによる産業転換・高度化を牽引し、政府の統治能力を向上させ、民生へのサービス保障を改善するという「貴陽モデル」確立を模索する。

 こうした理念に動かされて、イノベーション都市建設という目標と任務は自然に成就していった。貴陽市の核心的目標は、データを都市イノベーションの基本的発展要素とすることだ。貴陽市をデータ都市につくり上げ、都市・農村部の情報インフラを整備し、都市のさまざまなデータを集めて融合させ、オープンにして共有する。三大任務は、ビッグデータの商用・政府機関用・民用でのイノベーション推進である。つまりビッグデータで経済の転換・高度化を牽引し、政府の統治能力を向上させ、民生へのサービスレベルを改善するのである。

「貴陽市のいうイノベーション型『センター』都市には深い意味がある」。陳市長によれば、貴陽市の打ち出す「センター都市」とは、全省のイノベーション主導型センター都市と地域のイノベーションセンターを建設することに着目したものだ。「イノベーション型センター都市には数種あり、国内の北京や深圳、海外のシリコンバレーやオタワは、知識・産業・モデルなど全面的な科学技術のイノベーションを行った。貴陽市が西南地域や全国、あるいはグローバルなイノベーション型センター都市になることを目標としないのは、自分のことをきちんとすることを考えているからだ。高望みをせず、現実から離れず、一歩一歩目標の実現に向かうためだ」

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貴州ビッグデータ総合試験区展示センター

ビッグデータの定着

 貴陽市国家高新区のビッグデータプラザには「据変」〔据は数据。中国語でデータを意味する〕という名の彫像が立っている。その形は、たくさんのブロックの組み合わせから成るチェーンに似ており、データが膨張・爆発して放出される巨大なエネルギーと価値を象徴している。

 貴陽国家高新区管理委員会の張宇(ジャン・ユー)副主任によれば、高新区は1992年に設立されたが、基礎がなく、実力に乏しく、産業の位置づけが不安定で、90年代末には一度全国最下位になり、撤退の危機に直面した。

「何度も転換をおこなったが、ビッグデータという産業を発見して、東部にも西部にもない、全国のどの高新区とも違う名刺を手に入れることができた」。張副主任によれば、貴陽国家高新区にある500万元以上の規模のビッグデータ企業は、貴州省全体の60%を占める。2018年には、ビッグデータ産業が地域の産業の全収入に占める割合が約37%に達した。

 一度は底辺に沈んだ貴陽国家高新区は、貴陽市だけでなく全貴州省のビッグデータ産業が集積するパークとなった。国家ビッグデータプロジェクト実験室、国家ビッグデータ産業インキュベーター、国家ビッグデータモデル基地など国家レベルのモデル事業を18件獲得し、全国に146ある国家レベル高新区総合ランキングの41位だ。

 これはある意味で、貴陽市ビッグデータ産業の吸引力を反映している。いま、BAT〔百度、アリババ、テンセント〕のトップリーダーを同時に1カ所に集めるのは難しく、それができるのは烏鎮インターネット大会、深圳ITリーダーサミットなど数えるほどしかない。ところがここ数年、馬雲、馬化騰、李彦宏は同時に貴陽デジタル博覧会に顔を見せている。

 貴陽市ビッグデータ委員会の唐主任は、2017年に貴陽市のビッグデータ企業は1400社、主要業務収入は817億元、ビッグデータを代表とする新たなエネルギーの経済成長への貢献率は33%に達しており、ビッグデータが質の高い経済成長の重要な牽引力になっていると言う。

 貴陽市のビッグデータ産業の成長と集積の推進は第一歩を踏み出したに過ぎず、まだバージョン1.0だ。現在、貴陽市ではバージョン2.0を構築しており、インターネット、ビッグデータ、クラウドコンピューティング、AI、IoT、ブロックチェーンと実体経済との高度融合を進めている。

 ビッグデータと実体経済の融合は、貴陽市が生み出したマジックであり、驚くべきものだ。

「老干媽」は貴陽市の有名な食品会社だが、外部の人にとっては昔ながらのファミリー企業という印象しかない。創業者の陶華碧(タオ・ホアビー)会長は「4つのしない」ルールをずっと守ってきた。「借金しない、資本参加しない、融資を受けない、上場しない」である。

 しかし、そんな極めて伝統的な企業でも、自主的にビッグデータを擁している。2016年、老干媽は約700万元を投じて経営ビッグデータ管理プラットフォームを誂えた。「一帯一路」の販売管理、人気商品分析、販売業者分析、原材料価格モニタリング(産地の自然災害予測)などのモジュールによって、材料調達、製品の生産、販売を市場の変化にすばやく対応させるためである。

 ビッグデータによる従来型産業の改革は、貴陽市にある多くの昔ながらの業界にも浸透しつつある。興達興建材は貴陽市観山湖区にある民間企業で、主要業務はコンクリートの生産・販売である。同社はいくつかの小さな山に囲まれた郊外にあり、事務所はエレベーターのない4階建てだ。4階から見ると、工場は防音材で覆われたいくつかのコンクリート攪拌機から成っている。

 実際に現場に行かないと、こんな民間の中小企業が工業情報部インテリジェント製造試験事業プロジェクトや、貴州省のビッグデータ+工業高度融合モデル事業に選ばれたとは、誰も想像できないだろう。

 この奇跡を生み出したのは、興達興が自主開発した「コンクリートインテリジェント製造―高性能コンクリートビッグデータ・クラウドプラットフォーム」である。

 興達興の倪文勇(ニー・ウェンヨン)会長によると、従来のコンクリート生産・管理は大雑把で、生産・販売・物流のデータを集めることもできなかった。業界全体が、需給バランスがとれない、品質が安定しない、輸送過程がコントロールできない、生コンクリートの供給が不足するなどの弱点を抱えていた。

「コンクリートインテリジェント製造――高性能コンクリートビッグデータ・クラウドプラットフォーム」の構築により、コンクリート生産・販売・物流・施工での使用など、全プロセスでビッグデータによる改善やデータ共有がおこなわれ、ビッグデータクラウドプラットフォームと5つのアプリによって原材料供給・生産・物流・施工サービスなど産業チェーンの川上と川下を一環統合し、仕入れ・物流・生産・施工を共同で行う体系が確立された。

 このシステムは全国のコンクリート業界初のビッグデータクラウドプラットフォームであり、潤沢な資金のある大規模国有企業にもできなかったことである。倪会長は、このシステムを業界全体に普及させ、高性能コンクリート業界をビッグデータとインテリジェント化で活性化したいと考えている。

 貴陽高新区に根付いた貴州工業クラウドプラットフォームも、ビッグデータによって従来型産業を改善した一つのモデルである。工業クラウドプラットフォームがおこなうのは、工場全体をクラウドの一部にし、企業に独立して存在していた情報システムをつなぎ、オンラインでは企業に情報サービスを提供し、オフラインではインテリジェント化への改造とソリューションを提供するということだ。

 高新区管理委員会の張副主任によれば、現在、プラットフォームの登録ユーザーは16万件(個人・企業を含む)を突破、接続された設備は3107台あり、143の管理・工程ソフト、247のビッグデータとインテリジェント製造ソリューション、133の事例を集めている。このプラットフォームは、製造業とインターネットの融合、ビッグデータ+工業の高度な融合、実体経済の発展加速促進、情報化・工業化融合を促進する貴州省のメインプラットフォームになっている。

 多くの都市が「中国版シリコンバレー」の建設を提唱するのとは異なり、貴陽市が目指すのは「中国デジタルバレー」である。貴陽市にとって、中国デジタルバレーが持つべき能力とは、ビッグデータ産業の集積、ビッグデータと実体経済の高度な融合、ビッグデータイノベーション能力の飛躍的な増強、ビッグデータ管理の正確な施策、ビッグデータサービスの精密化・高効率化である。

 貴陽市の陳市長は、中国デジタルバレー建設のために貴陽市がしなければならないのは、2020年までに、1EB〔エクサバイト〕以上のデータ保存能力を持ち、核心的競争力と商業的影響力をもつビッグデータブランドを10以上育成し、ビッグデータ企業を1万社以上集めることだと言う。

下からのビッグデータ管理革命

 さまざまな場面でのビッグデータ利用を広めたことで、イノベーションの資源・政策・体制・環境を下から全面的に変えたことが、貴陽市ビッグデータ産業のもう1つの特徴である。

 貴陽市が探し当てたのは、政治・商業・民間でのビッグデータ利用の価値を探り、ビッグデータ利用で社会のガバナンスを向上させ、経済の転換・高度化と民生サービス改善をリードして、ビッグデータの産業チェーン、サービスチェーン、管理チェーンを構築するという道であった。

 「ビッグデータは行政事務システムのために、話し合いや政策を決定、管理、イノベーションをすべてデータで行うという新たな統治体系確立を支援することができる」。唐主任によれば、「経済運営モニタリングプラットフォーム」を構築し、モニタリング・分析・予報・意思決定システムの確立を通し、ビッグデータによって県の経済運営を正確にプロファイルして、データでものを言うことができるようになるという。

 先ごろ、貴陽市行政事務サービスの「ワンサイト手続き」が国務院弁公庁から賞賛の通知を受けた。貴陽市の方法では、政府系データを開放・共有し、電子政務サイトとクラウド上の「貴州・貴陽プラットフォーム」によって、全プロセスを一体化したオンライン行政事務サービスプラットフォームを構築する。市民や企業はIDでネット上のバーチャル業務ゲートか、実際の行政事務サービスセンターに入り、フォーマットに記入すれば、1回で手続きが終わるというものだ。

 「1サイト、1つのクラウド、1つのID、1つのゲート、1本のペンで1回で終了」という貴陽市の行政事務「ワンサイト手続き」は、真の意味で「データが動き、人々は楽をする」を実現したのである。

 ビッグデータによって機構イノベーションを牽引する貴陽市のやり方は、ますます勢いを増している。陳市長は「貴陽市はビッグデータ主導で、政府データの共有と開放を突破口とし、『インターネット+行政事務サービス』を重点として、ビジネス環境の最適化を絶えず進め、イノベーションと起業の高みを目指す」と語った。


※本稿は『月刊中国ニュース』2019年5月号(Vol.87)より転載したものである。