第155号
トップ  > 科学技術トピック>  第155号 >  甘粛省:テクノロジーの空白地帯からイノベーションバレーへ

甘粛省:テクノロジーの空白地帯からイノベーションバレーへ

2019年8月27日 杜英

「中国初の国産重粒子線治療モデル装置を使った臨床試験治療が武威で始まった!」。昨年11月6日、この短いニュースを、甘粛省の多くの人々がSNSで目にした。この10年の間に、中国科学院の近代物理研究所は臨床予備試験研究213件を実施し、著しい治療効果を上げた。そして、中国は重粒子線治療の技術を確立した4番目の国となった。

「両弾一星」(核兵器・ミサイル・人工衛星)、超伝導発電所、イオンロケット、ニッケル自溶炉製錬炉、干ばつ対策の新技術、ロタウイルスワクチン技術、古代壁画の保護技術......。ここ70年の間に、大きな変化を経験してきた甘粛省は、イノベーションによるけん引という方針を堅持し、かつてのテクノロジーの空白地帯からイノベーションバレーへと成長している。

テクノロジーが急成長

 蘭州市東方紅広場近くの平凉路沿いにあるグレーの建物は、甘粛省科学技術情報研究所だ。新中国成立後の甘粛省初の地方研究機関である同研究所は、数十年の発展を経て今、国家産業技術イノベーション・テクノロジー発展研究拠点となっている。現在、同省の専門技術者は58万人、科学研究機関は153機関に達している。

 甘粛省は蘭州市と白銀市の2つのハイテク産業開発区が建設したそれぞれの国家自主イノベーションモデルエリア(自創区)を通して、イノベーション起業投資けん引メカニズムを整備・改善し、蘭州テクノロジー大市場やシルクロード国際知的財産権港を立ち上げ、さらに、(上海の)張江自創区と安定した提携関係を構築している。2017年、蘭白(蘭州・白銀)自創区の生産総額は349億元(約527億円)に達し、新製品257種類を開発した。

 テクノロジーの強化や科学研究人材の増加には、資金の継続した投入が必要だ。2017年、甘粛省の財政テクノロジー支出とR&D経費の投入はそれぞれ25億8,000万元と88億4,000万元に達した。

テクノロジーによる成果の量も質も向上

 最近、蘭州大学機能有機分子化学国家重点実験室が開発した「エベロリムス系マクロライド薬物の合成と純化」の成果のベンチスケール実証と実用化が成功し、薬品の供給増加の面で、輸入に頼っていたという局面を打破し、末期の腎臓がん患者に希望をもたらした。一方で、70キロ離れた蘭州仏慈製薬股份有限公司が研究開発・生産している当帰(トウキ)、党参(トウジン)の2つの切断生薬が中国中医薬協会によって第4回中医薬切断生薬誠信品牌(信頼できるブランド)に認定された。

 中医薬は、甘粛省が誇る文化的資源で、潜在能力の高い経済的資源、独自の優位性を誇る科学技術資源でもあるため、「天然薬庫」と称されている。中医薬材の大規模栽培や中医薬工業の集積化、中医薬材のEC化、提携・交流・グローバル化により、「仏慈」、「岷山」、「唐龍」などのブランドを形成し、約10ヶ国と連携して海外岐黄中医センター、中医学院を建設した。

 中医薬のほか、甘粛省の電子情報産業も長期にわたって発展を遂げてきた。天水華天電子集団は、世界の集積回路パッケージ業界で第6位となっており、その主な商品には、樹脂封止集積回路、半導体パワーデバイス、光電子デバイスなど、10ジャンル1,000種類以上を誇る。ここ5年間、同社は研究開発に合わせて16億8,000万元(約254億円)を投じ、年間平均の研究開発費用は売上高の5.56%を占める。商標登録14件、コンピューターソフトの著作権56件、発明特許143件を有し、開発途上地域の新興産業発展の「座標」と称されている。

 近年、氷河・凍土、地質調査、原子力物理、石油化学工業、非鉄金属、装置製造、バイオ製品などの分野でも甘粛省は多くの成果を上げており、テクノロジーによる成果は質も量も向上している。

経済への寄与は安定傾向の中で好調さを維持

 テクノロジーイノベーションにより、甘粛省の経済は、開発途上地域であればあるほど、イノベーション主導の発展戦略実施が必要であることを身に染みて感じている。

 環境保護政策と川下市場の調整により、甘粛窯街煤電集団は毎年排出している50万トンの半成コークス固体廃棄物に頭を悩ませていた一方で、中国科学院蘭州化学物理研究所も、工業廃棄物・オイルシェール・半成コークスの資源化利用技術のブレイクスルーを目指していた。そして、両者の思惑が一致し、「半成コークスハイバリュー利用キーテクノロジー及び製品研究開発」プロジェクトの契約に、2019年初めに調印した。半年後、4シリーズ108点のサンプルの生産ライン検証が終わり、半成コークスのハイバリュー利用の効果的な方法が見つかり、「科学者+企業家」の成果実用化メカニズムも構築された。プロジェクト責任者の王愛勤氏は、この技術との出会いを、「居眠りと枕の出会い」と形容する。

 甘粛省は伝統的に資源の多い省で、固体廃棄物のハイバリュー性、低コスト、リサイクル利用が、同省の企業の発展とテクノロジーの取り組みが共同で直面している課題だ。2019年、「複雑銅基多金属固体廃棄物グリーン協同製煉技術・関連装備の研究」、「祁連山などの地域の多源固体廃棄物安全処置集積モデル」が国家プロジェクトとして立ち上げられた。

 統計によると、甘粛省の総合テクノロジーイノベーションの水準指数は51.38%に達し、総合テクノロジーの進歩水準は中国全土で18位に位置している。また、テクノロジーの甘粛省における経済成長に対する寄与率は52.8%に達している。

 甘粛省科技庁の史百戦庁長は取材に対して、「アプローチにおいて、中国国内外の情勢、新たな変化に積極的に合わせ、テクノロジーイノベーションを加速させ、テクノロジーと経済の結合から、全面的に発展をサポート・けん引することへと変化しなければならない。政策的には、人々の積極性を刺激し、資源の配置を最適化するために的を絞った施策を講じなければならない。重要ポイントにおいては、戦略の意図を掴んで、それを実行し、重大な意思決定、計画の任務を遂行しなければならない。研究開発を組織する際、プロジェクト思考で、業務フロー・ガバナンスを実現し、研究開発資源を使用する際には、段階的な推進、分類配置を実施しなければならない。また、研究開発制度の制定は、産業を呼び込んで、製品を売るようにしなければならない。新しい分野の管理とサービスをめぐり、考え方を大きく変えなければならない」と指摘する。


※本稿は、科技日報「甘粛:従"科技小白"到"創新穀地」(2019年8月14日付3面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。