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長征11号 海上から宇宙へ―中国のロケット打ち上げ技術の向上をアピール

2019年6月19日 付毅飛(科技日報記者)

 海上打ち上げ型固体燃料ロケット「長征11号」(別名CZ-11 WEY号)が北京時間6月5日12時6分に中国の黄海海域から打ち上げられ、「捕風1号A、B」などの衛星7基を高度約600キロの円軌道に送り出した。中国の固体燃料ロケットでは初となる海上打ち上げ技術試験が無事成功した。

 中国航天科技集団第一研究院が明らかにしたところによると、固体燃料ロケット打ち上げ技術試験は今年、国防科技工業局から正式なプロジェクト立ち上げを認められた。長征11号を使い初の試験を行った。海上打ち上げ技術試験システムはキャリアロケット、海上打ち上げプラットフォーム、測量・制御通信システム、衛星システムの4つの部分からなっており、出港後1週間以内の打ち上げを実現できる。今回の飛行試験は中国内で初めて「宇宙+海洋工学」技術を融合させ、海上打ち上げの安定性・安全性・信頼性などのカギとなる技術を確立し、海上打ち上げ試験フローを全面的に検証した。中国が宇宙にスムーズに進出する新たな打ち上げ方法を提供した。

陸地が広いのに、わざわざ海上から打ち上げる理由は?

 ロケット打ち上げと聞いて海を連想することはあまりないだろう。これについて、第一研究院長征11号副総指揮の金鑫氏によると、陸上からの通常の打ち上げと比べると、海上打ち上げには大きなメリットがあるという。

 落下エリアの安全は、内陸部からの打ち上げで考えなければならない重要な要素だ。打ち上げ前にはブースター、第1段、カウリングなどが落下するエリアの人々を避難させ、地上の人々の安全を保証しなければならない。それとともに、落下エリアの選択は、打ち上げ軌道の設定を制限し、ロケットの積載能力にも影響を及ぼす。海上を航行すれば人口密集地から遠く離れ、打ち上げ場所と落下エリアを柔軟に選択し、安全問題を解消できる。

 赤道付近で衛星を打ち上げることで、姿勢調節と軌道変更の燃料を節約できるだけでなく、地球の自転を最大限に利用しロケットの推進力にも余裕が生まれる。しかし中国の最も南寄りの文昌衛星発射センター(海南省)であっても、北緯19度に位置する。海上打ち上げで中国の傾斜角0−19度の打ち上げ能力の空白を埋め、傾斜角が異なる各種衛星の打ち上げの需要を満たすことができる。また「一帯一路」(the Belt and Road)諸国に対するサービスも可能となり、中国宇宙事業の海外進出を効果的に促進できる。

 また海上打ち上げは中国の豊富な民間船舶資源、港湾資源、測量・制御資源、社会資源を十分に活用し、宇宙技術と海洋工学を効果的に融合させ、社会と経済の良質な発展をけん引することができる。

難易度が高い海上打ち上げ

 海上打ち上げには多くのメリットがある一方で難易度も高い。第一研究院長征11号副チーフデザイナーの管洪仁氏によると、今回の任務には技術・環境・フロー・モデルが新しいといった特徴があり、成功の裏側には技術力と管理能力の向上が欠かせない。

 管氏によると、陸上発射台と比べて、起伏する海上プラットフォームは打ち上げに新たな技術的試練を与えている。そのためチームは特殊な照準技術と動的条件下における打ち上げ技術を採用し、打ち上げの新たな環境に対応した。

 通常の打ち上げ任務におけるロケットの制御及び信号モニタリングは、有線通信システムの伝送を利用する。一方で、海上打ち上げ任務ではワイヤレス伝送を使用するしかない。そのため長征11号も中国内で初めてワイヤレス測量・制御技術を利用し打ち上げられたロケットになった。

 従来のロケット飛行安全制御は、地上の人員によるモニタリングと制御が必要だった。今回の任務はロケット自身が飛行状況に基づき、リアルタイムで自主的に判断した。中国のロケットは初めて自主安全制御を実現した。

 また過去の長征11号はいくつかの部分に分かれて陸上の発射場に運ばれ、そこで組立と試験を行っていた。今回の任務には専用の組立・試験の場がなく、ロケット連結、衛星搭載、試験を最終組立工場で行う必要があった。そのため新たな技術フローと輸送方法が生まれた。長征ロケット全体が衛星を搭載しながら工場を出て、最終組立工場から鉄道と道路を使い港湾に移動したのは今回が初めてである。港湾に着いてから2、3日で試験と準備を終えて乗船し、指定海域に移動し随時打ち上げられるようにした。このフローは従来の流れを大幅に縮小し、そして全過程が不可逆的だ。そのため組織管理及び品質管理にとっては厳しい試練となった。


※本稿は、JSTが参加する国際科学技術メディア連盟に提供された記事「中国火箭解鎖発射"新姿勢" 長十一完成海射首秀」(科技日報、2019年6月6日付)を日本語訳/転載したものである。