安徽農大、スマート技術で中国茶の世界進出へ
2019年8月14日 呉長鋒(科技日報記者)
視覚中国より
真夏の安徽省南部、山中では雨が降りしきる。謝裕大茶業公司の謝一平董事長は会社の正面玄関で、安徽農業大学(以下、「安徽農大」と略)の専門家をすでに何時間も待っていた。謝氏が安徽農大茶・食品科技学院の張正竹院長と握手した際、開口一番に「今年は1,800トンの茶葉を生産できたが、以前では全く考えられない状況だ」と吉報を伝えた。
また、謝氏は、「茶葉で大きな事業をしたいだけでなく、中国の良質な茶を世界へ進出させたいと今は思っている」とした。また、中国の良質な茶の世界進出は、安徽農大の何代もの茶学科学研究従事者にとっての念願でもある。
徐々に明らかになった「東方神奇樹葉」の秘密
2018年4月、安徽農大茶樹生物学・資源利用国家重点実験室の宛暁春教授研究チームは、深圳華大遺伝子等関連研究チームと共同で、中国種の茶樹すべての遺伝子データを解析し、関連の成果を『米国科学アカデミー紀要」で発表した。これは、中国の茶樹生物学基礎研究において独創性ある重要な進展を実現したことを示している。
宛教授は科技日報の取材に対して、「茶樹ゲノムの解読により、茶樹ゲノムの進化、茶樹の起源や遺伝の多様性、茶葉の特徴的な二次代謝産物の形成メカニズムなどの重要な基礎生物学問題の研究が推進される」と語った。
張正竹氏は、「茶樹ゲノムを枠組みとし、安徽農大研究チームシステムは全面的な茶樹ゲノム学・生物情報学のプラットフォームを構築した。このプラットフォームは茶樹ゲノム学ビッグデータの整合とシェアを実現させている。また、プラットフォームは多くの種類の生物情報学ツールを集め合わせており、茶科学研究に携わる研究者がデータベースの中の豊富なゲノム学データをすぐに検索し、深いレベルで発掘し、可視化を行うことを実現させる」と語った。
この小さな「東方神奇樹葉」に隠された秘密は、徐々に明らかになってきている。安徽農大茶葉科学研究チームは数年間にわたり、苦難に満ちた難題への取り組みを通して、エステル型カテキンを合成した鍵酵素、リナロールとネロリドールを調整した生物合成メカニズムを初めて発見するという成果を次々と上げ、β-グルコシダーゼの重要作用などの一連の基礎科学研究成果を明らかにした。また、基礎理論レベルから茶葉の苦みの調節、茶葉の香りの形成メカニズム、茶葉の香りの品質改善などについて、理論・指導を提供した。これらの研究により、生産段階での茶葉の香りや口当たりを向上させるための現実的な手段が提供された。
系列基礎研究成果により、健康を考慮した効用のある茶葉製品の開発のための科学的根拠が提供された。黄大茶は安徽省西部の特産であるが、原料の品質が低く、加工は丁寧なものでなく、包装もみすぼらしいものだったため、大きな市場には置かれない低級な商品だった。安徽農大の宛暁春、張勁松教授の研究チームは、その他の茶の種類と比較し、黄大茶に血糖値、血液脂質の低下、ダイエット作用などの顕著な効果が含まれていることを発見した。
安徽農大チームは六安市の茶葉企業である抱児鐘秀公司と協力し、この研究成果を関連製品へと実用化させ、黄大茶系列の夏秋茶製品を次々と開発し、実用化成功を基礎とした上で、自動化生産ラインを構築し、大規模生産を実現させた。製品は市場に出されてすぐに注目を集め、現在では美しい包装の系列製品としてネットショップ上で人気商品となり、価格は10倍以上に跳ね上がった。
手作業生産に頼っていた銘茶の歴史の終わり
中国には、茶を農業の支柱産業とする県・区は100以上あり、それらの全ての場所に地域ブランドの製品が存在する。マイナー化、地域化、CTC(Crush, Tear and Curl)茶葉製品および工場式の加工は、現在の工業化時代の背景と互いに相いれないものとなっている。生産経営の分散問題はこれまで、中国の茶葉産業の機械化、規模化、標準化、ブランド化にとっての悩ましい難題となっていた。
中国の多くの茶企業の工場式加工が立ち遅れている現状を変えるため、安徽農大茶学チームは、茶葉の一連化、清潔化を集約した加工技術を次々に開発し、技術の実用化を進めた。また、安徽農大茶学チームは中国内外で初となる炒青緑茶のクリーン生産ラインを構築し、これにより中国の茶葉大規模連続化、清潔化加工の先駆けとなった。国家・省科学技術計画のサポートの下、安徽農大チームはさらに六安瓜片茶、祁門紅茶、霍山黄芽茶、黄大茶などの茶葉クリーン生産ラインを次々に開発し、モデル応用を進行させ、中国の伝統的な銘茶が手作業と一つの機械作業を組み合わせた加工だけに頼っていたという歴史を塗り替えた。
その後、彼らは炒青緑茶のクリーン生産ラインの研究成果を黄山毛峰や滴水香などの伝統的な銘茶の大規模生産に次々と応用し、黄山毛峰茶や滴水香茶のクリーン生産ラインを5つ開発し、モデル応用を行った。
数年間かけて、プロジェクト成果は浙江上洋機械有限公司、浙江春江茶葉機械有限公司、安徽三九農業装備科技股份有限公司などの企業にすぐに普及・応用され、中国全土の茶を生産する20の省・市で200以上の生産ラインが普及され、中国の伝統的な銘茶が手作業と一つの機械作業を組み合わせた加工だけに頼っていた歴史は彼らの手によって終わりを迎えた。
安徽農大は関連企業と協力し、多くの分野の研究成果を実用化させ、社会的、経済的な効果・利益を獲得した。
良い茶葉を選ぶためには、茶葉の色を識別する技術が不可欠となるが、以前はこの種の設備は日本やドイツ、韓国などの先進国の手中にあり、その価格も非常に高かった。
2007年、安徽農大チームは中国の米色識別機業界で先頭を走る企業である合肥美亜光電技術股份有限公司と協力し、初の国産デジタル化スマート茶葉色識別機を開発し、安徽の茶生産地区で実用化をスタートさせ、モデル応用を行った。現在、「安科」茶葉色識別機はすでに中国全土20の省・市で普及・使用され、海外にも輸出されている。これにより、日本や韓国の中国における茶葉色識別機市場の独占を一挙に打ち破り、海外の茶葉色識別機は徐々に中国市場から撤退させられている。
中国製の茶葉色識別機への代替に成功した後、合肥市でいくつかの民間色識別機製造企業が誕生し、現在、合肥市はすでに世界最大の色識別機産業化基地となっており、製造する色識別機は世界の80%以上の市場シェアを獲得している。
原料に対する茶葉の大規模連続化加工、製品のスピーディな測定技術のニーズに応えるため、安徽農大は近赤外分光分析技術を茶葉生産と品質コントロールに応用する中で、系列の茶葉品質コントロール設備を次々に開発し、直ちに実用化を進め、新鮮な茶葉の原料の品質測定、茶葉の品質やレベルの審査、茶葉の加工技術のコントロールなどの仕事を行う中で大きな役割を果たし、茶葉生産の全行程のデジタル化品質コントロールにおける基礎を構築した。
茶産業の増強に必要となる国際標準の発言権
宛暁春教授の見解によると、茶葉産業を強化するにあたり、標準の分野における発言権や主導権がなければ、研究成果を順調に応用できず、産業化生産も困難に陥る可能性があるという。ここ5年、宛教授は代表団の団長としてISO/TC34/SC8国際茶葉標準化会議に3回参加し、国際茶葉標準化技術委員会特種茶工作チームの召集者を担当した。宛教授の指導の下、安徽農大茶葉科学チームは4つの茶葉国際標準研究プロジェクトにおいて、国家標準化委員会のプロジェクト立案を実現させ、中国が茶葉国際標準の分野において発言権を持たないという受け身の状況を覆した。
世界に中国茶文化を広めるため、安徽農大は国際協力交流プラットフォームを立ち上げ、中華茶文化研究所を設立し、日本や韓国、ドイツ、米国などの各国、および香港・マカオ・台湾地区とともに幅広い茶文化交流を展開した。
2016年、茶樹生物学・資源利用国家重点実験室に仮託し、安徽農大は教育部茶葉化学・健康国際協力聯合実験室を創設した。同大はコロラド州立大学とともに聯合研究センターを設立し、ニュージャージー州立大学やマーシャル大学とともに国際聯合実験室を設立した。これらの実験室により、ますます多くの世界各国の同業者が安徽農大を訪れるようになるだけでなく、茶文化や茶学技術の学習交流につながり、茶科学研究成果によってさらに広範囲の場所での実用化・実施、普及が進められる。
2018年10月、安徽農大は「第1回ココア、コーヒー、茶国際(アジア)学術大会」を主催し、米国やドイツ、英国、フランスなどの20ヶ国から100人以上の専門家や学者が出席した。会議期間中、安徽農大は「一帯一路(the Belt and Road)」沿線国のロシア、アゼルバイジャン、インドなどの9つの関連研究機構と協力合意を結んだ。
※本稿は、科技日報「安徽農大 用智慧之水沏出香飄世界的好茶」(2019年8月1日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。