国家菌株資源バンク―社会で共有、小さな菌株で支える大産業
2019年12月6日 付麗麗(科技日報記者)
科学技術資源を活用して革新・発展を支える
中国の国家菌株資源バンクといっても、一般的にはあまりなじみがないであろう。しかし、人々が普段から関心を持っている食品安全性微生物検査、微生物肥料生産、ワクチン病原菌検査・評価、食用菌菌株選抜育種などは、いずれもこの資源バンクと切り離せないものである。
国家菌株資源バンク常務副主任の張瑞福氏は、「菌株資源をしっかり保管、活用することは、基礎的かつ長期的な科学研究の一つだ」と話す。国家菌株資源バンクは中国科学技術部(省)と財政部が設立を支援した国家科学技術資源共有サービス・プラットフォームの一つである。国家科学技術基礎条件プラットフォームセンターの指導の下で、九つの国家級専門微生物菌株保管センターの資源を統合し、オンライン共有サービスシステムを構築し、社会に向けて資源共有サービスを展開している。
実物資源の共有、菌株の鑑定、菌株の保管など、15年間の安定した支援と蓄積を経て、2018年現在、保管する資源の総量は23万5,070株、バックアップは320万以上に達し、そのうち対外的に共有が可能な数が15万177株、分類は2,484属1万3,373種で、科学基礎研究を展開する際の典型的な微生物菌株資源、国内微生物肥料、微生物環境管理、食用菌栽培、ワクチン生産、薬剤研究開発などの応用分野における優位性ある微生物菌株資源をカバーしている。
1万近いユーザーにサービス提供、業界の発展を後押し
張瑞福氏は、「中国の経済と科学技術力の増強にともない、国家菌株資源バンク共有サービスの範囲は拡大し、数量も増え続けている。毎年サービスを提供する1万近いユーザーのうち、企業ユーザーが55%を占め、その分野は栽培業、養殖業、食品、医薬、石油、製錬・鉱業、検査・検疫といった複数の分野に及んでいる。ユーザーの分布範囲は中国全土におよび、とりわけバイオ産業が発達した華北・華東地区がより高頻度で共有サービスを利用している」と言う。
バンク内の菌株資源の開発応用と分析・発掘利用を強化することで、国家菌株資源バンクの共有サービス効果がますます顕在化してきた。ワクチンの安全性は多くの人々に影響する。ワクチン臨床血清抗体の検査は、ワクチンが有効かどうかを確実に証明する最も直接的なルートだ。ワクチン免疫血清検査は一般的に酵素結合免疫吸着法(ELISA法)試験を採用して検査を行うが、この方法では抗体の総含有量しか検査できず、機能性抗体を見分けることはできない。専門家によると、髄膜炎球菌ワクチンと肺炎球菌ワクチンは、殺菌抗体か機能性抗体検査でワクチンの免疫保護効果を評価するべきだ。そのため資源バンクでは、肺炎球菌多糖体ワクチン血清機能性抗体検査のオプソニン化および多重オプソニン化実験技術を確立して、肺炎球菌ワクチンを臨床血清品質評価に用いることを可能にした。
ミコフェノール酸モフェチル(MMF)は新型の免疫抑制剤で、心臓・腎臓移植の拒絶反応や、ループス腎炎や血管炎といった免疫系疾患の治療に用いられる。しかし輸入価格が高価であるため、中国を含む多くの発展途上国の臓器移植患者が使用するのは難しかった。この件に関しても資源バンクがその独自の優位性を発揮し、同薬剤の研究開発のために菌株実物の共有や遺伝選抜育種などの関連サービスを提供し、同薬剤の独自研究開発と生産を実現することに成功した。2009年、国薬集団川抗制薬有限公司のミコフェノール酸モフェチル(MMF)分散錠が正式に生産を開始。2016-2018年には販売収入が約4,850万元(約7.5億円)、利益が約1,100万元(約1.7億円)、税収が約580万元(約9,030万円)に達した。
食用菌新品種の育成技術による貧困層支援の成果
食用菌は栄養が豊富で、味も良いため、多くの家庭で日常的に食卓に上る食材として欠かせない。しかし、菌株選抜育種の問題が長期にわたって中国の食用菌産業の発展を制約してきたことはあまり知られていない。
資源バンクは自身の資源優位性によって、「食用菌株質資源鑑定評価技術と広域適応性品種選抜育種」研究を展開し、食用菌株質資源の正確な鑑定評価と高効率育種という技術面の二大ボトルネックを打破し、菌株と情報の同期がとれた遺伝資源バンクを構築して、育種サイクルを従来の5-7年から3年に短縮した。中国の園芸施設の生産条件に適したヒラタケやエノキダケ、アラゲキクラゲなど31の広域適応性新品種を育成し、全国19の省(直轄市、自治区)に普及させた結果、およそ3年間で新たに増加した利益は累計129億4,500万元に達した。
「このほか、資源バンクでは豊富な菌株資源という優位性を生かして、国家科学技術基礎条件プラットフォームセンターの組織のもとで、貧困地域の食用菌株生産農家に対し、菌株のスクリーニング、栽培訓練、技術コンサルティングなどのサービスを積極的に提供し、非常に顕著な効果を上げている」と張瑞福氏は述べた。
河北省阜平県を例に取ると、食用菌株の栽培は同県の貧困層支援で取り組んでいる主導産業の一つで、食用菌企業が7社、約6.7ヘクタール以上の農園が50ヶ所以上あり、食用菌株栽培は13の郷鎮、96の行政村に広まっている。新品種の不足、不安定な菌株繁殖技術、廃棄菌床の低資源化利用などの問題について、資源バンクでは専門家の実地調査を行い、現地の栽培条件に適したシイタケや黒キクラゲなど3つの新品種を選び出して生産普及を行い、栽培企業などののべ150人以上に対し研修を行った。現在では、全県の食用菌産業の年間生産量は3万2,000トン以上になり、3,200の貧困世帯を含む農家8,600軒以上に広がり、1世帯あたり平均で約2万元の増収をけん引した。このほか、周辺の剣河県や紫陽県、黔南州の貧困村、舟曲県などの村や県にも波及し、経済のけん引に効果を上げている。
※本稿は、科技日報「国家菌種資源庫: 社会共享,小菌種支撑大産業」(2019年11月22日付4面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。