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研究開発と成果の事業化をつなぐ「中間補給ステーション」

2019年9月25日 華凌(科技日報記者)

―北京・亦荘でパイロット試験拠点6ヶ所設立

 科学技術の進歩は社会・経済の発展を促進する原動力であり、科学技術成果の実用化は科学から技術、技術から経済への転化・発展を推進する重要な段階である。だが、飛躍的な技術の進歩を実現し、イノベーション成果の実用化を加速するには、ほかにも多くの関門を越える必要がある。

 本紙では、「科学技術成果」面を開設し、科学技術成果の注目点にフォーカスし、成果の実用化が直面する課題に注目し、問題を分析し、事例を解析し、経験を共有する。最新成果を迅速に報道・解説すると同時に、科学研究界や産業界と共同で、いかにして科学技術成果の実用化における「ラストワンマイル」問題を解決するかを探求していく----

 科学研究成果の実用化を実現する過程では、往々にして「ダーウィンの海」とも称される研究成果の製品化(パイロットライン)から事業化までの難関・障壁を乗り越える必要がある。だが、そこにもし足掛かりとなるパイロット試験拠点の力強いサポートがあれば、成功への歩みを加速することができるだろう。

 現在、北京経済技術開発区(北京亦荘)では、多くのパイロット試験拠点が立ち上げられつつある。現在すでに第一陣となる6ヶ所のパイロット試験拠点が設立されており、これらの拠点はバイオ医薬やスマート製造、新エネルギー車、集積回路など主導的な産業分野に照準を定めている。

技術的ボトルネックをスピーディーに解決

 この5年で、世界の遺伝子治療薬には飛躍的な進展がみられ、新薬が続々と発売され、遺伝子治療薬はバイオ医薬産業の将来的な方向性となった。北京亦荘に設立された第一陣のパイロット試験拠点のなかにも、北京五加和分子医学研究所(以下「五加和」)が設立したウイルスベクター遺伝子治療薬パイロット試験拠点がある。

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ウイルスベクター遺伝子治療薬の活性を検査する北京五加和分子医学研究所ウイルスベクター遺伝子治療薬パイロット試験拠点の研究員(提供・北京五加和分子医学研究所)

 長期にわたり、人々の医薬品に対する印象というと、多くが錠剤や注射針、煎じ薬、膏薬などの形態だった。では、遺伝子治療薬とはどのような形態で、そしてどのように効力を発揮するのだろうか?

 遺伝子治療薬は従来の医薬品では治すことのできない疾患に希望をもたらしている。つまり、「遺伝子の病気は遺伝子で治す」のである。専門家によると、遺伝子治療薬は従来の医薬品の有効成分とは異なり、小分子化合物や高分子タンパク質ではなく、「分子マシン」と呼んだほうが適切で、治療用遺伝子、遺伝子ユニット、その外側を覆うカプシド(再合成されたビリオン)で構成されている。ちょうど衛星の打ち上げにロケットをキャリアとして使うことが必要なのと同様に、治療用遺伝子を細胞内に導入するためにもキャリアとなるツールが必要だ。治療用遺伝子・ユニットを搬送することができるのは、改造された「偽のウイルス」、すなわち現在最も有効な遺伝子キャリアツールであるウイルスベクターである。

 五加和の共同創業者で、同社の董事長でもある董小岩博士は、「これがウイルスベクター遺伝子治療薬パイロット試験拠点を立ち上げた理由だ。パイロット試験拠点はウイルスベクター製品の中規模パイロット生産を展開する場所となっている。生産される製品は人体の臨床試験に用いられるため、製造される場所と生産過程は医療品および医薬部外品の製造管理および品質管理の基準(GMP)を厳格に遵守し、品質基準要求を満たしていなければならない。パイロット試験拠点には、ハードウェア施設が必要であるだけでなく、生産技術工程と品質体系を把握した専門のサービスチームがいることがさらに重要だ。この専門のチームが、遺伝子治療薬研究開発に携わる医薬企業に対し、成果実用化のための最良の『中間補給ステーション』を提供する必要がある」と語った。

 華中科学技術大学付属同済医院の李斌教授は2010年、五加和に対しレーベル遺伝性視神経症(LHON)に対応する遺伝子治療薬の製造について協力を仰いだ。この疾患は比較的珍しい視神経萎縮症の母系遺伝性疾患で、患者は通常15-35歳の間に発病し、多くの場合視力が急激に低下し、やがて両目が失明してしまう。世界でもまだ有効な治療方法は見つかっていない。五加和の研究員は、もともとの医薬品設計に欠陥があったため、治療用遺伝子を導入するタンパク質の確定が間違っていることに気付いた。そこで医薬品の構造を改良し、臨床クラスの遺伝子治療薬を作り出した。その結果、2011年に李斌教授のチームは世界初のLHON患者の遺伝子治療臨床試験を行うことができ、治療後7年間の良好な臨床効果によって、療法が安全かつ有効であることを十分に証明した。現在、同研究チームは投資先が見つかり、関連成果の実用化に取り組んでおり、さらに大規模な臨床研究を展開している。

 董氏は、「長年にわたって遺伝子治療薬開発に努めてきたことにより、我々の遺伝子治療薬パイロット試験拠点は、大型の実験室であると同時に小規模の製造工場にもなっている。我々はまず、遺伝子治療分野の技術的なボトルネックを迅速に解決するよう努力する。それから、新たに研究開発された遺伝子治療薬の小規模生産をまずここで始め、臨床試験への応用を行い、最終的には実用化に成功した科学研究成果が市場で販売されるようにしていく」と述べた。

専門的人材が専門的業務に取り組む

 周知の通り、新薬の研究開発はリスクが非常に高く、通常は10-15年かかり、ともすれば10億ドル(約1,080億円)以上の投資が必要になる。そして薬学研究はそのうちの非常に重要な部分である。深圳亦諾微医薬科学技術有限公司の創業者である周国瑛教授の最初の新薬プロジェクトであるT3011腫瘍溶解性ウイルスは、まったく生産条件のない状況下で、五加和のパイロット試験プラットフォームと協力して薬学研究を展開する形で新薬開発を行い、医薬品設計からわずか2年で臨床段階に進むことができた。

 董氏は、「この部分の仕事をパイロット試験プラットフォームに任せれば、産業チェーンの角度からみて、『専門的人材が専門的業務をやる』という分業体制が実現し、研究開発企業に遺伝子治療薬の大量生産設備や施設、専門チームが不足しているという問題を解決することができ、新薬研究開発サイクルを効果的に短縮し、研究開発全体の効率を大きく高めることが可能になる。それと同時に、産業全体の重複を回避し、資源の利用効率を高められる」と指摘する。

 20年の特許を取っても、研究開発期間を差し引くと5-10年程度しかライフサイクルのない新薬にとって、「時は金なり」である。パイロット試験拠点の医薬品受託製造開発機関(CDMO)は大企業にとってはコスト削減を意味し、スタートアップ企業にとっては不可能を可能にすることを意味する。

 研究開発効率を高めるため、五加和はT3011の研究開発、製造およびパイロット試験生産過程に参加・協力してこれを完了し、製品は最終的に中国国家薬品監督管理局(NMPA)と米国食品医薬品局(FDA)の要求をクリアした。2019年4月には新薬臨床試験を申請し、7月には無事許可が下りている。

 董氏は、「もし自前で工場を建てて生産する戦略で開発をしていたら、2年では工場を建設して稼働するところまでしか行っていなかっただろう。したがって、パイロット試験プラットフォームの専門サービスを活用して、臨床申請と臨床研究進度を加速することは、スタートアップ企業にとっては唯一の選択だ。そうすれば、コストを大幅に削減し、開発期間を短縮できる」と語る。董氏はさらに、「効率とコストパフォーマンスは企業の成否と生死を決定する鉄則であり、遺伝子治療薬パイロット試験プラットフォームは、さらに多くの遺伝子治療薬研究開発チームが新薬販売にこぎつけるまでの苦しい道のりをサポートするだろう」と指摘している。

科学技術成果実用化の受け入れ拠点を作り上げる

 この2年で、遺伝子治療薬は中国で重視されるようになり、研究開発企業が増え始めている。業界関係者の予測では、今後5-10年で、100件に上る遺伝子治療薬についての臨床試験が申請される見通しだという。しかし中国の遺伝子治療分野では、実力がありレベルの高いウイルスベクター遺伝子治療薬パイロット試験拠点は非常に不足しているのが現状だ。

 遺伝子治療薬パイロット試験拠点の主な業務は、遺伝子治療製品の臨床前と早期臨床応用段階向けにウイルスベクターの医薬品受託製造開発機関(CDMO)としてサービスを提供することだ。その内容には、生産技術開発や品質研究、パイロット試験拡大、臨床前および臨床サンプルGMP生産製造と、薬学資料の完備が含まれる。ウイルスベクター遺伝子治療薬の生産と品質管理技術は専門性が高く、技術的なハードルが高く、分子生物学やウイルス学、医薬品生産、品質管理などの面にも関わっているため、ほとんどの新薬研究開発企業はこれらの技術を全面的に把握できていない。一方、パイロット試験プラットフォームはこの分野の実用化に焦点を定め、ウイルスベクター生産システム、大量生産、品質管理技術の開発と応用に特化しており、技術と人材面で豊かな蓄積がある。

 現有のパイロット試験プラットフォームがより市場ニーズに応えられるようにするため、2018年、五加和は大興生物医薬基地にさらに大規模な遺伝子治療薬CDMOプラットフォームの北京五加和基因科技有限公司を設立した。今年7月には、このプラットフォームが大興政府産業基金から3,000万元の投資を獲得し、4,100平方メートル規模のウイルスベクター遺伝子治療薬CDMOプラットフォームを建設する計画で、成果実用化のサービス能力は現在の5倍に拡大し、2020年の稼働が見込まれている。また、北京経済技術開発区関係のある責任者は、「プラットフォームの建設は、より多くの遺伝子治療企業を北京に誘致する、つまり北京を遺伝子産業クラスタにしていく上で、非常にプラスになる」との見方を示す。

 遺伝子治療薬パイロット試験拠点は北京亦荘が科学技術成果実用化の「中間補給ステーション」になる過程の縮図でもある。前出の関連責任者によると、北京経済技術開発区は「パイロット試験拠点認定管理弁法」を策定して、各企業や事業体にパイロット試験拠点建設を促している。厳格な評定とスクリーニングを経て、同開発区は第一陣となるパイロット試験拠点6ヶ所を認可した。今後もさまざまな分野の拠点を開放して、企業にパイロット試験サービスを提供し、科学技術成果の実用化スピードを加速していく計画だ。今後は開発区内にほかのパイロット試験拠点も立ち上げ、より多くの産業分野をカバーしていく予定となっている。

 この責任者はさらに、「北京亦荘は全国科学技術イノベーションセンターの建設に照準を定め、引き続き科学技術成果の実用化に取り組んでいく」としている。「中関村科学技術成果産業化先導拠点の共同建設に関する行動プラン」の整備と発表、実施を推進し、この先導的な基地を世界のイノベーション資源の影響力を持つ成果実用化の中核的存在に育てていく。同時に、パイロット試験拠点の規模を拡大し、大・中・小企業が相互に通じる特色ある実用化受け入れ拠点を作り上げ、基準に合った工場や共用可能な研究開発用施設の建設を支援し、科学技術成果の実用化を受け入れる能力を大幅に向上させる。また、科学技術成果の実用化実施環境を最適化し、世界的影響力を持つ科学技術成果実用化拠点を作り上げるよう努力していくという。


※本稿は、科技日報「成果転化有了中間補給站」(2019年9月6日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。