路線バス新エネルギー化の着実な歩み
2019年6月18日 華凌(科技日報記者)
―地方補助金の継続、猶予期間の設定、将来的には奨励金に
中国の新エネルギー車市場は現在、急速な発展期に突入している。昨今、公共交通機関の分野の消費を促進し、路線バス業界のモデル転換と高度化を推進し、さらに、路線バスの新エネルギー化を加速させるべく、中国財政部(省、以下同)、工業・情報化部、発展・改革委員会、交通運輸部が共同で発表した「新エネルギー路線バスの推進と応用サポートに関する通知」(以下「通知」)は、新エネルギー路線バス市場の発展に極めて大きなサポートをもたらしている。
視覚中国より
では、新エネルギー路線バスの発展の現状はどのようになっており、「通知」はどのような問題の解決につながるのだろうか?また新エネルギー路線バス業界にどのような影響を与えるのだろうか?
「地方補助金」政策により業界に猶予期間
ある大型乗用車業界の専門家は、「2018年、中国の全長6メートル以上の新エネルギー乗用車の販売台数は前年同期比2.3%減の累計9万1,000台だった。トップ10に入る新エネルギー大型乗用車メーカーのうち、販売が伸びたのはわずか4社だった」という。
なかでも新エネルギー路線バス推進の課題は、購入コストが割高な点である。例えば、2018年、BYD(比亜迪)の大型電動バスの販売価格は、1台あたり100--130万元だった。数年前と比べれば半分ほどの価格になってはいるものの、従来型のバスと比べるとやはり高く、路線バス運営会社にとっては、なかなか手が出せないというのが現状だ。
重慶交通大学の公共交通学者・王健氏は、「各地の新エネルギー路線バスの保有台数を見ると、深圳や北京、上海など発展した都市では、新エネルギー路線バスが占める割合が高いものの、その他の都市では導入が思うように進んでいない」とする。
「通知」は、「購入補助金を打ち切る地方が増えているが、地方は新エネルギー路線バス購入補助金によるサポートを続けるように」としている。
中国国際金融股份有限公司の研究部は、「地方の補助金が存続すれば、自動車メーカーの下半期のプレッシャーを緩和できる」と分析している。新エネルギー路線バス購入補助金を継続する政策は、新エネルギー企業にとってのカンフル剤となり、また業界に(新エネルギー路線バス普及への)時間的ゆとりを生むことに疑いの余地はない。
「通知」は、2019年から、新エネルギー路線バスを購入し、ナンバープレートを取得した時点で、一部の補助金を受け取ることができ、さらに規定されている走行距離を超えた時点で、補助金の全額支給を申請できると規定している。
北汽福田汽車股份有限公司北京欧輝客車分公司の秦志東副総裁は取材に対して、「全体的にみると、この『通知』は以前より格段に進歩している。もともとは、新エネルギー路線バスを購入してナンバープレートを取得し、規定された走行距離を超えた時点でしか補助金の支給を申請することができなかったため、今回の『通知』は、路線バス運営会社にとっては、うれしい内容になっている。これは製造企業にとっても、資金のコストが高く、占める割合が大きくなっていたが、現在は新エネルギー路線バスが販売されてナンバープレートを取得した時点で補助金の一部の支給を申請できるようになったことで、資金が占める割合を小さくすることができ、その面での負担を緩和できる。ただし、具体的な申請方法はまだ明確にされていない」と語った。
「通知」は、「地方は、新エネルギー路線バスの推進、実用化の責任主体で、その入れ替えを確実に実施できるよう各方面が協力しなければならない。各省(区、市)の交通、財政、工業・情報化、発展改革などの当局は、新エネルギー路線バスの推進、応用実施案を制定し、その入れ替え目標や時期を明確にしなければならない」としている。
その点について業界関係者は、新エネルギー路線バスの補助金の支給が続いたとしても、地方の財政状況も考慮しなければならないとの見方を示す。新エネルギー路線バスは、従来型のバスの購入よりもコストがかかり、政府の補助金支給が大きく後退している状況下で、一部の地方政府は、新エネルギー路線バスを推進するかを決める際、地域の経済状況、地理的環境を考慮するほか、技術や市場の規律を尊重し、適切な補助金を支出するなど、バランスをうまく取らなければならない。
ハイレベルの技術が駆使された優良製品を重点的にサポート
中国政府の自動車の省エネ・排ガス削減関連の計画では、重点都市における従来型の路線バスを2020年までに、全て新エネルギー路線バスに入れ替えることと定めている。
中国公路学会客車分会の佘振清・副秘書長は、「ここ5年の新エネルギー路線バス市場を取り巻く大きな変革により、多くの新エネルギー路線バスの市場進出が促進され、従来型の燃料を必要とする路線バスに取って代わるようになっている。それにより、必然的に従来型の大型車の需要が抑制される」とする。
中国国家新エネルギー技術イノベーションセンターの責任者・原誠寅氏は、「財政からの補助金が継続されたとしても、政策サポートは一時的なもので、メーカーは技術的実力を向上させて、市場での競争できる力をつけなければ、新エネルギー車を市場化するという目標は達成できない」と指摘する。
全国乗用車市場情報合同会の崔東樹秘書長は、「新エネルギー車の補助金政策が毎年調整され、後退しているのは、政府がそうすることで新エネルギー車のモデル転換を促進し、メーカーが製品の競争力を一層向上させるようにするためだ。補助金が完全に撤廃されると、新エネルギー車業界は完全に『市場』に回帰することになる」との見方を示す。
「通知」は、「新エネルギー路線バスの技術指標のハードルを適度に高くし、技術レベルの高い優良製品を重点的にサポートするように」指示している。
秦副総裁は、「今回の『通知』は、以前のように技術基準が大きく調整されることはなく、技術の基準体系が引き継がれており、企業が競争状況を見極めながら、秩序立てて製品のアップグレードを実施できる。当社は現在、国家新エネルギー技術イノベーションセンターの研究プラットフォームと提携して、技術の革新を協同で行い、スマート化、燃料電池、基盤プラットフォームの基礎モジュールの研究、対国外製品との入れ替えなどに取り組んでいる」とする。
安凱客車銷售公司の関係責任者は、「近年、中国国内の電池技術は向上し続けているが、電動路線バスへの応用の面では、課題が山積みであるという事実を示している。例えば、電池が高温になると充電できなくなり、車両が自然発火することさえあるため、車両の正常な運行に深刻な影響を与える。また、それは大きな潜在リスクともなる。それら技術的問題を、メーカーが部品メーカーと連携して解決し、技術を向上させなければならない」と指摘する。
業界関係者は、「新エネルギーのメーカーは、技術の研究開発にもっと焦点を合わせ、新エネルギー車の安全性、信頼性、使用時の円滑性を向上させるほか、コスト削減を加速させなければならない。また、地域、使用シーンに合わせて、さまざまな技術を応用し、技術の多元化発展に取り組まなければならない」と指摘する。
新エネルギー車の発展環境の最適化
統計によると、中国は数十年かけてガソリンスタンドのネットワークを構築してきたため、現在、ガソリンスタンドが8万ヶ所以上ある。もし、それと同じ規模の充電スタンドのネットワークを構築するためには、少なくとも10年は必要となる。
「通知」は、「路線バス以外の、地方の新エネルギー車購入補助資金を、不足している充電インフラの建設や関連施設の運営・サービスなどに用いなければならない」と明確に言及している。中央財政が、既に手配された2019年またはそれ以前のガソリン補助金の余った資金を、地方が集めて新エネルギー路線バスの運営に回すことができる。
中国電動汽車充電技術・産業連盟の鄭甲兔・秘書長は、「路線バスのシステムから見ると、中国の充電スタンドの取り付け、運営技術は比較的成熟している。『通知』が不足している充電インフラの建設や関連施設の運営・サービスをサポートすることに言及しているということは、路線バス会社も今後、資金を投じて、充電スタンドを設置すれば、一定の利益を得ることができ、路線バスシステムの収入源になるかもしれないということだ。実際には、インフラ建設の加速は、新エネルギー車の応用推進をさらに奨励し、使用コストを下げるということで、持続可能な発展にもつながる」との見方を示す。
ある専門家は、「充電技術が進歩するにつれて、新エネルギー路線バスは、運営路線上での充電という理念が一層重視されるようになっている。10メートル以上の純電動路線バスは、3年以内は依然架空電車線方式がメインのままであるものの、6--8メートルの純電動路線バスは、運営路線上に380V交流電源、600Vの直流電源で充電ができる多種多様な充電形式が現れるだろう」とする。
「通知」は、「関連当局は、新エネルギー路線バス運営補助金政策の整備に取り組み、2020年から、補助金の代わりに奨励金を出して、新エネルギー路線バスの運営を重点的にサポートする」としている。
原氏は、「実際には、財政の許す範囲内での補助金政策の継続で、将来的には補助金によるサポート政策は、非財政体系をメインとし、通行権や充電施設、動力電池の回収・再利用、商業保険、中古車などの新エネルギー車の発展環境の最適化にウェートを置き、補助金政策主導から少しずつ非補助金政策によるサポートへと移行し、新エネルギー車製品の使用環境のメリットを維持しながら、市場化された自主新エネルギー車選択体系を構築する。補助金の不正受給をある程度防ぐことにもつながる」とする。
秦副総裁は、「海外と比べると、中国の新エネルギー路線バスの発展は最先端規模で、政策が牽引的役割を果たしており、政策の規模は大きく、大きな力が注がれている。現在、インドや東欧などの『一帯一路』参加国の一部が中国の新エネルギー路線バスを導入している。そのため、政府の新エネルギー路線バスをめぐる政策が牽引役となっており、新エネルギー路線バスは今後も発展するだろう。中国のさらに多くの企業が海外進出するに違いない」との見方を示す。
※本稿は、科技日報「公交車新能源化進程稳歩推進」(2019年5月22日付6日面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。