第158号
トップ  > 科学技術トピック>  第158号 >  《革新+忍耐》蘇州工業パーク ナノ「スロー」産業を10年掛かりで育成

《革新+忍耐》蘇州工業パーク ナノ「スロー」産業を10年掛かりで育成

2019年11月26日 張曄(科技日報記者)

 第5回二次元材料国際会議がこのほど、蘇州市で開催された。会期中、蘇州市工業パークに設置されているナノテク真空相互接続実験装置(NANO-X)が中国内外の利用者に向け正式に開放され、科学界から注目を集めた。

 外界からの疑問視や多くの人々の様子見という環境のなかで、蘇州工業パークはナノテクおよび産業発展の道を13年間歩み続けてきた。今や同パークは世界8大ナノ産業集約エリアの一つになった。中国科学院蘇州ナノテク・ナノバイオニック研究所(以下「中科院蘇州ナノ研究所」)も、同パークのナノ産業革新の源になった。ナノ真空相互接続実験ステーションという大型科学装置は、完成後に世界トップのナノテク人材集約地となり、地方経済および科学技術に強い影響力を発揮するとみられている。

写真

ナノ真空相互接続実験ステーション

 ナノ産業は今後大いに応用される見通しがあるが、成果が出るまでには時間がかかる。蘇州工業パークは十年にわたり「スロー」産業を育成し、先見性と同時に「十年磨剣」の忍耐心を持って取り組み、ナノ産業の集約型発展を実現した。

未来志向のナノ研究プラットホーム

 世界ナノ分野の大型科学装置であるナノ真空相互接続実験ステーションの建設が2014年、蘇州工業パーク内で始まった。

 これは世界で初めて材料成長、部品加工、試験・分析を一体化させたナノ分野の大型科学装置だ。これがあれば、科学者は将来的により小型で計算速度の高いコンピュータや、よりスマートなロボットを製造できるようになる。

 中科院蘇州ナノ研究所ナノ真空相互接続実験ステーション副総指揮の丁孫安氏は、「未来の電子部品はナノレベルになっていく。部品が小型であるほど集積度が高い。しかしそれほど小型になると、現在の技術では解決できない問題が多く、新型部品の製造を行うことができない。そのため将来的にナノ、さらにはそれより小型の部品を生産するためには、新たな技術ロードマップが必要だ」と述べた。

写真

ナノ真空相互接続実験ステーションで設備を調整する研究員

 この実験装置は宇宙に似た全真空環境下のナノ部品研究開発プラットフォームであり、将来に向けたナノ部品製造の新技術を模索する。

 この装置の特徴は、超高真空パイプにより各機能設備を相互接続させることで、従来のクリーンルームでは解消できなかったホコリやチリ、表面の酸化や付着などの汚染問題を解消した点にある。

 現在はフランスやドイツなどが実験ステーションと協力関係を結んでいる。さらに薛其坤院士のチーム、包信和院士のチーム、杜江峰院士のチーム、清華大学、北京大学、西安交通大学などと高度な協力関係を構築しており、中国国内の半導体関連企業からも協力を求められている。

 丁氏は筆者に「実験ステーションは、超高真空条件下の相互接続集約といつくかの重大プロジェクトの検証により、既存の計器・設備の機能制限を打破し、材料生産、試験・分析、マイクロナノ加工技術などのシナジー効果を発揮し、科学研究および戦略的新興産業の発展に向け先進的な開放プラットフォームを提供することを目指す」と話した。

 試験稼働段階において、実験ステーションは建設しつつ稼働する原則に基づき、現在まで中国内外の86件の協力案件を展開している。設備は安定的に稼働し、利用者の使用時間は2.2万時間にのぼっている。

 実験ステーションの南開大学董紅チームは、過渡期の小型相互接続装置を利用し、多層構造のヘテロ接合に関する実験結果を発表している。

 同チームはこれまでの協力プロジェクト展開を通じて、100編以上の論文を共同発表し、ネイチャー姉妹誌にも複数掲載された。また42件の特許を出願し、うち10件を取得した。

工業パーク内のナノエコシステムの閉ループ効果

 直径2インチ(約5センチ)の、白く半透明でプラスチック感のある小型ウエハは、世界市場での販売価格が5,000ドル(約54.3万円)にのぼり、かつ入手困難だ。これは、第3世代半導体材料と呼ばれている窒化ガリウムウエハだ。

 蘇州工業パークに入居する納維科技は、ナノテクにより2インチ窒化ガリウムウエハを量産しており、かつ4インチ窒化ガリウム均一ウエハ基盤の小ロット生産も可能になっている。

 納維科技は中科院蘇州ナノ研究所によって設立された。徐科会長は同研究所に最も早くから加入した研究者の一人でもある。同研究所が設立した初の産業化企業である納維科技は、10年間の取り組みにより、窒化ガリウム結晶体の品質、ブロック型材料の電子移動度などの総合指標で世界の先頭集団に入った。中国内外の8割以上の研究開発機関と企業が利用者になっている。

 中科院蘇州ナノ研究所は十数年前、蘇州工業パークに設立され、同パークのナノ産業発展の基礎を固めた。ナノ真空相互接続装置の完成は、現地の科学研究力+プラットフォームの吸引効果を本当の意味で発揮し、同パーク内でのナノエコシステムの閉ループ効果を生んでいる。

 ナノテク真空相互接続実験装置の重要な意義は、基礎研究と応用技術開発を直接結びつけることで、材料の研究から部品の開発・産業化の期間を短縮・簡略化し、ナノ材料と新部品の大規模製造の技術ロードマップを模索する点にある。

 丁氏によると、ナノ真空相互接続実験ステーションはハードのほか、新技術、超伝導部品、半導体部品などの表面が敏感な材料・部品も製造できる。量子材料の設計・生産が可能であるため、高性能の量子コンピュータの製造に用いることができる。この装置を使うことで、よりスマートで、信頼性の高い、より小型の部品を生産でき、通信や情報、人工知能(AI)などの分野に応用できる。

 蘇州工業パーク科技・情報化局の許文清局長は、「大型科学装置により、世界トップのナノテク人材が育成され、さらに中国の重大計器・設備の自主開発水準を大幅に高めた。実験装置は世界に向け開放される。中国内外の各分野の先端科学研究・技術人材を集め、地域産業の革新と発展をけん引するに違いない」と話した。

新産業の配置は10年後の動向を見据えるべき

 蘇州工業パークは中国で初めてナノテク応用産業を地域の戦略的新興産業とした地域だ。ナノ産業を発展させることを決定してから、このナノの道を十数年も歩んでいる。

 蘇州工業パークは2006年に、中国科学院、江蘇省、蘇州市との共同出資で中科院蘇州ナノ研究所を設立した。この件は大反響を呼んだが、さまざまな意見も聞かれた。

 蘇州市科学技術局の張東馳局長は、「蘇州市は当時、中国国内に先駆けてナノ技術応用産業を地域の戦略的新興産業にしたが、これを理解しない人もいた。しかし一つの地域がどのような産業構造を選択するかは、5-10年後の産業発展の動向を考慮するべきだ」と述べた。

 蘇州納微科技有限公司の実験室で、顕微鏡の視野内に見える球状の粒の連なりが水に触れ、ガラス片の上で瞬時にしてバラバラになった。この粒がナノ粒子だ。

 同社が開発したこの単分散シリカゲルクロマトグラフィー材料は、バイオ医薬品の不純物除去製品で、薬品の研究開発コストの5-8割を占める。しかしこれまで同技術は海外企業に独占されており、国内企業は高額での購入を強いられていた。同社の製品が販売されると、日本の某社は1キロあたり十数万元(150万円以上)だった材料の価格を10分の1まで引き下げざるを得なくなった。

 ナノテクは金の糸のように多くの産業を結び、蘇州工業パークに豊富な川上・川下業態をもたらした。同パークには、マイクロナノ製造やナノ新材料、微小電気機械システム、窒化ガリウムなどの多くの有力な産業クラスタが徐々に形成されていった。

 張氏は、「ナノ産業はその他の産業と異なり、より基礎的かつ広範で、成果が出るのも『スロー』だ。忍耐強く取り組んで初めて、先へと発展していくことができる」と指摘した。

 蘇州工業パークは現在、国内ナノテク産業資源の集約度が最も高い地域の一つで、ナノ産業の技術水準も急速に向上している。漢天下、納維科技、晶湛半導体、星爍納米など一連の企業が技術的なブレイクスルーを果たし、中国内外の多くの技術的な空白を補っている。現時点でナノテク応用企業を600社以上誘致しており、今年1-9月、蘇州工業パークのナノテク応用産業は564億元(約8,700億円)の生産高を記録した。

(写真提供:中国科学院蘇州ナノテク・ナノバイオニック研究所、蘇州工業パーク科技・情報化局)


※本稿は、科技日報「創新+耐心蘇州工業園区十年培育納米"慢"産業」(2019年11月13日付7面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。