第157号
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限界突破―高温超伝導研究で世界をリードする中国

2019年10月25日 呉長鋒(科技日報記者)

 国慶節(建国記念日、10月1日)に合わせた7連休中、中国科学技術大学の超伝導体研究チームは新中国成立70周年記念式典をテレビで視聴した以外は、毎日実験室に足を運んで研究を続けた。

 中国科学技術大学の呉涛教授は、「新しい時代を作る次の材料は、室温超伝導体かもしれない。室温超伝導体を発見できれば、超伝導リニアモーターカーに乗って出かけたり、スマホやパソコンを一度の充電で何ヶ月も使うことができるようになるかもしれない」と、取り組んでいる超伝導体研究の魅力について語る。そのような夢を実現するべく、同大学の超伝導体研究チームは、その分野の研究を20年以上にわたって続けている。

超伝導体の「限界」を突破

 超伝導とは、特定の金属や化合物などの物質を非常に低い温度へ冷却したときに、電気抵抗が急激にゼロになる現象だ。超伝導体の研究をめぐり、10人が5度のノーベル賞を受賞しており、その科学的重要性はあらためて言うまでもない。

 1911年、オランダの物理学者・ヘイケ・カメルリング・オンネスが水銀を液体ヘリウムで冷却していったとき電気抵抗が急激にゼロになるのを発見し、科学研究にこの新たな分野が加わった。1986年、ドイツとスイスの科学者が35ケルビン(K)で超伝導現象を示すバリウム系銅酸化物を発見した。

 科学者を困惑させているのは、超伝導転移温度が40K(-233℃)を越えない点で、この温度はマクミラン限界温度と呼ばれていた。

 では、限界温度の40Kを超えることはできるのだろうか?ドイツとスイスの科学者が銅を主な超伝導体元素とする銅酸化物を発見して間もなく、中国の科学者を含む研究チームが銅酸化物の超伝導転移温度を、液体窒素温度以上に引き上げ、マクミラン限界温度を超える高温超伝導物質を発見した。

 呉教授は取材に対して、「銅酸化物高温超伝導物質は、金属陶磁器材料であるため、加工が非常に難しく、全体のコストが高いという2つのデメリットがあり、広く応用する点で足かせとなっている。その他、銅系超伝導物体は、高温超伝導体の電性メカニズムにある多くの物理的課題を解決していない。高温超伝導体の原理を発見し、広く応用するには、転移温度がさらに高い超伝導体を見つけなければならない」と説明した。

 鉄系化合物には、磁性があるため、世界の物理学界では以前、高温超伝導体を見つけることはできないと考えられていた。

 2008年3月、中国科学技術大学の陳仙輝教授率いる研究グループと中国科学院物理所の王楠林氏率いる研究グループが、鉄系の中から、超伝導転移温度が43Kと41Kの物質を発見し、マクミラン限界温度を超え、鉄系の物質の中にも、高温超伝導体があることを証明した。さらに、中国の科学者チームは、転移温度が50Kの一連の超伝導体物質を発見したほか、鉄系の物質の転移温度記録を55Kにまで引き上げ、世界の物理学界で「2番目の高温超伝導体ファミリー」と公認された。

転移温度がさらに高い超伝導体材料を研究

 マクミラン限界温度を超えて以降、世界の科学者の超伝導体材料の研究はスランプに陥り、高いインパクトファクターを誇る高温超伝導体の研究論文を作成するのが困難な状況になった。

 一方、中国科学技術大学の超伝導体チームは、同分野の研究を継続し、調合、観察、やり直しというプロセスを数え切れないほど続けてきた。そして、超伝導体の研究の足かせを取り除くべく、「新型2次元層状非従来型超伝導体材料」という新たな研究方向を掲げた。

 呉教授は取材に対して、「銅酸化物と鉄系超伝導体はいずれも1次元層状の構造だ。超伝導体電性のカギとなる構造はCuO2面とFeAs/Se層で、『超伝導体基元』と呼ばれている。現在確認されている非従来型超伝導体のほとんどは、その種の構造の特徴を備えている」と説明する。

「それらの材料は通常の超伝導物質の超伝導体メカニズムの点で違いがあり、従来の超伝導体メカニズムは主に、電子-格子相互作用に注目するBCS理論で説明できる。しかし、2次元層状非従来型超伝導体材料の超伝導体メカニズムは、BCS理論では説明できない。銅酸化物化合物超伝導体や鉄系超伝導体の微視的メカニズムに対する理解は、凝縮物質物理学の発展に大きく寄与する。また、広く応用できる物質、またはさらに転移温度がさらに高い超伝導体を発見すれば、集積回路のように、世界経済や社会の発展を牽引する新たな成長ポイントとなるだろう」との見方を示す。

 現在、広く認められている超伝導体研究は、新型(転移温度が高い)非従来型超伝導体材料と高温超伝導体(非従来型超伝導体)のメカニズムの2つに重点を置く。

「当チームは2次元層構造単位と超伝導体の電性の間で普遍的な関連性に基づいて、2次元層状超伝導体単位の基礎を構築し、ブロック層、ヘテロ接合などの研究を通して、非従来型超伝導体の電性を模索している。国家重大特定項目プロジェクトとして、約2年間研究を実施し、電気化学のインターカレーションを利用して新しいフェロシリコン系高温超伝導体材料2種類を合成することに成功した。そして、それら新しい超伝導体材料は、銅系高温超伝導体と似た超伝導体プレペアリング現象があることのほか、2次元層構造はフェロシリコン系超伝導体の中の高温超伝導体に対して重要な影響を与えることを発見した。「それら新たな発見は、普遍的な高温超伝導体メカニズムを解明するためのカギとなる実験的証拠となる。新しい研究方向において、新しい非常に高い臨界磁場と臨界電流密度を有する実用型超伝導体を発見する助けになるだろう」と呉教授。

さらに応用に適した超伝導体の発見に力

 実際には、超伝導体は既に人々の生活と関係するようになっている。例えば、高温超伝導フィルタは、携帯や衛星通信に応用され、通信の質が目に見えて改善された。また、超伝導量子干渉計(SQUID)は医療設備に応用され、心臓や脳の検査の精度、レスポンスを大幅に強化し、世界初の超伝導モデル変電所が中国の電力ネットワークの中で運用されている。

 呉教授は、その研究が、中国政府が重点的に発展を目指す超伝導体量子コンピューターの分野の推進に寄与するとの見方を示し、「新型のエネルギー消費が少なく、自動エラー訂正機能を有したトポロジカル量子コンピューターの分野に応用される可能性がある」と語る。

 現在、超伝導体が期待されるほど幅広く応用されるようには至っていない主な原因は、応用のコストが高いことと常温常圧下の超伝導体材料がまだ発見されていないという、2つの問題が解決されていないからだ。

 呉教授は「そのため、現在の超伝導体材料の転移温度の限界を突破し、転移温度がさらに高い新型超伝導体を発見することには、重大な科学的意義がある」とし、「超伝導体の研究は既に中国で根を下ろしている。努力して、2次元層非従来型超伝導体新材料の模索とメカニズム研究の面でブレイクスルーを遂げ、高温超伝導体材料の模索と関連の研究の面で、世界を牽引する立場を引き続き保ちたい」と、中国の今後の超伝導体の研究に大きな自信を見せた。


※本稿は、科技日報「突破極限,中国高温超導研究領跑世界」(2019年10月14日付4面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。