第153号
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中国の研究者が新型のダニ媒介感染症ウイルスを発見

2019年6月10日 計永勝

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マダニ(出典・pixabay.com)

 すでに夏が到来しており、居住区の草むらの葉先などに形がクモそっくりで、体つきが扁平な節足動物がいるのを目にすることがある。それがダニだ。ダニは動物や人を刺して血を吸う以外にも、ダニ媒介性脳炎や出血熱ウイルス、リケッチアやスピロヘータなど病原体の感染を媒介する。

 先ごろ、中国の研究者は、ダニが新型のフラビウイルス科RNAウイルスを媒介することを発見し、このウイルスを「阿竜山(アロンシャン)ウイルス」と命名した。

 この名前の由来はどこからきたのだろうか?

 2017年4月、内モンゴル自治区呼倫貝爾(フルンボイル)市のある県病院が阿竜山鎮の女性患者を収容し治療した。この患者には高熱や頭痛の症状が見られ、しかもダニ刺咬歴があった。

 佛山科技学院の劉全教授や浙江大学の周継勇教授、内蒙古民族大学の王偉教授からなる合同チームの研究者は患者の血液サンプルを採取し、病原体を分離・鑑定した。

 その結果から、この患者は新型のフラビウイルス科 RNA ウイルスに感染しており、学者らは症例の発生地が阿竜山であったことから、「阿竜山ウイルス(Alongshan virus,ALSV)」と命名した。同時に、研究者は類似した臨床症状のある他の患者86人の血液サンプルからも阿竜山ウイルスの核酸配列を検出した。これらの患者の多くは農民か営林場の作業員で(84/86)、ダニ刺咬歴があった(82/86)(図1)。すべての患者はリバビリンとペニシリンの併用治療を受けた後、完治した。

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図1 阿竜山ウイルス感染者(赤い点)の地理分布。(出典・参考文献1)

 この研究結果は5月30日の「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン」[1]に発表された。

 専門家は、夏は蚊の繁殖が盛んな季節であり、屋外で活動する際には自身でしっかり防護し、ダニのいる地域(森林など)では防護服を着用し、ダニに刺されないようにするよう注意を喚起している。またダニに刺された場合は、早急に正規の医療機関で検査を受けるべきだとしている。


参考文献:

[1] Ze-Dong Wang, Bo Wang, Feng Wei, et al., A New Segmented Virus Associated with Human Febrile Illness in China. N Engl JMed 2019; 380:2116-25. DOI: 10.1056/NEJMoa1805068


※本稿は、JSTが参加する国際科技伝播聯盟に提供された記事「中国科学家発現一種新型的蜱(pí)伝病毒」(知識分子、2019年6月5日付)を日本語訳/転載したものである。

関連リンク

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