スパコンランキング「TOP500」を別の切り口で見る
2019年7月25日 李大慶(科技日報記者)
独フランクフルトで開催された第34回国際スーパーコンピュータ会議で、最新の世界スパコンランキング「TOP500」が発表された。米国の「サミット」が首位、「シエラ」が2位で、中国の「神威・太湖之光」が3位、「天河2号」が4位であった。
この情報が出ると直ちに注目を集めた。しかし一方で、一般の人々にとっては、このTOP500とは果たして重要なのだろうか。
スピードを競う目的は?
このような疑問を抱くのは、コンピュータ専門家以外の人が大半だろう。
PRの立場から見ると、新華社や光明日報などの多くの主流メディアがスパコンTOP500を報じているため、一つの側面からみると比較的重要であることが分かる。
TOP500について報じる際に、メディアの多くが強調している浮動小数点計算回数はコンピュータの計算速度を示している。例えば1位の「サミット」の1秒間の浮動小数点計算回数は14京8600兆回だ。計算が非常に速いことから、高性能コンピュータはスパコンと呼ばれている。
コンピュータの計算速度が速いことには重大な意義がある。国家スパコン広州センターの盧宇彤センター長は取材に対して、「天気予報の期間を1日長くしたければ、データ計算を行うコンピュータの性能を1桁分、およそ10倍に上げなければならない」と話した。
この24時間のためにデータの計算量は倍増する。コンピュータの計算が速くなければ、結果が出るころにはすでに48時間が経過しているようなこととなり、予報の意義が失われてしまう。
多くの科学者が一日も早くスパコンを使えるよう願っている。
筆者は数年前、中国科学院大気物理研究所で、地球システムデータシミュレーション装置のプロジェクト立ち上げに向けたシンポジウムに何度か出席した。専門家らはスパコンにより地球システムの大気圏、水圏、雪氷圏、岩石圏、生物圏の間の相互関係を研究しようとしていた。すべての圏の観測および研究に用いられるデータ量が非常に多く、1つの圏のデータ研究に1台のスパコンが必要になるほどだ。この5圏をまとめた研究には、より高速のスパコンがなければならない。
毎年会議に出る目的は?
TOP500は業界内の研究機関およびメーカーの商業競争の成果として見ることができる。ランキングの評価やスパコン会議に参加する機関およびメーカーはいずれも競合関係だ。専門家が共同で評価基準を定め、各国が計算速度と応用の広さで競う。ランキングの結果は公平かつ公正で、自画自賛では通用しない。
もちろんランキングの首位に立つのは最も輝かしいスターだ。今回のチャンピオンは米国の「サミット」で、3連覇を果たしている。TOP500でその優れた実力を示している。
しかし一方で、一部のメーカーはトップ10に入っていなくても毎年会議に出席している。彼らにはどんな目的があるのだろうか。
これらのメーカーの目的は、一方では自社の最新技術を展示し、世界トップのスパコン発展水準を知り、技術・産業交流を通じ世界のスパコン発展を共に促進することだ。もう一方で彼らはブランドと市場効果のために、会議で展示することで業界内のその他の国に自社の技術と応用水準を示し、国際ブランドとして知名度を高め国際市場を開拓しようとする。
この意義から考えると、今回フランクフルトで出展した中国メーカー(聯想(レノボ)、中科曙光、浪潮、華為(ファーウェイ)など)は、世界のスパコン専門家およびユーザーに各社の最新のスパコン技術と成果をPRしたことになる。
出展メーカーがアピールする内容とは?
スパコンメーカーがTOP500の評価を受けるのはその製品の技術によるものだ。そして会議で製品を展示するメーカーがアピールするのは自社製品の最新技術だ。中科曙光高性能計算製品事業部チーフエンジニアの戴栄博士は、計算速度が最も速いスパコンは必ず最先端の技術を応用していると述べた。
スパコンの発展は現在、多くの技術的な問題に直面している。メーカーが技術の進展を実現するためには、集積回路の放熱問題を解消し、さらにコンピュータの高エネルギー消費量といった一連の難題を解消しなければならない。
中科曙光は今回「次世代シリコンキューブスパコン」を会場に展示した。この装置は液浸冷却技術を採用しており、コンピュータシステムの電力使用効率を1.04以下に引き下げることができる。40Wの出力で1000Wの設備を冷却できる計算で、従来の風冷システムならば500−1000Wが必要だった。同等の計算能力であれば、同技術を応用することでエネルギー消費量を40%カットできる。またこの液浸冷却システムを採用することで、その余熱を二次利用できる(ビルの暖房など)。
放熱や省エネのメリットのほか、このスパコンはさらに最新のネットワーク技術を応用している。現在のスパコンの計算コア数は当初の数十万個から現在の数百万個に増加している。各計算ユニットに効率的に相互接続・協同させることは、一つの大きな技術的難題だ。2台の協同する機械を2人での作業と例えるならば、双方は「対話」しなければならない。相互通信を同時に行う必要があり、一方が信号を出した後もう一方が長時間経過してから回答するならば、システムの効率が下がることになる。
戴氏は「1台のスパコン内の任意の2つのノード間の通信と反応時間は短ければ短いほど理想的だ。広帯域・低遅延が最も理想的な状態だ。当社の新型装置はこの広帯域・低遅延の高速ネットワーク技術を応用している」と述べた。
※本稿は、科技日報「第三只眼看超級計算機500強榜」(2019年6月26日付8面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。