第153号
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貴州貴安: ビッグデータの「ダイヤモンド鉱山」を掘り当てる

2019年6月4日 何春 何星輝(科技日報記者)

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貴安新区内貴州楽道科技の生産工場(画像は貴安新区プレスセンターが提供)

 資源が少ない貴州省の貴安新区(Guian New Area)は、イノベーションを足掛かりに、バイオニアとしてビッグデータの分野の発展に取り組むなど、他の新区とは異なる独自の発展の道を歩んでいる。過去5年間を振り返ってみると、中国において8番目の国家級新区である貴安新区は、一貫してビッグデータをコアとなる競争力に、また中核産業に据えたところ、アップルや華為(ファーウェイ)、騰訊(テンセント)などといった中国国内外の業界大手が集まり、現地のビッグデータ企業も台頭するようになっている。

 貴安新区のイノベーションの実践は、高い品質の発展に飛躍の翼を与え、他の地域から立ち遅れている貴州省が、他省に追いつき、追い越すことを実現する上でのモデルケースとなっていると言える。

イノベーション発展の新しい原動力が貴安に集結

 インフラ工事がほぼ完了した貴安新区にある騰訊のデータセンターについて、同センターの朱華・最高技術責任者(CTO)は、「今後、ここは騰訊の最も重要なデータを保存するために使われるようになる」と説明する。

 山のトンネルの中に隠れる騰訊のデータセンターの総敷地面積は約47ヘクタールで、運用が始まると、周囲の木々や自然環境に溶け込んだ中国初の「特別ランク」のデータセンターになる。非常に高い耐震性があり、核兵器による攻撃にも耐えることができるという。計画では、完成後、普段は無人での運用が可能で、サーバー30万台が設置されることになっている。

 なぜ、データセンターを貴安新区に建設することにしたのだろうかという問いに対し、騰訊集団の馬化騰・董事会主席兼最高経営責任者(CEO)はかつて、「ここは水力発電が充実していて、電気代が安い。また、気温が安定している山の洞窟がたくさんある。環境にやさしい大型のデータセンターを建設するのに適している」と説明していた。

 鋭い洞察力を持っているのは、馬氏だけではない。アップルや阿里巴巴(アリババ)、華為など、中国国内外のインタネットサービス大手も貴安新区にデータセンターを設置している。その数を数えてみると、貴安新区はデータセンターの集散地になっていることが分かる。

 貴安新区ビッグデータ弁公室の汪軍副主任は、「自然環境という観点から考えても、エネルギー資源という関連から考えても、貴安新区は、中国の南方地方で、データセンターを建設するのに最も適した場所だ。当データセンターの電力使用効率を示す指標PUEの最低値は1.1以下だ」と言う。

 そして、「データセンターは、貴安新区に集まるビッグデータ産業チェーンの入口にすぎず、データセンターを中心に、貴安新区は今後、ビッグデータの川上・川下産業も集めて、産業群を形成することができる」との見方を示す。

 気候が良く、地質も安定している貴安新区が重視しているのは、サーバールームエコノミーであることがはっきりと見てとれる。

 実際には、データセンターは単なるサーバールームではなく、貴安新区にある華為クラウドデータセンターは、サーバールーム、関連施設、華為大学が一体となった工業パークとなっている。さらに多くのデータセンターが運用を開始するにつれ、人材や資源などのイノベーションの要素も集まるようになり、貴安新区のビッグデータ産業の発展を牽引する新たな原動力となるだろう。

 それこそが、貴安新区がデータセンターを建設する本当の目的である。省エネ、低炭素、かつ経済的なこの新型データセンターは今後、貴安新区のビッグデータ産業全体の集中的な発展を促進し、中国南方地方を代表するデータセンターを築くために強固な基礎が築かれることになるだろう。

中国企業が台頭してテクノロジーのハードパワーを発揮

 貴安新区を単なるデータセンターではなく、「ダイヤモンド鉱山」と見なし、実際に「宝」を掘り当てている企業もある。

 白山雲科技は、クラウドコンピューティングに力を注ぎ、クライアントに高効率のデータ転送、保存、管理およびセキュリティに関するサービスを提供している。現時点で、同社は中国集装箱、中船重工、マイクロソフトなどの超大企業と契約を結び、中国のネットユーザーの78%と、海外のネットユーザー2億人にサービスを提供するクラウドチェーンサービスプロバイダーとなっている。

 2015年に立ち上げられた白山雲科技は、昨年上半期の時点で、累計およそ6億元(約94億円)の融資を受け、ハイテク新興企業向け市場「科創板」への上場を既に申請した。データの孤島化という問題を解決することについて、同社の霍涛・創始者兼最高経営責任者(CEO)はかつて取材に対して、高い品質の発展を背景に、応用シーンに対する楽観的な見方を示していた。

 貴安新区で急速に台頭している中国のビッグデータ企業は、なにも白山雲科技の一社だけではない。

 世界最先端のレベルを誇る易鯨捷は、データ収集の高頻度、平行、リアルタイム分析などの難題解決に成功し、独自の知的財産権を有する分散型と組み合わせたデータバンク製品・技術を研究開発した。現在、易鯨捷は、JPモルガン・チェースやアマゾン、国家電網などの超大手企業をクライアントとして抱えるほか、500メートル口径球面電波望遠鏡・中国天眼の膨大な量のデータの保存や演算の速度をめぐる問題を解決し、世界の天文台に応用される技術を手に入れている。

 ハイエンド化とエコ化、集約化に立脚して発展する貴安新区は、伝統的な産業の技術革新を積極的に促進し、戦略性新興産業の発展の加速に寄与している。そのイノベーションの成果は、ビッグデータ、ハイエンド装置製造、新エネルギー・新材料、新医薬、「大健康」産業などの特色ある新興産業をカバーしている。特にビッグデータ産業において、データ保存、データ収集・加工、データクレンジング、データセキュリティ、クラウドサービス、スマート製造などの分野の企業を誘致または育成しており、ビッグデータの垂直チェーンと水平チェーンを兼ね備えている。

 何もなかった貴安新区が今やビッグデータを原動力とするハイテク産業のトップとなるとは、5年前には想像もできなかった。イノベーション性、牽引性のあるビックプロジェクトが現在、貴安で次々に実施されている。統計によると、現時点で、貴安新区では355プロジェクトが実施され、そのうちビッグデータ産業の規模は前年比10%増の376億1,000万元(約5,900億円)に達している。

イノベーションを促進するために「大衆による起業・革新」の拠点を構築

 人が病気になったら病院に行くのと同じように、企業が問題に直面した時にも、「病院」で「診察」してもらうことができる。貴安新区に足を踏み入れると、イノベーションの風が吹いている。たくさんの大学が集まり、合わせて15万人ほどの学生や教師がいる花溪大学城(大学タウン)には、病気になった「人」の治療ではなく、「企業」の難病を治療する「大衆による起業・革新(イノベーション)病院」がある。

 同「病院」の診察の流れは普通の病院とほぼ同じで、まず受診手続きをして、見てもらう「科」を判断してもらい、次に企業診断士がマンツーマンで「診察」してくれる。それでも問題が解決できない場合は、病院に数人の専門家が共同で「診察」するよう手配してもらうこともできる。ここまでの診察は「完全無料」で受けることができ、それ以上の解決策が必要な場合にのみ、「医療費」が発生する。診察後も追跡サービスがあり、企業が問題を完全に解決できるまでサポートしてもらえる。

「大衆による起業・革新病院」は、新型イノベーション・起業サービスプラットホームで、花溪大学城管理委員会と、貴州黔程衆源企業管理コンサルティングセンターが共同で立ち上げた。インターネットを活用した同病院は、「オンラインマイクロコンサルティング」と「オフラインコンサルティング」のスタイルで、企業に基礎スペース、企業コンサルティング、政策リソース、発展資金などのワンストップ総合診断・サービスを提供している。

 第一期の国家「大衆による起業・革新」モデル拠点である貴安新区は、「大衆による起業・革新」の推進に継続的に取り組み、花溪大学城は一貫して「大衆による起業・革新」の拠点としての役割を果たし、17のイノベーション起業インキュベータープラットホームに、累計998社の企業が登録している。

 花溪大学城管理委員会経済発展部の李悲鴻部長は、「イノベーション・起業する際にも『未病』を治療しなければ回り道ばかりしなければならなくなる。特に、大学生が起業する場合、勢いだけで突っ走り、ビジネススタイルや市場のニーズなどをよく分かっていないというケースが多い。『大衆による起業・革新病院』は、現実的なニーズがあって立ち上げられた」と指摘する。

 謝偉・院長助手は、「発足から1年もしない間に、大衆による起業・革新病院には財務、証券、金融、法律などの分野のベテラン専門家が集まり、各専門家が交代で『診察』を行っており、その成果は顕著だ。『受診』した企業の約120社の中には、しっかりとした治療を受けて、成長のスピードが速くなったり、良い方向へ向かって成長したりするようになった企業もある」とその成果を強調する。

「大衆による起業・革新病院」は、貴安新区のイノベーションの環境の縮図なのかもしれない。

 近年、貴安新区は、花溪大学城を足掛かりに、ビッグデータの「政産学研」協同発展に取り組み、「人材+プロジェクト+チーム」、「人材+拠点」などの人材育成の新スタイルを積極的に模索し、ビッグデータ人材の梯団を構築し、イノベーションを促進するために力を集結させている。国務院が認可した「相対集中行政許可権」試験ポイントである貴安新区は、「放管服改革」(行政のスリム化と権限委譲、緩和と管理の結合、サービスの最適化)に大胆にチャレンジし、新区の13部門の審査サービス269事項を、最適化、統合し、その全てを「1つの窓口で受理」するようにし、全ての窓口が同様のサービスを提供し、文字通り一カ所で全ての手続きが行えるようにしている。


※本稿は、科技日報「貴州貴安: 大数据中挖出"鉆石鉱"」(2019年5月13日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。