第153号
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水素燃料電池車の実用化に向けて―突破すべき3つの壁

2019年6月26日 張夕勇

 水素燃料電池車は2019年になって、まるで一夜にして政策と市場の力強い追い風を受けたようにみえる。全国両会(全国人民代表大会と全国人民政治協商会議)の会期中、政府活動報告の83ヶ所の修正の中に、「充電や水素注入などの施設の建設を推進する」という一文が盛り込まれた。水素エネルギーが政府活動報告に明記されたのはこれが初めてのこと。今年の上海モーターショーでは、水素燃料電池車が各方面の「科学技術の新星」と共に頭角を現した。韓国のヒュンダイは四川省で水素燃料電池車の完成車を生産しており、北汽フォードとトヨタ自動車、北京億華通(SinoHytec)は意向を取りまとめ、水素燃料電池車を共同開発することになった。

 水素燃料電池車は「天の時、地の利、人の和」という条件がそろい、今まさに発展の時期を迎えており、商用車の普及において先発の優位性を占めている。「2020年に中国の水素ステーションを100ヶ所まで増やし、燃料電池車を1万台にする」という「中国水素エネルギー産業インフラ発展青書(2016)」が初めて掲げた発展目標を徐々に実現しようとしている。

 技術の成熟により航続距離の需要を満たし「天の時」が到来した。リチウムイオン電池のみを使用するEV商用車は現在、全天候下で航続距離を200キロ以上にすることが難しい。それと同時に水素燃料電池車の中核部品と付属技術の成熟、コアとなる指標の上昇が続いている。水素燃料電池を発電機とし、一定割合のリチウム電池を車載エネルギーとするならば、双方の長所を十分に発揮でき、日常的な水素ガス注入により車の正常な運転を維持できる。大型商用車は冬になるとより高い出力を必要とし、電力消費量が拡大する。燃料電池の特徴により低温環境下のエネルギー消費への影響を弱めることができるため、航続距離の需要をより良く満たすことができる。

 「地の利」とは現代的な市街地の発展が生む、中長距離交通の差し迫った需要だ。京津冀(北京・天津・河北)地区を例とすると、水素燃料電池車とEVのそれぞれの長所を結びつけることで、地域内の特定シーンでその相互補完型の発展構造を形成することができる。中心市街地(半径30キロ内)でEVの発展を中心とし、都市間運用や都市周辺の郊外、区を跨いだ高速交通(片道30キロ以上)といった交通は燃料電池車の発展を中心とする。最初に300キロ以上の都市間燃料電池物流車の運営インフラ・ネットワークを構築し、北京周辺の中長距離(半径500キロ)水素燃料電池物流圏を形成していく。

 環境保護意識が人々の観念の中に深く根ざすようになっているが、これが「人の和」といえる。ガソリン、天然ガス、電力などのエネルギー源は、よりクリーンでエコロジーな方向に発展している。水素燃料電池車は騒音がなく、炭化水素などの汚染物質を排出しない、最も発展の将来性が高い、エネルギー蓄電池ではない発電技術だ。

 当然ながら水素燃料電池車の力強い発展が一挙に実現されることはなく、次の3つの壁を越えなければならない。

 まず、運営段階の投入産出の方面で実行できなければならず、持続可能な運営を維持する点。条件を備えた地域の水素製造産業の発展の奨励を重点としていく。水素製造コストがさらに削減され、液体水素の備蓄・輸送技術の成熟に伴い、その効率が上がる。さらに税収や炭素排出権取引などの政策が組み合わされることで、水素燃料電池車は特定のエリア・シーンの運営で実用化のターニングポイントを迎えるだろう。

 次に、関連川上・川下および産業チェーンの同時建設を考慮しなければならない点。初期は資源および経済の基礎的条件が備わっている京津冀、長江デルタ(上海市、江蘇省、浙江省)、「粤港澳大湾区(広州、仏山、肇慶、深セン、東莞、恵州、珠海、中山、江門の9市と香港、澳門<マカオ>両特別行政区によって構成される都市圏)」に優先的に焦点を絞り、水素エネルギーインフラの建設を同時に拡大し、水素エネルギー経済産業チェーンを構築する。あわせて既存のガソリンスタンド資源を十分に活用し、水素ステーションを合理的に配置し、水素ステーションの申請・批准手続きを規範化・簡略化する。中央企業などによる水素ステーションの建設・運営を推進する。

 最後に、燃料電池中核部品である燃料電池・パイル、水素システム、水素エネルギーなどが段階的に達成すべき調整目標を設定し、燃料電池車の製品の全ライフサイクルにおける競争の優位性を形成し、燃料電池車技術の持続可能な発展を促進する必要がある点。また中核技術のイノベーション能力の育成を奨励・支持する体制を構築していかなければならない。完成車メーカーを中心とし、燃料電池・パイル、膜電極などの重要部品をサポートし、燃料電池車の中核技術の画期的な革新を実現していく。そして国内トップの水素エネルギーおよび燃料電池車の産業チェーンの協同発展を推進していく。

 自動車はすでに人々の生活の不可欠な部分になっているが、排気ガス汚染も人々を悩ませ続けている。快適でスムーズで環境にやさしい落とし所を見つけることが、未来の自動車の発展方向になる。水素燃料電池車はその答えの一つかもしれない。


※本稿は、科技日報「氫燃料電池汽車商業化 還需邁過三道関」(2019年5月10日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。