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蘇州ハイテク産業開発区:テクノロジーと伝統文化が美しく融合

2019年5月28日 張曄(科技日報記者)

 バーチャル・リアリティ(VR)技術や人体追跡機能が搭載されたインタラクティブビジュアル撮影装置、インタラクティブホログラフィー3D展示システムといった新テクノロジーは、近寄りがたいイメージがあるかもしれないが、蘇州ハイテク産業開発区の多くの文化クリエイティブ企業はそれらを駆使して、温かみのある人的、文化的な新製品を生み出している。例えば、1000年以上の歴史を誇る呉文化の「結晶」ともいえる蘇繍(蘇州地方の伝統刺繍)に、新興のナノ技術を活用することで、そこに新たな息が吹き込まれ、より輝きを放つ作品が生まれている。

 中国科技部(省)や中共中央宣伝部、文化・観光部など5当局はこのほど、共同で認定した第三陣となる国家文化・テクノロジー融合モデル拠点21ヶ所のリストを公表した。今回リスト入りした中国全土の複合型モデル拠点は5ヶ所で、江蘇省からは蘇州ハイテク産業開発区が、唯一その分野でリスト入りし、トップに立っている。

 蘇州ハイテク産業開発区は近年、蘇繍文化や運河文化など特色ある資源を活用して、蘇州科学技術タウン・文化テクノロジー産業基地を中心とする、「一核、五区」の文化テクノロジー融合発展スペース機能のレイアウトを形成しつつあり、文化・テクノロジー融合発展という「両面刺繍」を「縫い上げて」いる。

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蘇州創捷伝媒公司が設計した雲南洱海科普教育センターのテーマ展示館
画像は蘇州創捷伝媒公司 提供

伝統文化の刺繍が「ハイテク」とマッチング

 蘇州市高新区の太湖沿いにある鎮湖街道には「梁雪芳刺繍スタジオ」があり、そこに足を踏み入れるとまずすっきりとしてエレガントな現代風の刺繍作品「残荷」に目を奪われた。

 一見すると何の変哲もない普通の刺繍作品であっても、ナノ技術を活用して処理すると、その表面はハスの葉のように一滴の水も漏れない。

 高級工芸美術師の梁雪芳さんは、「ナノ処理により、色合いや手触りなどの品質が落ちないのはもちろん、伝統の刺繍作品が解決できなかった防水や湿気防止、防腐などの問題を解決できた」と説明する。

 近年、蘇州ハイテク産業開発区は、蘇繍小鎮や中国伝媒大学蘇州研究院などをキャリアにして、綴織(つづれおり)や蘇繍、玉雕(玉に彫刻する伝統工芸)、核雕(クルミなどに彫刻する伝統工芸)、紅木雕刻(紅木に彫刻する伝統工芸)といった伝統工芸と現代クリエイティブ産業の融合を推進し続けており、伝統文化が現代的な華やかさを放っている。

「テクノロジーの光」が伝統文化の復興の道を照らし、「人文の魂」がテクノロジーの新規供給を育んでいる。

 そこから数千キロ離れた場所にある洱海博物館には、水もない、魚もいない「魚類生態圈」があり、来場者の注目を集めている。ある男の子はVRゴーグルを装着し、網を「水」の中に入れて、「魚」を捕まえていた。そして、その魚に関連する情報はすぐにスクリーンに表示された。

 蘇州創捷伝媒展覧有限公司の張佩副総経理は取材に対して、「これは、VRなどの技術を駆使して、洱海に生息する各種魚類の生態圏を再現している」と説明する。

 同社の特許目録を見ると、オールアングルバーチャル撮影装置、人体追跡機能搭載のインタラクティブビジュアル撮影装置、多面デジタル・サンドテーブル展示システム、インタラクティブホログラフィー3D展示システムなどがずらりと並んでいた。また、同社が立ち上げた蘇州VR・モノのインターネット技術研究院は、スマート博物館、脳波図・ビジュアル追跡、VR・拡張現実などの最先端技術の研究開発に力を入れていることは注目に値する。

 蘇州ハイテク産業開発区は現在、クリエイティブデザイン、デジタルメディア、文化観光を代表とする文化産業群、新世代電子情報を代表とするハイテク技術産業群を形成している。統計によると、2017年、文化産業の付加価値額は82億9,400万元(1元は約16.5円)で、国内総生産(GDP)に占める割合は7.15%に達し、一定規模以上の文化企業(年売上高2,000万元以上の企業)は99社、利益総額は22億4,600万元に達している。

産学研の連携により研究成果の実用化を促進

「気候に恵まれた春のこの時期を利用して、当社では蘇州の地理文化を紹介する絵本を作成している。そのうち、1冊は大運河の風景がテーマとなっている」と話す中国科学院蘇州地理情報・文化テクノロジー産業拠点の斎徳利博士はここ数日、猫の手も借りたいほど忙しい毎日を送っており、取材に対して、「この絵本は、全てギガバイト(GB)級、テラバイト(TB)級の地理情報データ、写真、人文知識を基に作成している」と説明する。

 斎博士の説明する「地理情報データ」とは、同拠点の強力な衛星リモートセンシングデータ処理能力を活用したもので、ビッグデータスーパーコンピューターセンターのオンラインストレージは10ペタバイト(PB)に達し、計算ピーク値は10兆回に達している。このような処理能力とデータ規模をたよりに、同拠点は、リモートセンシングビッグデータを柱とし、地理情報産業、知識マップを中心としたオンライン教育産業、地理絵本を主体とした地理文化産業がほぼ形成され、企業20社が誕生し、2018年の生産額は1億元に達した。

 このように基礎である最先端科学研究データが、需要のある文化の新規供給へと発展するという「融合劇」が、蘇州ハイテク産業開発区では毎日のように上演されている。

 産学研連携というスタイルの採用が、蘇州ハイテク産業開発区が文化テクノロジーの一歩踏み込んだ融合と発展を促進する要となっている。蘇州ハイテク産業開発区は、蘇州科学技術タウン・文化テクノロジー産業基地を主なキャリアとして、中国科学院地理情報・文化テクノロジー産業拠点、中国伝媒大学蘇州研究院、国家知的財産権局著作権局著作権審査協力江蘇センターなどの大型テクノロジー文化研究開発・イノベーションプラットホームを誘致し、地理文化、クリエイティブデザイン、アニメーションゲーム、知的財産権サービスなどの文化テクノロジー産業を重点的に育成し、発展させている。そして、国家級、省級、市級の文化産業モデル拠点10ヶ所以上、省級以上の知的財産権パーク4ヶ所を立ち上げてきた。

 文化クリエイティブ企業の特徴に合わせて、蘇州ハイテク産業開発区は文化・テクノロジー企業インキュベーターを数多く立ち上げ、アーリーステージの文化・テクノロジー企業に、「起業インキュベート+起業投資+起業ガイド」のインキュベーションサービス体系を提供している。現在、蘇州ハイテク産業開発区は、公共サービスプラットホーム76プラットホームを立ち上げており、文化・テクノロジー企業632社が集まり、文化・テクノロジー関連の仕事に携わっているスタッフの数は1万3,500人を超え、文化・テクノロジー企業の売上総額は約1,000億元、利益は合わせて約110億元に達している。

「文化クリエイティブ融資」が文化の新業態の発展を促進

 藍海彤翔集団傘下の藍海創意雲平台が製作に関わった映画「神探蒲松齢」、ドラマ「武動乾坤」、アニメーション映画「熊出没之探検日記2」、「大海図」などは、市場で話題となり、好評を博すなど、同社は今、波に乗っている。

 中国中央テレビ局(CCTV)の番組「深度財経」は、「優れた映画作品はどこに?」をテーマに、中国の映画産業、映画館業界の発展の動向に一歩踏み込んで迫り、藍海創意雲平台の商品ライフサイクルマネジメントシステム「安捷秀(AgileShot)」を詳しく紹介し、高く評価した。

 その成功の秘訣について、藍海彤翔集団の魯永泉・董事長は、「同プラットホームの意義は、インターネット技術を利用してイノベーションを実現し、クラウドサービスを通して、映画・ドラマの製作に技術的サポートを提供し、製作において必要な技術や処理手段をクラウド化し、企業の作品製作における技術的難題を解決している点にある」と説明する。同プラットホームは、クラウド上のバーチャル文化クリエイティブ産業パークを形成し、現時点で、アニメや映画、ドラマ関連の企業を含む文化クリエイティブ企業約6万社がそこに集まり、映画・ドラマのスタジオ15万スタジオ、デザイナー500万人以上がそこで働き、取引額は累計50億元に達している。

 新業態の発展には、新生態のサポートが欠かせない。藍海彤翔はミドルステージの時期に、蘇州ハイテク産業開発区の文化テクノロジー金融サポート「文化クリエイティブ融資」を得た。

 蘇州ハイテク産業開発区は2014年に「蘇州ハイテク産業開発区文化産業担保基金」を設置し、区域内の文化産業企業を対象とした特定項目担保業務「文化クリエイティブ融資」を打ち出した。同基金設置以降、企業約20社を対象に、39回にわたり「文化クリエイティブ融資」を提供し、その与信額は1億2,600万元に達した。その他、蘇州金融小鎮には、文化系プライベート・エクイティ・ファンド、基金管理企業約20社が集まり、教育、文化クリエイティブ、スポーツ、観光、娯楽関連が全体の3%を占め、登録資本は約7億5,000万元に達している。

 金融サポートのほか、蘇州ハイテク産業開発区は、地域協同、産業協同、要素協同を特徴とした文化テクノロジー融合イノベーション生態を構築し、各種主体のイノベーション活力を活性化させ、文化テクノロジー融合における「最後の1キロ」問題を解決している。人材、資金、税収、金融などの面から着手し、文化テクノロジーの融合、文化産業の発展のために、一連の金銭的サポート政策を打ち出している。2018年の時点で、蘇州ハイテク産業開発区の文化産業プロジェクトは、各種国家、省市級産業誘導資金・融資利子補給など合わせて4,000万元以上のサポートを受けている。

 蘇州ハイテク産業開発区共産党活動委員会書記を務める呉新明区長は、「文化テクノロジー融合は、蘇繍の絶技である『両面刺繍』のようで、融合型、複合型、モデル型のイノベーションの実践を『縫い上げ』、地域のモデル転換、発展の意欲と自信を高めている。当パークは今後も、文化とテクノロジーの融合発展推進を深化させ、ソフトパワーの文化の分野を向上させ、地域の高い品質の発展に寄与する」と語る。


※本稿は、科技日報「蘇州高新区:"綉"出創新融合之花」(2019年4月23日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。