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ミクロ粒子の「拡大鏡」を探究、人間の能力の制約から解放

2019年7月26日 張曄(科技日報記者)、呂迪(科技日報実習生)

----中国独自開発の光電子増倍管、多くの科学プロジェクトを成功に導く

カギとなるポイントを掌握

 四川省稲城県にある海子山は、平均標高が4,410メートルある。かつてはめったに人の訪れなかったこの地で、周囲1.36平方キロメートルのアレイアンテナの設置が急ピッチで進められている。1万個近くある検出器によって、世紀の謎である超高エネルギー宇宙線の起源が明らかにされる。

 6月19日、国家重大科学技術インフラである高標高地宇宙線観測所(LHAASO)は、集中設置段階に入っていた。中国の独自開発による高い時間分解能を持つ2,270個の光電子増倍管がこのシステムで重要な役割を果たす。

 時期を同じくして、遠く離れた広東省江門市のニュートリノ観測所でも中国で製造された20インチ径のマイクロチャンネルプレート内蔵型光電子増倍管(MCP-PMT)が1万個導入された。その検出効率は平均30%以上に達し、外国製の同種製品の水準を超える。

 光電子増倍管は高エネルギー物理実験において汎用的な重要機器であり、ニュートリノの観測において技術水準が最も高く、最も重要な機器の一つといわれる。中国はすでに同業界の世界的企業による市場独占を打破し、世界一流の高性能を持つ20インチ径のマイクロチャンネルプレート内蔵型光電子増倍管の開発に成功しており、中国のビッグサイエンスプロジェクトで「ボトルネック」だった問題を解決し、真空光電子観測機器産業において独自に掌握可能な質の高い発展を後押ししている。

危うく水の泡になりかけたビッグサイエンスプロジェクト

 広東省江門市に位置する開平市の地下700メートルでは現在、大型の地下ニュートリノ観測所の建設が進められており、その光景はまるでSF映画で見る未来世界のワンシーンだ。直径35メートルの球形の検出器の内部は2万トンの透明な液体シンチレータで満たされ、外部は直径40メートルの鋼構造に20インチ径の光電子増倍管が2万個と3インチ径の光電子増倍管が25,000個備えられ、こうして構成された検出器が直径43メートルの円柱体内の液体に浸されている。

 ニュートリノが球形検出器に取り込まれると、線状アルキルベンゼンを主とする液体シンチレータの中ではきわめて小さな確率でベータ崩壊が生じ、きわめて微弱な光を発する。一方、球形検出器の外部の光電子増倍部は「拡大鏡」の役割を果たし、即時に微弱な光を捉えて電気信号に変換し、増幅して放出する。こうして、まるで幽霊のような粒子であるニュートリノの行方が検出される。

 ニュートリノは神秘で予測不可能な物体である。人類は当初、物質世界を構成する最小の単位は原子であると考えていた。しかし、20世紀初頭になると科学者たちは、原子は陽子、中性子および電子で構成されることを発見した。現在では、もっと小さな基本粒子はクォークとレプトンであることが知られている。ニュートリノはレプトンに属する。

 中国科学院院士で中国科学院高エネルギー物理研究所の王貽芳所長は、10数年前、中国製の20インチ径の光電子増倍管を採用して広東省江門市にニュートリノ観測所を建設するという大胆な構想を持ち、新型光電子増倍管の特許取得の計画を提示していた。

 しかし、この構想の実現には、ニュートリノの研究に比べてはるかに大きな困難があった。当時、中国では2インチ径以下の小型の光電子増倍管しか製造できず、それではコスト的に採用不能で、性能的にも要求されるレベルから大きくかけ離れていた。

 北方夜視技術股分有限公司南京分公司の孫建寧・総経理は、「日本の浜松ホトニクス社が世界の光電子増倍管の市場シェアの90%以上を占め、ハイエンド製品の技術は中国では完全に閉ざされていた」と力なく語った。

 大型で高性能の光電子増倍管を国内で生産できなければ、人間の能力という制約を受け続けていただろう。

「門外漢」が新たな道を切り開いて逆転

 2007年、広東省深セン市の大亜湾にニュートリノ観測所が建設された。ここで採用された8インチ径の光電子増倍管2,000個あまりは、すべて、米国の提携先が浜松ホトニクス社から購入したものだった。

 これに対して、1980年代に日本の岐阜県飛騨市神岡町に建設された東京大学宇宙線研究所神岡地下観測所のカミオカンデで採用されたのは、浜松ホトニクス社の20インチ径の光電子増倍管だ。この地からはノーベル物理学賞が2つ誕生している。

 つまり、「その道を極めるには、まず道具を揃えなければならない」という言葉の通り、20インチ径の光電子増倍管の設置は、中国のビッグサイエンスプロジェクトが攻略すべき壁となったのだ。

 2011年には、中国科学院高エネルギー物理研究所のリーダーシップにより、北方夜視技術股分有限公司、中国科学院西安光学精密機械研究所、中核控制系統股分有限公司、南京大学等により構成される大型マイクロチャンネルプレート内蔵型光電子増倍管の産学研共同研究チームが組織された。

 その後4年間の取り組みを経て、ビッグサイエンスプロジェクトの装置としてふさわしいニュートリノ観測用の20インチ径の高性能マイクロチャンネルプレート内蔵型光電子増倍管の開発に成功した。この製品は総合性能において世界の先進レベルに達しており、一部の指標では世界水準を上回っている。

 孫建寧氏は、「光電子増倍管の検出効率を高めることが最も核心をついた技術の一つであり、これには量子効率と収集効率の2つの要素が含まれる。日本では現在、伝統的な金属ダイノード型光電子増倍管による増倍方式が採用されているのに対し、中国は電子増倍システムにマイクロチャンネルプレートを採用して電子の増幅を実現し、電子の収集効率は98%以上に達した。こうして、基本的に同等な量子効率を保証した上で、日本の同種製品を上回る検出効率を実現できた。」と話す。彼の研究グループでは、さらに世界最大の高真空変換装置を開発すると共に、製品の技術指標の向上が可能となる一連の新技術の研究を進めている。それには、低バックグラウンド放射線測定ならびにハイゲイン、ロングライフ等の技術が含まれる。

「アップグレード版」光電子増倍管を発表

 四川省稲城県の海子山に建設されたLHAASO観測所が照準とするのはニュートリノ研究ではなく、宇宙線の起源である。

 宇宙線には宇宙の起源や天体の進化等のマクロな情報が含まれ、それは「宇宙の大事件」を伝える使者といえる。宇宙線は1912年に発見されたが、人類はまだその起源を突き止めておらず、「世紀の謎」となっている。

 中国科学院高エネルギー物理研究所の高博・副研究員によれば、LHAASO観測所の中央には「巨大プール」があり、3,000個の検出ユニットを含むチェレンコフ検出器が設置されている。高い時間分解能を持つ光電子増倍管に関しては、単一光子のレベル別の光信号について研究を行い、プール上空の大気に入ったひとつひとつの高エネルギーのガンマ線の痕跡を捉えることで高エネルギー宇宙線の発生メカニズムを研究する。

 2018年6月、中国の独自開発による高い時間分解能を持つ20インチ径のマイクロチャンネルプレート内蔵型光電子増倍管が正式に発表された。これには、輸送時間における離散が少なく、時間一致性が良好で、ダークノイズが小さい等の特徴がある。2018年9月、北方夜視技術股分有限公司が、LHAASOプロジェクトにおける大型光電子増倍管の全発注装置の受注に成功した。

「20インチ径のマイクロチャンネルプレート内蔵型光電子増倍管の技術を基盤として、当社は天体観測、すなわちLHAASOプロジェクトのニーズに応じて高い時間分解能を持つ光電子増倍管を開発した。」と孫建寧氏は語る。時間分解能とは光信号が光電子増倍管に到達するまでの時間に基づく観測の精度であり、時間分解能が高ければガンマ線の方向の測定がより精確になる。


※本稿は、科技日報「探索微観粒子的"放大鏡"不再受制于人」(2019年7月1日付4面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。