第156号
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超高速化する5G

2019年9月12日 賀斌(『中国新聞週刊』記者/) 江瑞(翻訳)

6月6日午前、工業情報化部は中国電信集団有限公司〔中国電信、チャイナテレコム〕、中国移動通信集団有限公司〔中国移動、チャイナモバイル〕、 中国聯合網絡通信集団有限公司〔中国聯通、チャイナユニコム〕、中国広播電視網絡有限公司〔中国広電、チャイナブロードキャストネットワーク〕に 「基礎電気通信業務経営許可証」を交付し、4社の「第5世代移動通信システム(5G)」の事業展開にゴーサインを出した。

 同日、工業情報化部は「電気通信業務分類目録(2015年版)」を改定し、A類の「基礎電気通信業務」の「A12セルラー移動通信業務」類に、「A12‐4第5世代移動通信システム(5G)」業務という下位分類を新たに設けた。その記述によれば、5Gとは「セルラー方式の第5世代デジタル移動通信ネットワークを利用して提供する音声、データ、マルチメディア通信等の業務」を指す。

 中国の5G商用化元年は、この日、本格的に幕を開けた。

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6月6日、工業情報化部は北京で中国電信集団有限公司、中国移動通信集団有限公司、中国聯合網絡通信集団有限公司、中国広播電視網絡有限公司の4社に5G営業ライセンスを交付した。撮影/『中国新聞週刊』記者杜洋

戦略的段取り

 構想は早くからあったものの、5Gの商用計画が本格的に議事日程に上ったのは「第13次五カ年計画」期間に入ってからだった。

「第13次五カ年計画」綱要では、「5G及び超広帯域無線通信の基幹技術研究を積極的に推進し、5Gの商用化を始動させる」ことが示されており、これに続いて工業情報化部が発表した「情報通信業界発展計画(2016-2020年)」では、「『第13次五カ年計画』の終わりまでに5Gの商用サービスを開始する」ことが明確に打ち出されていた。

 工業情報化部が示したタイムスケジュールによれば、5Gは2019年にプレ商用段階に入り、2020年に正式に商用化されることになっていた。つまり、四大キャリアに対するライセンスの交付は、中国における5G商用化が少なくとも半年以上前倒しになったことを意味するのだ。

 事実、中国は4Gライセンスの交付前から5Gの研究に着手していた。2013年2月、中国工業情報化部、国家発展改革委員会、科学技術部は共同で、移動通信分野における産学官のパワーを結集し、第5世代移動通信技術の研究を進め、国際交流並びに協力を展開することを目的とするIMT- 2020(5G)推進グループを発足させた。

 中国三大通信キャリアが4Gの営業ライセンスを取得したのはその10カ月後だ。以後6年間、三大キャリアは通信インフラの整備に力を注いだ。特に2013年8月に国務院が「ブロードバンド・チャイナ」戦略を打ち出すと、電気通信分野の死角はどんどん姿を消し、国土の全域がほぼカバーされるに至った。

 「2018年通信業統計公報」によると、同年の全国における移動通信基地局の総数は648万カ所、このうち4G基地局の総数は372万カ所に上る。12月末時点の4Gユーザー総数は11億7,000万人で、普及率は84%近くになっていた。

 その間にも、5G技術は日に日に成熟していった。2016年1月、中国は5G技術の開発試験を本格化させ、基幹技術検証、技術的解決手段検証、システムソリューション検証の3段階の試験を実施していった。同年9月には第1段階の試験が終了し、大規模アンテナ、新型多元接続、新型マルチキャリア、高周波通信などの7つの無線基幹技術と、ネットワークスライシング、エッジコンピューティング〔MEC〕など4つのネットワーク基幹技術の性能及び機能試験を終え、これらの基幹技術がGbpsレベルのユーザー体感速度、ミリ秒レベルのエンドツーエンド遅延、1km²あたり100万台の接続など、5Gの様々なニーズを支え得るか否かが検証された。

 続いて実施された第2段階試験では、統一のテストプラットフォーム、統一の周波数、統一の設備及び規定を用い、5Gモバイルインターネット及びIoTの様々な応用シーンに対する各メーカーの技術的解決策が検証された。ファーウェイ〔華為技術〕、エリクソン、ZTE〔中興通訊〕、大唐電信集団、ノキア上海ベル、サムスンなどの企業が試験に参加した。

 IMT‐2020(5G)推進グループは、この試験のために、北京市懐柔区にの基地局を擁する世界最大の5G 屋外試験場を設けた。ここでは屋外基地局やネットワーク構築性能の試験がおこなえる。同時に、大手半導体企業や計測機器企業にも参加を要請し、産業チェーンのマッチングテストを展開した。

 2017年11月15日、工業情報化部はHPで「第5世代移動通信システムが3300-3600MHz及び4800-5000MHz帯域を使用することに関連する事項の通知」を発表した。これは、システムのカバー率とトラフィック面のニーズを共に満たすため、あらかじめ確保しておく主要帯域になるという。5Gの周波数帯を正式に確定したことで、中国は世界に先駆けてミドルバンドにおける5Gの使用計画を公表した国となった。

 2018年2月、IMT‐2020(5G)推進グループはファーウェイと共同で、北京市懐柔区の5G屋外試験場で第3段階試験をおこなった。その後、ZTE、大唐、エリクソン、ノキア上海ベルなどの通信システム企業や、クアルコム、インテル、紫光展鋭、ハイシリコンなどの半導体企業、並びにキーサイト・テクノロジーズ、ローデ・シュワルツなどの計測機器企業も試験に参加した。

 2019年1月、第3段階試験の結果、5Gの基地局、基幹ネットワーク設備のいずれも、ノンスタンドアローン〔NSA〕型にもスタンドアローン〔SA〕型にも対応可能で、主要機能がプレ商用レベルに達していることが証明された。2019年には5Gシステムの増強とミリ波技術の開発試験がおこなわれる予定だ。

 過去40年間、中国の通信事業は「1G時代の空白、2G時代の追従、3G時代のブレークスルー、4G時代の並走」という模索のプロセスを経てきた。そして5G時代、中国は開発から正式な商用化に至るまで、ついに世界を「リード」する立場になったのだ。工業情報化部電子一所情報化研究・促進センター主任の周剣(チョウ・ジェン)氏は、これは必然の成り行きだと捉えている。

 「近年、中国のIT分野、特にインターネットや5G通信分野における成果は誰の目にも明らかだが、それはひとえに国の進歩的な姿勢とフォールトトレラント〔障害回復〕メカニズム、そして政策の導きと支援のたまものだ。一番重要なのは、次世代ネットワーク技術が発展するための市場環境が整っていたことだ」。過去には市場規模を頼りに技術を導入していた中国は、いまや買い手市場。しかも単一市場としては世界最大になっている。消費しかり産業しかり、その規模は1つの新興技術の急速な成熟を支えるまでになっている、と周剣氏は言う。

 「良好な環境、国の政策、それから産業そのものが技術と実力を蓄積していったことで、5Gでは世界をリードすることができた。これは量的変化から質的変化への進化のプロセスだ」

 だが、世界をリードする中国の5Gが商用化を前倒しできたもっと大きな理由は、目下、世界全体が「第四次産業革命」または「情報革命」とも呼ばれる、世界の経済及び社会の発展モデルを根本から変え、産業システムを再構築し、今現在の産業勢力図と秩序を塗り替えかねない巨大な変革の渦の中にあるためだと周剣氏は分析している。まさにそれゆえ、各国あるいは各経済圏は、現在、5Gをめぐって構想を練り、重要な戦略的段取りをつけようと躍起になっているのだ。

 熾烈な国際競争のなかで、中国も当然負けてはいられない。「技術はほぼ成熟し、一定の技術ストックもあり、応用に関する模索も重ねたのだから、前倒ししてシステマティックに計画・実行していかなければならない」と周剣氏は力説する。

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機先を制するのはどこか

 中国情報通信研究院の試算では、2020年に5Gを商用化したとすると、2020~2025年の間、5Gの発展によりもたらされる経済効果は10兆6,000億元、生み出される経済的付加価値は3兆3,000億元、雇用創出は310万人に上るという。

 5Gは確かに魅力的なパイだ。先にライセンスを取得した者が、この巨大市場で機先を制することになるだろう。

 中国が国として3段階に及ぶ5Gの技術開発試験を実施していたまさにそのとき、中国の三大通信キャリアもそれぞれ独自に5G構想に向け動きだした。中国聯通が最近公表した情報によると、同社は既に中国国内で40都市に及ぶ5Gのテストネットワークを開通させている他、企業240社あまりが加入する5G応用イノベーション連盟を発足させている。さらに、1兆元規模の5G応用市場と5G産業の新たな未来を切り開くことを狙いとしたナビゲーター計画もスタートさせている。

 中国移動は2012年に5Gの研究開発に着手し、5Gの使用ニーズ、コア技術の開発、国際標準の制定、産業生態系の育成、応用に関するイノ ベーションをめぐり、大量の研究及び 検討を重ねてきた。国際標準の制定においては、「5Gビジョンとニーズ」白書の編集作業を中心になっておこない、標準制定に大きく貢献した。

 応用に関するイノベーションの面では、世界に向け5G共同イノベー ションセンターを設立し、現在までに登録メンバー500社を超える22の開放実験室を設けている。雄安、成都、上海には三大産業研究院を設立し、重点業界の大手企業と協力し、九大バーティカル産業を集結させ、イノベーション型の応用プラン及びエンドツーエンド・ソリューションを提案している。

 また、中国移動は杭州、広州、上海、武漢、蘇州の5都市で一定規模の5Gネットワークテストを立ち上げている他、北京、重慶、天津、深圳、雄安など都市・地区では5Gのモデルテストネットワークの構築を進め、モバイル遠隔医療、クラウドロボティクス、スマートファクトリー、スマートキャンパス、スマートグリッド、高画質クラウドゲームなどの応用シーンを想定し5G業務モデルの実演をおこなっている。さらに5Gライセンス取得後は、今年9月末までに40を超える都市で「ユーザーがSIMカードや電話番号を変えることなく開通可能な」5Gサービスを提供することを宣言している。

 上記2社に対し、中国電信はスタートがやや遅く、2017年末から5G試験に参加した。それでも、国内外の多くの企業と共同で5G技術試験を実施したり、17のモデル都市で5Gテストネットワークを構築するなど、一定の目に見える成果を上げている。また、200社を超える提携パートナーと共に革新的な5Gの応用に取り組んでおり、現時点では、行政、製造、交通、物流、教育、医療、メディア、警察業務、旅行、環境保護の十大バーティカル産業の重点応用シーンをカバーするに至っている。

 三大キャリアと比較すると、中国広電は事前に5G構想を練っていたわけではないように思えるが、それでも5Gライセンスを「贈られた」。そこにはなかなか深い理由があるようだ。周剣氏はこれについて、通信分野でより良い競争関係を生むと同時に、「三網融合(通信ネットワーク・放送ネットワーク・インターネット)」の主力として、一連のメカニズム刷新、並びに、5Gのもたらす巨大な変化を生かし、より良い形で「三網融合」を推進することを期待されているためだと分析する。また、ラジオ・テレビ局は周波数帯を豊富に所有していること、そして放送業界自体が潜在的な市場であり、社会・民生面にもスマートシティにも対応可能であることなどの強みも中国広電にあると指摘する。

 中国広電は正式名称を中国広播電視網絡有限公司といい、2014年4月17日に設立された。登録資本金は45億元、全額が中央財政から現金で出資されており、財政部が国務院の代理で出資者となっている。2016年5月5日、中国広電は工業情報化部が発行する「基礎電気通信業務経営許可証」を取得したが、これまで公開されている情報からすると、電気通信分野でまだ大きな成果を上げていないようである。

 中国の著名通信評論家で飛象網の創設者・項立剛(シアン・リーガン)氏は、中国広電にライセンスが交付されたのは、5Gにおいては動画関連のニーズが一定量あるためだろうと指摘する。「ただ、私個人としては、通信のような公共サービスは、資金、人材、技術、管理ノウハウの蓄積が必要だと考えている」

 「ライセンスはライセンス、ネットワークはネットワーク。4社が5Gのライセンスを取得したことを、4つの広大なネットワーク構築のためと理解してはいけない。今後も三大キャリアの図式に変化はなく、四大キャリアになることはない」。中国聯通研究院院長の張雲勇(ジャン・ユンヨン)氏は、中国広電の強みは高画質動画のようなコンテンツの送信にあり、業務面では協力・共有路線を取るのが正解だと指摘する。

難題山積

 ライセンス交付から数えると、4Gは中国でまもなく丸6年を迎える。2017年末時点で、中国電信、中国移動、中国聯通の三大通信キャリアは4Gネットワークの構築に少なくとも8000億元を投じていると試算されており、全体的にみて、この投資はまだ回収されていない。こうした状況で、ライセンスを取得した4社が早急に5Gネットワークを軌道に乗せたいと考えても、そのコストが避けて通れない問題になってくる。

 5G基地局の建設には一体いくらの資金が必要なのだろうか。先日、ファーウェイCEOの任正非氏が、5G基地局についてこんなことを言っていた。「すごく小さくて、重さは20kgくらい、大きさはちょうどアタッシェケースくらい」。よって、5G基地局を設置するには、鉄塔もクレーン車も必要なく、ポールの上に置いても、壁にかけても、下水道に放り込んでも理論上は構わない。

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写真② 広東省東莞市松山湖キャンパスにあるファーウェイSG178マルチプローブ球面NFCテストシステムと、5G基地局アンテナの下にたたずむエンジニア。写真/視覚中国

 しかし、高トラフィックや高ピーク値にも対応するため、5Gではヘテロジニアスネットワーク〔ヘットネット、HetNet〕という超密集ネットワークが採用される見込みだ。5Gのスモールセル基地局の間隔はわずか50~100m、あるいはそれ以下だ。そのため、基地局の総数は4Gの数倍になると業界内では予測されていた。中信建投証券の研究データでは、将来的に5Gの基地局総数は4Gの2倍、キャリアによる5Gネットワークへの投資額は4Gの68%増となる1兆2,300億元に達するとされている。

 基礎通信キャリアはネットワークの高速化と料金引き下げを進め、4Gネットワークの質を絶えず向上させる一方で、短期間に大量の資金を投入し、5Gネットワーク及び付帯設備の構築、さらには運営・メンテナンスをおこなわなければならない。その金銭的負担たるや、想像に余りある。

 だが項立剛氏は、キャリアにとって費用は大きな問題ではないと考えている。「キャリアはこれまで赤字になったことはなく、むしろ収益は右肩上がり。価値あるサービスを提供することで、5Gは必然的にこれまで以上の収益チャンスと市場シェアをもたらすはずだ」

 工業情報化部のデータによると、2019年1~4月期、通信業の営業収入5145億元のうち、電気通信業務の収入は前年同期比0.7%増の4463億元に上っている。

 これはつまり、5Gの建設費用はその多くが通信費用に反映されており、最終的には消費者が負担しなければならないということを意味するのではないか。現時点で、5Gのデータ通信費用基準はまだ確定されていないが、何人もの業界関係者が口をそろえて、5Gのデータ通信費用は4Gより安くなると断言する。なぜなら、これまで使用していなかった周波数も活用することで使用する周波数帯が増え、使用効率が大幅に向上するからだ。しかも2Gから4Gへの進化が証明したように、技術が進歩するほど、料金は安くなる。

「2G時代、パケットGBは1万元だったが、3G時代には500元になり、4G時代には10元から8.62元に値下がりした。この流れでいくと、5Gのデータ通信費はさらに下がるとみるのが自然だ」と項立剛氏は言う。

 「もし企業が自ら選択するのであれば、通常なら旧世代技術の市場価値を回収し尽くした上で次世代技術の構想に入るだろうと思う」と周剣氏は言う。「だが5Gは情報革命時代あるいは新工業革命時代の基幹的インフラであり、世界中がこのチャンスを狙っている。戦略的に捉えるなら、国としても企業としても、特に社会的責任を有する中央国有企業は、短期的な経済利益という観点だけでこの問題を考 えてはいけない」

 資金問題以外にも、通信インフラ建設は用地選定という問題を抱えている。基地局からの放射線懸念や、NIMBY〔ニンビー。必要だが自分の居住地域には建ててほしくないという人々〕による反対運動で、基地局の建設が阻害される問題のことだ。過去にも通信インフラ建設においてはしばしばみられた現象だったが、基地局の間隔が大幅に狭まる5G時代においては、この問題が頻発することが予測される。

 これについて中国工程院院士の 鄔賀銓(チャオ・ホーチュエン)氏は次のように指摘する。「中国の基地局の電磁放射線指標は、実は欧米の10倍厳しいが、それでも市民の懸念は消えない。この問題に関しては、政府による指導が必要だ」

 周剣氏も言う。「5G商用化が最も生かせるのは産業分野であって、消費ではない。したがって、投資のより早い回収のためにも、構想段階から産業発展の潜在力が大きい地域、逼迫したニーズのある地域、あるいは産業クラスターが形成されている地域を優先的に候補にすべきだ」

 5Gライセンスの取得後、中国聯通と中国移動が発表した次なる建設構想は、主に直轄市、省都、計画単列市、並びに雄安新区や蘇州といった国の戦略において重要な地位を占める都市計都市でまず5G商用化を進めるというものだった。

 これでは都市の発展において情報格差が生まれ、地域間の発展にさらなる不均衡が生じてしまうのではないか。

 これについて、周剣氏はこう説明する。「中国の発展にはそもそもバイアスが存在しており、人為的に変えられるものではない。5Gの発展を考えた場合、計画自体が前倒しで実行されているため、まずは条件の整っている地方で実用化し、相対的に立ち遅れた地方に対する牽引役となってもらうことが期待できる。イノベーションの過程には代償やリスクがつきものであることからも、まずは比較的発展した都市や地域でシステムの成熟化を図り、それから他の地方に適用したほう が、後発組の発展がよりスピーディーで、経済性にもすぐれ、地方のニーズや特徴にも合致するのではないか」

4Gが暮らしを変え、5Gが社会を変える

 基地局の建設にはまだ様々な難題があるものの、5Gの商用化は、依然として未来に無限の可能性をもたらしてくれる。「4Gが暮らしを変え、5Gが社会を変える」。4Gの発展はモバイル決済やシェアリングエコノミーなどを生み出し、中国の庶民の暮らしを劇的に変えた。

 5Gは超高速、超低遅延、多数同時接続という特長を有しており、将来、数多くのバーティカル産業と深く融合していくと考えられている。先日ファーウェイが発表した「5G時代における十大応用シーン白書」では、5Gの能力を最もよく発揮できる十大応用シーンとして、クラウドVR/AR、コネクテッドカー、スマート製造、スマートエネルギー、遠隔医療、ホームエンターテインメント、自律式無人航空機、SNS、AIによる個人サポート、スマートシティが挙げられていた。

 今年3月のボアオ・フォーラムでも、工業情報化部部長の苗圩(ミャオ・ウェイ)氏が5Gの応用シーンに関して夢を語り、将来的には、20%はヒトとヒトとの通信に、80%はモノとモノとの通信、つまりモバイルIoTの分野に使われるようになるだろうと述 た。

 中国は10年前からIoTの構想に着手しているが、今日に至ってもなお飛躍的進展は遂げられていない。5G時代の到来は、中国のIoT発展にとって追い風となるだろうか。「IoTの戦略方向は間違っていない。ただ、当時はセンサネットワークに重点が置かれており、感知と接続の問題解決に力が注がれていた。このネットワークはユニバーサル・ネットワークにつながっておらず、 センサは断片化されていた」と周剣氏は解説する。データ処理能力やAIなど他の技術も追いついておらず、それぞれがバラバラに発展しており、1つの流れにはなっていなかった。だが現在は各方面の条件が整い、5Gの発展もちょうど適した段階にきており、IoTの発展に絶好のチャンスとなっている。「ただ、技術が成熟しているかというのはまた別の問題。おそらくまだ改良すべき点があるはずだ」

 将来、5G商用化が一定の規模に達するためには、まず国が全体的な戦略構想を持ち国民をリードすること、特に政策環境を整え、イノベーション支援をおこなうこと。次に、基本原則を確立し、皆がそれを平等に守り、過当競争を避けることが必要だと周剣氏は指摘する。

 一方、項立剛氏は、IoTを「スマートインターネット」と呼び、モバイルインターネット、スマートセンサ、ビッグデータ、ディープラーニングなどによって形成される新たな能力だと位置づける。モバイルインターネットはその基礎になるもので、これなしにはIoTの全ての能力は発揮することができない。

 応用シーンが少ない、端末製品が量産化されていないなど、5G商用化をめぐっては当分の間「鶏が先か卵が先か」的難題が横たわる。だが項立剛氏は、それほど心配する必要はなく、ネットワークさえあれば、誰かがそれを基に事業を展開するはずだから、焦る必要はないと言う。

「現段階では、5Gがもたらしてくれる最も分かりやすい体験はやはりコンシューマ事業だろう。ネットワーク速度が上がり、動画がスムーズに視聴できるなど、満足のいくネットワーク体験を提供できれば、IoT技術を高める取り組みも自ずと進展するはずだ」


※本稿は『月刊中国ニュース』2019年10月号(Vol.92)より転載したものである。