「超臨界水蒸石炭」:石炭燃焼で発生する汚染を根本的に解決
2019年10月24日 史俊斌(科技日報記者)
石炭は現在、中国にとって主要なエネルギーであるものの、大量に石炭を燃やすと深刻な大気汚染を引き起こすことになる。従来の石炭やガスボイラー、またそれらを使った発電技術は、「火で石炭を燃やす」という形式で、エネルギー効率や発電効率は低く、深刻な大気汚染を引き起こし、使う水の量も多く、脱硫、脱窒、粉微小粒子状物質除去、二酸化炭素などの面で大きな代償も負うことになる。
中国科学院の院士で、西安交通大学動力工程多相流国家重点実験室の郭烈錦教授率いる科学研究チームは、20年間にわたる研究を経て、「石炭超臨界水ガス化水素製造発電多種生産」に関する独自の知的財産権を有する一連の技術を開発した。同技術は「超臨界水蒸石炭」と呼ばれ、石炭の化学エネルギーを高効率で水素エネルギーに直接変換することに成功し、硫化物、窒化物などの大気汚染物質、PM2.5などの粉微小粒子状物質の生成、排出を根本的に無くすことに成功している。
1億5,000万元の価値のある技術を産業化
2016年12月25日、西安交通大学初の重大科学研究成果産業化プロジェクト「石炭超臨界水ガス化水素製造発電多種生産技術」の産業化が正式にスタートした。中国教育部(省)、国家自然科学基金委員会、国家能源局、中国核工業建設集団、陝西省政府、西安市政府の主な代表者などが、同プロジェクトの始動・報告会に参加した。
同日、西安交通大学は、同技術成果の知的財産権と関連技術を1億5,000万元(約22.3億円)で、中核全聯投資基金管理(北京)有限公司、香港日富投資有限公司、西安北奇能源科技発展有限公司の3社が共同で立ち上げた混合所有制の技術産業化投資会社「陝西中核交通大学超潔能源技術有限公司」に譲渡した。同社は10億元の資金を調達して、同技術の産業化を進め、50MW発電、コージェネレーションユニット、工業・暖房供給用石炭蒸気ボイラー代替製品などをプロジェクトの重要ポイントとして、3年をめどに、同プロジェクトの完成と運行開始を目標に掲げた。そして、同技術を、石炭の高効率で、クリーンな利用、環境保護などの面でモデル技術としてPRすることを目指した。
郭教授は、「同技術は海外でも研究が行われているが、当チームが先頭を走っている。海外には、大規模な連続生産装置がない。当チームの大規模パイロット生産装置は、数千時間連続で稼働し、何の問題もなかった。現在、各種石炭化学工業企業も、水素と蒸気を生成しており、一部分を取り換えるだけで、使用することができる。そのため全ての石炭を原料とする工業企業はこの技術を使うことができる」と説明する。
新技術により「火で石炭を燃やす」時代にピリオドか
西安交通大学のこの「超臨界水蒸石炭」技術は発表されると同時に、業界だけでなく、社会でも大きな話題となり、注目を集めた。
郭教授は、取材に対して、「『超臨界水蒸石炭』は、革新的技術で、従来の石炭を使った火力発電や石炭のガス化発電などの技術とは根本的な違いがある。石炭を燃やす火力発電、石炭のガス化発電は、石炭を空気中で火を使って燃やし、酸化させ、その過程で熱が発生する。そのような熱エネルギーを利用し、ボイラーの中の熱気流は、水に吸収され、水蒸気になり、蒸気タービンを回して電気が起こる。これが蒸気タービン発電だ。蒸気タービン発電と比べて利用効率がもっと高い発電に、ガスタービン発電がある。この装置の材料は、高温に耐えることができ、高い性能が求められるため、非常に高い技術が必要だ。酸化すれば、自然と二酸化炭素や窒素酸化物も発生し、さらに、石炭を燃やす時に、粉微小粒子状物質も発生する。PM2.5もその一つだ。企業は、脱硫、脱硝、粉微小粒子状物質除去などを行うために、専用の装置が必要となる。そのコストは、企業にとって負担となる。また、それらの装置を稼働するにもエネルギーを消費する。つまり、全体的に見て、効率が悪いということ。平均して40%台となる」と説明した。
水の温度・圧力を374度、22MPa以上まで上げると、水の密度と水蒸気の密度が同じになり、水(液体)でも水蒸気(気体)でもない状態となり、この点を水の臨界点という。郭教授は、「超臨界水蒸石炭」の技術の素晴らしさについて、「この技術に空気は必要ない。石炭と水を混ぜて、反応を起こさせる。全ての過程で、酸化は起きず、従来のように火で石炭を燃やすこともない。起きるのは還元反応で、水素を燃やして、水を得る。生まれるものはクリーンな高温高圧の超臨界水蒸気で、蒸気タービンを稼働させることができる。その効率は従来の方法より高く、環境を汚染することもない」と説明する。
郭教授のチームは既に、超臨界水流動層などの一連の実験設備の開発に成功し、石炭の完全なガス化を実現している。700度以上で、中国国内の各種石炭ガス化率は100%に達している。超臨界水石炭ガス化水素製造の熱力学、化学反応動力学モデル、反応システムの統合・最適化が完了し、処理できる石炭の量が1t/hのパイロット試験に成功した。技術経済の分析では、このシステムの石炭処理量が83.3t/hに達した時の水素の価格は0.7元まで引き下げることができる。超臨界水石炭ガス化、多レベル水素燃焼・補充タービンを活用した新型熱力循環発電システムが既に打ち出され、石炭の発電効率が高く、二酸化炭素増加、環境にやさしく汚染がゼロなどの特徴を備えている。同技術は独創的なイノベーションから、実験室における規律性試験研究、パイロット試験までを全面的に完了させており、従来の石炭の電気転嫁率の低さ、汚染の深刻度、必要とする水量の多さなどの問題を根本的に解決するための糸口を提供している。
中国全土の火力発電業界がこの技術を採用すれば、毎年、石炭を3億2,800万トン節約できると試算されている。業界関係者は、同技術は、中国のエネルギー問題を解決して、明るい前途をもたらし、中国が石炭資源の面での優位性を発揮し、エネルギー変革を牽引し、エネルギー戦略を順調に実施していく面において、大きな意義があると分析している。
※本稿は、科技日報「超臨界水蒸煤:従源頭杜絶焼煤汚染」(2019年10月15日付3面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。