第158号
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ヒトDNAの修復、植物に新たな手がかりを発見

2019年11月25日 謝開飛(科技日報記者)、許暁鳳(科技日報特派員)

 私たち人類を含む生命体は、毎日のように紫外線や活性酸素、その他の化学物質の影響を受けて変異が誘発され、体内の遺伝物質DNAが損傷される。DNA修復のプロセスでは十字状のDNA接合体であるホリデイ接合が形成されるため、これを「分解」することで初めて染色体を正確に分離し、複製することができる。しかし、科学界ではまだこの「分解」を行う酵素であるリゾルバーゼの作動メカニズムが明らかにされていない。

 ところが、最近福州大学生物薬光動力治療技術国家地方聯合工程研究中心(光線力学療法国家・地方共同研究センター)の林忠輝教授が率いる研究チームが国際学術誌『ネイチャーケミカルバイオロジー』(Nature Chemical Biology)に発表した研究において、新たな道筋が発見されたようだ。研究チームは葉緑体中のホリデイ接合に含まれる分解酵素、MOC1を研究対象として初めてその触媒メカニズムを解明した。これは、他の種のMOC1に対する未解決の基質特異性識別メカニズムに重要な示唆をもたらし、ヒトDNAの修復メカニズムに重要な道筋を提供するものだ。

リゾルバーゼによるDNAの認識方法は未解明

「DNAは二重らせん状の生体高分子である。この二重らせんを構成する基本的な単位である塩基対はあたかも線路上の一本一本の枕木のようであり、外界の電磁波や活性酸素、さまざまな化学物質の影響を受けて変異が誘発され、塩基に架橋結合、断裂および構造上の改変が生じることによってDNAが損傷される」と林忠輝教授は説明し、「外界からの干渉因子がなかったとしても、DNAの複製プロセスにおいて細胞自体に一定の割合でエラーが生じる」と付け加えた。

 林忠輝教授によれば、DNAは損傷後速やかに修復されないと人体の遺伝情報に改変、すなわち遺伝子の突然変異が誘発され、個体の生理的および性状的改変が導かれ、ひいては死に至る。人体に関して言えば、遺伝子の突然変異は先天性奇形やがんを誘発させる。たとえば、現時点で発見されているすべての悪性腫瘍のうち50%以上のがん細胞は、がん抑制遺伝子p53の突然変異を伴っている。

 しかしながら、ほとんどの生命体がゲノムの安定性を維持し、正常に生存し続けられるのはなぜだろうか。その理由は、有機体にはもともと、DNAを常に監視し、修復する保護システムが備えられているからであることをこの研究は明らかにしている。

 この中で重要な役割を演じるホリデイ接合は、1964年にイギリスの分子生物学者Robin Hollidayによって発見されたもので、有機体においてDNAの相同組換えによる修復プロセスが行われる中で、損傷DNAとテンプレートDNAの交差によって形成される十字型のDNA接合である。

「DNAの修復が終わった後は、MOC1の作用下での解離によってDNA二重鎖の切断を促し、線形DNAが形成されなければならない」と林忠輝教授は解説する。このため、MOC1は、バクテリオファージ、細菌、真菌、植物ひいては動物等の細胞が正常に生長し、安定的に遺伝するために必須の鍵酵素であり、完全なDNA修復プロセスにおいて重要な役割を果たす。

 先行研究によれば、MOC1は線形、三叉状および十字状等のさまざまな形状のDNAを区別することができ、かつ、ホリデイ接合と特異的に接合することができる。また、ほとんどのMOC1はDNA配列に非常に厳しい「要求」を突きつけている。

「基質DNAの配列上の微少な違いは、それが一つの塩基の違いであっても、その触媒効率に大きな違いを生む」と林忠輝教授は語る。だが現時点では、MOC1の基質選択性に関する分子メカニズムは明らかにされておらず、それがMOC1、ひいてはDNA修復の全プロセスに対するさらなる理解の妨げとなっている。

3D構造によってMOC1の独特な機能が明らかに

 筆者が取材したところによれば、この問題に関して林忠輝教授が率いる研究チームは葉緑体中のMOC1を研究対象として、まずは一連の生化学実験によってMOC1に特異なDNA基質の配列を明らかにし、それからX線結晶構造解析の方法によってMOC1タンパクおよびDNA基質と共に形成される複合体の結晶構造を解析した。

「これらの結晶構造によって、MOC1タンパクは3D構造上、好熱菌RuvCと高度の相似性があることから、葉緑体は光合成細菌に起源を持つという細胞内共生説のさらなる証明となった」と林忠輝教授は話した。この研究では、MOC1タンパクには独特の能力があることも明らかにしており、あたかも両腕でMOC1の「腰の部分」を抱擁するように、MOC1の持つDNA配列の特異性識別は、保守的な塩基識別の機序によって実現する。

 この他、この研究によってMOC1の活性中心は2つの金属イオンと同時に結合することができ、触媒作用においては2つの金属イオンの触媒メカニズムに依存することも発見された。同大学の李金宇教授が率いる研究チームが後に分子動力学法に基づくシミュレーションによって、MOC1の配列に対する認識と選択は、金属イオンの配位との間に密接な関係があることが発見された。

 つまり、この研究では構造生物学、計算生物学および生化学等の研究手段を融合させることでMOC1の触媒メカニズムを明らかにした上に、さらに重要なのは、ヌクレアーゼがどのようにしてDNA配列上の微少な違いをその触媒活性における大きな違いへと転化させるのかという科学的なテーマに対して、2つの金属イオンによって補佐されるDNA配列の特異的選択という画期的なメカニズムを提示したことだ。

「この研究が対象とするのは植物のMOC1だが、MOC1の触媒メカニズムは私たちヒトを含むすべての動物の体内で非常に近似するため、研究成果はヒトのDNA修復メカニズムにも重要な道筋を提供するだろう。最終的には、関連性のあるヒトの疾病の解決にも一定の理論的基盤を提供できるよう期待する」と林忠輝教授は締めくくった。


※本稿は、科技日報「修復人類DNA損傷 科学家従植物中找到新線索」(2019年11月6日付5面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。