第156号
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広州ハイテク産業開発区が打ち出す「海外ハイレベル人材8カ条」

2019年9月5日  葉青(科技日報記者)、郭哲涵(科技日報特派員)

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画像:広州ハイテク産業開発区提供

 8月22日、「広州ハイテク産業開発区の海外のハイレベル人材誘致に関する若干の措置」(以下「海外ハイレベル人材8カ条」)が発表された。この新たな人材関連の政策は海外のハイレベル人材に対するサポートを強化している。政策の主な内容には、プロジェクトサポートや人材支援、人材の推薦、奨励、ケースバイケースの対応、内国民待遇、出入国の円滑化、「マンツーマン」サービスなどが含まれている。

 広州ハイテク産業開発区政策研究室の熊衛国・副主任は、「同産業開発区は今後、政策と制度を通して人材サービスの水準をさらに向上させ、海外の戦略的科学者、産業ハイレベル人材を幅広く誘致し、人材体系の『タワー』の基礎を一層固めるだけでなく、それを一層高くし、エリア全体の高い品質の発展とポテンシャルエネルギーの蓄積を促進する」としている。

人材を誘致し、核心産業プロジェクトも誘致する新スタイル

 中国科学院の外国籍院士である王暁東氏が率いるプロジェクト「百済神州」や中国科学院の施一公院士が率いるプロジェクト「諾誠健華」など、バイオ医薬産業において代表的なプロジェクトが広州ハイテク産業開発区で実施されている。そして、視源電子や文遠知行などの新世代情報技術や人工知能企業が発展を牽引している。

 広州ハイテク産業開発区では、新構想「企業誘致4.0」に呼応し、テクノロジーのウェイトが高いビッグプロジェクトに照準を合わせ、人材誘致を強化し、戦略的科学者、企業家、産業リーディング人材・チームを呼び込んで、核心となる産業プロジェクト誘致を牽引し、「主導産業や核心企業が牽引し、産業生態が支えとなる」という新たな構造を構築していることがはっきりと見てとれる。

 粤港澳大湾区(広州、仏山、肇慶、深セン、東莞、恵州、珠海、中山、江門の9市と香港、澳門<マカオ>両特別行政区によって構成される都市圏)建設が着実に進展するにつれ、多くの海外の人材が新たなイノベーション・起業のチャンスを探し求めている。同区はどのように中国国内外の人材を誘致し、イノベーション発展をサポートしているのだろうか?

 近年、広州ハイテク産業開発区は、人材政策制度の優位性強化を続けてきた。2017年、同産業開発区が中国全土に先立ち打ち出した人材誘致政策「美玉10カ条」は、主に傑出した人材、優秀な人材、エリート人材に適用され、新たに同産業開発区で就職した博士課程、修士課程、学部などの卒業生や著名人、プロフェッショナル人材などに相応のサポートを提供している。今年7月に発表された「香港・澳門青年起業10カ条」の助成金対象年齢は18-45歳で、香港地区、澳門地区、台湾地区の青年が中国大陸部に溶け込めるようにサポートしている。香港地区、澳門地区、台湾地区の住民に対する学歴制限はなく、それらの地区の大学を卒業して高等教育学位を取得した中国大陸部の住民もその政策を活用することができる。

 発表会で、同産業開発区の関係責任者は、「『海外ハイレベル人材8カ条』は、上記の普遍性を備えた政策を基礎に、『カギとなる少数』を逃さないために、毎年、1-2のハイレベル人材チームを招聘し、海外の『高精尖缺人材』(ハイレベル人材、エリート、トップリーダー、不足する人材)を誘致していく」と語った。

「海外のハイレベル人材」とは、IAB(新世代情報技術、人工知能、バイオ医薬)、NEM(新エネルギー、新材料)、ブロックチェーン、工業インターネット、ハイエンドスマート製造など、同産業開発区の重点発展分野で、世界最先端のテクノロジーと水準を誇り、コア技術を有し、粤港澳大湾区の高い品質の発展に大きな影響、重大なブレイクスルーをもたらすことができる海外の戦略的科学者およびそのチームの中心メンバー、産業ハイレベル人材およびそのチームの中心メンバーを指す。うち、戦略的科学者は、調査、科学研究の水準が重視され、地域のテクノロジーイノベーションのレベルを顕著に向上させることに寄与できなければならない。産業ハイレベル人材は、調査や産業化の能力が重視され、正規職員として就職しなければならない。

 また、「海外」という名の通り、国籍がどこであっても、海外からハイテク産業開発区に来てイノベーション・起業に取り組む戦略的科学者、産業ハイレベル人材であれば、誰でも相応のサポートを受けることができる。それには、外国籍の人材はもちろん、中国籍の留学帰国者も含まれる。

チームリーダーに全権をゆだねる新スタイル

 統計によると、広州ハイテク産業開発区には現在、国、省、市、区の各級人材計画により誘致されたハイレベル人材730人が在籍し、その数は広州市の各区で最多、広東省を見ても、上位に入る数となっている。しかし、同産業開発区はさらに多くのハイエンド人材誘致を渇望している。「現在、当産業開発区は今までで一番人材を必要としている」と熊副主任。

 最先端テクノロジーのハイレベル人材の誘致を強化するために、「海外のハイレベル人材8カ条」は、新たに招聘された戦略的科学者チーム、産業ハイレベル人材チームに、最高で15億元(約220億円)と10億元(約150億円)のプロジェクト支援を提供するとしている。また、プロジェクト支援、借入利子補給、研究開発経費補助金、経営貢献賞、株式投資など、支援のスタイルも一層多元化している。

 戦略的科学者、産業ハイレベル人材が同産業開発区で働くと、どんな権限を受けることになるのだろう?「海外ハイレベル人材8カ条」は、「チームリーダーに全権が委ねられる」と明記されている。

 新政策は、現在の人材の財政サポート資金の使用方法に関するさまざまな制限を取り除いている。そして、チームリーダーが全権、全責任を負う制度を採用し、戦略的科学者、産業ハイレベル人材に、人や資金、物資などを使う権利、技術ロードマップの決定権、内部機構を設置する権利、人材を推薦する権利を委ねている。リーダーが推薦したチームの中心メンバーは、同産業開発区の優秀人材に自動的に認定され、相応の待遇を受けることになる。

 さらに、「海外ハイレベル人材8カ条」は、「ケースバイケース」のサポートを提供して創設・発展をバックアップする。他の政策も活用して、成長が著しい、または、業績が際立っている戦略的科学者のチーム、産業ハイレベル人材のチームには、(運転資金)継続サポート、または追加支援を提供し、さらなる成長、発展をサポートするとしている。また、与信延長サービスで人材価値を資本に置き換えるヒューマンキャピタルを採用。ヒューマンキャピタル研究院を設置して、イノベーション人材評価体系を構築し、銀行や保険、担保、基金などの金融機構と連携して、人材のステータスを基準として、ブロックチェーン技術に参入し、海外ハイレベル人材に人材与信サービスを提供する。

 さらに海外のハイレベル人材が関心を寄せる生活に密接に関係する住居や自動車などについて、「海外ハイレベル人材8カ条」は、政策として保障を提供することを明確に規定している。例えば、最高で1,000万元(約1億4,800万円)に達する1回限りの住宅購入補助金支給や1ヶ月最高で3万元(約44万円)の家賃補助金の支給、またはハイエンド人材向け住宅への無償入居といった選択肢がある。また、最高100万元(約1,480万円)に達する人材補助金、自動車購入規制が実施されているため普通車のナンバープレート取得に必要な資金に対して最高5万元(約74万円)の補助金を支給するとしている。

 特筆すべきは、これまでの政策では、人材誘致報奨金は、誘致する機構に対して支給され、個人には支給されなかったものの、新政策ではその制限を取り除き、海外の「人材大使」に認定された戦略的科学者、産業ハイレベル人材も初めて報奨金支給の対象となっている。例えば、人材やチームを推薦、招聘した場合、最高で50万元(約740万円)の報奨金が支給される。この措置により、ハイレベル人材の核心的影響力がいかんなく発揮され、人材が人材を呼び、人材誘致が促進されることになるだろう。

新プラットフォーム、中国広州ヒューマンリソースサービス産業開発区を建設

 今年6月、バイオ医薬の分野の「ダボス会議」と称されている(広州)官洲国際バイオフォーラムにおいて、施一公氏は、「政府の急ぐところを共に急ぐために、海外からのハイレベル外国籍人材に、政治選挙権以外の全ての権利を与える国民待遇を、広州から始めてみてはどうか」と呼びかけた。

 現在、施氏のビジョンは広州ハイテク産業開発区で実現している。

 人材に残ってもらうことができるかは、一つの地域の「発展の受け入れ態勢」にかかっている。広東省、広州市の一部の行政職権が広州ハイテク産業開発区に相次いで委ねられており、海外のハイレベル人材は同産業開発区から出なくても、産業開発区内で広州市人材グリーンカード、広東省人材優粤カード(広東省独自のハイレベル人材向けの広東省民と同等待遇と各種優遇サービスを享受するためのカード)の申請を行うことができるようになっている。

「海外ハイレベル人材8カ条」が打ち出され、サービスの対象に職名認定、企業立ち上げのための投資、不動産購入、子供の学校、社会保険、ナンバープレート・運転免許証の申請など、さらなるサポートを提供するほか、出入国ビザ、長期停留・居留、就労許可、通関の円滑化などを含む包括的内国民待遇を提供できるようになっている。特にVIP外来診察・診療予約、外国語サービスが増設され、海外のハイレベル人材が産業開発区内の重大な経済、社会関連の決定に参加する役割と価値を強化し、海外のハイレベル人材を誘致し、留まってもらい、当地の発展を促進している。

 2018年10月、中国人力資源・社会保障部(省)は、広州ハイテク産業開発区を中国広州ヒューマンリソースサービス産業開発区の建設の中心に盛り込むことを明確にした。

 同産業開発区は粤港澳大湾区のハイエンドヒューマンリソース産業を新たな目標に見据え、産業開発区に本社を設置するよう世界の著名なヒューマンリソースサービス企業を誘致し、海外ハイレベル人材のためのライフサイクルを意識したハイエンドサービスプラットフォームを構築し、高齢となった家族のためのシルバーサービス、健康医療管理、輸出入の通関の円滑化、空港・高速鉄道でのVIP優待、便利な金融サービスなどのハイエンドワンストップサービスを提供し、ハイレベル人材が快適に生活し、イノベーション・起業に集中して取り組むことができるようサポートしていく。

 熊副主任は、「なるべく早く『海外ハイレベル人材8カ条』の実施ガイドを制定できるようにしたい。現在、当産業開発区の『金鑲玉』政策2.0版の改訂業務がピッチを上げて進められている。トップレベルデザインの側面から人材『美玉10カ条』の改訂を進め、『海外のハイレベル人材8カ条』を人材政策体系の全体的な骨組みの中に盛り込み、多層的かつ網羅的にカバーし、緊密にリンクする人材政策体系を構築する」としている。


※本稿は、科技日報「広発"英雄帖"引智 這个高新区出台"海外尖端人才8カ条"」(2019年6月11日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。