第154号
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容東エリアが「一番手」 新区建設計画ついに着工《雄安新区 次の一手》

2019年7月16日 『中国新聞週刊』記者/徐天 翻訳/吉田祥子

容東エリアで中国の伝統的な山水都市の理念を活用するなら、 現地の状況に応じた方法で市街地のなかに織り交ぜるように生態公園を建設することになる。 実際、これも容東地区の現在の地勢や地形によって決定されるものだ。

 栄烏高速道路を走って雄安新区に入ると、南側が先行開発区、北側が容東エリアである。

 この12.7km²の土地は、スタートアップ区の約7万人の住民の立ち退き後の受け皿となり、また、外部から招集する万人を受け入れる。さ らに、居住・産業・文化・観光などいくつもの機能を兼ね備えることで、「安置区〔立ち退き住民転入エリアz 〕」としての位置付けを 超えた存在になるだろう。

 容東エリアのコンセプトが比較的 はっきりと提示されたのは2017 年の夏だった。スタートアップ区を建設するには、エリア内にある村を 取り壊して土地を収用しなければならず、立ち退いた村民を移住させることができる「安置区」が真っ先に必要となる。新区の5つのクラスターのうち、スタートアップ区に最も近いのが容城クラスターの容東エリアだ。その名の通り、容城県の東側に位置し、移住した村民は、スタートアップ区にも容城県にも出かけやすい。このため、容東エリアが先立って建設する安置区の候補に挙げられたのである。

 昨年12月、容東エリアの規制型詳 細計画に対する意見付きの回答が発表されて最終案がまとまった。その 2カ月後の今年2月23日、容東エリア西部に位置する雄安国際科技成果展示交易センターが着工した。

 周囲の期待を背負った容東エリア の最初の「鍬入れ」がおこなわれた のである。

50%を越える緑被率

 新しい都市をつくるときに最も重 要なのは計画理念である。

 中国の都市のなかでも山水都市はとりわけ特色と魅力を備えている。必ずしも本当に山や水辺のある都市景観という意味ではなく、自然環境と人工の環境が一体に融合した都市の質感をいう。半分が庭 園で半分が都市、都市のなかに庭園 があり、庭園のなかに都市があるというものだ。

 容東エリアはまさにこのようなエリアになるだろう。上海同済都市計画設計研究院(以下、同済計画院)が「河北省雄安新区容東エリア都市デザイン」の編成作業を担当した。この計画院の院長を務める周倹(ジョウ・ジエン)・同済大学都市計画学部教授は「計画編成の過程でチームは、容東エリアは中国の伝統的な山水都市の理念を活用し、現地の状況に応じた方法で市街地のなかに織り交ぜるように生態公園を建設すべきだという共通認識を形成した」と述べた。実際、これは容東エリアの現在の地勢や地形によって決まるものだ。地区の中央にはいくつかの池が存在する。基本的にどれも住民が長年にわたって土を採取したために形成されたもので、最も深いもので15m、浅いものでも7~8mの深さがある。平らに埋め戻すには、土量の予測が難しいうえ、ビルの建設にも適さない。そこで、計画編成チームはこれらの池に合わせて公園を設計することに した。公園を起点に、周辺の地勢が低い場所に沿って外側に向かって放射線状に都市の外周にある森林へとつ なげることで、市街地に入り込む5 本の緑地帯が形成され、都市のなか に水と緑の空間が生まれる。

 計画編成チームは容東エリアの公園について、単に自然環境を人工的に模倣したものではなく、自然環境を生かして人文的な景観をつくりあげることを提案している。これは中国の伝統的な作庭技法であり、どの園林〔中国庭園の別称〕も一定の人文的色彩を備えている。

 エリアの中央に設置される公園を例に、周倹教授はこう述べた。「その位置づけは生態人文公園と呼ばれるものであり、いずれは楼閣・橋・ 亭(あずまや)・回廊といった中国庭園の要素を配置し、中国の古典的風格を持つ建築物も取り入れることができるようにしたい」。また、雄安新区内には一群の考古遺跡が未発掘の状態で存在し、そのうち4カ所が容東エリアにある。計画編成チームはそのなかの2カ所を結合して将来的に歴史公 園にする予定だという。時期を同じくして容東エリアには運動公園、青少年児童公園なども設置される。いずれも景観と人文的機能を併せ持つ テーマパークである。

 雄安新区の「計画綱要〔マスタープ ラン〕」によると、新区では「300m圏内の公園」を実現するとしており、これはつまり、居住空間内では、 社区〔コミュニティー〕や街角の全てに小型の公園があることになる。 現時点の設計プランでは、容東エリアには1つの生態人文公園と4つの 特殊公園〔動物園、植物園など〕、8 つの社区公園、48の近隣公園が設置される予定だと周倹教授は明らかにした。

「綱要」ではさらに、新区は森林に囲まれた都市、湿地がある都市を実現し、市街地から3km圏内に森林、1km圏内に樹林帯を配置することも打ち出している。容東エリアは北側に鉄道、南側に栄烏高速道路が通っているため、東西両サイドを重点に森林と湿地が整備される。森林は主に現地の樹木を栽培することで、自然生態系の回復を図る。容東エリアを貫通する幹線河道が東西方向に2本、南北に7本ある。東西に伸びる河道はスタートアップ区の水系に接続し、一連の流れを形成している。都市デザイン案では、森林と湿地の外側にサイクリングコースやランニングコース、休憩所などの施設を設計し、住民の使い勝手がよいプランを提示している。

 この設計によると、容東エリアには12kmにわたる道路沿いの緑地帯、52haの親水緑地および地区周辺の84haの生態樹林帯といった公園緑地システムが形成される。すなわち、容東エリアの住民1人当たりの公園緑地面積は24m²に達し、緑被率は50%を越える。

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人の感覚を考慮した空間スケール

 容東エリアの都市の中央は生態人文公園であり、そこから放射線状に 伸びる5本の緑地帯が都市を4つの 総合的な小区に分割する。

 中国において、文字による記録がある都市建設思想は、紀元前1000年余りの西周初期に遡ることができる。古代の人々は整然としていることや秩序を重んじ、機能の配置や空間の配列には全て一定の ルールが存在した。故宮はその典型例であり、今日に至るまでずっと受け継がれている。

 それゆえ、「営城〔計画的な都市の 造営〕」という中国古来の概念は、雄安新区の計画編成チームによる主要な議論のなかで常に取り上げられてきた。最終的にスタートアップ区と 容東エリアはどちらもこの伝統的な「営城」理念を手本とし、「これが中国の都市だと感じられる」街並みにすることが決まった。「河北省雄安 新区計画綱要」においても、新区は「中国の『営城』理念を受け継ぎ、左右対称のレイアウトで街区のスケールが人にとって心地よい、中心となる『方城〔碁盤の目状の方形都市〕』を構築しなければならない」と明確に規定している。

 容東エリアは12.7km²の空間に4 つの小区の設置を計画している。4 つの小区の位置付けは機能の違いに基づいて1つの主小区と3つの副小 区に分かれる。大きさはさまざまで、 外周の形態は自由である。各小区の中心部に、設計チームが人間の身体感覚に合った空間スケールを基準とする4つの「方城」を造営する。その うち一番メインとなる最大の「方城」 は1km²で、小さいものは0.5~0.6km²である。

 将来的に容東は85m×150mの小さな街区が都市の基本単位とな る。街区内は住宅の可能性もあるし、オフィスビルもありうるが、これが住民にとって交流しやすい空間スケールだという。いくつかの街区が1つの町内を構成し、町内には近隣センター・小型公園・イベント会場・ 幼稚園・小学校などの施設が配置される。容東エリア全体で21の町内を設け、5つの社区に分割することを 計画している。どの社区にも社区公園・病院・グラウンド・高等学校などの施設が配置される。

 都市の道路は街区・町内・社区を結んで走る。計画編成チームは「小さな街区と緻密な道路網」というコンセプトを採用し、環境配慮型交通のために快適な通行環境を整備する。容東エリアでは3本の主要幹線道路が6車線であることを除けば、ほかの道路はすべて4車線以下である。この道路網体系には、公共交通機関限定のバス専用レーンや自転車および歩行者専用の低速通行帯も含まれている。

 さらに設計者たちは、容東の地下空間を開発し、地下2階を地下駐車場として設計して地上スペースを自転車・歩行者・公共交通機関のために最大限利用できるようにすることを要望している。

 実際、交通は同済計画院が計画編成任務を引き受けてから、最初に検討した課題だった。大都市病を回避するには、交通モデルをどのようにデザインすべきか。雄安新区は一貫して低速型・環境配慮型の交通を提唱して いるが、どうすれば交通モデルを低速通行〔自転車や徒歩〕の人にもっと優しいものにできるのだろうか。

 北京・上海・広州・深圳などの大都市では、地下鉄を降りてから路上を10~20分歩かなければならないことは、おそらく受け入れがたいことだろう。この場合、一般的に地下鉄から遠く、出かけるのに不便な場所とみなされ、多くの人がタクシーなどに乗って行くことを選ぶ。

 そこで設計チームは、街角のプロムナードやロードベイ〔道路沿いの修景緑地〕、公園などによって低速通行ルート網を構成し、人々の生活空間をつなぐ案を提示した。このルート網は各近隣センターや社区センター、公共センターや商業サービス街区に通じており、各学校、病院、産業複合街区、公共交通機関の駅・ 停留所を順次結んでいる。住民は町内レベルの公共サービス施設に徒歩 5~10分で到着し、社区レベルの公共サービス施設には徒歩10 ~15分で到着する。

 交通だけでなく、都市の「高さ」に ついても計画編成チームは熟考を重ねてきた。

 人間にちょうどよい都市建築物 の高さはおおむね6階建て、すなわち24m前後であると彼らは考えている。容東エリアの4車線を主とする都市道路に合わせて、沿線の建物の高さを28m前後にすれば、建物の高さと街路の幅がほぼ1対1の 割合となる。

 周倹教授は「人の視線には認知ルールがあり、30m以内なら対象を認識できるが、30mを越えると識別が困難になる。従って、ビルの頂部と底部の距離および街路の左右両側の距離をそれぞれ30m前後に制限すれば抵抗感のない距離となる」と説明する。

 容東エリアは住宅建築の基準となる高さを30mに定めているため、設計による高低差はあるものの、80% 以上の住宅がどれも高さ30m前後となる。商業・ビジネス・事務所用途の建築物の高さは45mを基準とし、ランドマークの高さは一般的に75m以下である。目下、ランドマークについて、計画編成チームは次のように要請している。住宅ではなく公共の建築物であること。75mを超えるビルは3棟を限度とすること。また、これらのビルの屋上はあらゆる人に開放される公共の資源とすること。

全データを活用するスマートシティ

 先行開発区と同様に、容東エリア内の4つの小区も「職」と「住」のバランスが取れたエリアである。どの小区にもそれぞれ産業・パッケージサービス・居住空間があり、将来的には先行開発区と連携して、先行開発区で働く人の一部が容東に居住するようになるだろう。

 容東の新たな産業はビジネスオフィスの提供を中心に展開されるが、北京から分散移転されるどのような非首都機能を受け入れるのかについては未定である。

 しかし、周倹教授によると、現在すでに3分野の産業が検討されているという。目の前にある第1の課題 は、地元にもともとある産業を残してそれを刷新しグレードアップしなければならないということだ。容城県の服飾とぬいぐるみ産業は比較的発展しており、企業家と容城県政府はいずれも「産業チェーンのフロントエンドとバックエンド、すなわち環境汚染を生成しないプロセスを残すことができるよう希望する」と表明している。

 容城県の宋永良(ソン・ヨンリアン)副県長は取材に対し、雄安新区の設立が確定した後に訪問団を引率して新疆ウイグル自治区へ行き、ぬいぐるみ製造企業数社を現地の下請け業者に引き合わせたことを明らかにした。この産業は要求される技術水準が低く、ミシン1台あれば加工作業ができる。しかも新疆の人件費は比較的安く、 かつ、現地には一定の奨励政策もある。同じ理由から、貧困扶助政策の対象となっている保定市の西部山岳地区もぬいぐるみ産業を受け入れ可能である。

「多くの企業の製造加工プロセスがすでに外部委託されています。地元に残されているのは後工程の充填・ 仕上げ・販売などのプロセスで、環境への汚染を制御しやすいものです」(宋副県長)

 発展が想定されるもう1つの産業 が設計産業である。深圳の開発が始まった当初、深圳に入った第1陣の 行政機関は、建築院・計画院・市政院・交通院など建設に不可欠な部門だった。測量計画から始まって建築・都市行政・園林景観に至るまで、さらには街灯やゴミ箱、公共交通の駅・停留所、ニューススタンドの設計まで、どれをとっても現地での設計業務が必要である。今後、長期にわたり、雄安新区の最初の建設工事開始エリアとして、新区の設計スタッフが全て容東に集結して作業することになる。

 第3に発展が見込まれるのはデジタル産業だ。雄安新区がスマートシティを建設する際に最も重要な資源はデータである。白紙の状態から新たに建設する都市として、新区には大部分の都市が実現困難な「全データ活用型都市」を達成するチャンス がある。それは単なるビッグデータ産業ではない。データ産業はこの都市が誕生する初日からのあらゆるデータを逐一採集・分類・保存・解析・応用して今後のスマート化のために条件を整えることを事前に計画している。 現在、すでに建設が始まっている雄安国際科技成果展示交易センターは、雄安商務服務中心〔ビジネスサービスセンター〕を構成するプロジェクトの1つである。後者は施設全体が容東エリアの西部にある市 民活動センターの北側に位置する。 そのなかにホテル・専門家用アパート・オフィスビル・小型コンベンションセンターなどを建設する予定だ。こうした施設は、先行して容東エリアに入る、設計やデータなど各分野の担当チームおよび外部から来て視 察・交流・協力をおこなう人々のために役立てられると周倹教授は説明する。

 容東エリアの全面的な建設もすでに工程表に組み込まれている。昨年 6月、同済計画院が編成を担当した「河北省雄安新区容東エリア規制型詳細計画」と「河北省雄安新区容東エリア都市デザイン」は専門家の第一 次審査を通過した。計画編成チームはその後の3カ月間に新区の指導部門と30回余りのやり取りをし、河北 省の指導部門とも前後7回にわたり意見交換した。9月、京津冀(けいしんき)〔北京市・天津市・河北省〕協同発展指導小組は、容東エリアの「規制型詳細計画」と「都市デザイン」を審議するととも に、雄安新区の全体計画および白洋 淀計画も審議した。12月、容東エリアの規制型詳細計画は河北省党委員会と省政府により意見付きの回答が発表されて最終案がまとまった。

 宋永良副県長は「2017年10月に容城県に土地収用指揮部を設立し、村に駐在する作業チームが鎮や村の幹部を交えて、対象範囲内の19の村の人・土地・住宅・企業の状況について数回にわたる統計調査を実施するとともに、厳格な管理と規制をおこなって、いつでも土地収用と住民移転を開始できるよう待機している」と述べた。先行して立ち退く可能性がある容東エリアの2つの村 の538戸の住民の多くが、仮住まい用の賃貸物件をすでに見つけており、容東の建設工事完了後にまた元の場所に戻ってくる予定だ。

 周倹教授は、工事が始まると村民の転居先住宅の建設が最優先の作業になると言う。計画では、2020年までに容東エリアのインフラがほぼ完成し、移転者の「安置区」として実用化する条件が整い、エリアの基本的な枠組みがおおむねできあがる。

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容東エリアの張市村付近にて。孫娘と薪拾いをする村人。すぐ近くでは安置区に暖房を供給するための地熱井(ちねつせい)の建設が進められている。写真/視覚中国


※本稿は『月刊中国ニュース』2019年7月号(Vol.89)より転載したものである。