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中国レアアースの採鉱・選択・分離の技術は世界最先端に

―テクノロジー・イノベーションによりレアアース大国が研究開発弱国から脱却

2019年6月21日 謝開飛(科技日報記者)

 中国神話に登場する土の怪物・息壤(そくじょう)は自ら増殖する能力を持っている。レアアース業界で、このほど、そんな「息壤」のような能力を備えた新型の抽出--沈殿剤が発明された。レアアース(稀土)と固体抽出複合物を形成し、何度も抽出してリサイクルでき、レアアースの分離・濃縮の効率が大幅に向上し、従来の技術を利用した場合に環境汚染をもたらす「三廃(廃水、廃ガス、固体廃棄物)」を効果的に減らすことができる。

 再生不可で希少性の高い戦略的資源で、「スーパー界面活性剤」と称されているレアアースをめぐっては、低コストでそれをクリーンに生産する技術が世界的な課題となっており、各国が優位性を確保しようと熾烈な競争を繰り広げている。今回、中国科学院海西研究院廈門(アモイ)稀土材料研究所の孫暁琦氏率いるチームが発明したテクノロジー成果は、雑誌「湿法冶金」に掲載され、中国がレアアースの採鉱、選択、分離技術の面で、世界を牽引する地位を保ち続けていることを明らかにした。

繁栄の副産物である「三廃」の解決を模索

 小さなものでは携帯電話やカメラ、大きなものでは精密誘導ミサイルやロケット、衛星などに至るまで、さまざまな分野でレアアースが活躍している。レアアースは軽希土類元素と重希土類元素の2種類に分類することができる。特に、中国南方地方のイオン型稀土鉱は、世界の重希土類元素資源の70%以上を占めており、希少資源で、代替性が低く、宇宙飛行、軍事、国防、新材料合成などの最先端分野に広く応用できる。

 しかし、かつての中国は、レアアース大国でありながら、関連の研究開発の面では「弱国」だった。1960年代、レアアースの分離、精製のコア技術は世界でも数少ない国しか掌握していなかった。巨大なレアアース資源を誇る中国は、当時は、海外から付加価値を高める加工が施されたレアアース製品を高額で輸入するしかなかった。

 徐光憲院士ら科学者の数十年におよぶ努力と研究の結果、中国のレアアース分離の化学・工学分野の研究は大きな進歩を見せ、レアアースの採掘、製錬、分離、精製の面で最先端の地位を築き、レアアース資源利用産業チェーンを構築・完成させ、埋蔵量、生産量、輸出量世界一に成長した。しかし、従来のレアアースの分離、精製技術は、資源の利用率が低く、環境保護のコストも高いという問題を抱えていた。

 中国の従来のイオン型稀土鉱冶金技術の場合、資源の平均利用率が25%未満で、イオン吸着型稀土鉱を1トン分離するのに塩酸を8~10トン、水酸化ナトリウムを6~8トン、または液体アンモニアを1~1.2トンを使わなければならないと試算されている。国家傑出青年基金を獲得した、中国教育部(省)の長江学者・李梅特別教授は以前、「ここ数十年、中国は世界の90%以上のレアアース原料を提供してきた。しかし、他の国は新材料を使うことができるようになったのに、中国は深刻な環境汚染に悩まされるようになった」と嘆いた。

 実際には、中国国内の従来の工業レアアース分離体系は、海外にルーツがあり、工業運用されて数十年になるため、企業がプロセスやパラメーターを調整し、そのウィークポイントを最適化するというのは至難の業となっている。そのため、レアアースを抽出する原料の構造を変え、レアアースを抽出する全てのプロセスで「三廃」が発生しないようにする手法を、中国のレアアース業界は長年、模索、研究してきた。

「他の国に追従する」だけの状況を変えるためには、根本的な部分からイノベーションの道を歩まなければならない。孫氏率いるチームは、政府の目標に焦点を合わせ、基礎研究に立脚して、新型抽出体系を開拓し、クリーンで高性能のレアアース分離技術の研究開発を進め、資源の総合利用の水準を向上させ、持続可能な発展の実現に取り組んでいる。

「息壤」を発見し、新型の「分離術」を研究開発

 レアアースの湿式精錬工業において、抽出剤を基礎とした分離プロセスの役割は金属を精製、濃縮することであるため、抽出剤は、抽出の良し悪しを左右する要素となる。

 中国のレアアース工業・生産の分野において、分離技術に最も広く応用されているのは溶剤抽出法と化学沈殿法の2つであるものの、現段階では依然として課題が山積みだ。例えば、溶剤抽出法では、揮発性有機溶剤を大量に使わなければならないため、安全性や環境破壊などの問題を抱える。炭酸水素アンモニウムやシュウ酸工業沈殿剤はリサイクルが難しく、発生する廃水は環境汚染を生じさせる。

 孫氏は、「クリーンで、高効率のレアアース分離技術を研究開発するカギは、コストが安く、高性能の抽出--沈殿剤の設計、調合、スクリーニングだ。そのプロセスは非常に複雑で、コストや原料、安定性、抽出率、選択性、バランスタイム、抽出容量、ストリッピング性能、溶解性、毒性などの要素を総合的に考慮しなければならない」と説明する。

 そのため、孫氏率いるチームは応用基礎研究を展開し、世界最先端の技術を採用し、高効率でクリーンなレアアース分離技法の研究開発に関係する溶液配位化学、抽出剤の設計、抽出のメカニズム、分離材料などの基本的な科学的問題を系統立てて研究し、レアアース分離のプロセスを応用基礎研究から産業化する過程で存在するカギとなる科学的問題を解決した。

 それをベースに、孫氏率いるチームは新たなジクロロフェノキシ酸系抽出剤を調合した。その抽出剤は、低濃度のレアアースを定量抽出し、レアアースと固体抽出複合物を形成して、何度も抽出し、リサイクルすることが可能だ。その抽出剤をベースに、溶剤抽出法と化学沈殿法のメリットを組み合わせて、全く新しい抽出となる沈殿法を編み出した。

 同チームが、贛州レアアース集団や廈門鎢業股份有限公司、北方稀土集団などと連携して展開した工業テストにより、従来の分離技術と比べ、この新型分離技術には、抽出の過程で有機溶剤を使用しないという特徴があり、抽出--沈殿剤はストリッピング、リサイクル可能で、工業廃水が発生せず、低コストであるというメリットがあるほか、安全性が高く、抽出--沈殿がスピーディで、得られるレアアース沈殿濃縮物は数十倍以上の大きさになり、レアアースの分離、精製の効率が大幅に向上し、工業への応用の見通しは非常に明るいことが分かった。

抽出剤の「遺伝子辞典」を基にした最適の分離技法を編み出す

 中国の福建省や江西省、広東省、広西チワン族自治区、湖南省などの南方地方の都市には、イオン型稀土鉱があるものの、成分の違いが大きい。福建省や江西省のイオン型稀土鉱を例にすると、それぞれの稀土鉱に含まれるレアアース配分が異なり、研究開発された技法パラメーターにも大きな差がある。では、その問題はどのように解決されたのだろうか?

 中国科学院海西院廈門稀土所は国家重大科学工程上海光源と連携して、シンクロトロン放射技術を採用し、設計、調合した新型抽出剤とレアアースの作用メカニズム、構造活性相関、種の分布をめぐる研究を展開し、分子レベルで、抽出剤の各種要素のレアアースの分離プロセスに対する影響を研究し、さまざまな種類のイオン型稀土鉱のレアアース抽出--沈殿剤の「遺伝子辞典」を形成した。

 それをベースに、孫氏率いるチームは関連企業と連携し、さまざまな種類のイオン型稀土鉱の分離技法を研究した。工業応用の見込みがある抽出剤と分離材料は、分離技法の必要に応じて、コストと性能の関係を調整し、さらなるスクリーニングと構造の最適化を実施した。また、さまざまな鉱物資源、抽出体系、分離装置のプロセスに対する影響を系統的に評価し、技法パラメーターを最適化し、最も優れた技法の路線を確定させた。

 孫氏率いるチームは既に新型抽出剤と分離材料、稀土鉱貴液濃縮技術、重希土類元素分離技法、イオン性液体鹸化技術、放射性汚染物質総合処理技術などの、新型のクリーンで高効率のレアアース分離技術体系を構築している。そのイノベーション性成果は、「AIChE Journal」、「ACS Sustainable Chemistry & Engineering」、「Green Chemistry」などの国際誌に相次いで掲載されたほか、化学工学研究所(IChemE)グローバル賞、中国化工学会侯徳榜化工科学技術賞、中国稀土学会傑出エンジニア賞などを受賞した。

「工学技術から基礎科学をめぐる問題を見つけ、基礎研究で得た成果を工業に応用する。」国科学院海西研究院廈門稀土材料研究所は既にレアアースの高効率でクリーンな分離チーム、レアアース回收技術研究開発チームなど産業化研究開発チームを8チーム結成し、研究開発した技術の業界における拡散、中国のイオン型レアアース分離工業の発展を促進している。


※本稿は、科技日報「我国稀土采選分離技術全球領先」(2019年6月3日付1面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。