第153号
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知的財産権をさらに重視―中関村国家自主イノベーションモデルパーク

2019年6月7日 華凌(科技日報記者)

 イノベーション主導の発展において重要な役割を担う知的財産権の国家の経済、社会の発展における地位と役割も日増しに際立ってきている。2003年に中国国務院が北京の「中関村」を「国家知的財産権制度モデルパーク」に指定して以降、中関村は知的財産権の分野でも正に先頭に立つリーダー的存在となっている。

 北京市知識産権(知的財産権)局と中関村管理委員会、(北京市)海淀区政府が最近共同で開催した2019年北京市知的財産権宣伝ウィークのメイン会場で行われたイベントで、「中関村国家自主イノベーションモデルパーク知的財産権行動案(2019年--2021年)」(以下「行動案」)が発表された。

 業界関係者は、「行動案」は中関村モデルパークの知的財産権の創出、保護、運用能力の向上に力を注ぎ、北京が「高精尖(ハイレベル・精密・先端)」の経済構造を構築し、高い品質の発展を促進するために、有力なサポートを提供するほか、同市は最も厳正な知的財産権保護を実施し、最も優れたイノベーション発展の環境づくりをするという決意をPRしていると分析している。

「七位一体」の知的財産権の徹底した保護構造を構築

 中関村がある北京市海淀区は、中国全土で知的財産権の創出が最も活発な地域の一つだ。

 同区の区党委員会の于軍書記によると、2018年、同区の発明特許出願件数は約5万5,000件で、北京市の47%を占め、発明特許実施許諾件数は2万2,000件以上と、北京市の47.5%を占めた。また、特許協力条約(PCT)に基づく特許出願件数は約2,800件と、北京市の約42.8%を占め、昨年年末の時点で、有効発明特許は10万件を突破し、北京市の45.8%を占めた。1万人当たりの発明特許保有件数は329件と、北京市の約3倍、全国の28.6倍に当たる数字だ。

 特許実施許諾件数が安定して急増し、高品質のイノベーションが継続的に創出されている背後には、行政と司法当局が知的財産権の強力な保護を実施していることと密接な関係がある。

 中関村管理委員会創新(イノベーション)処の任旭氏は、「中関村は中国初の知的財産権法庭と知的財産権裁判所を立ち上げた。知的財産権をめぐる通報、苦情の業務体系は1区16パークをカバーし、行政の法執行を継続的に強化し、行政の法執行と司法の保護を効果的にリンクし、知的財産権保護の力を一つにしている」と説明する。

 4月23日に発表された「海淀区知的財産権白書(2018年度)」によると、海淀区知的財産権局が手がけた訴訟事件で寄せられた手がかりは年間約300件で、法執行人員が出動して検査した商業施設は約80ヶ所、取り締まった特許違反案件は94件、工商管理局海淀分局が取り締まった商標権侵害案件は年間92件で、罰金、没収の総額は331万4,000元(約5,200万円)だった。海淀区文化委員会が検査を実施した出版、印刷経営組織は年間約700件で、処理した出版系の案件は26件、没収した違法出版物、印刷物は1,898点だった。北京海淀区裁判所は注目すべき案件や効率の高かった判決を通じて、司法の誘導的役割を果たし、新しく受け付けた知的財産権関連の案件は年間1万5,832件、結審した案件は1万6,033件と、前年同期比35.8%増となった。

 世界知的財産権機関(WIPO)中国事務所の呂国良氏は「2018年、中関村の企業の特許出願件数は8万6,000件以上だった。これは、北京での特許出願10件のうち4件が中関村の企業という計算だ。中関村国家自主モデルパークは企業の経営発展やビジネス環境づくりなどの面でカギとなる役割を果たしていることに、私たちも注目している」と話す。

 中関村管理委員会の翟立新主任は、「今後3年、知的財産権の『徹底した保護』を整備し、行政法執行、司法判決、各方面への調整、ビジネス仲裁、法律サービス、社会監督、業界の自主規制という『七位一体』の知的財産権の徹底した保護の構造を構築し、知的財産権保護を一層協力して、効率よく行うよう推進する」とする。

バリューチェーンにおけるハイエンドな発展、ハイバリューの特許プロジェクト年間50件実施を目指す

 兆芯公司の羅勇・副総経理は、「集積度の高い集積回路(IC)設計ほど、知的財産権に対する依存度が高い。往往にして先駆者が大量の知的財産権を保持しており、特許の非常に高い壁が形成されている。高性能のメインプロセッサを研究開発する企業にとって、知的財産権の蓄積と保護は企業発展の基礎だ。中関村集積回路設計パークに入居する企業として、ハイエンドユニバーサルIPコアの半導体の知的財産権を取得して保護するほか、重要な技術の分野で、一連の中国国内外の特許出願、ICのレイアウト登録申請を行い、さらに、CPU関連のサポートソフトウェアの特許を出願し、核心的な知的財産権を網羅的に保護している」と説明している。

 中関村集積回路設計パークは北京市がIC産業の発展をサポートするために建設したIC専門の特色あるパークで、兆易創新(GigaDevice)や比特大陸(Bitmain)などチップ設計企業約30社が既に入居し、生産額は年間248億元、保有している特許は2,000件以上となり、特許出願件数も年々増加している。同パークの関連の責任者は取材に対して、「産業の発展のニーズに合わせて、当パークはIC設計知的財産権プラットホームを立ち上げ、IC企業に、IP取引、IP金融、IP運営、特許訴訟、特許戦略分析など、特化したサービスを提供している。知的財産権をめぐる金融、評価・分析、取引・申請代理など多元化したサービス体系が構築されつつある。今後はパテントプールを構築して、特許の運営、国際特許訴訟、特許戦略分析などをめぐる業務を展開する計画だ」とした。

 知的財産権の産業に対するサポート的・牽引的役割について、TD産業聯盟の楊驊秘書長も「中関村のサポートの下、当聯盟は、知的財産権を架け橋とし、メンバー企業間の特許協力スタイルを構築し、基準や産業発展に役立つ特許協力規則を制定した。それにより、特許のハードルが下がり、産業間で力を合わせることができるようになったほか、技術の基準化、産業化、商業化発展を加速させ、高いイノベーション能力を有する全産業チェーンの構造を構築することができている」と充実感を漂わせる。

「行動案」は、ハイバリューの特許育成プロジェクトの実施を重要任務としている」。翟主任は、「中関村は今後、知的財産権の産業に対するサポート的役割をより明確にし、知的財産権の創出を推進してハイレベルな産業の発展をサポート・牽引し、重点産業の知的財産権戦略を制定し、重点産業の発展の方向性を示し、産業がバリューチェーンにおいてハイエンドな発展を遂げるよう導いていく。今後3年にわたり人工知能などの重点産業の知的財産権戦略の制定に力を注ぎ、ハイバリューの特許育成プロジェクトを実施して、ハイバリュー特許バンクを構築し、ハイバリューの特許プロジェクトを年間50件以上実施できるよう促進する計画だ」と強調する。

高品質の資源を集めワンストップサービスで企業の「海外進出」をサポート

 国際知的財産権サービスをめぐる高品質の資源を集め、企業が海外進出においてオールチェーン、ワンストップサービスを活用できるようにするため、北京市知的財産権局と海淀区は4月23日、共同で国際知的財産権サービスホールを設置した。これにより、中関村は知的財産権のグローバル化に向けて大きな一歩を踏み出した。

 于書記は、第2回中国·海淀ハイバリュー特許育成コンテストで、「海淀区は現在、ハイバリュー特許育成運営センターを建設して、産業発展を支え、国際的に競争力ある高品質の特許とハイバリューの特許を組み合わせて、知的財産権の高い品質の発展を牽引することを検討している」と述べた。

 国際商標協会(INTA)のアジア太平洋地域の事務所長は、「2016年、INTAは中関村の2つの非営利組織と、提携することで合意し、意思の疎通を図るルートを確立した。現在、中関村のテクノロジー・イノベーション能力は継続的に強化されているほか、知的財産権の運用や保護の能力も継続的に高まっており、ビジネス環境は日に日に最適化されてきている」との見方を示す。

「行動案」によると、中関村はこの3年間で、100以上の知的財産権運営の試験的なモデル組織の設置をリード・サポートし、特許誓約融資保険の設置、知的財産権の証券化業務の展開の模索などを通して、知的財産権と金融の融合のイノベーションを促進する。知的財産権のサポート政策の整備に注力し、企業に対する支援強化、サービス機関への出資、または株式購入サポートなどの方法で企業の国外の発明特許出願に参加するなどして、企業、特に中小企業が海外進出のコストを削減できるようサポートする計画だ。

 翟主任は、「知的財産権の海外における配置作業を特化させ、企業の海外における知的財産権の創出や権利の保護のサポートをするほか、知的財産権サービス業の海外進出と、海外からの誘致というグローバル化発展をサポートしなければならない」と指摘する。「行動案」は、2021年までに、中関村モデルパークの有効発明特許保有数を15万件以上、PCTに基づく特許出願件数を年間8,000件、国際商標登録件数を累計1万8,000件に到達させ、大学院所技術移転サービス機関を累計30カ所以上育成し、5から10の国際知的財産権サービス機関・組織を新たに誘致する計画だ。


※本稿は、科技日報「進軍知識産権高地 中関村吹響再出発号角」(2019年5月14日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。