コアアルゴリズムの不在、AI発展がボトルネックに直面
2019年5月20日 張佳星(科技日報記者)
業界の共鳴を呼ぶ「徐匡迪の問いかけ」
先ごろ上海市で開催された院士サロンにおいて、中国工程院院士の徐匡迪氏ら複数の院士からの「AIの基礎的アルゴリズムの研究を行っている数学者は、中国にどれほどいるのだろうか」という問いかけが業界の共鳴を呼び、「徐匡迪の問いかけ」と呼ばれるようになっている。
4月28日に開かれた「超音波ビッグデータ・AI応用・普及大会」において、東南大学生物科学・医療工学学院の万遂人教授は、「中国のAI分野でアルゴリズムの研究に取り組んでいる科学者は極めて稀だ」とし、「徐匡迪の問いかけ」は中国のAI発展の重要問題を突いていると述べ、「この状況に変化がなければ、中国のAI応用は掘り下げが困難で、重大な成果も得難い」とした。
中国AI分野の発展の現状はどのようになっているのだろうか。オープンソースコードとアルゴリズムでAI産業の発展を支えられるのだろうか。なぜ自国の枠組みとコアアルゴリズムが必要なのだろうか。
コアアルゴリズムがなければ「首を絞められる」ことに
浙江省大学応用数学研究所所長の孔徳興教授は、科技日報の取材に対し、「コアアルゴリズムがなければ、重要問題に直面した時に他者から首を絞められることになりかねない。中国のAI産業の革新力は言われているほど強くはなく、実際には産業発展が過度にオープンソースコードと既存の数学モデルに依存している。中国に属するものは決して多くはない」と指摘した。
4ヶ月でゼロから学べるAI、全16回のAI入門講座、アルゴリズムを学べるオフラインカリキュラム...これらがネット上で高い人気を集めている。このように既存のアルゴリズムとモデルを学習し、トレーニングすることでたちまちAIエンジニアに成長できることが分かる。
コードがオープンソースであるならば、それを使えばよい。ではなぜ首を絞められる可能性があるというのだろうか。
孔氏によると、オープンソースコードは自由に使用できるが、専門的ではなく的も絞られておらず、具体的なコマンドの需要を満たせないことが多い。画像認証を例に挙げると、オープンソースコードで開発されたAIは他人の顔は正確に認証できるが、医療イメージングの識別では臨床上の需要を満たせない。「例えば肝臓病の識別では、境界があいまいでコントラストが低く、器官が幾重にも重なっているといった問題があり、オープンソースコードでは正確に識別できない。三次元構造や可視化などの面では、実際の解剖情報に正確に反応することも難しく、ミスなどの問題が生じる。これは医療応用では致命的だ」と孔氏。
孔氏は「専門的な研究任務で首を締められれば非常に受動的になる。そのため自らのアルゴリズムが必要になる」と述べた。言い換えるならば、コアコードを把握できるかどうかが、未来のAIを巡る知恵の駆け引きでの勝敗を左右することになる。オープンソースコードで「調教」されたAIはせいぜい「凡人」であり、AIを「ニッチ分野の専門家」に成長させるためには、数学を基礎とするオリジナルのコアモデル・コード・枠組みの革新が必要となる。
アルゴリズムの「根」が産業の「繁茂」を支える
大きな木はその根を深く張るという言葉があるが、AIの発展も同じことがいえる。深く根ざすほど、力強い産業を形成できる。
それではオープンソースコードによって基礎の習得を飛ばしたAI産業は、なぜ発展の継続が困難なのだろうか。
孔氏の説明によると、同じデータを入手する場合、オープンソースコードを使えば、AIはディープラーニング後に結果を出せるかもしれない。しかし訓練枠組みが固定的で、アルゴリズムの制限があれば、ユーザーが具体的な応用に使用する際に期待通りの結果を手にすることができない。しかもアルゴリズムの書き換えや改善が困難だ。
孔氏は「基底のアルゴリズムから構築した場合、数学モデル全体、アルゴリズムの設計全体、模擬訓練全体が一つのつながりになる。これらが同時に改善されるばかりでなく、需要に基づき、いつでも変更し、実際の問題を解消することができる。基礎的アルゴリズムは往々にして共通的な問題を研究するためのアルゴリズムを意味する。基礎数学理論、高性能データ計算などの学科に及ぶ、多くの実際の問題に応用できる。的を絞った応用型のアルゴリズムは往々にして、具体的な問題に関わる具体的な知識、事前情報に応用されることで、実用における問題をより良く解決する」と説明した。
そして「基礎的アルゴリズムと応用型アルゴリズムはいずれも重要で、基礎的アルゴリズムがあれば、応用型アルゴリズムをより豊かにより深くする助けになる。AIが対応する現実の生活は複雑で変化が激しい。自在に対応できるようになって、初めて産業の拡大を促進できる」とした。
数学者の積極的な参加が必要に
孔氏は「徐匡迪の問いかけ」が反映する問題を解消するため、「まずは政策の指導が必要となる。国は科学研究基金を設置するなど、すでにこの方面の支持を行っている。次に、業界内の企業が科学技術革新を行う際に、意識的に数学者を招聘するべきだ」と提案した。
そして「アルゴリズムの開発により最終的に製品が完成した場合、企業はアルゴリズムの開発に加わった数学者に成果を共有させるべきだ。数学・科学などのソフトパワーは現在、まだ社会から十分に認められていない。業界もしくは法制度レベルで、数学研究成果の知財権の保護を徹底するべきだ」と続けた。
さらに「それから、数学者自身もAI発展の中に積極的に関わるべきだ」とする孔氏は、AIの未来の発展には数学者の深い関わりが必要と呼びかけた。現在は依然として「弱AI」時代(データスマート時代)であり、AIは主にコンピュータの高い計算力と巨大な保存能力によって実現されており、底層のアルゴリズムの問題はそれほど際立っていない。しかし未来の発展において、AIはロジックや思考回路などのスマートな内容に溶け込む。これには数学・科学のオリジナルの革新が必要であり、数学者は大量の基礎的問題を解消しなければならない。
アルゴリズムの進化は追随者ではなく、オリジナルの創造者によって実現される。孔氏は「実際にはディープラーニングの応用はすでに頭打ちであり、我々は新たな数学技術(ロジックとデータに依存する一部の「聡明なアルゴリズム」など)により、コンピュータの知能を高める必要がある。これらの取り組みには数学者の参与が必要だ」とした。
※本稿は、科技日報「核心算法缺位,人工智能発展面臨"卡脖子"窘境」(2019年4月30日付1面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。