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大きな「戦果」を上げる湖南省「科学技術研究成果の事業化年」

2019年10月31日 俞慧友(科技日報記者)、陳海兵、陳上(科技日報特派員)

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視覚中国より

 湖南省の長沙ハイテク産業開発区(ハイテクパーク)に、あまり目立たない企業がある。この企業で、湖南大学の基礎研究成果である「高性能ピッチ系炭素繊維連続フィラメント・プロジェクト」の産業化が実現した。

 高性能ピッチ系炭素繊維は、簡単に言えば、航空宇宙分野と先端製造分野におけるニューマテリアルの寵児だが、その製造は技術的に容易ではなかった。大学の科学研究チームが企業に「潜伏」して製造と産業化のブレイクスルーに長年取り組んだ結果、ついに大きな進展を遂げ、完全に独自の知的財産権を有するキー設備と製造技術の開発に成功した。間もなく「原材料分取-メルトスピニング-低温炭化-高温炭化/グラファイト化」のフルライン製造工程が全面的に実現し、百トンクラスの原材料生産拠点が完成する。これは、中国の宇宙・軍事工業のキーとなる規格が、独自の知的財産権を有する先端材料サプライヤーを得たことを意味する。

 実験室の「サンプル」が産業化応用を実現に至った過程には、湖南省委員会・省政府の科学技術研究成果の事業化に対する姿勢と力強いサポートが密接に関わっている。湖南省産業技術協同創新研究院の100%子会社である湖南省産業技術協同創新有限公司は、この研究成果の事業化にまず4,800万元(約73.5億円)の資金を提供し、プロジェクトが「湖南省五つの100プロジェクト(100の重大産業建設プロジェクト、100の科学技術イノベーションプロジェクト、100の重大製品イノベーション、100のトップ500企業の誘致、100人の科学技術イノベーション人材)」に入選できるよう支援し、「ピッチ系高性能炭素繊維湖南省工程センター」の建設許可をサポートし、この技術成果が長沙に深く根を下ろすことを可能にした。

「成果の事業化を加速するために、今年湖南省では『科学技術研究成果の事業化年』活動をスタート・展開している。カギとなる問題と脆弱な部分に焦点を当てて的を絞った取り組みを行い、年間の技術取引額を50%以上増加させ、400億元(約6,120億円)を突破することを目指す」。10月16日、湖南省科学技術庁の童旭東庁長は筆者にこう語った。

架け橋を作り、技術取引の面で工夫

 10月15日、「2019年第2期全国技術契約認定登録研修」が長沙市で盛大に開講した。

 技術取引は科学技術研究成果の産業化を促進するカギとなる段階である。成果事業化の「便宜を図る橋」を架けるために、湖南省は技術取引の面で工夫をこらし、技術契約登録件数と成約額の大幅な増加を実現した。昨年、全省の技術契約成約額は第12次五ヶ年計画(2011-2015年)期末時点の倍に達し、今年1-9月は昨年同期と比べ165%増となった。

 湖南省科学技術庁成果事業化・区域革新処処長の譚立剛氏は「湖南のノウハウ」を紹介する際、「今年、湖南省は技術取引についてさらに重視する姿勢を強め、『技術契約成約額』を政府活動報告に盛り込み、革新型省建設評価指標体系に組み込んだ。技術契約は省の科学技術奨励申請、研究開発加算控除、ハイテク企業認定、プロジェクト検収などでも重要な根拠となった。これらの措置により、市・自治州はもとの何も努力せずに良い結果を待っているだけの状態から、積極的な働きかけを行う姿勢に転じた。このほか、『革新型省建設特別プロジェクト』に『成果事業化後補助プロジェクト』を新設し、技術取引の買い手と売り手、仲介者の取引意向がアップするよう促した」と語った。

「データベース構築」は同省が成果事業化を促進するためのもう一つの「ちょっとしたノウハウ」だ。湖南省は科学技術研究成果事業化基礎データベースを構築し、健全な科学技術研究成果事業化プロジェクト、科学技術サービス機関、企業融資ニーズのデータベース構築の加速に力を入れた。現在、科学技術研究成果事業化プロジェクトのデータベースには7,321件の成果が登録されている。

ディテールを重視し、「適正免責制度」を構築

 2018年、「革新による開放・台頭のリード」戦略がスタートし、実践されるなかで、湖南省はより急速で良好な発展を遂げ、「大きな褒賞」を手にした。その年の年末、中国科学技術部(省)から革新型省建設の実施が許可されたのである。

 今年に入ってすぐ、湖南省は新たな科学研究経費改革に着手し、「革新型省特別プロジェクト」を立ち上げた。それと同時に、「湖南省『中華人民共和国促進科技成果転化法(科学技術研究成果実用化促進法)』実施弁法」(以下「弁法」)の改訂と結び付け、「科学技術研究成果の事業化年」活動をスタートさせた。

「成果の事業化は全国各地が努力し探求している大きな課題だ。革新型の省建設の過程で、科学技術の革新と研究成果の事業化の効率は我々が重んじねばならない重要な『ディテール』だ」と童旭東氏は言う。

 ではどのようにしてメカニズムを活性化し、科学技術研究成果を「象牙の塔」から世に送り出すのか。

 まず「弁法」の改訂を行った。改訂後の「弁法」では、既存の多くの措置が地方法規に引き上げられた。譚立剛氏は、「新『弁法』は、科学技術研究成果の事業化を制約するボトルネックとなっていた難題を効果的に解決した。たとえば、科学研究スタッフや成果事業化に携わるスタッフへの奨励策をより際立たせている。『適正免責制度』を設け、研究開発機関や大学および国有企業の関連責任者に広く存在する『科学技術研究成果の事業化における国有資産処置に政策リスクがある』という不安要素を取り除く、もしくは軽減した」と指摘する。

 また、企業や大学、市・自治州をカバーする研究開発奨励補助の「政策パッケージ」を打ち出した。そのうち、大学の科学研究院・研究所が研究開発に投じた「非財政資金」の対前年度増加分について10%の奨励補填を行うという新政策を打ち出し、大学の成果の企業による事業化を促進した。現在までに、湖南省は大学と科学研究院・研究所向けに奨励補助政策資金1,870万元(約2億8,600万円)を拠出している。このほか、科学技術投入産出業績・効果評価体系にも技術契約成約額や特許といった成果事業化指標が盛り込まれ、初めて科学技術投入産出業績・効果によって結果が評価されるようになり、イノベーションによる発展・牽引の効果が優れていた4つの市・自治州、20の県・市区への奨励補助を行った。技術契約認定登録権限も市・自治州に委譲された。

プラットフォームを構築し、トータルなサービスチェーンを築く

 童旭東氏は、「科学技術研究成果の事業化年」の現在までの最新「成果」を説明する際、「1-9月、湖南省ではすでに技術契約認定登録が4,177件に達し、前年同期比で47.60%増となった。また技術契約成約額は前年同期比165.36%増の235億6,200万元(約3,600億円)を達成。そのうち技術譲渡が119件で、技術契約成約額は4億8,700万元(約74.6億円)を達成した。これは、湖南省で1-9月に119件の成果が譲渡され、『象牙の塔』から出たことを意味する」と述べた。

 事実、研究成果の事業化年の実効性を保証するために、湖南省では政策環境最適化や現有法規・条例制度強化の実施など10項目の具体措置を講じ、優秀な成果が企業で産業化されるよう促した。たとえば、中南大学粉末冶金研究院を母体とする湖南世鑫新材料有限公司では、世界をリードする「高速列車軽質長寿カーボンセラミックス複合材料ブレーキディスク産業化」プロジェクトを立ち上げ、今年6月、同社の時速400キロ高速列車カーボンセラミックス・ブレーキディスクとブレーキパッド・カーボンセラミックス複合材料生産ラインが正式に稼働した。また、益陽三木電気技術有限公司と湖南大学は「都市総合共同溝スマート配電システムの研究開発および産業化」共同開発プロジェクトにより、都市共同溝スマート配電システムを作り上げ、その生産が始まっている。今年上半期だけでも、製品は中国国内市場で70%以上のシェアを占めている。

 また、昨年末に科学技術研究成果の事業化を促進するために設置された瀟湘科学技術要素大市場も、正式に「営業」を開始した。湖南省は3年間で、この市場を長沙に立脚し、全省にサービスを提供し、中部地区に波及し、全国とつながる科学技術要素資源の集結センターにしようとしている。現在では、トータルな技術移転サービスチェーンが構築され、80以上のコアテクノロジーサービス機関をこの市場に招致している。

「我々は、省レベル市場、市・自治州のサブ市場、県・市街地の作業ステーションおよび業界作業ステーションという三レベルが連動した瀟湘科学技術要素市場体系の建設も積極的に推進している。今年、株洲と常徳にサブ市場を設置する見通しだ」と譚立剛氏は話す。

 湖南省は全国でいち早く大規模な科学技術研究成果移転事業化モデル県建設に取り組んだ省でもあり、2016年にはすでに「科学技術研究成果移転事業化モデル県建設特別プロジェクト」を立ち上げている。モデル県となった湘陰県は「知らず知らずのうちに」モデル効果を発揮し、国家級第一期イノベーション型県にまで成長した。

 湖南省で研究成果事業化の成果を上げたのはモデル県だけではない。大学の研究成果の事業化を促進するために、湖南省では大学科学技術研究成果使用権、処分権、用益権改革を試行し、科学技術研究成果処分権管理改革の深化、健全な技術移転サービス体系とメカニズムの構築、科学技術研究成果移転事業化価格評価手順の改善、科学技術研究成果事業化収益分配の改善、科学技術研究成果事業化年次報告制度の構築といった内容に取り組んでいる。現在、試行機関となっている長沙理工大学では、自身の成果移転事業化センターを設立したことで、技術契約成約額が3億9,300万元(約60.2億円)に達した。湖南省農業科学院では、「科学技術+専業合作社+拠点+農家」という現代産業化モデルで研究成果の事業化を進め、プロジェクト実施期間中、技術が約6万6,667ヘクタールで用いられ、社会経済効果・利益が1億400万元(約15.9億円)に達した。


※本稿は、科技日報「做活機制,把科技成果赶出"深閨" 湖南科技成果転化年戦果豊碩」(2019年10月18日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。